第5話『センカの告白』


 ――センカ視点


 ラース様もルゼルスさんも。

 みんなみんな勝手です。

 

 センカだってもう仲間なのに。

 もう隠し事なんてしないでくれると思っていたのに。

 ずっと一緒に居てくれるって言っていたのに。


 それなのに……二人とも私から離れようとするんですから本当に勝手です。

 

「センカの叫びを聞いたでしょう? やはり、センカにはあなたが必要よ。センカが望んでいたのはラースただ一人。逆に言えば、あなたさえ居ればきっとセンカは大丈夫」


 ラース様に対して、ルゼルスさんがそんな事を言います。

 けれど、そうじゃない。そうじゃないんです。


 確かに一番が誰かと問われればセンカは真っ先にラース様の名前を挙げます。

 でも、そんなラース様にだってルゼルスさんはかけがえのない存在なんです。

 もちろん、ラース様程ではないにしろ私だってルゼルスさんが……リリィ師匠だって……多くのラスボスさんの事が大好きなんです。


 だから――


「こんな形でのお別れなんて……センカは嫌なんですっ!!」



 考えて。

 考えるんです。


 この三か月間、ずっと考えてきました。

 誰もが犠牲にならず、幸せになるための抜け道はないのかずっと考えてきたんです。


 それでも、新たな道なんて見つかりませんでした。

 センカ達以外の人たちを皆殺しにするか、センカ達がその身を捧げるしかない。

 それしか、センカがラース様達と一緒に居る方法はない。

 どれだけ考えても、センカの頭では結局そんな結論にしか行きつきませんでした。


 だからセンカは罪もない人たちを殺す決意を固めました。

 今思えば、きっとその時にセンカは考えるのをやめてしまったんだと思います。


 仮に主人公さん達に敗北しても、意識だけの存在になってラース様やルゼルスさんとずっと一緒に居られる。

 それを聞いたとき、もうセンカはその二択以外を考える事すらやめてしまっていたのかもしれない。


 でも、それじゃダメだったんです。

 センカには力がない。ラスボスさん達や主人公さん達とも深い関わりも殆どない。

 だからこそ――思考を止めちゃダメなんですっ!!


「これは一体どういう?」

「やはりと言うべきか……やっこさんら、俺達に内緒で何やら画策してたようだな」

「ラースさんとルゼルスで何やら揉めていますね……。マサキさん、先ほど存在値がどうこう言っていましたけど、あれって結局どういう事ですか?」

「言った通りだ。奴らを構成する肉体そのものが存在を保てなくなっている。存在値ともいうべきか……その値がゆっくりと減少している状態だ」

「えっと……つまり?」

「このままでは奴らはその存在ごと消えるという事だ。それも、おそらくは奴ら自身の意志で……な」

「「「な!?」」」



 ルゼルスさん達ラスボスが消えゆく姿を見て慌てふためいている主人公さん達の姿が目に映ります。

 そんな彼らの姿を見て――とても解決策とは呼べない閃きがセンカの脳裏にて弾けます。


 主人公。

 どんな困難にも立ち向かい、最後にはなんとかする主人公。

 そんな主人公さん達の事を、いつの日かラース様は笑いながらセンカに語り聞かせてくれました。

 敵に回すと厄介でしつこくて、自分勝手な奴らだと……そんな評価をしつつもどこか憎めないといった調子で語っていました。


 ラース様やボルスタインさんは主人公になんか頼っても事態は解決しないと、そう結論付けていました。

 それでも、ルゼルスさんやリリィさんが居なくなってしまうなんていう結末を迎えるくらいなら……賭けてみたい。


「センカだって……勝手にするんですから」



 ラース様も。

 ルゼルスさんも。

 誰も彼もが内緒で動いて、その結果がこのザマです。


 そんな中、どうしてセンカだけが大人しくしてなきゃいけないんですかっ!

 皆さんが勝手に動くなら……センカだって勝手に動きます。

 だから――センカはラース様達と交わした約束を破る事にしました。



「――助けてくださいっ!!」


「「「は?」」」

「「「え?」」」

「ふむ――」



 センカは恥も外聞もなく、ペルシーさんや主人公さん達に向かって土下座で助けを請いました。


「えっと……センカさん? 一体何を――」


「色々とペルシーさんに偉そうな事を言ってしまったセンカですけど……全部他人任せにするなんて良くないって分かってますけど……センカにはもうペルシーさんや主人公さん達に頼るくらいしかもう手が思いつかないんですっ!!」


「いえ、だから一体何を……まさかセンカさん達が生き残れるように、ラースさん達が行う虐殺を容認しろとでも?」


「そんなのじゃないんですっ!!」


「そうなんですか? では、一体何を……。もしかしてマサキさんが言うラスボス達の存在値の減少と何か関係が? 今何が起きているのか、良ければ教えてもらえませんか?」





 膝をつくセンカと目を合わせようとしてくれているのか、ペルシーさんがセンカの肩にポンと手を置きます。

 そんなペルシーさんに、センカは顔を上げて。


「ラース様……いえ、ルゼルスさん達は……ラース様やセンカの為、みんなの為にその身を犠牲にしようとしているんですっ!!」



 ラース様やラスボスさん達に絶対に秘密にしろと言われたあの時の会話の内容、それをペルシーさんと主人公さん達に伝えるのでした。


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