第548話 宣戦布告
ドゴエスからバリスタのことを聞いた二日後、ようやく、ネンラール軍の姿は
「なるほど、確かに
ドミニアの防壁の上からネンラールの陣が張られているのを見るのだが、その
「バアル様、危険ですので、下がってください」
「大丈夫だろう。魔法ならともかく、わざわざ持ってきた矢や弾を無駄に消費するとは思えない」
俺が防壁の縁に近づくと、騎士の一人がそう言って、注意してくる。
「それに、もし飛び道具なら、オーギュストとリンで十分に対処できるだろう」
現在周囲には、久しぶりに護衛となっているリンと、ここ数日のようにいるオーギュスト、そして騎士の3名がいた。そしてその周囲にはドワーフの兵士が数十人待機しており、まず
防壁からネンラール軍を眺めていると、ドワーフの中から顔見知りが現れる。
「本当に大丈夫だろうな?」
「ドゴエス、前にも言ったが、
「では、ただの、では無かったら?」
ドゴエスがバリスタが特製で造られたものだった場合を聞いてきたが。
「いや、今回に限っては飛び道具はまず
「そう言える根拠は?」
「見ていればわかるはずだ」
そう言いながら視線をドゴエスから、ネンラール軍に向けると、陣の中からドミニアに向かってきている集団がいた。それも
「我は此度の反乱討伐軍の総司令の代理、カジャフ=ミセ・ツシルシェだ!!!」
その集団がドミニアの防壁のとびらの前まで進んでくると、大きな声でそう告げてくる。
「反乱軍の頭目と話がしたい!!」
そういうとカジャフは部下に盾だけを構えさせて交渉旗を掲げ続ける。
「だと、どうする?」
「当然、行くとしよう」
俺は傍に居るドゴエスに問いかけると、何を当たり前なことをという風にドゴエスが防壁の上から返答する。
「俺はドゴエス=アウ・ドンギル、話を聞こう!!!」
「貴殿が反乱軍の長か!!!」
「そう受け取ってもらって構わない!!!」
ドゴエスがそういうと、下でカジャフが大きく頷く。
「了解したドゴエス、それでは告げよう。我々討伐軍は貴殿たちの行動に憤慨している。今まで国の恩恵を受けてきたのに、反乱をおこすとはこれいかに!!!」
「なにが恩恵だ!!お前たちは俺たちからいい様に搾り取ってきただけではないか!!!」
「異なことを!!!国は何も無意味に虐げることはせぬ!!!それでも虐げられていると感じているならば、堂々とそう告げればよかろう!!!」
「何度も告げた!!!だが、それでもお前たちは俺たちの声を無視した!!!だから不満が溜まり、今に至る!!これがそちらの対応の結果だとは考えんのか!!!」
それからも何度も掛け合いが続く。カジャフは反乱を止めるように、そしてドゴエスはそれは受け入れられないと。
「今なら陛下は寛大なご処置を用意しておられる。それでも受け入れられないのなら、覚悟されよ!!!返答は!!!」
「そんな選択肢は、
「わかった……ではここに宣言する!!!我ら、ネンラールは国を乱し、混乱させるお前たちを容認できない!!心せよ!!!そのためどのような手段を用いても鎮圧することになるだろう!!」
カジャフは続けて、叫ぶ。
「それとバアル殿に伝えよ!!!我らは反乱軍を制圧する!!その時に貴殿が否応に協力させられたとしても、それは貴殿の責任ではない!!!だが、同時に我々の敵への協力行為を見逃すことはできない!!なので、貴殿が強力している部隊に対して敵対行為も辞さない!!!」
思わず、その言葉に笑いそうになる。なにせ簡単に訳せば『囚われて言うことを聞かされているんだね、なら仕方がない。けど協力は看過できないから潰させてもらうよ。ただそう告げたのだから、こちらは何も言わないし、そちらも何も言うなよ』ということだ。
(こちらとしては万が一にも負けた時のために、免責符であるこの言葉を蹴り飛ばすことはできない。そしてあっちは堂々と飛空艇にも攻撃ができるようになる。運が良ければ鎮圧してから落とした飛空艇を調べることが出来る、とでも思っているんだろうな)
