第423話 本戦七回戦目決着

「じゃあ、今、アシラに起こっているのはどういうことだ?」


 アシラが十全に『獣化』を使えないのは理解した。だがステージ上のアシラは全力を発揮しているように見える。


「理性を吹き飛ばすほどの激情が『獣化』中に起これば、本領は発揮されるだろうさ」


 ガァアアアアアア!!!


 アシラの雄たけびでそちらを向いてみると、アシラが強引に拳をステージに叩きつけ、作り出した岩塊をアマガナに投げつけているところだった。


「たくっ、対人というよりも魔獣戦だな」


 アマガナは投げられた岩塊を砕き、躱し、いなすなりして、回避していく。


 だが


「ガァアア!!」

「っと、早いな、おい!」


 投げ出された岩塊のを追いかけるようにアシラが接近して、アマガナに攻撃を加えようとする。


「そういえば、最後の特徴は何だ?」


 ステージに視線を固定したまま、マシラに問いかける。そしてそういえば言っていないなとマシラは肩を竦めて口を開く。


「ああ、三つ目の特徴は――」


 ギィィィィイ!!


 マシラの声が金切り音でかき消される。


「アレだ」


 視線の先にあるのは、アマガナが新たに生み出した大量の黒い剣がアシラの体に沿っている途中で止まっている光景だった。


「っっ、なんなんだよ、その体は!!」

 ガァアアアアアア


 アシラは体に当たっている剣を気にすることなく、横なぎで全力で腕を振るう。もちろんアマガナは、それを紙一重で避け、すぐさま距離を取る。


「剣を通さない毛か?」

「いや、もっと凶悪なものさ」


 ボタボタッ


 ホログラムから液体が垂れる音が聞こえてくる。その正体は先ほど避けたはずのアマガナだった。


「いつの間にをつけた?」


 思わずそうつぶやく。なにせ、アマガナの胸元には、まるでヤスリなどで削られた傷跡があった。それも切れ味のいい鋭利な物ではなく、無理やりに削り取ったような傷だった。


「アレが、アシラの最後の特徴か?」

「そうさ、アシラに対して接近戦は鬼門、おそらくテンゴですら、やすやすとは近づきたくないはずだ」


 マシラの説明にテンゴは重く頷く。


「だが、肝心のどういった特性を持っているかが教えられていないが?」

「それはな」


 ガァアアアアアアアアアア!!


 今度はアシラの雄たけびが木霊する。いったん会話を止めて、ステージに視線を向けると、馬鹿の一つ覚えの様にアマガナに突撃してっているアシラの姿があった。


「もうやらねぇよ!!」


 今度はアマガナが動く。二の腕あたりから背中とは違う巨大な腕を生み出すと、アシラの上部から覆い、完全に拘束する。


「捕らえられたぞ」

「だな」


 アシラの見当違いではないかという意図を込めて、問いかけるが、アシラの答えはそれがどうしたという物だった。


 そして次に言葉を発する前に、ステージで状況が変わる。


 グイッ

「っぐ!?」


 アシラは拘束されたまま無理に動き始める。いや、動けてしまっていた。そして拘束している反動か、アマガナの体が徐々に動き始めた。


「最初に言っただろう?アシラのあの状態はテンゴを上回る。当然、膂力もタフさも速度もだ」


 中途半端な拘束では全く太刀打ちできないとマシラは言い放つ。


「しかもそれだけじゃねぇんだよな」


 ついでとばかりにテンゴが口を開く。


「この!!」


 テンゴが言葉を発した次の瞬間、アマガナは拘束する意味は薄いと判断して、アシラを黒い腕で持ち上げると、そのまま強引に放り投げようとする。


 だが―――


 グルルルッ

「なっ!?」


 手が開かれて、本来なら投げ出されるはずなのに、アシラは掌に収まり続けた。


 そして、次の瞬間、アシラは腕の上をしっかりゆっくりと進み始めた。


「なんなんだよ!?」

 ブンブン


 アマガナはすぐさま引き剥がすように腕を振り回すが、一向に取れる気配がない。


「ああなれば、お終いだな」

 コク


 背後にいるエナとティタがそういう。


 そしてその言葉を体現する様にアシラは進み続けて、あと少しでアマガナに届きそうな一にまでたどり着いた。


「っっ『解除』!!」


 さすがにまずいと判断したのか、アマガナは刺青を切り離して、急いで距離を取る。


 切り離された黒い腕は液体となり、ステージ上に広がっていく。そして急に液体になったからかアシラは液体同様に地面に落ちていった。


 だが――


「っっまたかよ!?」

 ガァアアアアアアア!!!


