第44話『悪だくみ』


「それで? 宰相さんを遠ざけて何の悪だくみだ?」



「クク、さすがは我が主。話が早い。女王……いえ、主人公側にはこの情報は伝えたくなかったのでね。そうでなくては舞台が面白くならないと……主の事を良く知る私が判断させていただいた」



 やっぱり……な。

 ボルスタインのやつ、あからさまに宰相さんに出て行って欲しそうだったからな。

 部外者を交えず、ここに居るメンバーにのみ伝えたい『何か』があるって事だろう。



「つまり、さっきまで話してた作戦とも呼べない作戦……主人公達ならきっとこの世界の崩壊についてもなんとかしてくれるだろうっていうのはお前がつづる物語的にあまり好ましくないわけだ?」

 

「無論、その面も完全には否定しきれないがね。しかし、それがしゅたる理由ではない。単純に特性の問題ですよ。主人公という特性の……ね」



 そう言って、ボルスタインは語り始める。



「そう、彼らは主人公だ。だが主よ。なぜ主人公が主人公と呼ばれているかお分かりか? 解は単純。彼らこそが舞台の花形であり、そしてその花形を輝かせる数多の敵の存在があるからだ。だからこそ、主人公というのは目の前に立ちふさがった何者かを倒すという事柄において滅法強い。

 だが……今の状況はどうかね? 敵はどこに? 立ちふさがる壁は? 彼らを輝かせる敵役は既に散った。ならば彼らはどのようにしてこの世界を救うというのだ?」



 ――ああ、なるほど。

 確かに、主人公は絶対に倒せないであろうラスボスなどの強者を相手にした時にこそ奇跡を起こし、勝利をその手に掴む。そういう奴が大半だ。


 しかし、今回問題となっているのは俺達(主人公&ラスボス)の存在そのもの。今回ばかりは元凶倒せばハイ終わりという訳にはいかない。

 なにせ、そんな俺たちという規格外の存在が居るからこそこの世界は崩壊しようとしているのだから。


 原因は分かっているが、その原因が自分達であり解決するには自決しかないというこの状況。

 こんな状況において、主人公達は何に対して奇跡を起こせば良いというのか。



「――――――お判りいただけたようで何よりだ。

 さて、ではどうやってこの世界の崩壊を止めるかだが……この世界の神たちが主に対して言った事。その殆どは真実だ。しかし、その解決策については彼らの都合の良いように伝えられてしまっているのですよ。の神たちは主に対し、主や女王達が犠牲になる事で世界を救うか、世界諸共破滅するかという理不尽な二択を強いた。そうでしたな?」


「あ、ああ、そうだ」


「しかし、そんなもの選べるはずもありますまい? そこで、私は新たな三択を提示しよう」


 そう言って、ボルスタインは追加で世界を救う三択を提示してきた。





「今回、問題となっているのは世界側の許容量が溢れているこの状況にある。ならば対処は単純。世界の内にある存在を消せば良いだけだ。の神は消すべき存在として我らラスボスや主人公を指定したが、別に我らが消える以外にも取れる選択肢はある。

 そう――我ら以外の人類や動植物。それらを一切合切いっさいがっさい滅ぼしてしまえば良い。そうすれば世界の許容量は溢れることなく、安定を見せるだろう。これが第一の選択肢だ」


「まさにラスボスらしい解決法だな……他は?」


「ふむ、これが一番手っ取り早い解決法なのだがね……。まぁ良いでしょう。第二第三の選択肢だったか。これはどちらも似たようなものだ。単純に世界側の許容量、その上限を引き上げれば良い。

 主よ、夢で会ったというの神たちは肉体を持たなかっただろう?」


「あ、ああ。確かにそんな事も言ってたな。本当かどうかは分からないけど」


「それは真実だ。今の彼らは生身の肉体を持っていない。捨てた……というべきか」


「捨てた?」


 どういう事だろう?


の神たちもかつてはこの地上に住んでいた。そうして彼らは自身らの子供を創り、それらは繁殖を繰り返しその数を増やしていったのだ。

 しかし、そうして数を増やし続けていれば今回と同じように世界の許容量が溢れるのは必定。ゆえに、超常の存在である彼らは生まれた世界の外側にて世界を管理する事にした。肉体は我が子らの為に世界へと還元したのだろうね。たった三人分の肉体とはいえ、超常の存在の肉体だ。ある程度の足しにはなっただろう。

