第527話 ドミニア観光

 坑道から帰ってきた翌日、朝食を済ませて、夜の晩餐までゆっくりするつもりでいると、来客がやってきた。


「鉱夫達は問題なさそうか?」

「ガハハ、あれぐらいで弱気になるなら初めから使えんわい」


 やってきたのはドイトリであり、ドワーフの服の中でラフな格好をしている。


「にしても、よくなついているのぅ」

「ん!?」


 足元にいるイオシスが視線を向けられた事に驚いて身を固くする。


「ドイトリさん、止めてください、怖がっています」

「ん~~」


 こちらの様子を見かねたのか、リンがイオシスを抱き上げて、ドイトリから遮るようにする。


「え……儂、なんかした?」

「さぁな」


 ドイトリの困惑する声を聞き流す。


(にしても懐きすぎだな)


 水を飲みながらリンに抱き着いているイオシスを見る。今朝にイオシスに服の中に潜られて、悲鳴を上げたばかりだとは到底思えないほど、リンはイオシスに構っていた。


「それで、ダラン爺の様子は?」

「朝一番で、自分で墓を作りに行ったわい……それと手記に関してはまだ見せていない。そして仲間にも話していない。つまりは」

「漏れるとしたら、俺たち側からか。留意しておこう」


 こちらの言葉を聞くと、ドイトリは背嚢から子樽を取り出して、がぶがぶと中身を飲みだす。


「で、ここに来たのはイオシスの現状を確認しに来ただけか?」

「いや、この夜まで暇じゃろう?だから、余裕・・のあるうちにこの町を案内でもしてやろうと思ってな」


 ドイトリはそういい笑うが、その瞳にはなにかしらの意図があった。


「受けたほうがいいか?」

「是非にもな」


 ドイトリの言葉に少しばかり表情を眺めて、その言葉に偽りがないことを理解する。


「わかった、案内してもらおう」

「あ、バアル様」

「ん、何、――」


 リンの言葉で振り返ると、そこにはきらきらとした目でこちらを見ているレオネの姿があった。


「皆に出かけるって伝えてくるね~~」

「あ、お――――」


 こちらが呼び止める前にレオネは矢のように宿泊所内を駆けていった。


「……ドイトリ」

「今回は純粋にすまんとしか言えない。いや、本当に」


 思わず、ドイトリが獣人を巻き込むためにそうしたと思ったが、次の瞬間、ドイトリの本気の謝意が飛んでくる。


「……ノエル、騎士たちに伝令を出せ」

「はい」


 ノエルが騎士団長を呼びに行くと、大きなため息をつくことになった。














 騎士達を急遽集めて、騎士を割き、警護を見直させる。そしてそれが短い間に行われたことでそれなりに疲れた。


「全員集めたよ~~」


 そしてそんな中、宿泊所の入り口に全員を集めたレオネがまるでいいことをしたかのように笑顔で迎えてくる。


「レオネ」

「ん、なに――はっ!?」

 ガシッ


 レオネが何かに気付くが、動く前にその額に手を乗せる。それもそれなりに力を込めて。


「ちょ、ちょっと待って、今回、私は悪くない、出かけるって聞いたから声を掛けただけで」

「それで、誰がみんなと・・・・って言った?」


 ギリギリ


「なんで!?出かけるって言ったらみんなとじゃん!!」

「なんだ、その突飛な解釈は」


 ギギギッ


「は、反省、反省したから~~」

「……はぁ」


 レオネの言葉を信じたわけではなく、何言っても仕方ないと感じたため仕方なく放す。


「良かれと思ってしたことなのに~~」


 レオネが全くの的外れなことを呟いているが、構っているだけ疲れるため無視する。


「それじゃあ、連れて行かない気?」

「クラリス……それにしても本当に全員を集めたか」


 現在入り口にいるのはクラリスとその護衛セレナ、レオネ、ロザミア、マシラ、テンゴ、アシラ、だった。そして護衛としてリン、ノエル、エナ、ティタ、ヴァン、オーギュスト、ダンテがいる。


 そしてその中にリンの腕の中にいるイオシスがいた。


「ひとまず言うが、俺はできるだけ外に出てほしくない。まずイオシスを残すため、リンとエナと……ヴァン、お前は子供の扱いは?」

「チビ共で慣れてはいる」

「ならヴァンも残れ……それと守護のためダンテもだ。それで、ほかに宿泊所に残ってくれる奴はいるか?」


 一応自主的に残る奴はいないか聞いて見るもの、こちらの言葉に反応する者はいない。どうやら全員がここでの軟禁状態に飽いているらしい。


「安心してほしい、バアル」

「……」

「儂の魂に誓って、必ず全員を守護する。それでも不安か?」

「…………ふぅ」


 全員がそれなりの意思や理由を持ってドミニアの町を見学したいと考えているのだろう。実際、飽きていたのも本心だろうが、クラリス、ロザミア、獣人達はこの町を視察する理由も存在していた。だがそれはこの宿泊所に居てはできない。


