第341話 特別試合 《トロール》
『――お待たせしました。これより午後の部の試合を開始致します!!最初の試合は午前の部の最終試合で勝利したクロノ選手がまたもや出場します!!』
「おおっ、さっきの奴か!!」
「やれやれ!!」
「お前の勝ちに賭けてやるぜ!!」
試合場にナイ(クロノ)が出場すると観客席は最初の試合の時とは打って変わり、歓声が上がる。最初の頃はナイの姿を見てとても強そうには見えなかったが、先ほどゴブリンナイトを相手に圧勝した事で観客の人気を得たらしい。
最も全員がナイに対して好意的なわけではなく、得体の知れない彼に対して警戒心を抱く者も多い。特に先ほどの試合はあまりにもナイの強さに疑う人間もいた。
「さっきの試合、八百長じゃねえのか?あのゴブリンナイトが簡単にやられるなんてよ」
「そうだな、あのゴブリンナイトは銀級冒険者を3人も倒したんだぜ?いくらなんでもおかしいだろ」
「あんなガキにゴブリンナイトがやられるわけがねえ。きっと、運営側が何かしくんだんだろ……この卑怯者!!」
ナイに対して野次を飛ばす観客も少なからず存在し、そんな彼らに対してナイはあまり意識しない様にした。今は試合の事だけに集中し、旋斧を抜いて次の選手の登場を待つ。
『それではクロノ選手の対戦相手の登場です。これまでの試合では対戦相手を全員食いつくした問題児、トロールの入場です!!』
「ト、トロールだと!?」
「マジかよ!?くそっ、ふざけんな!!もうクロノの方に賭けちまったんだぞ!?」
実況席のバニーガールがトロールの名前を告げた途端に観客の反応が一変し、先ほどまでナイに声援を送っていた人間までもが騒ぎ立てる。その間にも試合場の城門が開かれ、再び兵士が現れた。
「よし、こっちだ!!ついてこい!!」
「餌を与えるのを忘れるなよ、食べている間はこいつは大人しいからな!!」
「早くしろ、餌を食いつくせば俺達にも襲い掛かるぞ!!」
「フゴォッ……」
姿を現したのは先ほどの試合で出場したゴブリンナイトよりも二回りは大きい生物であり、最初にその姿を見たナイは巨大なホブゴブリンかと思い込んだほどである。
全身を緑色の皮膚に覆われている点はゴブリンと同じだが、こちらの方が色が濃く、なによりも顔の形が違う。ゴブリンは小鬼と称されるほどに恐ろしい表情をしているが、今回の敵はだらしなくて腑抜けた顔つきの化物だった。
(これがトロール……初めて見た)
トロールと呼ばれる魔物はナイも良く知っており、名前だけでも有名な魔物だった。ナイの前に現れたトロールは全長が5〜6メートルは存在し、ホブゴブリンが筋骨隆々とした肉体に対してトロールの肉体は全体的に肥え太っていた。
特徴的なのは大きく突き出た腹であり、しかも兵士が与える魔物の肉に嚙り付きながら試合場に登場した。兵士達はトロールを誘導するためにそれぞれが餌を手にしており、やがて試合場の中央まで移動させると彼等は餌を地面に置く。
「よし、退くぞ!!」
「餌を食べきる前に早く戻るんだ!!」
「フガァッ……」
トロールは地面に集められた餌に嚙り付き、その様子を見ていたナイは呆気に取られる。基本的には魔物は人間を見ると興奮して襲い掛かる習性があるのだが、このトロールの場合は餌に夢中で人間を見ても何の反応もしない。
(なんだこの魔物……戦えるのか?)
ナイは餌に夢中なトロールを見て不思議に思うが、今は戦う事に集中するため、旋斧を引き抜く。今回は反魔の盾もしっかりと装着し、向き合う。
『それでは試合を開始します!!心の準備はいいですね?では……試合開始!!』
「やああっ!!」
「フガァッ……?」
試合開始の合図を聞くとナイは駆け出し、餌に夢中でまだ戦闘態勢に入っていないトロールに向けて踏み込む。相手がまだ餌に夢中の間にナイは仕掛け、全力の一撃を叩き込む。
(まずは小手調べだ!!)
トロールがどのように戦うのか気になったレナは最初は魔法剣を発動せず、旋斧でトロールの一番目立つ大きな腹に向けて刃を放つ。だが、刃が腹部に的中した瞬間、ナイは異様な感覚に襲われる。
(何だ、この感触……!?)
まるでゴムの塊のような物に刃を叩きつけた感触が広がり、腹部に食い込んだと思われた旋斧の刃が弾かれてしまう。ナイは非常に驚いた様子で後退ると、トロールの腹部に視線を向けて更に焦りを抱く。
ナイが全力の一撃を叩き込んだにも関わらず、斬りつけた箇所は少し凹んだ程度で掠り傷さえも与えていなかった。やがて凹んだ部分も徐々に元に戻り始め、トロールは不機嫌そうにナイに鼻息を鳴らす。
「フゴォッ……!!」
「嘘でしょ……?」
これまでにもナイは旋斧の刃は弾かれる事はあったが、全く損傷を受けていない相手など初めてだった。トロールの肉体は赤毛熊の鋼鉄のような肉体とは相反し、全身が弾力性に優れた脂肪の鎧で覆われている事を知る。
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