第421話 本戦七回戦佳境
〔~アシラ視点~〕
「さて、猛獣をしつけるなら、やっぱりこれだろう」
アマガナがそういうと、笑みを浮かべながら、左腕の一つの刺青を触る。その部分から現れたのは
「あんま得意じゃねぇから、加減はできねぇぞ!」
ピシュ!!
本人は自身の腕を動かさないのだが、代わりに小さい腕が動き出して自動で鞭を振り始める。
バシッ
「いってぇな」
鞭は体の表面を削る様に沿っていき、振り抜かれる。だが、せいぜいが衝撃を与えるだけで目に見える傷らしい部分は存在していなかった。
「……その割には余裕そうじゃないか」
だが、予想したような反応じゃないからか、アマガナは微妙な表情になる。
(何となくわかってきた)
軽口を叩きながらもしっかりと観察する。
あの黒い腕と鞭は何も無い所から現れたわけじゃねぇ。元から腕に絵を描いておき、それを浮き上がらせ動かしているように見える。そしてその証拠に腕の絵には、先ほどまであった腕と鞭の奴が無くなっていた。
「なるほど、これだけじゃ足りないか」
そういうと、もう片方からも同じように腕と鞭が現れる。
そして俺と奴の準備が整うと、動き始める。
「ガァアアアア!!」
ビシュ!!
俺は再び、四足歩行になり、アマガナに接近する。それに対してあいつは何度も鞭を振るうが、威力が足りないのか、せいぜいが毛の上に載っている埃を掃うぐらいだった。
「っふ!」
その様子を見てあいつは狙いを変える。毛の上からだとまずダメージがないと判断して、毛が無い部分狙い始めた。
そして一番執拗に狙われるのは、当然目だった。
(見えてんだよ)
だが、振られた鞭は見えているため、顔をほんの少しだけずらし、目以外に当てるようにして、ダメージを抑えた。
「ゴァアア!!」
そして拳が届く範囲に入ると、爪を立てて、全力で振るう。
「甘いな」
「っ!?」
俺は先ほどの判断を悔やむ。なにせ―――
「『刺青蜂起』」
ビリッ
アマガナの言葉と共に、アマガナの腹部と胸部の服が何かに貫かれる。これだけ聞けば、そして戦闘中ということを考えれば何もおかしいことは無いのだが、ただ一つおかしな点があった。それは
ザクッ
「っっ~」
俺は腕を振るう方向を変えて、胸部の方に対処する。だがもう一つは残念ながら間に合わなかった。
「って~な、ほんの少しだけ刺さっちまったぜ」
「……こっちからしたら、それでも刺さらないことに脱帽したくなる」
アマガナの腹部と胸部から突き出してきたのは、真っ黒の柱。それも先端が異様にとがっており、柱の途中には様々な模様が描かれており、途中には何匹もの蛇が巻き付いていた。
だが、思ったよりも傷はなくそのまま攻撃を再開しようと前を向くのだが。
「だが、止まったな」
「あ゛?」
次の瞬間、アマガナの足にある絵から棘の生えた蔓が出現すると、俺の足を拘束し始めた。それに伴い先ほどの柱に付随しているようになっている蛇が体に噛みつく。
「最初の御返しだ。潰れろ」
蛇と蔓に対処しようとし始めると、今度はアマガナの肩から背中の上部に描かれている巨大な腕が出現する。それもただの腕ではなく、アマガナの体以上に大きく、攻撃的な姿をしている鬼の様な腕だった。そしてそれが一番最初の様に頭上で手を組むと、大きく振りかぶって――
〔~バアル視点~〕
ホログラムには、胸部や腹部に会った刺青が動き出し、服を突き抜けてアシラに攻撃を仕掛けているアマガナの姿が映っていた。
(面白いな)
その黒い柱はアシラの毛をかき分けて表皮へと向かって行った。だがここで称賛したいのはアシラだ。その理由はアマガナの背後にあった。アマガナの背後には前方と同じような黒い柱が、出来上がっており、それが地面を支えて、さらには押す役割を担っていた。そのためアシラは自らの巨体での接近と支えられて突き出てくるに挟まれて、普通では貫かれるほど威力を受ける羽目になるはずだった。
だが、アシラの皮膚の強度は予想以上だったのか、それだけの威力を受けながらも黒い柱はほんの少しだけ切っ先を体に埋めた程度だった。
だが次の瞬間にはアマガナは笑い、背に掛かれている刺青を浮き上がらせると――
ドォォオォン!
『おぉぉ!!アマガナ選手、やり返す!それも威力は、おそらくは数段上だ~~アシラ選手無事なのか!?』
アマガナが生み出した巨大な腕で放った一撃に寄り、二人を包んで余りある土埃が舞い上がる。
そんな中、貴賓席の一席から会話が聞こえてくる。
「マシラ姐さん」
「エナが声を掛ける、ということはアレが起こるのか?」
「ああ、負ければそれはそれでいいが……」
エナがマシラに何かを告げる。そしてそれに心当たりがあるのか、マシラは手を額に当ててため息を吐きだす。
「テンゴ、何時でも動けるようにしな」
「そうだな」
「おい、そろそろ説明しろ」
獣人組は事情を理解しているようだが、それ以外は違う。
「そうだな…………まぁ、時間があるだろうし話をしてやるさ」
マシラは体を背もたれに預けると、傍にある果実を一口かじってから、再び、口を開く。
「まず―――」
ォォオオオオオオオオ!!
マシラが説明しようとすると、歓声が聞こえてくる。
「見ながら話した方がいいか、まず――」
それからステージ上の推移を見ながらマシラの説明は始まった。
〔~アシラ視点~〕
(…………やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな、やりやがったな)
俺は腕に押しつぶされたまま、頭が暴走していく。自身の不甲斐なさなのか、それとも痛みによる敵意感か、はたまた大けがをして生存本能が暴走たのかはわからない。だが確かに言えることは、頭の中が、奴を殺すことだけに染まったことだった。
「お前は
言葉にすると、全身に力が入り始める。
そして――
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