第436話 三日目一回戦目決着と不穏な影
『怒涛も、怒涛、イーゼ選手、これで決めきるつもりなのか、もう猛攻が止まらな――――』
パァアアアン!!!!
イーゼの攻撃が続く中、リティシィが実況をしているとコロッセオ内に乾いた音が響き渡る。
『な、何の音でしょうか、テンゴ選手から聞こえてきましたが……』
パァアアアン!!!!
そしてもう一度音が鳴ると、テンゴの周りに舞っていた土埃が霧散して、中から無傷のテンゴの姿が現れた。テンゴは二足でしっかりと立っており、その周囲には放たれたと思われる刃が散乱していた。
そして音の正体だが、テンゴは体の前で拍手の様な手の合わせ方をしていたため、おそらくはアレだと推察できる。
「さすがだ、なめていたわけではないが、少々慢心が過ぎたな」
「っ、まだまだ慢心していてほしかったのが本音だが」
イーゼはさすがに何かを起こっていることを察知してか、一度攻撃の手を止めて防御の姿勢に入っていた。
「いや、これ以上やられる姿を妻に見られたくはない。それに」
「……それに?」
「
その言葉でテンゴは一気に駆け出す。
「!?『
『テンゴ選手、本日初めて守勢から攻勢へと動き出す!!』
実況の声を聞きながら、二人は動き出す、テンゴはゴリラの様に腕を使った四足歩行で疾走し、イーゼはそれに対して『
「ふんん!!」
ブファ
「なっ!?」
イーゼの放った『
「ん、こうか」
「っ!?」
そして今度はテンゴが腕を大きく振るい、地面を掬うように振るうと、まるで先ほどの『
「相変わらず無茶苦茶だな」
その様子を見て、マシラはそうつぶやく。
「私から見てもアレは非常識だと思う」
そしてクラリスまでもテンゴの方法を見て、そう告げ始める。
「なぜ?言っては何だが、同じような攻撃をしているようにしか見えないが?」
見ている限りでは、ただただ同じようなことをしているようにしか感じなかった。
「バアル……なら、貴方は魔力を使わず全く同じことをができるの?」
「……」
クラリスの言葉で二人が非常識だと言った部分が推察できた。あの行動は全て魔力を使っておらず、素の、と言ってもステータスの恩恵はあるようだが、それだけを駆使して真似ているという。
「それにね~~テンゴおじさんは――」
「レオネ、それ以上は見た方が早い」
「……は~い」
相変わらず背後で圧し掛かっているレオネが何かを言おうとすると、マシラが止める。
「教えてくれてもいいと思うが?」
「なら、見ていろ」
マシラはその後、見て知れとばかりに無いも言わずにホログラムを注視し始めた。
「舐めるな!!『
同じ技を繰り出されたことに対して、イーゼは当然相殺する様に
バァン
「なぜ!?」
同じ風がぶつかり合うのだが、イーゼの『
「避けねぇとあぶねぇぞ」
「くっ」
そして砂ぼこりを含む風がイーゼに近づいていく。それを知らされてからか、イーゼは横に飛び、範囲外に逃れる。
『おぉ~~すごい、テンゴ選手が放った『
「はぁ!!??」
イーゼはリティシィの実況を聞いて、思わずテンゴが放った風の後を目で追う。その先にはステージの光の膜にぶつかり、盛大に砂ぼこりを撒き散らせている光景が広がっていた。
「おい、戦闘中よそ見とは余裕だな」
「っっっ!?」
イーゼはすぐさま視線を前に向けると、そこにはすでに二足歩行で佇んでいるテンゴの姿があった。
バッ
その距離を見て、イーゼはすぐさま相手の射程外まで飛び退く。そしてその行為をテンゴは黙って見逃した。
「……追撃しないのか?」
「何、ここまで来たんだ、最後は全力で楽しもうと思ってな」
そう言うとテンゴは両手を構えて、しっかりと戦闘態勢へと入る。
「っっ……ふぅ、乗った」
イーゼは一瞬、怒りの表情を見せるが、すぐさま落ち着き、鉄扇を開き攻撃の構えを取る。
「先手は譲ってやる。どこからでもこい」
「では遠慮なく!」
イーゼは先手を譲られるとそれを逃すことはせずに行動する。
「はぁ!!」
パチン!
