第16話『ペルシー・ローレルライト(女王)』
――ペルシー・ローレルライト視点
誰かに守ってもらいたかった。
私……ペルシー・ローレルライトはごく平凡な家庭の魔人種としてこの世に生を受けた。
私たち魔人種は遥か昔に元々住んでいた場所を追われ、今は地下でモグラの如く暮らす事を強要されていた。
そこまでしても時折襲ってくる強力な魔物。
力のある魔人種なら問題にもならないそれらだが、そうでない魔人種からすれば十分に脅威だ。
そんな魔物に、当時子供だった私は襲われた。
内気な性格だった私は大声で助けを呼ぶことも出来ず、ただその身を震わせる事しかできなかった。
「あ……あぁ……だれ……か……」
ジリジリと迫ってくる芋虫型の魔物。
それは幼子である私を丸呑みにしようと迫ってきているようで、恐ろしくてたまらなかった。
だから――
「だれか……たすけて……」
誰にも聞こえる訳もないかすれた声で助けを請う私。
そんなもので助けが来るわけもない。
しかし――
『――任せな』
そんな誰かの頼りになる声が脳に直接響いた。
そして目の前で不可思議な文字が踊り、気づけば芋虫型の魔物は木っ端みじんに粉砕されていた。
それを為したのはどこからともなく現れた一人の男。
「無事か、嬢ちゃん?」
「は、はい」
その男の人の事を私は知らない。
知らないはずなのに、どこか見覚えがある。
そんな葛藤の中――私の前世の記憶、その断片が蘇った。
前世でも内気だった私は、主人公に憧れていた。
ヒロインを
そんな存在に憧れ、自分も彼らに助けられるようなヒロインになりたいと思ったのだ。
「ああ……ありがとう。ありがとう……ヴァレルッ!!」
「へっ。大したことじゃねぇよ。弱き者の盾になる事が俺の願いだからな。お前らは守りがいがありそうだ。後は俺に任せな」
そんなヒロインという存在に私はなることが出来た。
それが本当に嬉しくて――私は手に入れた力で同族である魔人種が傷つかないよう、せめて地下世界でくらいは安全に暮らせるように色んな主人公達の力を使って地下世界を発展させた。
主人公に守られるヒロイン。望んでいたお姫様となれた事に喜んでいた私。
真っ先に私を助けてくれたヴァレルを永続召喚しようと、沢山の主人公達に魔物退治やその魔物を生み出すコアの破壊をやってもらっていた。
けれど、途中で歯車が狂う。
「なんで……なんで私を守ってくれないのヴァレル!? ずっと私を守っていてよ。あなただけは私の傍にずっと居てよっ!!」
ヴァレルが私の傍を離れる機会が増えた。
そうして私ではない別の誰かを助けるのだ。
ヒロインである私ではなく、知りもしない他人を助けるヴァレルに対し私は不満を抱くようになった。
「いや、守れ守れって嬢ちゃんよぉ……。嬢ちゃんは普通に安全な場所に居るから守るもなにもねぇだろうが。
嬢ちゃんの想いは嫌でも伝わってくるが、俺は嬢ちゃんだけの正義の味方って訳じゃねぇんだぜ? 俺はあくまで弱い奴らの、そして同胞たちの為に戦う。誰か一人の為に戦う事を否定する訳じゃねぇが、今のところ俺にはその予定はねぇんだ。そういうのは他の主人公達に頼みな」
そうしてヴァレルは私の事を守ってくれなくなった。
他の主人公達も、勝手だったり自分の居た世界(アニメやゲーム世界)が創作だったと知ってしまって、その事を引きずるばかり。全然私を守ってくれない。
その世界のヒロインの真似をして優しく寄り添おうとしたら首を絞められたりするし、みんなみんな私の憧れた主人公じゃない。
唯一、ユウマだけは召喚したら離れずに私の事を守ってくれたけど、ヴァレルの事があったから素直に信じることが出来ないでいた。
そうしてある日……私の前に魔人国の代理国王と名乗る男……キョウイが現れた。
キョウイは語った。
私のような別の世界の記憶を持った人たちの事を転生者と言うらしい事。
そして代々、その転生者たちは王となって優れたその力を使い、魔人国に安寧をもたらした事。
その代理国王は、先代の王が死ぬ前に次代の王には自分以上の力を持った者をと遺言を残していたとも告げ、是非とも私に魔人国の女王になってほしいと頼み込んできた。
「この私が……女王?」
全く自分に自信がない私。