「……ガス抜きも必要、と思っておく」

「なら、決まりね、ほら出かけましょう」


 事態が決まると、そのままクラリスに背を押されて、外に出ることになった。


(……ここまでくれば、事が起こるまで秒読み、それなら――)


 そんなことを思いながら、俺は自ら足を進めだす。














 それから俺たちはドミニアの大通りを散策する。店は武器屋、防具屋、装飾屋、それに様々な部品が置いてある工具屋、あとは数は少ないが、家具屋や食料店があった。


「へぇ~~綺麗~~」

「そうね」


 その中で装飾品を売っている店によると、レオネとクラリスが様々な宝石と金銀で作られた装飾品をみて素直な感想を述べる。


「……安いな・・・


 俺は売り物の値段を見て、それらがハルジャールから五割も違わない値段だと言うことを認識する。


(それに比べて、食料の値段があまりにも高い、これで採算を取るのはきついと思うが……)


 それからいくつもの店を巡り、武器、防具、装飾品を確認すると、やはり食料の値段が異様に高いように感じてしまう。


「そういえば、バアル様」

「なんだ、ノエル」

「シルヴァ様のお土産などはどうなさるのですか?」


 ノエルの何気ない言葉で動きを止める。


「そういえば強請ねだられていたな……」


 ゼウラストを出る時、シルヴァの機嫌を取るためにお土産を用意すると言ってしまっていた。


「仕方ない、探すとするか」

「なら、私達も探しましょう」

「うんうんそうだね~」


 ノエルの言葉に返すと、近くに居た二人も参加してくる。


「クラリスの我儘は聞くが……レオネは限度があるからな」

「え~~」


 そう言うが、女性の意見を聞いた方が的確なため、多少の出費を飲むことにした。














 そして昼前になる事には、シルヴァのお土産を選び終える。そしてやや高い昼食を取れば今度はテンゴ達主体の買い物に付き合うことになる。


 その行先は――


「ふむ、これはどうじゃ?」

「いや、しかし、聞いた話が本当なら――」

「なら、ばだ、これを組み合わせて―――」


 やってきたのは魔具を販売している、商店だった。


 そしてその中心にいるのは――


「のぅ、お主、ちょっと獣になってみてくれんか」

「あ、ああ」


 ドワーフの一人の言葉でアシラ・・・は『獣化』して見せる。


「「「ぉおぉぉおお~~」」」


 ドワーフたちはその様子を見て、驚きとも感嘆とも取れる声を上げる。


「なら、これじゃな!」

「いや、これじゃ!!」

「いやいや、それじゃあ体格が変わることに耐え切れん、やはりこっちが――」


 アシラの体格とドワーフの体格だと、アシラの体に子供が群がっているようにも見えてしまう。そして何が行われているかというと、アシラは自身に合う魔具を見せてほしいと頼み込んだ結果だった。


「息子を助けなくていいのか?」

「アレはあいつが望んだことだ」

「そうさね、それよりもあたしは代わりを見つけたいんだが」


 どうやらテンゴとマシラは、アシラを見捨てて棍や棒が売られている場所に移動していった。


「すまんのぅ、ああいったお題を出されればこうなるんじゃ」


 ドイトリは身内の見ているらしく、少々気まずい表情をしていた。


「半ば予想はしていた。実際、アルヴァスのときも似たような感じだったからな」


 あの時もアルヴァスは頭を悩ませながら、アシラに合う武器防具を考えていた。


 だが、ここはアルヴァスの店よりも品ぞろえがよく魔具も存在している。そうなれば最後、アシラはさながら妻に服を選んでもらっている夫並みに様々な武具防具を着せ替えられていた。


「しかし、こうなると大半が暇になるな」


 武器や防具を欲しているのは実のところアシラとマシラ、セレナ、それと微妙な位置だがノエルの四人だけ。それ以外に関しては全くと言っていいほど必要としてなかった。


「なら、これなんかどうじゃ」

「???普通の武器、いや魔具か?」


 ドイトリは一つの剣を指差して、品評を聞いてくる。


「剣の魔具を使う奴はセレナだ」


 剣の魔具を見せてくるが、必要そうなのはセレナだけだった。


「違う違う、この魔具を見てどう思うかじゃ」

「何か違うのか?」


 こちらの言葉にドイトリは苦笑してから口を開く。


「実はな、これは改造された・・・・・魔具なのじゃ」


 ドイトリは自慢する様に剣を掲げた。

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