第392話 ネズミ?悪魔?

 全員が昼食を終えると、三人は再び予選へと参加していく。そしてそれを見送るのだが


「ねぇ……やっぱり参加」

 ニコッ

「…………うぅ~~クラリス~~」


 約一名がおずおずと申し出てきたのだが、笑顔で答える。その結果、クラリスに抱き着いていく。


「レオネ」

「うぅん?」

「諦めなさい」

「ガーン」


 クラリスにも諦めろと言われると、レオネは驚き固まる。


「ねぇ、バアル」

ロザミアも・・・・・か」


 二席ほど離れているロザミアが声を掛けてくる。その理由だが


あいつら・・・・が参加……ではないな」


 コロッセオ内から感じる気配ではウェンティ・・・・・でもダンテ・・・でもなかった。


?ということはウェンティ以外にあったの?」

「ああ、名はダンテ・ポールス、残念ながら何のアルカナなのかはわからない」


 あの夜に居なかったロザミアに軽く説明する。


「ふ~~ん、なるほど、代行者は所有者、契約者と敵対することは無いと……」

「ああ、なぜかは俺も知らん」


 今思えばアルカナは知らない部分だらけだと思う。


「ん~~?とりゃ!!!」


 俺とロザミアが警戒していると、クラリスから離れたレオネがなぜか壁際の床に飛びつく。


「レオネ、何やって――」

「ねぇねぇ、バアル、こんなの見たことがある?」


 何しているかと思ったらレオネがその手で捕まえている物を見せてくる。


「チュっちょっ!離して離して離して離してくださーーーーーい!!!」

「…………はぁ?」


 レオネが見せてくれたのは、尻尾を捕まえられて宙づりになっているしゃべる・・・・ネズミ・・・だった。


「……珍しいし、食べてみる?」

「チュチュ!?待って待って、お願いですから食べないでくださ~~い!!」


 レオネが面白そうに言うと、ネズミは前脚で手(?)を組み、こちらに懇願の視線を向ける。


「…………あ~~」


 あまりの事態に思考が止まる。眉を揉み、何とか頭を動かす。


「……レオネ、尻尾を掴んだまま、とりあえずこのテーブルの上に置け」

「りょ~かい」

「ちゅ!?離して離して~~~!!!」


 何が起こっているかわからない状態のまま、とりあえず事態を進める。












「おね、お願い、お願いですからはなしっ、て」

 コテッ


 レオネによって尻尾を捕まれたままのそれは、テーブルの上で何とか掴まれている尻尾を外そうと四苦八苦する。具体的には四足歩行になり、何とか抜け出そうとしたり、二足歩行になり、尻尾を掴んで引っこ抜こうとしたり、仕舞にはレオネの手に足を乗せて地面から杭を抜くような体勢を取ったりと、だが結局はテーブルの上で仰向けになり、息切れを起こしている。


「あ、あの~本当に放していただけませんか~~?」

「……かわいい」


 ネズミは再び二足歩行でテーブルに立つと、手を組み、目をウルウルとさせてこちらに懇願してくる。そしてその様子を見て、エナがぼそりと何かを呟く。


「エ、エナさん?」

どうかしたか・・・・・・、ノエル?」

「な、なんでもない、です」


 エナのすぐ傍に居たノエルが驚いた様子でエナに問いかけるのだが、すぐさま何でもないと言う羽目になる。


「…………とりあえずお前が、何者かわからない時点で開放はない」

「そ、そんな~~」

「だが、害がないなら開放も視野に・・・入れよう・・・・


 俺は横目で目を光らせているロザミアに向ける。全く話に関係ないが、ロザミアは興味のある者なら徹底的に調べてくれるだろう。


「あの……なんか、背筋が冷たいんですが」

「そんなのは知らん」


 解放はするが、その後のこと・・・・・・はこちらは関与しない。


「さて、お前は敵なのか?」

「めっ、滅相もありません!!ワタクシメは創造主より言伝を貰ってきた次第です、ハイ」

「誰からだ?」

「えっと、主からです」

「名前は?」

「名前……なんでしたっけ」


 思わず眉を顰めるとネズミは慌て始める。


「ま、まってくだちゅい!あるじは頻繁に名前と姿が変わるので、どうも覚えていないのです!!」

姿が変わるだと」


 名前が頻繁に変わるのなら、まだわかる。暗部に新しい名前を与えたりなどはゼブルス家でもやっていることだからだ。だが姿を変えるのは想像がつかない。


「な、なまえの前にご説明を。主は貴方様と同じアルカナの一つ【悪魔】を持っております」

「【悪魔】だと?」


『悪魔には気を付けなさい』


 脳内にウェンティの助言が思い浮かぶ。


「はい、ちなみにワタクシメも列記とした悪魔ですよ」


 目の前のネズミは背中をこっちに見せる。


「??何やっている」

「え?証拠となる羽根を見せているのですが」

「……??これか?」


 ネズミの肩甲骨であろう部分をよく見てみると、本当に申し訳ないほど小さい蝙蝠の様な羽根が生えていた。ただ翼にも毛が生えており、遠目からしたらやや色合いが違う、ただの模様にも見えてしまう。


