第426話 救いたいのなら
「それで、子供が攫われているとはどういうことじゃい!!」
先ほどまで事態が飲み込めなかったアルヴァスが、緊急事態だと判断してか、逆にライハーンに詰め寄る。
「それは向かいながら話すわ、ほら一緒に来て!!」
「そうじゃったな、少しだけ待っとれ、すぐに施錠してくるわい!!」
アルヴァスは短い脚を必死に動かして、裏手に回り急いで錠をかけ始める。
「ライハーン、それ私たちも手伝うよ!!」
「っっ……気持ち話有難いけど、レオネちゃんを巻き込めないわ」
本当は手伝ってほしいと顔に書いてあるライハーンは渋々と提案を断る。
(そうだな、こちらとしては不用意に首を突っ込んで、何かあった時の責任の押し付け合いなどしたくないからな。それにもしこれが合法的な行為だとしたらこちらからは手が出せない)
まず手伝うとあるが、それは行動する範囲によるだろう。
「なら、バアル!!!」
(やはりきたか)
「今が借りを返すチャンスだよ!!」
「…………借りを作らせた本人がそれを言うか」
レオネに対して思うところがありすぎて、頭痛がしてくる。
ポン
「バアル俺からも頼む」
肩に手を置かれたので背後を向くと、神妙な顔でこちらを見下ろしているテンゴの姿があった。
「わざわざ、他国の子供を助けるのか?」
「子供は守らねばならない命だ。そこに貴賤や場所の違いなどはない」
テンゴが肩に置いている手に力が入っているのが感じ取れた。
「ほかの奴らも同じ気持ちか?」
「ああ、その通りだ」
「親父の言う通りだ」
マシラとアシラは躊躇うことなく言い切り、エナとティタは静かに頷く。
「ですが、やはり、他国の貴族であるバアル様が介入したら問題になりませんか?」
「その通りです。それに言いたくはないのですが、子供を攫う事が法として合法なら……」
獣人達が手伝う意志を持つなら、リンやノエル、ゼブルス家の騎士たちは介入すべきではないという態度を取る。
「なぁ、リンよ、まだ子供を守るのは大人の責務だろう?それを蔑ろにしてどうする」
「確かにその通りですが、それはこの国の問題。それにもし介入してバアル様に危害が及んだらどうするのでか?」
「そうなんだけどな」
アシラはリンを説得しようとするが、リンの言い分にも理があり、言い返せないでいた。
「ねぇ、バアル、だめ?」
いつの間にか傍に居たレオネに寄り服のすそが引っ張られる。
「ライハーン、聞くがその子供たちを攫うのは違法なのか」
「それは……」
こちらの問いにライハーンが息を詰まらせる。
(様子から察するにギリギリ合法なのだろう)
奴隷制度がある国ではスラム街は
「そこを明確にしてもらわなければ、残念ながらこちらは動けない」
違法なら話は簡単だったのだが、合法ならば、俺達が下手に動くことは出来ない。
「バアル……」
「違法でない行為に他国の貴族の俺がとやかくは言えない。ここが、俺の譲歩できる最大の部分だ」
法を犯していない行為を制限する権限は俺にはない。それこそ行動を妨害したということで非はこちらにあるということになってしまう。
(だが、それでも承知で動きたいのなら――)
「残念ながら、バアルこっちは勝手に動かせて貰うぞ」
そういうと、テンゴは表に歩き出す。
「バアル、お前は無理しなくていい。あたしらがすべて終わらせるだけだ」
「子供を守らねぇ国なら俺達も好き勝手やるだけだ」
そしてテンゴの後を追うようにマシラとアシラが続いていく。
「これが狙いでしたか」
「何のことだ?それよりもアルバングルからの客人が危険なことに首を突っ込まないか、
そして俺らは獣人達が危険な目に会わないように監視しに外に出始める。
「え?あ、え?」
先ほどの反応とは違うためか、ライハーンは戸惑い続ける。
「気のいい奴らじゃろう?ほら、さっさと行くぞい」
「え、えぇ、そうね。急ぎましょ!!」
裏から戻ってきたアルヴァスがライハーンの肩を叩き正気に戻す。
そしてライハーンは予想以上の援軍を引き連れスラムへと戻っていくことになった。
アルヴァスの店を出ると、ライハーンの先導でアルヴァスの店のすぐそばの路地に入る。アルヴァスの店は大通りから離れており、歩いて数分もすればスラム街に行き当たるからだ。
そしてそんな路地をライハーン、獣人達、そしてそれを追いかける俺達という構図が出来上がっていた。
「本当にいいのですか?」
「何がだ?」
「いえ、他国の事情に首を突っ込んでしまって」
リンが横に並び窘めるように告げる。
「いや、他国の事情じゃない」
俺は前を進んでいる獣人達の姿を見る。
(あいつらが人攫いと聞いて黙っているはずがないのはわかっている。ならば、こちらは獣人の監視と銘打って付いていくことが出来る…………なによりネンラールの醜聞だったら色々と使えそうだ)
ネンラールはスラムで自国の民を奴隷にしていると分かればいろいろと使えそうだと判断している。
「しかし、もしもしですよ彼が人を殺してしまったら、そしてそれが立場のある者だったら」
「…………無いと断言したいところだが、できないのが歯がゆいな」
確かにリンの言う通りになる可能性もある、だが、それ以上に獣人を止める手段を思いつかなかった。
「ほら、もう少しよ、もう少しでスラムに入って―――」
『イヤーーーーーーーーー』
ライハーンがあと少しだと告げようとすると、指差したさらに奥から女児の叫び声が聞こえた。
ダッ
タッ
ドッ
その叫び声を聞くと、三人はライハーンを追い抜いて、悲鳴の上がる方へと疾走していった。
「っち、先に行くぞ」
「え!?えぇ!?ちょっと―――」
ユニークスキルを発動して、前にいる全員を飛び越えて、三人の後を追う。
(頼むから早まったマネはするなよ)
その後、森で走り方を学んでいる三人はスラムに落ちている木箱や瓶などを警戒に避け、ぐんぐんと進んでいく。
(障害物競走は苦手だ)
俺は三人の様に軽快に進むことが出来なかった。なにせ現在の強度だと、下手に壁に突っ込んでしまえばそのまま、ぶち破るのがわかっているからだ。
(強すぎる体では使い勝手が悪いな)
最後の障害物を向ける、その先の路地はうまい具合に折り合っており、5メートル四方の広場となっていた。
そして視線の先には―――
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