第74話 最悪の再会
「ふうっ……大分暗くなってきたな。日が暮れる前に森を抜け出さないと……」
ビャクの安全を確認した後、ナイは村へ向かっていた。ゴマンには獲物を持ち帰る事を約束したが、赤毛熊が山から下りてきた以上は長居はできない。
赤毛熊が山から下りて森に入り込んでいた事をすぐに他の人間に知らせる必要があり、一刻も早く戻る必要があった。この時にナイは最初に赤毛熊と遭遇した川原を避け、木々を潜り抜けながら森の出口を探す。
(夜を迎える前に森を抜け出さないと……)
魔物の中には夜行性の種も多く、夜を迎えると魔物に襲われる可能性が非常に高くなる。しかも赤毛熊も夜行性であるはずため、早急に森を抜け出さなければならない。
(まあ、この森もかなり広いし……そう簡単には見つからないか)
移動の際中はナイは常に周囲を警戒し、決して油断しないように迅速に行動していた。しかし、ここまでの道中で怪しい気配など感じず、更に新しく覚えた「隠密」と「無音歩行」の能力もあった。
(新しく覚えた技能、思っていた以上に凄い……こんなに走ってるのに足音も立たないなんて)
無音歩行の技能は歩くだけではなく、全力で走っても足音は鳴らず、そのお陰で音で森の動物や魔物に気付かれる可能性は低くなった。しかも隠密のお陰で現在のナイは気配を絶ち、普段以上に存在感がない。
この二つの技能のお陰で道中でナイは魔物に襲われる事もなく、無事に森の外まで辿り着く。やっと森を抜け出す事に成功したナイは安心し、これであとは村に戻るだけである。
「ふうっ、ここまで来れば……」
「おい、ナイ!!無事か!?」
「じ、爺さん!!無理するなよ、また転ぶぞ!?」
「えっ!?この声は……爺ちゃん!?それにゴマンも!?」
森を抜け出した途端、ナイは聞き覚えがある声を耳にして振り返ると、そこには松明を抱えたアルとゴマンの姿があった。ゴマンはナイの姿を見ると彼の元へ向かい、息を荒げながらも彼の肩を掴む。
「はあっ、はあっ……良かった、無事だったか!!」
「爺ちゃん、こんな所までどうしたの!?武器を作っていたんじゃ……」
「ぜえっ、ぜえっ……こ、この爺さん、止めても言う事を聞かなかったんだよ。さっき、村に来た商人がこの近くで赤毛熊に襲われたと聞いた途端に飛び出してさ……」
「商人……それってドルトンさんの事!?」
村に訪れた商人となればナイの心当たりがあるのはアルの親友のドルトンしかおらず、彼が赤毛熊に襲われたのかと心配するが、すぐにアルが説明する。
「大丈夫だ、ドルトンも御者も無事だ。だが、村に送り込むはずの食料をやられたようでな……あいつらも怪我をしたから今はお前が前に作った回復薬を与えて休んでいるよ」
「そうだったんだ……無事で良かったよ」
「それよりもお前の方こそ大丈夫か!?まさか赤毛熊の奴が山から下りてくるとは……ともかく、一刻も早く村に戻るぞ!!」
「うん、実はその事なんだけど……」
話を聞いたナイは自分も赤毛熊に襲われた事をアルに話そうとした瞬間、ここで彼は森の方から大きな音を耳にした。嫌な予感を覚えたナイ達は振り返ると、そこには最悪の光景が広がっていた。
――グゥウウウッ……!!
木々を潜り抜けながら3メートルを越える体長の巨大熊が出現し、その全身は赤毛に覆われていた。その光景を目にしたナイは心の中で有り得ないと思い、どうしてこの状況下で赤毛熊が現れたのかと混乱する。
ここまでの道中でナイは常に周囲に気を配り、赤毛熊どころか他の魔物にも気づかれずに逃げてきたはずだった。しかし、現に赤毛熊はナイの前に現れた。これはただの偶然ではなく、赤毛熊の口元にはナイが投げ放った「刺剣」を咥えていた。
(まさか……刺剣にこびり付いていた俺の匂いを辿ってきたのか!?)
刺剣を口にした赤毛熊を見てナイは信じられない表情を浮かべ、この時に彼は川原で感じた違和感の正体を悟る。それは投げ放った刺剣の回収を怠った事であり、以前にも山の中で短剣を落とした事でホブゴブリンが村に襲い掛かる事態に陥った事を思い出す。
二度も同じ失敗を犯した自分自身にナイは恥じるが、今はこの状況をどう切り抜けるかが問題であり、当然ではあるが逃げ切る事は出来ない。隠れ場所が多い森の中ならばともかく、草原のような平地では赤毛熊から逃れる手段はない。
(ふ、二人を守らないと……!!)
ナイはホブゴブリン以上の圧倒的な威圧感を放つ赤毛熊を前にして身体が震え、今度は自分一人で逃げる事は出来ない。赤毛熊を目撃したアルとゴマンは身体が動けず、どちらも目の前に現れた化物に怯えていた。
「はっ……まさか、こんな場所でこいつと遭遇する事になるとはな」
「ば、ば、化物……!!」
「ゴマン、大声を出さないで……背中を見せたら襲ってくるよ」
「ガアアアアアッ!!」
赤毛熊は3人を前にして両腕を広げ、口に咥えていた刺剣を吐き出す。それを見たナイは先手を打つために旋斧に手を伸ばし、剛力を発動させて踏み込む。
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