イーゼはテンゴへと鉄扇を振るう途中で、鉄扇を閉じて、長い赤い刃を作り出す。
テンゴはそれを見ると、しっかりと軌道を理解して、紙一重で躱すとイーゼの腹部目掛けて掌底を行う。
「終わりだ」
テンゴはその一撃をイーゼが躱せないと分かると、そうつぶやく。
ギィン
「っっ、まだまだ」
だがその掌底の一撃をイーゼは広げた鉄扇で防ぐ。そして再び、攻撃に入ろうとするが――
「いや、終わりだ」
「何を言っ、ゲボッゲホ」
イーゼがテンゴの言葉の意図を問おうとすると、イーゼは明らかに異常な量の血を吐き出した。
「ほらな」
「っっ、ま、だ、まだ!!」
イーゼはそう吠えると、再び接近して鉄扇を振るう。
「はぁ!!」
「その意気や良、??」
イーゼは全力で鉄扇を振ろうとするが、その前にテンゴが何かに気付く。
そして――
ガシッ
「ああ、そういう事か」
「なっ!?」
テンゴは二人の間に何もないはずなのに、そこに手を向けると
「っっ、
イーゼはひどく軌道がブレブレな状態で鉄扇を振るう、当然、テンゴはそれにあたるわけもなく、手首をつかみ、地面に押し倒す。
「ふむ、なるほど、これは、
イーゼが柔らかい地面に押し倒されたことで、その全貌が見えてきた。普通であればイーゼの全身が砂に埋まり、全身の後が付くはずなのだが、なぜだかイーゼの左足の部分は何も埋まっている気配はなかった。
「淑女の足をいつまで掴んでい、る!!」
「悪いな、戦士と認めたからには、そういった手加減をするつもりはない」
イーゼは何とかテンゴの拘束を逃れようと身を捩るが、しっかりと、左足と右手首を抑えられている状態じゃ、拘束を抜け出せないでいた。
「なるほど、アレが球潰しの正体か」
傍から見れば掴まれていない状態を見て、イグニアがそういう。
「魔具については詳しくないが、どうやら足に幻を作り出す能力らしいな」
「『淑女のスカート』」
マシラが効果について言及すると、心当たりがあるのかユリアが何かを告げる。
「なんだそれは?」
「女性がよく使う魔具の一つですよ。スカート型の魔具で能力はスカートの下が見えそうになる時、それを隠蔽するという能力だったはず」
心当たりがないため問いかけると、簡単に返事が返ってくる。
「本来は社交界などで貴族の女性が何かあった際の保険として使う魔具なのですが……」
「それを戦闘に流用しているのか」
効果だけを聞くと社交界などで恥をさらさないようにと貴族が用意する魔具らしいが、イーゼはそれを攻撃に転用しているという。
そしてそんなことを思っていると魔具の効果が切れ始めたのか、徐々にイーゼの実態があらわになっていく。徐々に掴まれているイーゼの足が見えるようになっていき、そして足には鋭いヒールが存在しており、うまく蹴り上げるか、踏みつけ潰すかを想定されている造りになっていた。
「なるほど、確かにうまく蹴ることが出来れば十分案武器になりますね」
その言葉に一回戦目のグーユの最後を思い出し、いやな気分になる。
「ですが、イーゼは普通に蹴りを繰り出していました。その時には発動していなかったと思いますが?」
「あら、使い込めば魔具も次第に使い勝手がわかってきます。おそらくは存在を隠すために普通の蹴りの時は効果を切っていたんだと思いますよ」
リンの素朴な疑問にユリアが答える。
「まぁ、なんにせよ。終わりだ」
イーゼの魔具について考察してると、マシラがそうつぶやき、全員の視線がそちらへと向いた。
「ふん!!」
「がっ!?」
『おおっと、テンゴ選手、イーゼ選手を持ち上げて、思いっきり地面に叩きつける!!ただ地面は砂なのでダメージは少ないようですが』
テンゴは手首の部分を離し、足だけでイーゼを持ち上げると、思いっきり地面へと叩きつけた。その結果、イーゼは血反吐を吐きながら地面を転がっていった。
