第541話 正式な初会合
ユリアが出立してから五日目、ようやく、外を出歩いてもいい期間となる。だが、その日を迎えた朝、来客が訪れていた。
「おぅ、バアル様、朝から悪いが少しいいか?」
「ドイトリか、何の用だ?」
朝食を済ませてから、ほんの少しするとドイトリがやってきていた。
「これからジアルドと、ある人物との会合があるんじゃが、そこに参加してほしいんじゃ」
「会合?何かあったか?」
「ああ、ネンラールに動きがあった」
ドイトリの言葉に意識が向く。
「どのような?」
「そのことについての会合じゃ、できれば参加してほしい」
「参加する
未だにドワーフが負ける可能性が存在している、そんな中で脅されているわけでもなく、完全にドワーフの味方の様に立ち回ることはできなかった。
「構わん。もとより様々な報告を兼ねているにすぎん」
という事らしく、俺たちは仕方なくという体で参加する。
ドイトリがやってきた後、準備をして訪れたのは、うまく有効活用されている領主館だった。ちなみに護衛はオーギュスト、エナ、ティタ、そして騎士五名を伴っている。
「待っていた」
領主館に到着して、女性ドワーフに一つの会議室に案内される。そこにはジアルドとその護衛、そしてフィアナと会った時にいた、あの四人がいた。
「ああ、報告
「だけ、か?」
「囚われている俺があれこれとアドバイスするのもおかしいだろう?」
こちらの言葉に納得したジアルドが一つの席に座る様に促してくる。そして大きな四角いテーブルに着くと、四辺の内の三辺をそれぞれで埋めた状態で話が始まる。
「さて、様々なアクシデントがあったが、無事に独立は成功したことをここに報告する」
ジアルドがそういうと、ドワーフたちから、おぉとという声が漏れる。
「周囲の村々からの避難は一時遅れたが、君たちのおかげで恙なく終えられた礼を言う」
その言葉にドワーフたちがあの黒髪の少年に頭を下げる。
「いえいえ、僕としても、こちらの都合で介入させていただいたわけですから」
「それでも動いてくれたことについての感謝の意は示すべきだろう」
共に親しそうに会話することを俺は何の興味もなく眺める。
「次に、主要な人物を捕縛と伝令を持たせての追放、後日、それに伴い、ドミニア内部にいる人族を一斉追放することになった。その報告を、ドゴエス」
「おぅ、都市内のすべての建物を確認し終えたぜ」
ジアルドの言葉で後ろに控えていたドゴエスが前に出てくる。
「一般市民の全員を抱えられるだけの財産を持たせて、放逐した。その後、退避させた人族の家を壊しまわったが、それでもやはり、ネズミは残っていやがったがな」
ドゴエスは頭を掻きながらそう報告する。
「だが、安心してくれ、そいつらも、こいつらのおかげで全て駆除で来たぜ。ありがとな」
ドゴエスが何度も少年の背中を叩きながら、褒める。ただ、力が強すぎたのか、少年はやや苦悶の表情を浮かべていた。ちなみにその様子に残りの三人は苦笑したり、ややハラハラとした表情となっていた。
「ほぉ」
だが、そこに関してはあまり興味がないため、聞き流す。それよりも肝心な部分を話せとジアルドに視線で促す。
「次にネンラールの動向だが、
「どのように?」
「アジニア皇国制圧のための軍の一部がこちらに向けられ、そして最低限残した軍団以外がこのドミニアの地に向かってきているとのことだ」
「正確な数は?」
「そこまでは不明だ」
そこが一番知りたかったのだが、そこは不明らしい。
「とはいえ、まだまだ動き出し初めだ、私たちの斥候が情報を得られる場所にはまだ来ていない」
「?、少し待て、ならなぜ情報を得られている?」
本来は情報を一番得やすいのがその斥候のはずだ。だがジアルドの口ぶりだと、自分たちの探知圏内にはまだ軍の姿が見えないと言う。
「それも彼のおかげだ、そういえば自己紹介を済ませているのか?」
「顔は見たが、名前や所属は不明なままだ」
ジアルドの疑問に返答しながら、笑顔でこの場にいる黒髪の少年を観察する。
「それで、自己紹介をしてくれるのか?」
「さて、どうしましょうか」
あちらは楽しそうにそう返してくる。
「まどろっこしい、こうすればいいだけだろう」
「「「!?」」」
変に答えを先延ばしにさせるつもりはないので『亜空庫』からモノクルを取り出し、付ける。
「どう、わかった?」
「この結果が間違いでなければな、アジニア皇国現皇帝
――――――――――
Name:ユート・シェン・アジニア
Race:ヒューマン
Lv:37
状態:普通
HP:474/474
MP:1555/1555
STR:25
VIT:22
DEX:35
