第481話 勝者と金儲け
『勝敗がつきました!!!勝者はーーーー“武芸百般”マシラ選手!!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
ステージに上にマシラが残り、ユライアが光の膜から吐き出される。そしてその光景を見ると、リティシィも観客も興奮気味に声を発するのだった。
『いや~~にしても最後にふさわしいほどの盛り上がりでしたね、私が思うに―――』
「いっっっっやっっったーー!!!」
リティシィの感想が始まる中、貴賓席では一人の歓声が響いていた。
「いくら儲かったの?」
「えっと………ざっとネンラール金貨150枚です!!」
クラリスの問いに興奮冷めないセレナが嬉しそうに答える。
「……喜んでくれて、うれしいと思って……いいのか?」
セレナがマシラの勝利に喜んでくれてうれしいのだが、その目的が金であることためか、テンゴがやや首を捻りながら考え込む。
「いいんじゃねぇか、親父。セレナちゃんもお袋の勝利を望んでいたってことでよ」
「……そうだな」
アシラがテンゴを納得させるのだが、テンゴに見えないように掛札を握っているのが見えたため、思わず笑いそうになった。
「何度も言うが、賭け事はほどほどにしておけよ」
「わかってますよ~~」
セレナが調子の良さそうにそう言う。そしてテンゴが気付かないように、アシラと
(お前もか)
思わず呆れの表情になりかけたが、彼らからしたら絶対的実力者なマシラの賭け試合となれば当然のように掛けるのだろう。
「失礼します。バアル様」
「なんだ?」
やや和気藹々とした雰囲気の中、一人の騎士がこちらに近づいて来て話しかけてくる。
「来客です」
「誰だ?」
「ドイトリ選手とその弟だそうです」
訪問者の名前を聞くと俺は思わず扉の先にいる彼らの方向に視線を向ける。
「接触が早いな」
「???、それで伝言なのですが、ホテルへの道中同行してもよいかと聞いて来ております」
こちらの言葉に疑問に騎士は疑問符を浮かべるのだが、すぐさまドイトリ側の伝言を伝えてくる。
「そこまで急がなくていいのだがな……まぁ、こちらとしては問題ないと伝えてくれ」
「わかりました」
俺の言葉を聞くと騎士が離れていく。
「バアル様、カーシィム様に知らせなくていいのですか?」
「そうだな、アギラ」
「なんでしょうか?」
「カーシィムに今夜の予定が空いているのかを聞いて来てくれ」
「わかりました」
俺はアギラに伝言を預けて部屋を出て言う姿を見送る。
「兄さん、ドイトリさんをわざわざ呼んだということは何か関係しているのですか?」
隣に座っているアルベールがドイトリをわざわざ呼んだことに疑問を持ったのか問いかけてくる。
「そうだな……アルベール、俺は少ししたらおそらくはカーシィムの元にドイトリとロックルの二人と共に行くだろう。その時にお前も来るか?」
「え?!」
俺が丁度良いとばかりにアルベールを誘うと、アルベールは驚きの表情を浮かべる。
「そんなに意外か?」
「は、はい。兄さんがそういう場面に誘うことはまずなかったので」
かなり意外だったと表情でアルベールは答える。
「なに、そろそろ、いくらかの実践は積んでおいた方がいいだろうからな」
「え?」
その後、俺はアルベールの問いに応えずにアギラを仲介に立てて、今夜面会する約束を取り付ける。そしてリティシィの解説が終わり、本格的に本戦五日目が終わると俺たちはホテルへと帰ることになった。
それからは、スムーズに進む。全員が馬車に乗り込むとホテルへと戻っていく。ちなみに馬車の割り振りだが、ドイトリとロックルはテンゴとアシラという問題ない割り振りがされていた。またその割り振りのおかげか、ドイトリとテンゴ、アシラは本戦に出場するほどの選手だからか、戦士だからか、話があったようでホテルに着くことには仲良くなっていた。
そしてホテルに着くと、それぞれが部屋へと戻っていくのだが、その前に一つ大事なことを周知させておく。
「今日は全員緊急の要件が無ければ外出するなよ」
「ええ~~~~~~」
ラウンジにドイトリやイグニア陣営以外を集めて告げる。
だが、予想通りと言えるのか、レオネ一人が不満げな声を上げていた。