「ちっ、女性には、って言うのもバカらしいか」
「戦士に言い訳は無用だ」
「だな」
イーゼは地面に伏せながらテンゴと会話を続ける。
「さて、終わらせるぞ」
テンゴはイーゼの傍らに立つと、腕を上げて力を溜め始める。
『つ、次の一撃で終わらせるつもりだ~!!だけど私はその立ち位置に見覚えが――』
リティシィの言葉で観客たちは思い出す。今いる、その場所は二日前、グーユが経っていた場所だと。
となれば次の行動は――
「っ!!」
イーゼは一瞬体に力を込めると、おそらくは蹴りを繰り出す。残念ながら、魔具の効果で見えなくなっているらしく、観客側からはどうなっているかが判別できない。
ガッ
「っ、硬ぇな」
何やら硬い何かに刺さる様な音が聞こえてくると、イーゼは観念したかのように呟く。
「すでに見ていたからな、さすがに予測できる」
テンゴは内股になり、イーゼの足から金的をしっかりと守っていたため、ダメージを受けることは無かった。
「それじゃあな」
「ああ」
テンゴはそういうと、全力で腕を振り下ろす。
テンゴの一撃は誰にも全容が見えなかった。
なぜなら――
『おお!!テンゴ選手しっかりと、イーゼ選手の攻撃を防いで大技を放つ、放つのですが……何も見えない!!!』
ステージはテンゴが腕を振り下ろしたその時からステージから光の膜の内側すべてが大量の砂ぼこりにより何も見えなくなったいた。
そしてしばらくするとステージの光の膜からイーゼが吐き出されて、勝敗だけが付いたことが分かった。
「なあ」
「な~に?」
「結局、テンゴの能力は何だった?」
俺はレオネに問いかける。
「う~~ん、あの異常な腕力かな?」
「なんで、疑問形で答える」
レオネは一応で答えてくれるが、それが本当の答えとは程遠いことは理解していた。
そしてしばらくすると、ステージ上で巻き起こっている土埃が収まり、そこから無傷のテンゴの姿が確認できた。
「う~~ん、まだまだ見る機会が有るんだし、次に期待してみたら?」
レオネのその言葉に何も言えないでいると、リティシィの勝利宣言が行われて、三日目の15回戦目が終了したのであった。
「ふん、イーゼの足を触れて満足だったか?」
「マシラ、そりゃねぇぜ」
一回戦目が終わるとテンゴは貴賓席に戻ってくるのだが、テンゴにマシラが悪態を付いていた。
(これは、関わらないほうがいい、のか?)
獣人の反応を見てみると、二人を除く全員がアホらしいと関わることはしていなかった。
「さて、次はヴァンだが、勝てるか?」
「知らねぇよ」
貴賓席の壁際で一人でいるヴァンに話しかけてみるが、帰ってきた答えは素っ気ない言葉だった。
コンコンコン
全員がヴァンの様子に仕方ないと考えていると、扉がノックされる。
(アギラが来るのにはやや早いと思うが)
「バアル様、マーモス伯爵家から使いの者が来ていますが」
扉を守っている騎士の声を聞くと納得する。
「バアル様、こちらにも情報を回してくださいね」
「ええ(問題ない範囲でな)」
立ち上がり、対応しようとすると、ユリアが情報の共有を求めてきた。その言葉に軽く返答すると、そのままリンと、ノエル、エナとティタを供だって部屋の外へと移動していく。
そして扉の外に出ると――
「お久しぶりです。バアル様」
「お前はボゴロだったか」
扉の外で待っていたのはスラム街でヴァン達を捕縛しようとしていたボゴロだった。
「それで報告は?」
「その前に場所の移動をお願いします。このような場所で話すのは少し……」
「いいだろう」
その後、リンとノエル、エナ、ティタを伴って、人気のない通路にまで移動した。
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