第16話 いじめっ子
「あの時はびっくりしたぜ、少し足を引っかけただけで腕が折れるなんてな……でも、あの爺さんがなにもしてこない所を、あの時の事は話してないんだろ」
「……爺ちゃんにそんな事を話したら、君に何をするか分からなかったからだよ」
「ふ、ふん!!そんな事で僕を庇ったつもりか!!あの爺さんなんて怖くないんだよ!!」
「別に庇ったわけじゃないよ。ただ、爺ちゃんに心配を掛けたくなかったからだよ……」
ナイはアルに対しては村の子供達と仲が良いと思わせており、もしもゴマンに虐められている事を伝えればアルは決して容赦しないだろう。しかもナイの腕を折ったと知れば彼が単に許すはずがない。
だが、嫌味な性格でもゴマンは村長の息子であるため、あまりに彼にちょっかいをかけると村長から快く思われず、村を追い出されるかもしれない。今のところは村長とアルは親友同士なのでこの村に住む事を許されているが、仮にアルがゴマンに怪我でもさせたら流石に村長も黙ってはいないだろう。
相手が村長の息子という事もあってナイもゴマンに絡まれてもアルに助けを求めるような真似はしなかった。だが、今回は事情が違った。
「お前の爺さんがちゃんと働かないから肉が食べれなくなったんだ!!昨日は僕の誕生日だったのに……お前等ばっかり肉を食いやがって!!」
「肉?」
「昨日、お前の家を通り過ぎた時に確かに焼ける肉の匂いを感じたぞ!!」
ゴマンが言っているのは一角兎の肉である事をナイは知り、昨日はナイが倒した一角兎の肉を食べた事をゴマンは怒っているらしい。彼としては魔物が増えて狩猟が難しいと言いながら自分達だけが肉を食べている事に不満を抱いたらしい。
「おい、お前等が肉を隠し持っている事は知ってるんだ!!なら全部渡せ、これからは狩ってきた獲物を全部僕達に寄越せ!!」
「そんな無茶苦茶な!!」
「うるさい!!いう事を聞かないと今度は怪我だけじゃ済ませないぞ!!」
ナイに対して脅す様にゴマンは腕を振りかざすが、普段のナイならば彼の行動を見れば怯えて縮こまっていたかもしれない。だが、一角兎との戦いを経てナイはゴマンを見ても全く怖くはなかった。
「やれるものなら……やってみなよ」
「な、何だと!?」
「もう君なんか怖くないよ……魔物と比べたらね」
「こ、こいつ……僕を舐めてるのか!!」
ゴマンはナイの言葉を挑発だと捉えると、彼に向けて拳を振りかざす。もしも殴りつけられればナイも無事では済まないだろうが、今のナイにとってはゴマンなど恐れる相手ではなかった。
一角兎と比べればゴマンなど襲るるに足らず、大振りで殴りつけようとしてきたゴマンに大してナイは拳を躱すと、迎撃の技能を発動させて逆にゴマンの足を引っかけて転ばせる。
「あだぁっ!?」
「……悪いけど、もう僕達に関わらないでよ」
「お、お前……調子に乗るなよ!!」
転ばされたゴマンは顔面を真っ赤にしてナイに殴りかかろうとしたが、それに対してナイは迎撃を発動させて彼をまた転ばせる。
「このっ!!」
「おっと」
「うわわっ!?」
またも足を引っかけられて転んだゴマンは服が汚れてしまい、彼は悔しそうに歯を食いしばる。今まで虐めていた相手が急に強くなった事に彼は信じられず、何度もつかみかかろうとした。
しかし、迎撃の技能を習得したナイからすればゴマンがどんな攻撃を仕掛けても恐れるに足らず、三度目の足払いを行うとゴマンも派手に転んで鼻血を噴き出す。
「あいだぁっ!?」
「ふうっ……もういい加減にしてよ」
「く、くそっ……くそぉっ……!!」
ナイはこれ以上に付き合っていられないと判断し、そのまま彼と距離を取る。仮に後ろから掴みかかっても今のナイならば対処する事は容易く、もうゴマンはナイにとっての敵ではない。
「獲物の事は爺ちゃんにもちゃんと伝えておくよ……でも、もう僕にも爺ちゃんにも近づない方が良いよ」
「ちょ、調子に乗りやがって……このっ!!」
ゴマンはナイの言葉を聞いてやけくそになったのか傍に落ちていた小石を拾い上げ、それを投げ込む。その攻撃に対してナイは咄嗟に迎撃を発動させようとしたが、何故か反応できなかった。
「あぐぅっ!?」
「えっ……あ、当たった?」
やけくそで投げ込んだ小石がナイの肩に当たり、彼は激痛を覚えて肩を抑える。その様子を見てゴマンは唖然とするが、ナイの方が混乱していた。
(反応出来なかった……どうして!?)
先ほどまでは迎撃の技能でゴマンの攻撃は全て対応していたが、投げつけられた小石に関しては反応出来ずに当たってしまう。何が起きたのかとナイは戸惑うが、ここである事に気付く。
ゴマンから離れ過ぎたためにナイは彼に対して反撃行動が即座に移れない距離まで離れている事を知り、そのせいで迎撃が発動しなかったのだ。つまり、遠距離からの攻撃に対してはナイの迎撃の技能は効果を発揮しない事が判明する。
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