 アシラは息つく暇を与えずに再び、アマガナに突進し始めた。


「この――――」










 それからはアマガナは頑張ったとしか言えない状態に陥る。


 アマガナの攻撃はアシラにダメージらしきダメージを与えられない結果に終わり、ひたすらに牽制し続けることになった。だが、それ以上に異常だったのがアシラの行動だった。


 アシラはすべての攻撃を受けてもなお、ひたすらに接近し続ける。時には刺青を切り離さなければならない状況に陥らせ、相手の攻撃手段を削っていった。










「タフすぎるだろう」


 いくら攻撃しても接近され続け、徐々に攻撃手段を失っていく、アマガナに不憫な視線を送ってしまう。


「だから言っただろう、アレ・・はそれで足りるってな」


 マシラは自慢する様にいう。


(あれほどの防御力と膂力、そして持久力を持つもの確かに方法としては手だろう)


 ひたすら前進し続けるための防御力と障害を排除するための膂力、そしてひたすらに相手の体力が尽きるまで追いかけ続けるための持久力、これだけでも立派な戦闘手段と言えるだろう。


(そして、ほかの点だが―――)


「がっ!?ぐっ!?」


 アマガナは生み出した刺青での攻撃をするのだが、それを受け止められ、そして次の瞬間にはアシラの膂力で引っ張られるようになる。


(明らかに接近戦、それも力で負けているのなら距離を取らざるを得ないな)


 アマガナはすぐさま刺青を切り離し、引っ張られない選択を取る。だがそれは同時に自分の首を絞めていくような行動だった。


「どうだ、アシラの最後の特徴は見えてきたか?」

ああ・・


 ギィン


 肯定の返事を返すと金属音が響く。視線の先ではアマガナの生み出した黒い剣がアシラの腕に阻まれている場面だった。


「答えを聞いていいか?」

「あの毛は削ることに長けているんだろう?」


 ゴギッ


 アシラが無理やり腕を押し返すと、剣が鈍い音を立てる。


「本当にその毛はどうなっている」


 アマガナは自身が生み出した剣を見てみる。するとそこには大きな荒い縄で表面を大きく削られた跡が残っていた。


「それだけじゃないぞ、なにせ――」

「テンゴ、それ以上は無しだ」


 テンゴがそれ以外のことを告げようとすると、マシラが口止めをする。


「気になるが?」

「さすがにこれ以上は自分で気づいてくれ……それに終わるぞ」


『あ゛あ゛あ゛』


 アシラの言葉と同時にアマガナの野太い悲鳴が響き渡る。


 ステージではアマガナの猛攻を凌ぎ切り、アシラはついにアマガナの両腕を鷲掴みにしているところだった。


『つ、ついに捕まった!!!!アマガナ選手、アシラ選手をよけつけないために立ち回っていたのだが、ついに捕まってしまった!!そこから抜け出すことができるのか!?』

「舐めるな!!」


 リティシィの実況に反応する様にアマガナは一つの刺青を蜂起させる。


 生み出したのは背部の部分の翼の刺青だ。それ鳥の様な生態的ではなく、刃を連想させるような鋭い物だ。


「はなっせ!!」


 翼は自らをひねり、槍の様な形状を取り、アシラの頭蓋を貫こうとするが


「入らねぇってどういう頭してんだよ!!??」


 槍はせいぜいが指圧程度に頭部を指圧しているだけに留まってしまった。


 グル?

「っまだま―――」


 再起を図ろうとするアマガナだが、アシラの腹部に押し付けられる。


 いわゆるベアハッグの形になり、そして――




 グシャ、ボドッ




 アシラの剛腕に寄り、アマガナは胴体の上下が分かれ、そしてアマガナの体は光の粒子になった。

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