最終章 主人公VSラスボス

第1話『決戦』


 ――三か月後



 この三か月の間、俺やルゼルスはこの世界のあらゆる場所を旅した。

 そうして分かったこと。


 それは、あの神様達やボルスタインが言っていた事が本当かどうかはともかくとして、至る所で異常な現象が起きているという事だ。


 この世界において、地震という現象は存在しない。

 いや、正しくは存在しなかったというべきか。


 今から二か月前ほど前からこの世界ではその地震が発生しており、その頻度は日を追うごとに多くなっている。

 今では週に一回のペースで発生しているほどだ。

 別に大地震という程のものではないが、今までになかった出来事に多くの民衆は戸惑いを隠せないでいるようだった。


 また、魔物が居なくなったというのに普通の動植物の姿が一気に目減りした。

 ある村の住人に聞いたところ、畑の作物もあまり育たなくなってきているらしく、更にその一帯ではここ半年の間、一度しか雨が降らなかったらしい。



 これがもっと酷くなれば……毎日のように大地震が起こり、動植物の姿が一切なくなり、畑の作物も全滅して雨まで降らなくなれば――


 それは間違いなく世界の終わりと言えるだろう。人の住めない死の世界の誕生だ。



「――結局のところ、やっぱりこれしかないわけだ」



 俺はトゥルースコア所持者が居座っていたという居城。その屋根の上から眼下を見る。

 ここの居城はまさにゲームの魔王城かよといった様相で、皮肉にも今の俺の気分にピッタリの場所だ。


 三か月前にもここから外の景色を眺めたが、その時と比べ明らかに大地が渇き、死に瀕しているのが分かる。

 これを更に数か月放置すればここは砂漠となり果てるのだろう。そんな確信すら抱けた。




「ラース様……本当にやるんですか?」


 そんな俺の傍らに控えるセンカ。

 この三か月の間、彼女が一番頑張っていた。

 何か他に方法はないか。誰もが笑って終われる方法はないかと……その方法を模索していた。

 だが、そんなものはない。結局のところ、俺たちは提示された選択肢の中から選ぶことしかできなかった。


「ああ、やるよ。俺はもう決めたんだ。俺はルゼルスを絶対に手放さない。その為なら主人公だろうが王様だろうが何だろうが……一切合切を滅ぼしてやる」


「ラース様……」


「別に、無理強いはしない。お前は……優しいからな。今からでも遅くない。全てが終わるまでどこかに隠れててもいいんだぞ?」


「……いえ、センカもやります。確かにセンカは争いなんか大っ嫌いです。でも……ラース様やルゼルスさんと居る為に必要だって言うのなら……センカは何人、何百人でも殺してみせます。それが例え、罪のない人でも――」