「どうです、すごいで、ぴゃ!?」


 ネズミは背中を見せながらこちらに視線を向けていたのだが、視線を戻すと目の前に猫のような瞳をしているレオネが居て、悲鳴を上げる。


「【悪魔】アルカナの能力は悪魔を作り出す・・・・ことか」

「!?な、なぜわかったので」


 驚くネズミに思わず呆れる声を出す。


「お前自ら言っただろう、創造主が主で、お前は悪魔、つまりは悪魔のお前は創造主である【悪魔】に作られたということだろうが」

「おぉ~なるほど」


 納得の声を上げる目の前のこいつを見て、会話するだけ損だと思い始めた。


「それで、伝言は、なんだ?」

「は、はい。実は主が会いたいそうです。そのため、今晩伺ってもよろしいかと」


 ネズミの提案に少々考えこむ。


「一応確認だが、敵対する意思はないな?」

「え、敵対?いや、さすがに収穫する・・・・意味もないですし……」

「収穫だと」

「あ、いえ、とりあえず、現在、敵になることはないと断言させてもらいます」


 なにやらだいぶ、疑問が浮かび上がる言葉が出てきたが、ひとまずは敵対することは無いと断言した。


「きちんとホテルの入り口から入り、ラウンジのみでの会合ならば」

「わかりました。ではそう伝えさせて、いただきたいのですが…………」


 ネズミはレオネを見上げて、放してほしそうな声色を出す。


「んん~~いいの?」


 レオネがこちらに視線を向けて放していいのかを問うてくる。


「放す前にいくつか答えろ」

「ん?なんでしょうか?」

「お前の名前はなんだ。そしてどうやってここに入った。また――」


 俺は後ろを向くと、視線の先には違和感なく・・・・・壁際に立っている侍女たちがいた。


「彼女たちに何かしたのか?」

「まぁ、それぐらいならば…………んっん、ご紹介が遅れましたワタクシメは『幻惑の悪魔』ネスと申します」

幻惑・・か」

「はい、まず彼女たちには私が見えず、かつ、皆様方が普通に和気藹々と観戦している光景を見せています。そしてここに入ってのも、同じ能力を使って違和感ない様にです」

「……それを俺たちに使わなかった理由はなんだ」

「簡単に申しますと、敵ではないからです」

「……一応は納得しておこう」


 一応の説明は付くため、とりあえずは納得する。


「あの~~よろしいですか?」

「ああ、レオネ、放してやれ」

「え~~面白い生き物なのに」


 レオネはネズミをいたぶる猫のようなことを言う。


「レオネ」

「は~~い」


 再度呼ぶとレオネはネスの尻尾を放す。


「チュ、ではまた、今夜」


 ネスの能力が発動されたのか、ネスの体は煙のように消えていった。


「レオネ、まだ、そこにいると思うか?」

「ううん、今、急いで手すりから降りて行っているところ」

「チュチュ!?」


 驚いたネズミの声を聞きながら、やはりと納得する。


「なぜ!?」

「んん~見えないけど、そこにいるんでしょ?ならわかるよ」

「ヂュ!?し、失礼しました~~!!」


 急いで逃げて行っているネズミの幻影が見えてしまっている。


「バアル、『悪魔』を逃がしていいのかい?」

「……まぁ、問題ないだろう。あいつの主はほかの奴らとは違って、紳士的なようだしな」


 ロザミアがそう確かめてくるが、前触れもなく目の前に現れて、勝手に納得して帰る奴らよりはまだ話が出来そうだった。


「まぁ、それもそうか」

「あの、兄さん」


 ロザミアが納得することと入れ替わりにアルベールが声を上げる。


「アルカナについて聞きたいのか?」

「はい。それと何が起きているかも」

「掻い摘んで説明するとだな」


 一通り説明するが、アルベールも断片的な情報過ぎて理解できてない部分が多かった。


 その後、順調に勝ち進めるテンゴ達や見知らぬ強者たちを観戦して予選二日目が終了した。

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