第16話『封印解除』
「ボルスタイン……礼を言いますわ」
絶望的なこの状況の中で笑みを浮かべるペルシー。
彼女は嫌悪しているはずのボルスタインに向かってなぜか謝意を表す。
そんな彼女にあるまじき行動にボルスタインは警戒心を
「なに?」
「きっちり全てを語ってくれて本当にありがとうございます。おかげでようやくわたくしに……いえ、わたくし達にも希望が見えてきました」
「クク、この期に及んで希望とは……哀れを通り越して滑稽に見えるよ主人公召喚士殿。まさか君が夢見た白馬の王子サマとやらが助けてくれるとでも?」
「馬鹿にしないでくださいな。既にそんな幻想は捨てました。わたくしは仲間の主人公達、そしてラスボス達とその召喚士ラースさんと力を合わせて奇跡を起こすのです」
「ククク。それは楽しみだ。無駄だとは思うが――」
そうして肩を竦めるボルスタイン。
だが、その流暢に喋っていた口の動きが止まる。
それは、ある物を見た結果だ。
「馬鹿な……主ならともかくなぜ主人公召喚士殿にソレが出せる? このような脚本……私は描いていない」
「わたくしは主人公達の力をある程度引き継いでいます。それはあなたに消された主人公であるセバーヌの力も例外ではありません。そして、私はその力を上手く使いこなせていない。そう思っていました――」
「それがなんだと言うのだ? ソレはセバーヌの持ち物でもなんでもない。それは主の……否。既に消失したサーカシーが所持していた物だ。それをなぜ主人公召喚士殿が……ましてこの状況でソレを出したところでどうなる訳でもあるまい」
ボルスタインが『ソレ』と呼ぶもの。
それは本来主人公サイドには関係ないもの。
逆に、ラスボスサイドにとっては関係あるもの。
即ちサーカシーの所持品。
それは何かをくるんでいる状態の風呂敷だった。
無論、ただの風呂敷ではない。
そう――それはサーカシーが操る大罪シリーズの拷問道具の一つ。
嫉妬の拷問道具だ。
「確かに、コレを持ったからどうこうなるって訳でもありません。けれど……ボルスタイン。あなたは言いましたよね? 縁の切れたラスボスの力は本来消え去る物だと。きっとそれは主人公召喚士の私にも言える事なのでしょう。普通なら縁の切れた主人公の力は消え去る物のはず……違いますか?」
「その通りだが……それが一体どうしたと言うのかね?」
「お答えいただきありがとうございます。では、更に問いを重ねさせていただきましょう。――――――それならばどうしてわたくしは消えたセバーヌの力の感覚を今も感じ、こうして行使出来ているのでしょう? これもあなたの細工なのでしょうか?」
「っ――。まさか……」
そこでボルスタインは何かに気付いたのか、苦々しい表情を見せた。
そんなボルスタインを見ながらペルシーは続ける。
「わたくしにも確証はありませんでしたが、そのまさかです。セバーヌ本人が消えた以上、この力も静かに消え去るはずだったのだと思います。しかし……そんなセバーヌの力は彼が消える瞬間にあってもずっと使用中だったのです。
セバーヌ本人が消えても彼の能力によってサーカシーは今もこうして封じられ続けている。だからこそラースさんも先ほどの戦闘でサーカシーの力を振るえなかった」
確かに俺はペルシーとの戦闘中に何度もサーカシーの力を発動させようとしたが、うまくいかなかった。
ただの一つも拷問道具を取り出せなかったのだ。
「セバーヌとサーカシーの戦いの時。サーカシーは自らの拷問道具であるこの嫉妬の大罪道具に封印されました。永遠に苦しめるようセバーヌがその力を振るってそうしたのです。この中で今もサーカシーは自らの拷問道具によって責め苦を味わっている事でしょう。だから――」
そう言ってペルシーはその風呂敷の封を……開ける。
サーカシーが封印されている嫉妬の拷問道具。その封印を解除しようとする。
「「「なっ!?」」」
その意味不明な行動に俺だけでなく他の面々も驚愕を露わにする。
当然だ。なにせ、ここでサーカシーの封印を解除する意味などまるでない。
そう俺は思ったのだが――
「セバーヌの力は今、サーカシーを封印、苦しめる為に使われています。なら、その封印を解けば……きっとわたくしはセバーヌの力を使えるようになるでしょう。無論、確実じゃありませんし、使えたとしても消えゆく
解けてゆく。
風呂敷の結び目が自然と解かれてゆき、封印が解除される。
「その為に……わたくしは……私は……この最強で最凶で最狂なラスボスの封印を解くんです。その上で彼を倒し、彼にもこの世界の礎となってもらいます」
ペルシーがそう言うと共に。
嫉妬の拷問道具は完全に開放され、数多の拷問道具と共にソレは大量の血を撒き散らしながら現れた。
「セェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
深く、深く響く怨嗟の声。
二度と聞く事はないと思ったし、そうであって欲しいと思っていた最低で、しかし最強のラスボス。
カラフルな色の長髪。
右目は黄色、左目の白色のオッドアイの瞳……だったはずだが、今は怒りの為かその瞳は怪しげで狂気的な深紅に彩られていた。
道化師と呼ばれし彼のピエロ服も、どれだけの血を吸いこんだのか真っ赤に変色している。
その外見はまさに狂った血まみれピエロ。本来なら何百も死んでいるであろうはずの出血量。
しかし、彼は死ねない。
彼を傷つけていたのは他ならない彼自身の拷問道具だ。
ゆえに、死ぬことはできない。彼はその絶大な力の代償に、誰も殺せなくなった拷問好きの異常者。その彼の力によって絶命など出来ない。その刃が向けられているのが彼自身であってもそれは変わらない。
「僕ちんは出てきた。出てきてやったぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ! さぁセバーヌ、どこにいるっ!! この僕ちんと戦ええぇぇぇ! 僕ちんをコケにしたあげく、ねっちりねっちり痛めつけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! この痛み、数億千倍にしてお前に返してやるっ!!」
封印から解き放たれたサーカシー。
サーカシーは自身を封印したセバーヌを許せないと憤り。
怒り狂うのだった――
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