 悲痛な覚悟を胸に抱くセンカ。

 本当なら、お前はそんな事をしなくていいと言うべきなのかもしれない。


 それなのに、俺はそんな決断をしてみせたセンカの事を『美しい』とすら思えた。

 だから――


「そうか」


 たったそれだけしか口にしなかった。

 そうして俺は振り返り――



「みんな、準備はいいか?」





 ルゼルス。アリス。リリィ。ボルスタイン。ウルウェイ。ルールル。ココウ。チェシャ。


 この世界に残存する全てのラスボスと、センカの親友となったチェシャが迷いなく頷く。


 本来、この場にココウ、リリィ、ウルウェイの三人は居ないはずだった。

 三人は既に自分の道を歩んでいる。だから、関わらせるべきではないと考えたのだ。


 だが、それはボルスタインに止められた。

 全ラスボスの命運を賭けたこの戦い。必ず全員を戦いの場に参加させるように奴は要求したのだ。

 そんな方法はないと告げたのだが――


「なぁに。主の今の心境を知ればリリィとウルウェイの二名はそれに従うでしょう。ココウに至っては大暴れ出来る場を提供されるというだけで食いつくでしょうな。

 ――ゆえに主よ。強く想うがいい。自分の考えを知れと……そう彼らを思い描きながら命令を下すかのような意気込みで念じるのだ」


 そう言われてやってみたら、なぜか全てを知った三人が俺の下へとやってきたのだ。

 それが数日前の事だ。

 かくして、一部脱落してしまったとはいえラスボスが勢ぞろいした状態となった訳だ。


 そんなラスボス達も既に覚悟は決まっているらしい。

 なら、言うべきことは何もない。

 来ると思っていたペルシーや主人公達の姿が見えないが……どちらにしても俺がやる事は変わらない。


「なら行こう。これが俺たちの……破壊の号砲だっ!!」



 俺は頭上に手を掲げ。



「起動しろ――アルヴェルッ」




 そうして俺の視界が一変する。

 俺の体が鋼鉄に包まれ、頑強な物となる。


 クルベックの置き土産と言うべきか。あいつがこの世界から退場したことによって、俺がこのアルヴェルを操れるようになった。

 細かい動作が出来ない巨大ロボット『アルヴェル』だが……大規模な破壊を行うのに細かな動作など必要ない。

 まずは盛大な花火を打ち上げるとしよう。


『荒廃した戦の中、平和だけを求め我らは戦い続けた』


『平和の為の闘争。平和のための謀略。矛盾するがゆえに望みを遠くなるばかり。

 されど、その尊き世界を我らは信じ、願い、果てに聖約を果たす。

 我は光。全ての混沌を払いし光なり』


は邪悪。其は正義。

 其は堕落。其は

 あらゆる個性無き世界の果てで我らは泣く』


『望みは叶った。されど達成感はなく、しかし後悔もなし。

 ゆえに我らは続けよう。ここから始まりし創成期。

 我らこそが、世界を安定に導く者なり。

 眼前の巨悪を打ち破り、平和を維持する守護者なりっ!!』


 そうして鋼鉄の巨人となった俺の手の中に現れる弓。

 これを引けば、多くの人間が命を落とすだろう。


 世界の平和の為。

 それだけを想い、戦ってきたクルベック。

 俺はそんな奴の力を使い、この世界の人々を皆殺しにしようとしている。

 クルベックが見たら怒るに違いない。

 だが――俺は躊躇ためらわない。


 全てが終わって俺が死んだら地獄にでもどこにでも付き合ってやる。

 だから――


『アルテミスの神弓しんきゅうっ!!!』



 そうして放たれる金色の光。

 全てを呑み込むであろう破壊の光。

 それは行く手を遮る全ての物を破壊し尽くし――



「させねぇよっ!!! アレスの破壊拳っ!!!」



 金色の光は紅蓮のくれないの前に呆気なく霧散する。

 そうして黄金の光を呑み込んだくれないはといえば、俺の頬の部分を掠るようにして空へと消えていった。



「――やっぱり来たか」



「――嘘だったら良かった。あの時の言葉は口だけだと……そう期待してたんです。でも……ラースさんは本気でこの世界の人たちを皆殺しにするつもりなんですね」



 ふっと。

 虚空からその姿を現したペルシーと主人公達。

 ルクツァーの能力を使って今まで透明化していたのだろう。



「言ったはずだ。俺は、俺とラスボス達が生き残る為にこの世界の奴らを皆殺しにする。お前らも纏めて皆殺しだ。リリィさんの兄であるコウだけは生かしておいてやってもいいかもしれないがな」


「考え直す気は……無いんですか?」


「無いな。このまま何の対策も立てなければ世界ごと俺たちは死ぬだけ。それなら俺は、例え地獄に落ちる事になろうともラスボス達との日々を守る為に他の奴らを殺す。俺はそう決めたんだ」


「そう……ですか」



 そう呟き、諦めたように俯くペルシー。

 しかし、彼女はキッと俺を睨みつけ。



「それなら……ラースさん。いえ……ラースッ!! 私が貴方を止めます。貴方を止められるのは私だけ。この世界のラスボスとなり果てた貴方を主人公である私が止めて見せるっ!!」


 あのぼっち女王様だったペルシーが、決意に満ちた眼差しを向けながらそんな啖呵を切る。

 主人公達を駒として扱っていた彼女がここまでなるとは……。


 だが、そうでなくては面白くないっ!!



「良いだろう。来い主人公共。お前らを倒して……俺たちは生き残って見せるっ!!」



「行くぞぉっ!!」

「行きますっ!!」



 そうして、ラスボス召喚士である俺と主人公召喚士であるペルシーによる最後の戦いが始まるのだった――


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