第252話 腕相撲の結果は……
(聖属性の魔力は身体機能を強化させる……力が欲しい時は筋力、怪我を治したい時や肉体を休めたいときは再生、後は悪霊などの魔物を浄化する時にも使われるとは聞いていたけど……この人の場合は筋力を強化しているのか)
陽光教会に世話になっていた時にナイは聖属性の魔力の本質は教わっており、そして魔操術の基礎はマホから授かった。アッシュは驚くべき事にナイと同じく魔操術の使い手なのだ。
だが、彼の場合は魔操術を利用して筋力を強化しており、それはつまりナイの「剛力」の技能と全く同じ効果を発揮している。素の身体能力はアッシュがナイよりも上回り、その状態で剛力と同じ能力を扱えるならば普通ならばナイに勝ち目はない。
「これで終わりだぁああっ!!」
「くぅっ……うおおおおっ!!」
しかし、アッシュが力を込めた瞬間にナイは声を張り上げ、逆に彼の腕を押し返す。その光景を見た使用人たちは信じられない声を上げる。
「なっ!?有り得ない……!!」
「あ、あの状態から……押し返した!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
アッシュもまさか自分が渾身の力を込めたのにも関わらず、ナイが押し返してきた事に彼は戸惑う。その一方でナイは全身に聖属性の魔力を巡らせ、腕の筋力だけではなく、全身の筋力を強化させていた。
原理としては全身の筋力を剛力で強化させている事に等しく、この状態のナイは強化薬を飲み込んだ時と同じ状態である。腕力だけを強化するのではなく、全身の筋力を強化させる。腕力で敵わないのであれば全身の筋力を総動員させ、全力で押し返す。
「うおおおっ!!」
「ぐううっ!?」
「つ、机に罅が!?」
「馬鹿な、大理石製だぞ!?」
二人の押し合う力で大理石製の机に罅が入り、このままでは壊れるかと思われた時、ナイが一気にアッシュの腕を押し込む。そして遂にアッシュの腕が机に押し込まれようとした瞬間、机が砕けてしまう。
「うわぁっ!?」
「ぬあっ!?」
机が崩壊するのと同時に二人は倒れ込み、この際にアッシュの腕が床に叩きつけられる形となる。彼は自分の腕が床に押し込まれた光景を見て信じられない表情を浮かべた。
「ば、馬鹿なっ……」
「あいててっ……」
「だ、大丈夫ですか!?御二人とも怪我は!?」
使用人たちが駆けつけ、二人を抱え起こすとこの時にナイは全身に激痛が走り、苦痛の表情を浮かべた。毎回全身の筋力を魔操術で強化する時は筋肉痛を引き起こし、身体の負担が大きい。
両者共に魔力を消耗したせいでふらふらであり、アッシュは自分の右腕に視線を向け、叩きつけられた手の甲が赤く腫れている事に気付く。それを見た彼は苦笑いを浮かべ、反対の腕を伸ばす。
「良い勝負だった……君の勝ちだ」
「ど、どうも……」
ナイは差し出された左手に自分も手を伸ばすが、先ほどの「全身強化」の影響で筋肉痛に襲われ、身体を動かすだけでもきつい。それでもどうにか握手を行うと、アッシュはナイに告げる。
「次は腕相撲ではなく、本気で君と戦ってみたい物だ」
「えっ……?」
「はっ、ははっ、ふははははっ!!」
アッシュはナイの力を確かめると、満足そうに彼の肩を掴み、笑い声を上げた。その様子を他の使用人たちは苦笑いを浮かべ、一方でナイの方は身体が痛くて今にも倒れそうだった――
――それからしばらく時間が経過すると、ナイは大量のお菓子をお土産にもらって白猫亭に辿り着く。アッシュの配下達は王都中の菓子屋を駆け巡り、本当にお菓子を買い集めてきたらしい。
土産物は先に馬車で白猫亭に運んでもらった後、ナイは兵士の肩を借りながら白猫亭に辿り着くと、そこには困り顔のテンと大量のお菓子が運び込まれて嬉しそうな表情を浮かべるヒイロとモモが立っていた。
「あ、お帰りナイ君!!これ見て、凄いよ!!」
「話は聞いているわ、アッシュ公爵からお詫びの品としてお菓子を買って貰ったんでしょう?どれもこれも有名な菓子屋の品物ばかりだわ!!」
「やれやれ……あんたってやつはどうしてこうも騒ぎを起こすんだい。公爵に連れて行かれて心配してたってのに……」
「す、すいません……」
大量のお菓子が運び込まれてヒナとモモは喜んでいたが、テンとしてはナイがアッシュ公爵に連れて行かれて心配していたのに大量のお菓子を土産に帰ってきた事に呆れた表情を浮かべる。
ナイはどうにか建物の中に入ると、この時に彼の様子を見てナイが非常に疲れている様子に気付き、すぐにテンはモモに声をかけた。
「モモ、そいつを回復させてやりな。どうやらまた無茶をしたようだね」
「ええっ!?どうしたのナイ君!?」
「まさか、アッシュ公爵に何かされたの!?」
「色々とあって……」
モモはナイが疲労している事に気付くと、慌てて彼の身体に触れて魔力を分け与える。モモから魔力を受け取った事でナイは大分身体の痛みが引いて楽になるが、この時にテンはナイに話しかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます