第294話 求婚 その4

 空が真っ赤に染まり、そしてそれもやがて暗くなる。

 その間にもまだ明るい場所はピンク色に、紫へと変化をする。


「デルク、素敵・・・・」


 セシルは今までこのような夕焼けは見た事がないのか、感動している。

 デルクはそんなセシルを見つつ、最後の仕上げのタイミングを計っている。


 ・・・・そろそろだ。


「セシル、今からもっと感動するから見ていてね。」


 だけど一瞬真っ暗になるから、デルクはしっかりとセシルの手を握る。


 そして・・・・

【モーカー、始めて。フォスも頼むよ。】

 闇と光の精霊。その真骨頂・・・・フォスなんかはこんな事に使うなんて!と思うかと思いきや、

【ロマンチックね!】

 とノリノリ。


 で、モーカーがデルクとセシルの周囲、そして岬の向こう側で目に見える場所を闇の力で光を奪う。


 一瞬にして視界が無くなる。

 セシルはデルクの手をしっかり握っている。


 そして今度はフォスが・・・・


 海の底から徐々に何かが浮かび上がる。

 それが海の見える場所に。

 海が星空のように小さな光が輝きだす。


 それは夜空も同様。

 まるで星が落ちて来るかのような、辺りは星の輝きに満ちる。


 セシルはあまりもの幻想的な光景に言葉が出ない。

 そしてその神秘的ともいえる美しさに心が奪われ、その光景をただ見ているしかなかった・・・・


 この後デルクがセシルに何をしたのかは不明だが、翌日デルクとセシルの婚約が報告された。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「素敵ねえ!で、その後どうしたの?」

 セシルはロースにデルクのプロポーズを語った。

「ん、精霊達から祝福を受けた。」

「祝福?」

「私だが、精霊をいつでも使役していいと、何体か紹介してもらった。」

「え?ええとね、セシルちゃんそうじゃなくてその後どこで泊まったの?とかそういう事なんだけど?」


 何だか想像したその後と違うなとロースは怪しみつつ、さらに聞いてみる。

「その後は暗くなったからダンジョンへ向かって、いつものように寝泊まりした。」

「えええ???ええ???デルクってセシルちゃんにプロポーズしたのよね?で、セシルちゃんはどうしたの?」


 おかしい。もう一度確認する必要がありそうだ。

「・・・・恥ずかしくて言えない。」

 ここでセシルは困ってしまった。そう言えば・・・・返事をしていない。

 デルクはセシルに指輪を差し出し、セシルはデルクに指輪をはめてもらった。

 それが全てだと思ったのだが、もしかして直接言葉にしないといけなかった?


「も、もういいだろう?忘れものがあるから戻る。」


 セシルは急いでデルクの所に向かった。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「で、デルク!き、昨日のアレは私に結婚してほしい、と言う意味でいいのか?」

「おはようセシル!その、もちろん僕はセシルにプロポーズをしたよ。だけどその、じっくり考えてほしいんだ。今は冷静じゃないはず。気持ちが高ぶっていると思うんだ。冷静になって落ち着いてから、改めて考えてほしい。」


 しかしセシルの心は元から決まっていた。

 セシルはデルクに抱き着き、キスをした。

 そして・・・・

「こんな私でいいのであれば、妻にしてくれ。」

「本当にいいの?」

「デルクじゃないと駄目だ。」

「そ、その・・・・ありがとう!僕、セシルを幸せにしてみせるよ、とかは言わない。こういうのは、一緒に幸せになっていくべきだと思うんだ。セシル、僕と一緒に幸せになろう!」


 こうしてデルクはセシルと婚約をした。




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