ここまで強気な言葉を出したのだから、カジャフは勝てる勝算が高いと判断しているのだろう。
「また降伏やその類の申し出なら、交渉旗を携えて、こちらの本陣に出向くことだな!!」
「忠告、感謝しておこう!!!」
カジャフはそう言い切ると、盾を構えたままの護衛を共に防壁の傍から離れていった。
「さて、どうする?俺たちへの協力を打ち切るか?」
「ここまで来てか?」
使者がネンラール軍の陣に入ると、ドゴエスがこちらに声を掛けてくる。
「今であれば、お前たちは特に咎められることもなく帰れるだろう?」
「代わりに労力の対価を得ることなくな」
此処で帰ればただただ反乱に巻き込まれた間抜けだろう。
「それに先ほどの使者が言っただろう?俺の行動は俺の責任ではない。あくまで従われて、しているに過ぎないと」
そういうと、ドゴエスが声を殺して笑う。
(だが、それなりに交渉慣れしているな。今回すんなりと、話が通ったのも同じ方向を向いているからだろうな)
そう考えた理由だが、俺は見返りが大きいドワーフに組したい、もちろん責任抜きで、ドワーフも補給の要という俺を手放したくない、そして何となくだが、ネンラールはドワーフに反乱をわざと起こさせたようにも感じていたからだ。
(王家がドワーフたちの不満の高まりを理解しているのなら、今回のことも想定内なのだろう)
避けることが出来ない反乱が起こったから、それに対処しているように感じてしまう。
「それで、飛空艇は近々到着すると聞いていたが?」
ドゴエスの声で思考を中断する。
「ああ、本来は昨日のうちに到着していたはずなんだがな……うまくいけば今日中に、いや、数時間のうちにドミニアの空に見えてくると思うぞ」
「ほぅ、そうなのか」
ドゴエスや、他のドワーフも興味があるのか、空を見渡し始める。
「戦争中だと言うのに、呑気だな」
まるで眺めのいい景色を見たい観光客のような行動に思わずそう溢す。
「攻めてくるなら、気を入れるが、あちらのひとまずの行動は飛空艇の阻止だろう?なら、今すぐ攻めてくると言うことは無いだろうよ」
「それもそうだな、では俺は戻るぞ?」
「おぅ、飛空艇が見えてきたら連絡を送るから、大人しくしていてくれよ」
ドゴエスのその声を聞くと、俺は防壁を降りて、ゆっくりと宿泊所に向かう。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
宿泊所への
「撃墜されないか、という話か?」
「はい」
歩きながら、リンの様子を見るとやや不安そうな顔をしている。
「大丈夫だろう。仮に船体にバリスタの弾が当たっても、中心部にある飛翔装置に害が無ければひとまずは航行できるはずだ」
ケートスの装甲はかなりの厚さで造っている。なにせ、軽くする飛翔石の性質を考えれば、軽さと丈夫さのバランスを取る必要がないからだ。それにもし貫かれることがあっても飛翔装置とすべてのプロペラを破壊されない限りひとまずの飛行はできるように設計している。
「それに
「その特別があったときはどうしますか?」
リンの言葉に俺はリンに視線を向ける。
「その時は、リン、お前の出番だ」
「え?」
リンは自分を示されたことに目を白黒させる。
「お前の『障空流』なら、飛び道具の軌道を逸らせるだろう」
「ええ、できますが」
「最悪は飛翔石を利用して、船体の上に移動してもらう。そこで飛び道具を全て逸らしてほしい、魔力はいくら使っても構わない」
リンはその言葉を聞くと腕と手首にある魔道具を触る。
「……わかりました、全力を尽くします」
リンは真剣な表情でそう告げる。
「ただ、これは最悪な場合だ。予想ではそれすら要らないと思っているが」
「??そうなのですか?」
「ああ」
リンは答えてほしそうにするが、俺はその後を告げようとはせずに、道を歩き宿泊所を目指すのだった。
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