 分かるかね主よ? つまり、この世界はそうして管理、または肉体などを還元する事によって許容量の上限は増やすことが可能なのですよ」


 ――なるほど。

 あの神様達じゃないが、世界というものを風船に例えるなら神様達も元は風船の中の空気だったと。

 しかし、神様達は何らかの理由で人間達を生み出し、そのせいで今回のように世界という風船が割れる限界にまでなってしまった。

 それを神様達は阻止するべく、自分達という名の空気を風船から抜いた。

 そして、自らは肉体を捨て、世界の外側から世界を安定するべく補強材のような役目を自らに課して今も立ち回っていると……そういう事か。


 つまり――


「俺達も神様がそうしたように、そうやって世界の外側とやらに出てこの世界を支えればいい……そういう事か?」


「さすがは主。その通りだ。ただ、付け加えるのならばその役目は私たちでなくても良い。もう一組。その役目を担える者達が居る。だからこその第二第三の選択肢なのですよ」


 世界を支える役目。

 それを担える人材。

 そんなもの、ルゼルスやボルスタインのようなラスボス組以外に居るとすれば、そんなの決まってる。

 それは――


「主人公達……か」


 パチパチパチと。

 ボルスタインが拍手をして俺の回答を肯定する。


「いかにも。そう――世界などという巨大な物を支えることが出来る人材などそうは居ない。我らラスボスか主人公。そのどちらかが自らの全てを捧げ、世界の外にてこの世界の上限を引き上げる。それこそが第二第三の選択肢となる」


「全てを捧げ……か。それはつまり、神様達みたいに自分の肉体を捨てて、あのなーんにも無さそうな異空間で世界の管理やらを死ぬまでやれと……そういう事か」


「死ぬまでではなく永遠にかもしれませぬがね。なにせ肉体を捨てての管理だ。ならば当然、老いなどするはずもない。もっとも、意識体にも生死はあるから永遠にというのはあまり現実的ではないがね」


「ああ、なるほど確かに。肉体を捨ててるなら老衰もクソもないか。しかしそうなると、下手すれば何百何千年もあの殺風景な異空間で黙々作業って事になりかねないのか……」


 それはもう一種の拷問にも等しいものだろう。


 しかし……どれもこれもヘビーな選択肢だ。

 神様が用意した物より選択肢が増えているとはいえ、どれも簡単には選べない物ばかり。

 世界の管理とやらをしながら中と外を行き来できるのならそれが一番だろうが、肉体を捨てないといけないと言っている時点でそれは不可能なのだろう。


「ラース様……」


「センカ?」


 今までの話に直接関わりのないセンカ。

 どう転んでも、センカには関係のない話。

 そんな彼女だが、浮かべている表情はこの場に居る誰よりも悲痛に満ちたもので――


「ラース様……居なく……ならないですよね? ずっとセンカの傍に居てくれるんですよね? ルゼルスさんも……センカとずっと一緒に居てくれますよね?」



 その瞳に涙を滲ませながら、そう聞いてきた。


「「センカ……」」


 俺とルゼルスはそんなセンカの名を呼ぶが、咄嗟とっさに答える事はできなかった。

 俺も。

 きっとルゼルスも。

 どう答えればいいのか……分からない。

 


 そんな俺達二人を見据えたセンカは、今にも泣きだしそうで――



「くすくす。大丈夫よセンカ」



 そんなセンカに声をかけながら、抱きしめるルゼルス。



「あなたとラースを離れ離れになんか絶対にさせないわ。だって、あなたは私のあり得なかった過去だもの。あなたが幸福である事が今の私の願いよ。だから――大丈夫」


「ルゼルスさん……」


 そうして抱き合うルゼルスとセンカ。

 俺はその光景を見ながら、自分が今選ぶべきは何かを考えていた。




 俺が選ぶべき道……俺にとって大事な物。


 それはこの世界の命運か?

 この世界に住まう人々の命か?

 自分の命か?

 ラスボス達か?

 主人公達か?


 ――違う。

 ラスボス達の事は確かに好きだ。格好いいし、確固たる信念を持っていて凄いと思っている。

 だが、その好きは憧れだ。


 今、俺が大事にするべきはそんな憧れじゃない。

 こうして俺がここに居る意味。こうしていられる理由。

 それは――





「決めたぞ。ボルスタイン」



 

 そんな俺の宣言に、その場に居る全員がビクリと身を震わせる。

 抱き合っていたルゼルスやセンカも例外ではない。


「ラース……あなた、早まった決断をしていないでしょうね?」

「ラース様?」


 不安げな視線をぶつけてくるルゼルスとセンカ。

 俺はそれらに応えずに、ボルスタインへと視線を送る。

 


「ほぉう……。数日は思い悩むと思っていたが、随分と決断が早い。さすがは主というべきかな?」


「御託は良い。俺は――」


 そうして、俺はボルスタイン含めその場に居る全員に自分の考えを伝えた――


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