第452話 出奔の理由
リョウマが来たこととホテルを壊したことで修繕が入るため、ラウンジに居られなくことで、俺たちは場所を移動する。
「わははは、そんなことがあったのか」
リョウマは酒瓶を掴み、グラスに注ぐことなく、口を付けて、豪快に飲み始める。
「しかし、よく、こんな場所が取れましたね。私はもうすこし安めの酒場にしようと思っていたのですが」
リョウマは俺を見てから、今いる場所を見回す。
ここはハルジャールのとある高級店レストランの一室だった。周囲は淡い黄色や緑で整えられており。食事を並べるためのテーブルのほかに、少し離れた場所には談笑するためのスペースとしてのソファとローテーブルがあり、またベランダも広く作られており、外で夜空を見上げながら食事というのも可能だった。
「こちらとしては変に人が多い場所だと、むしろ心配だからな」
俺はテーブルに並べられている、酒に合う軽食を摘まみながらリョウマに返答する。
「まぁ、少し物々しいが我慢してほしい」
そして壁際を見れば、10ばかりの騎士の姿と、リンやノエル、そして少し前に殴り飛ばされたエナとエナよりも重症
「しかし、魔法ってすげぇな、殺すつもりはなかったが、それなりで殴ったんだぜ」
そう、エナやティタの負った傷はすでに回復魔法で治癒している。騎士の中にそういう技能を持ち合わせている者がいるのは、もちろん、ホテルにも回復の手段を持ち合わせている者がいた結果だった。
「事情は聴いたが、折檻にしてはやりすぎじゃねぇか?」
「は、あれぐらいなら、俺たちは唾つけてほっときゃ、一日で治るぜ」
「本当かよ」
二人は馬が合うのか楽しそうに談笑する。
「うへぇ~~これ苦手」
「どれ?…………なるほど、少し苦みが強い酒ね」
そしてこちらとは別に、ソファにて、レオネ、クラリス、ロザミアの三人は様々な酒瓶を取り出して、すべて少しづつ味見をしていた。
「にしてもエルフもいるのか……噂に違わないな」
「ああ、あれなら故郷でも男がひっきりなしだろうな」
そしてそんな様子をアシラとリョウマの二人は楽しそうに見つめていた。
「リョウマ様、あの方はバアル様の婚約者なので」
「おお、それは申し訳ない」
リョウマは背後にいる一人の少女の言葉で即座にクラリスから視線を外し、謝ってくる。
「手を出すつもりがないのなら問題ない。それよりもその少女は?」
俺はここに来るまでずっとリョウマの後ろに付き従っている少女に視線を向ける。
「初めましてバアル様、私はリョウマ様の付き人をしているヒヅチ・シイナと申します。ここでの呼び名に倣うのならシイナ・ヒヅチと言います。以後お見知りおきを」
そういい、綺麗な姿勢で頭を下げたのは、リョウマやリンと同じような黒髪を持つアルベールと同じぐらいの年齢の少女だ。
「ああ、よろしく。それにしても、付き人にしては若すぎないか?」
リョウマはいくら、東洋人特有の若く見えると言っても、確実に18、そこらを過ぎてるように感じる。
「いえ、私が勝手に付いてきただけなので。むしろお邪魔になっていないか心配です」
「いやいや、そんなことはねぇよ、掃除や洗濯、裁縫、料理と言った家事全般はもちろん。刀鍛冶や鎧直しとかもこなしてくれるし、本当に助かっているぞ」
「リョウマ様の付き人となれば当然です。あと、望まれれば伽もいたします」
シイナの何気ない一言で全員が動きを止めて、リョウマを見る。
「いや、待て、考えていることはわかるが、言わせてほしい。最後の部分に関しては俺は一切頼んでねぇ」
「では頼まずとも致しましょうか?」
「「「「うわぁ~~」」」」
「ちょ!?おい、シイナ!?」
シイナの言葉で各々がリョウマに軽蔑の声を上げると、シイナは薄く笑う。
「申し訳ございません、リョウマ様。少々悪ふざけが過ぎました」
「心臓に悪いぞ」
シイナが謝るとリョウマはすんなりと許す。それだけ主従の絆が深いということだろう。
「さて、それで本題に入るぞ」
程よく場も和まり、唇が軽くなったころ、俺はリョウマに視線を送る。
「ええ、もちろんです」
「こちらから聞きたいのは二点あるが、構わないか?」
「ええ、こちらも二点ほど聞きたいことがあるので」
「じゃあ、さきにそっちからだ。こっちは少し長くなりそうなんでな」
「わかりました。ではまず一点目、と言ってもこちらはバアル様というよりも、アシラ、お前に聞きたいんだが」
「ん?俺か?」
どうやら、一つ目の話は俺に対してではなくアシラに対してらしい。