AGI:18
INT:42
《スキル》
【剣術:34】【盾術:39】【火魔法:12】【水魔法:22】【身体強化;9】【策略:59】【戦略:73】【遠見:43】【夜目:24】【思考加速:87】【武器製作:31】【号令:43】【水泳:24】【礼儀作法:64】【薬学:32】【馬術:17】【料理:19】【家事:15】
《種族スキル》
《ユニークスキル》
【戦盤ノ棋王】
――――――――――
モノクルの結果がこれだった。
「貴様!」
こちらの行動にファラと呼ばれる女性が前に出ようとする。
「落ち着いてファラ」
「ですが」
「バアル、人族の世でも承諾なしにやる事はルール違反だと知っているだろう?」
「さて、どうでしたか」
ジアルドの言葉にそう返しながらモノクルを『亜空庫』にしまう。
「それでなぜ皇帝自らここに?」
何の緊張も遠慮もない言葉にあちらの護衛は全員色めき立つ。
「いいよ、動くな」
だが、それをユート自ら抑えつける。
「バアル、僕のことをどう思っているかわからないけど、スムーズに物事を進めたいのなら」
「わかっていますよ。どこの馬の骨とも知れない存在だったため、先ほどの物言いをしたにすぎませんよ」
一応敬語になるが、全く本意ではないことはユートにもジアルドにも気づかれているだろう。
「では、体面が整ったようなので話を続けましょう。先ほどの情報は全てユート様から?」
「そうですよ。正確には僕のユニークスキルによるものです」
ユニークスキルのおかげだとユートはあっさりと認めた。そしてこちらが多少は動揺したのを見て、ユートはしてやったりという表情を取る。
「教えてもいいのですか?」
「問題ないですよ。僕のは対策することがまず不可能なので」
ユートはなにも問題ないと説明し始める。
「僕の能力は文字の通り、ある地形を盤面にする能力です」
「ほぅ」
「詳細は話しませんが、自身の確認できる場所の敵味方、無関係を割り出して、自由自在に指示を出すと言う物です」
それから、様々なことを説明されるが、用はリアルタイムストラテジー、つまりはユートが指揮官などの第三者視点で駒に指示を与えていく能力だという。
(なるほど、確かにそれならあっさりと話すのもおかしくない)
直接的な戦闘手段でないため、まず対策が取りづらい。それに能力は言ってしまえば大規模な通信と偵察でしかない。それも詳細が話されていないため、敵味方、それ以外、他にも敵とわかる指標などは話されていないため、対策も何もない。
そしてだからこそ、退避しているドワーフの危機に駆け付けられ、追放中に都市に残る邪魔者の排除も、ネンラールの動きを察知していることも説明がついてしまう。将棋などで敵の駒がどこにあるかがわかるのなら純粋な頭脳勝負となるからだ。
「なるほど、確かに盤上として見えているなら話は簡単だな」
「ですから、ここに居てもアジニアとネンラールの戦場がどうなっているかがわかりますし、ネンラールの動きもわかります」
目の前のユートはそう言い笑うが、そんな都合のいい部分しか存在しているわけがない。
(何かしらの弱点はあるだろうな)
なにせドミニアからアジニアの国境という途方もない距離をまるで千里眼の様に覗けて、その上指示も瞬時に送れる。そんな能力がノーリスクで使えるわけがない。もしくは細かい条件があり、それを満たせば使えると言った可能性も存在している。
「それと、もちろん欠点もある」
「……それも話すのか?」
「ああ、それを話しておかねば後々、できるだろうと言って難題を押し付けられそうだから」
ユートはその後を話す。まずユート自身がいる周囲を盤上と捉えられるのは当たり前として、その盤上と捉えられる距離内であれば指示はいくらでも送り出すことが出来る。だがそれ以外、離れた地にいる時だが、これはユートの代わりとなる『代理』が必要とのこと。ただ、その際には通常よりもさらに魔力を消費して、さらには『代理』を起点にするだけで結局はユートが偵察して指示を出すそうなので、抱える盤面が多すぎれば、ユート自身がさばききれなくなるとのこと。
「結局はユート様が行わなければいけないと」
「その通りさ。僕としては脳が増えるユニークスキルとかも欲しいぐらいだね」
ユートの言葉に一人思い浮かぶが、実際には関係ないと片隅に追いやる。
「なるほど情報の出どころはわかった、それで次の報告は?」
「それは―――」
そしてユートに関してこれ以上情報が出てこないと判断すると、再びジアルドに続きを聞くこととなった。
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