「一つ聞くが、なぜだ?」
「二度も襲撃があったんだ、三度目があると踏むのが普通であり、守りが薄くなる外で襲撃を受ける可能性を減らすためだ」
俺はほぼ確実に襲撃があると踏んでいる。そのために不要な外出を控えてもらう必要があった。
「……一応はいろいろと手配しているようだが?」
テンゴはラウンジやホテル内を見回っている護衛などを見て告げる。その視線の先には数倍にまで増やされた護衛達の姿があり、中には軍の兵士らしき影すらある。
「さすがに二回も襲撃されればホテル側も本気を出している。だがそれでも不安は残る。さらには外での行動は護衛の数が極端に制限され、不安視される。だから今日は残ってほしい」
ホテルは次があると踏んでいるためか、護衛を増員しており守りが堅くなっている。もちろん、外観や景観は崩さないようにいているが、それでも防衛力という面では数日前とは天と地ほどの差があり、しっかりとした拠点としての意義を果たしていた。
「そう言われたら仕方ないね」
さすがに襲撃される可能性を前に出されれば折れるしかなく、マシラがすぐさま了承してくれる。
「ほかの全員もいいな?」
俺が再度確認をすると全員から快諾、もしくは渋々と言った返答を受け取る。そして今度こそ、それぞれが自室へと戻ることになった。
「すまんな、待たせた」
護衛のリン、エナ、ティタ、ヴァン以外が自室に向かった後、俺はラウンジの一角で酒を飲んでいるドイトリの元へと向かう。
「いやいや、待ったほどではないぞ」
「…………」
ドイトリは軽く笑いながら答えるが、ロックルはできるだけ話し合いたくないのか、不愛想なまま会釈をして、酒を飲み始める。
「こりゃ、ロックル挨拶ぐらいせんか!!」
「へいへい、お久しぶりです、バアルサマ」
ドイトリに促されていやいやながらロックルは挨拶する。
「……本当に学ばない、バカじゃな」
ドイトリはロックルの反応を見て一瞬怒りを浮かべるが、次の瞬間怒るのにも疲れたと言わんばかりに呆れた顔をして酒を飲み始める。
「あの、横から失礼いたします」
会話が一段落したのを見計らってから、ホテルの支配人が近づいてくる。
「なんだ?」
「いえ、特段何かということもないのですが……これを」
支配人は控えた雰囲気の中一つの書類を手渡してくる。
「これは……防衛強化の報告書?」
「はい、前回の襲撃に寄り、様々な部分が強化されたことをお伝えに来た次第です」
書類をめくると、様々な変更点が書いてあり、言ってしまえば対策書と言えた。
「守護のための策を書類にまとめてから渡すと?」
「もちろん全員にではありません。イグニア殿下とユリア様、そしてバアル様のみに配りしています」
どうやら、さすがに対策についての情報漏れを気にしてか、頭と言える部分の人間にしか渡していないとのこと。
「……なるほど」
「もし不都合がないのなら、すぐさま破棄するのが得策なのですが」
「わかった」
俺は書類の内容を頭に入れると、丸めて灰皿の上に乗せてから焼却する。
「何か不審な点はございますか?」
「書類上ではそういった点はなかった」
「かしこまりました、何かご要望があればすぐさまお知らせください」
支配人は綺麗に頭を下げてすぐさま通常の業務に戻っていく。
「お~~大変そうじゃの」
「だろうな」
今回はドイトリの言葉に全面的に賛同する。さすがに二回も襲撃を許したとなればホテルの評判は落ちる一方だろう。そしてさきほどの書類は少しでも対策を取っていることをアピールしていることになる。このアピールで評判が落ちるのを止めることはできないが、それでも緩やかにすることはできるだろう。
「それで、本題だが、なんでロックルの席に儂を呼んだ?」
「その本題は、カーシィムとの酒の席でしたいと思っている」
俺がそういうとドイトリはお好きにどうぞと肩を竦める。
「ん?」
「どうしたんじゃ?」
「いや、もう一人、いや二人来客が来たようだな」
俺はある気配を感じるとホテルの入り口に視線の向ける。
そこにいたのは―――
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