「よし、わかった、何が聞きたい?」
「いや、何かを知りたいと言ったことじゃなくてだな……アシラ、俺の家臣にならないか?」
「…………はぁ?」
リョウマからの思わぬ言葉に反応が遅れる。
「どういう意味だ?」
「いや、そのままの意味だが?」
アシラの問いかけにリョウマはなんの気もなしに応える。
「横から入るが、それはできない」
「なぜでしょうか?」
俺が出来ないと伝えると、リョウマではなくシイナが反応する。
「まず、ひとつ、アシラはこう見えてもラジャの里の長の子だ。当然次世代だ。言ってしまえばリョウマと同じ立ち位置と言っていい」
「なるほど……リョウマ様、ここは諦めるしかないかと」
「そうか…………惜しいな」
リョウマは本当に名残惜しそうに呟く。
「だが、なぜアシラを?出奔した身でアシラを雇用出来るのか?金は?」
「ぐっ」
「確かに出奔したとリョウマ様は言いましたが、それにはいろいろと事情があるのです」
そのことを話す気はあるのかと視線で問うと、シイナはリョウマに視線を向ける。
「たしかに、家臣は言い過ぎた、ただ旅の仲間になってほしくてな」
「う~~ん」
アシラはリョウマの言葉に反応が良くない。
「なんで、アシラを仲間にしたいのか、の前に先に質問をいいか?」
「はい、いきなり返答を求められても困るはずでしょうから」
そう言ってリョウマは俺の方に振り向く。
「では質問を伺いましょう」
「まず一つ目だが、なぜ出奔した?聞いている話だと、緋炎家の現当主、そして半数以上の家臣がお前を支持して次期当主にほぼ選ばれていたようじゃないか」
「……すこし、上が不審でな」
リョウマは俺の言葉にグラスに酒を注いで、口元に向かわせる間にぼそりと告げる。
「上というと、本家の子か?それとも当主か?」
「いや……もっと上だ」
「上?」
リョウマに取って緋炎家当主よりも上となると、思い浮かぶ存在が居なかった。
「っ!?まさか天日様が!?」
だが、俺たちの言葉を聞いていると劇的に反応している者がいた。
「リン、わかるのか?」
「はい、天日様は、一言でいうなればヒノクニの皇です」
「王とは違うのか?」
「いえ、その、私も詳しいことまでは」
リンは幼い頃に出奔している。そう考えれば、知識が浅いのは仕方がないと言えた。
「もしや、同郷の者か?」
「はい、カゼナギ・リンと申します」
リョウマがリンに向かって問いかけると、リンは自己紹介する。
「カゼナギ……ああ、
「私は7年前にヒノクニを出ましたので、見かけないのも無理ないかと」
「なるほど、7年前だと、シイナがまだまだ子供の頃だからな、分家の俺も自由に出歩けはできなかった時期だな」
リンを知らない理由になにやら合点がいったのかリョウマはなるほどとうなずく。
「それで話を戻すが天日様とやらが不審の原因か?」
「ここまで言ったのなら答えないわけにはいきませんね。そうです」
リョウマはやれやれと視線を戻すと、頷きながら答える。
「……なぜそう思ったのか聞いてもいいか?」
「簡単です、とある件で天日様と面会する機会を得たのですが。その時の天日様には……言っては何ですが、異様な気配を感じまして」
「異様?」
「はい、一言で言えば…………乱心寸前の狂人」
俺は思わず目を見開く。
「自国の王に対してその物いいか」
「もちろん、不敬だとは重々承知です。ですが、アレは人の上に立ってはいけない者の気配でした。そしてまずいことに周囲にそれに気づいている者がいなく、そして天日様は俺が不審がっていることに気付いていると」
「…………興味深いな」
リョウマの話を聞くとだいぶ興味をそそられる話だ。
「それを俺に言っていいのか?」
「……普通は言わないほうがいいのでしょうが。俺は故郷を見捨てることはできません。もし何かのはずみで俺の故郷が火の海にでもなりかねない時、微かな繋がりでもないよりはマシでしょう」
「違いない」
これで理解した。なぜリョウマが安定の地位を捨てて逃げざるを得なかったのかを。
「そのまま緋炎家に残れば、天日様とやらの手が伸び、排除されるかもしれない。だから逃げ出したわけか」
「さよう。そして本家の従兄は私よりも劣っておりますが、それが現在はいい意味で働いていますので」
「無難に治めることが出来、お前のように天日の違和感に気付かないわけだな」
リョウマはこちらの言葉に深く頷くのだった。
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