第367話 先行部隊
――討伐隊の人数は100名を誇り、その半数が王国騎士で構成されている。但し、王都の守護もあるので王国騎士全員が参加しているわけではなく、大型ゴーレムに対抗するために魔導士であるマジクも参加し、魔術兵も加わる。
マホは風属性の魔法を極めているのに対してマジクの場合は雷属性の魔法を得意とする。雷属性の魔法を扱える人間は希少であり、王国内では恐らくは彼以外の使い手は片手で数えるほどしかいない。
相手がただの魔物ならが軍隊を派遣するのが一番なのだが、敵の正体は大型のゴーレムであり、大人数で動くとその分に被害が増す可能性が高い。だからこそ被害を抑えるために実力確かな人間を選抜し、少数精鋭で挑む。
王都からグマグ火山までは馬で移動しても2~3日はかかる距離があるため、グマグ火山に到着するまでの間に草原に生息する魔物との交戦する可能性は十分にあった。だが、予想に反して魔物達は殆ど見当たらず、初日の行軍は何事もなく夜営を行う。
「……拍子抜けだね、結局今日は1匹も魔物の姿を見る事はなかったね」
「どうなってるんでしょうか……最近は魔物が増殖して被害が増していると聞いてましたが、ここまで魔物と遭遇しないなんて」
「嵐の前の静けさ、と考えた方が良い?」
「クゥ〜ンッ……」
ナイはテンとヒイロと共に食事を行い、既に同行していたビャクは寝付いていた。白狼種である彼は普通の馬よりも足が速く、戦力としても加える事ができるため、特別に連れてきて貰ったのだ。
ビャクは人間よりも感覚が鋭いため、外で身体を休める時でも魔物の気配を感じればすぐに目を覚まして危険を知らせてくれる。だが、今の彼は全く警戒していないのか夜を迎えるとすぐに寝てしまい、そんな彼を見てナイは疑問を抱く。
「ビャクが外でこんなに大人しく眠れるなんて……本当に魔物は近くにいないみたいだ」
「こいつもグマグ火山に現れた大型ゴーレム……いや、レッドゴーレムとやらの仕業かね?」
「火属性の魔力を取り組んだゴーレム……ヒイロとは相性が悪そう」
「そ、そうですね……」
アルトの見立てではマホが発見したという大型ゴーレムは正式にはゴーレムの亜種であり、名前はレッドゴーレムと呼ばれる存在らしい。
レッドゴーレムは通常種のゴーレムが地属性の魔石を好むのに対し、火属性の魔石を喰らい続けた事で変異したゴーレムだと言われている。その強さは通常種の比ではなく、肉体は溶岩のように発熱させる能力を持つ。
但し、ゴーレム種の共通の弱点は水属性の魔法であり、どんなゴーレム種であろうと水属性の魔法やあるいは大量の水を浴びると身体が崩れ去り、体内の経験石が露出する。それを砕けばレッドゴーレムを倒せるという。
「アルト王子の話によると、レッドゴーレムの経験石はそんじょそこいらの魔石よりも価値が高いそうだね」
「そういえば私の烈火もレッドゴーレムの素材が使われている可能性があるとか言われましたが……」
「それなら増々ヒイロは相性が悪そう……無暗に魔法剣を使わない様に気を付けて」
「ううっ……」
ヒイロは火属性の魔法剣を得意とするが、今回の相手には相性が悪い。レッドゴーレムは火属性の魔力を取り込んだ事で高い耐性を誇り、彼女の魔法剣は通じないどころか逆に魔力を奪われる危険性もあった。
レッドゴーレムに対抗できるとしたら水属性の魔法を扱える者か、ナイのように水属性の魔法剣を扱える人間しかいない。今回の戦闘では旋斧が鍵になるかもしれず、ナイは旋斧を覗き込む。
(爺ちゃん、力を貸して……)
心の中で亡き養父の事を思い浮かべながらもナイはもう休もうとした時、ここで意外な人物が訪れた。
「お前達、少しいいか?」
「バ、バッシュ王子様!?」
「おや、どうしたんだい急に?」
「何かあったの?」
ナイ達の元に訪れたのはバッシュであり、彼は護衛の騎士も連れておらず、ナイ達が囲む焚火の傍に腰を下ろす。唐突に訪れたバッシュにナイ達は不思議に思うが、彼は意を決したようにナイに顔を向けて告げた。
「ナイ、お前は王国騎士に興味はないか?」
「え?王国騎士……?」
「そうだ、もしもお前が良ければの話だが……この俺の専属騎士にしてやってもいい」
「えっ!?せ、専属騎士!?」
「おいおい、本気で言ってるのかい?」
「……驚いた」
バッシュの言葉にナイ以外の者達は焦った声を上げるが、ナイは専属騎士と言われても意味が良く分からず、それは普通の王国騎士とはどう違うのかを問う。
「あの、専属騎士というのは……?」
「王族として生まれた者は必ず自分の傍に常に騎士を控えさせなければならない。分かりやすく言えば専属騎士とは王族の守護を任された騎士だ。普通の騎士とは違い、専属騎士は王族の護衛という特別な役割を与えられる」
「えっ!?そんな重要な役目を……僕に?」
「そうだ、最もそれは将来的な話だ。まだお前は若いし、成人年齢に満たないと正式に王国騎士にも認められない。しかし、俺は確信した。お前はいずれ英雄になれる器を持っているとな」
ナイに対してバッシュは真剣な表情を浮かべ、テンはすぐに彼がナイを勧誘し、自分の配下に本気で加えようとしている事に気付く。しかし、これはかなり問題があった。
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