だからこそ、女王なんてものに自分がなるなんて言われても、全く実感が湧かなかった。
それでも、女王という響きはとても強そうで……気高そうで……何より甘美だった。
「女王……女王ね……ふふっ」
女王というのは、守られるべき存在だ。
そんな存在になれば、主人公達も私を守ってくれるようになるかもしれない。
それに、女王様だって私の憧れる立派なお姫様だ。
大抵、お姫様っていうのは王女様のような気がするけれど……この際どっちでもいい。
「分かりました。その話、お受けします。これからは私が……いえ、『わたくし』がこの国の女王です」
その頃、既に私やヴァレル、そして幾人かの主人公達はこの国の英雄として一部では崇められていたというのも手伝って、あれよあれよの間に私は女王となった。
これからは……私が魔人国のみんなを守る。
思えば、ゲームやアニメのヒロインはそうやって沢山の人の為に戦う事が多かった。
そんなヒロインを主人公が守ってくれるのだ。
だから、私はみんなを守ろう。
そうすればきっと……白馬の王子様のように主人公が私の事を導いてくれるから――
――そして現在。
わたくしは女王となって、魔人国の為に主人公達を使って皆を守ってきた。
そんなわたくしを主人公が守る事は必然。
女王であり、ヒロインであり、更には召喚主であるわたくしが主人公をどのように扱おうと勝手ですが、召喚された主人公がわたくしを守らないなどあってはならない事。
なのに――
「――良くねえよ。ヤダね。そろそろ付き合ってらんねえよ」
わたくしの為に戦ってくれていたヴァレル。
最近は主人公達の扱いについてなど、彼とは会うたびに口論になっていた。
それでも、ヴァレルはいざという時は民を守るわたくしを守るべく奮闘してくれていた。
それなのに――そんなヴァレルがわたくしの為に戦う事を拒否するなんて……。
「……なんですって?」
ヴァレルの二度目の裏切り。
あの日、わたくしを守ってくれると……わたくしだけを守ってくれると信じていたのに裏切られた。
それでもいざという時には助けてくれるからと信じていたのに……。
わたくしは失望、喪失感。そういったものを含ませながらどうしてと彼に問う。
すると、
「なんでもクソもねぇよ。そこの坊主……いや、坊主は失礼だな。そこの戦士ラースは嬢ちゃんなんかよりよっぽど俺達主人公の事を分かってやがる。それだけじゃねえ。敵対してる俺達を解放しようなんて言う馬鹿野郎だ。そんな馬鹿が俺は大好きでな。これ以上やり合う気にはどうやってもなれねぇよ」
意味が分からなかった。
わたくし以上にあのラスボス召喚士が主人公の事を理解している?
馬鹿馬鹿しい。
このわたくし以上に主人公の事を理解している者など居る訳がない。
わたくしの頭には彼らの身長や体重、過去に何をしてきたかまできちんと記録してある。設定資料集まできちんと読み込んだんだもの。
そんなわたくし以上にあのラスボス召喚士が主人公の事を知ってるなんて……あり得ないっ!
そもそもの話――
「なっ――何を馬鹿な事を!? あなたは主人公でしょう? それならヒロインであるわたくしを死守するべきですわっ」
そうだ。
私は……わたくしは魔人国の女王にして主人公召喚士のペルシー・ローレルライト。
つまり、彼ら主人公にとってのヒロインは私のはず。
ならば当然、この身は主人公によって守られるべきもののはずで――
「玉座に座って命令を飛ばすだけのヒロインなんざ知らねえよ。それも俺ら主人公を使い捨てるヒロインなんざこっちから願い下げだ。嬢ちゃんの想いは俺にも伝わってくるし、気持ちは分からないでもないが……さすがに度が過ぎたな。そろそろ目を覚ます時間だと思うぜ?」
「そんな――くっ、ランダ――ひっ――」
完全にわたくしを守る気はないと動く素振りさえ見せないヴァレル。
もう彼には頼れない。
だからこそわたくしは他の主人公を召喚しようとするが、目の前にラスボス召喚士である野蛮な男が迫って来て思わず召喚を中断させてしまう。
そうして激しい衝撃と共に、私の意識は闇に堕ちるのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます