第366話 アホへの折檻
「バアル~これ買って~」
「……それは何にどう使う物だ?」
「さぁ?」
ウェンティという謎の女性と会合した少しした後、少しばかり警戒を強めたが、それだけだったため、再び市場を巡っていた。
「バアル様、本当によろしいので?」
「……仕方がない。エナの言葉が本当なら、あれは災害の一種と認識するのが正しいだろう」
エナの言葉ではあの少女一人で全員を殺せるという。
「それとも宿に逃げ帰れと?ウェンティだけではなくバルードもいるのだろう?」
宿に逃げ帰って追いかけられれば逃れる術はまずないだろう。もちろん、攻撃されれば反撃するつもりではいるのだが、おそらく大した反撃も行えずに死ぬ可能性が高い。
「結局のところ手持ちの戦力が足りていない以上どうしようもない、違うか?」
「それはそうですが、何も手を打たないというのはどうかと」
「わかっている。だが他国であり、戦力の補充は見込めない。それに相手がわざわざ友好的に接しようとしているなら、多少妥協してでも友好的である方が効率的だ」
実際、ウェンティから何の要求もされていない。下手に事を荒立たせることはまずしないほうがいいという判断だった。
「では、もし敵対してきた時はどうなさるおつもりですか?」
「さて、どうするべきだと思う?」
リンは俺が問い返したことに不安どうな表情をする。
「安心しろ、対抗手段は考えている」
「……ならばいいのですが」
とはいえ、現時点ではほぼ完全な出まかせだった。なにせあまりにも相手の情報が少なすぎて対策の取りようがなかった。
(ごく少数の突出した実力の持ち主なら、生活するうえで必要な要素を人質にとればいいが……)
相手の実像がみえてこないため、相手が少数なのかすらもわからない。そのため効果的であるかそうであるさえ判断が難しかった。
「あ、あの~~」
「どうした、セレナ」
「……レオネさんが、その、市場の奥に行ってしまいました」
「護衛は?」
レオネを見張っていた護衛の方向を向くのだが、護衛は全員青い顔をして、処刑を待つ死刑囚の面持ちをしていた。
「処罰されたくなければ、今すぐ捜索しに行け」
「「「「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」」」」
「そこのお前、なんでレオネから目を離したのか、説明しろ」
「っ!?」
現状を把握するために説明役に一人指名するが、その人物は悪魔に選ばれてしまったかように顔を白くさせる。
「それで、どんな理由でレオネから目を離した?」
「……その突然、変な匂い、だけどいい匂いと言いながら突然走っていきました」
ある意味、レオネらしいと思うが残念ながらここは絶対に安全だとは言えない。
「それでただ人ごみに紛れてどこかに行ったレオネをただ見ていたのか?」
「!?いえ、すぐさま追いかけたのですが、何分多くの露店がひしめき合い、また通行量多かったため……」
「見失ったと……はぁ、お前もすぐさま探しに行け」
軽く追っ払うように手を振り、説明役の護衛も捜索に加える。
「……ずいぶん落ち着いておいでですね」
「レオネの性格を考えれば保険ぐらいは掛けている。ノエル」
ノエルにはこの市場に来る際の保険として、数人にリードとして糸をくっつけていた。そのためレオネの行方はすぐにわかると思ったのだが。
「……申し訳ありません」
俺はノエルを呼ぶが、ノエルもバツが悪い表情を浮かべる。
「……レオネにつけていた糸は?」
「先ほど、ウェンティが現れた際に迎撃のために、一度糸を解除して、発動し直しました。その際にレオネ様に着けていた糸も」
消滅して、すでにレオネに繋がるリードは存在していないという。
「……エナ!!」
少し言葉の圧が強かったのか、セレナは一瞬だけひるむ。
トットットッ、コンコン
「『開口』」
「どうした、声を荒げて、お前らしくねぇぞ」
「レオネがどこかに消えた。お前の鼻で探せ」
「……はいよ」
エナは不服そうな顔をしながら、何度か、鼻をひくつかせる。
「なるほど、これにつられたか」
「わかったか?」
「ああ、こっちだ」
エナはレオネが向かったであろう方向に進みだす。
「早くしろ」
「手伝う?」
「いや、いい、代わりに絶対に護衛の目から離れる」
クラリスが申し出てくれるが、こちらとしては
「少し待て。ほかの護衛に告げるが、
「「「「「「「「「「イエッサー!!」」」」」」」」」」
青い顔をする護衛全員を
「ほかの奴らには付けたか?」
「はい」
「ならいい」
ノエルにほかの奴らにリードを付けたか確認して、エナの後ろを進みだす。
エナの後ろについていくと市場の中でも高い露店の合間にある暗い部分に入り込む。
「……バアル様、この場所は……」
リンは周囲の露店に飾られている物を見て、顔を少し赤らめる。それもそのはず、その露店では明らかに情事にふけるための用品や官能的な服が置いてあったからだ。
「レオネはこっちだが……まぁメスがオスを誘うならこんな格好もするだろう」
「…………初々しいな」
エナとティタはリンが何を見ているのかを見たうえでそういう。
「ですが、これは……」
「なんだい、あんた生娘かい?」
リンは傍に居る店主であろう婆さんに声を掛けられる。
「……だったら何ですか」
「へっへっへ、なら少し待ちな、えっとアレはどこに、あった」
老婆はリンの前でその服を見せる。見せられた服はベールの様な薄い膜が張られた服なのだが、薄い服のため、本来隠すすはずの体が透けて見えてしまう。そして添えどころか局部に関してはむしろ情事を沸き立たせるような模様や露出が存在していた。
「んな!?」
「これは年頃の男性を簡単に誘惑する代物さね、今なら銀貨二枚で手を打つよ」
「そ、そんな物は」
リンはこちらを何度か見ながら服に興味を持つ。
「リン行くぞ」
「なんだい、男が思いを寄せる女の準備に口出しするのかい」
「興味がないとは言わないが。今はそれどころじゃない」
リンの手を引っ張り、エナの後ろをついていく。
「……バアル様」
「なんだ?」
「本当に興味はありますか?」
「どういった意味かはあえて問わないが、異性に惹かれるかどうかという問いなら普通に惹かれる」
「そうですか」
その後、それぞれが沈黙しながら奥に入っていく。
「……いたな」
そしてほどほどに市場を進むと、露店の一つにレオネの後姿があった。
「へぇ~~これが?」
「そうそう、狙っている男に呑ませるとすっごく効果があるのよ。まぁ、でもあんたなら、全然いけると思うけど?」
「そう?ありがと」
「いいのよ~」
暗い部分の一部にも関わらずに雰囲気に合わない会話が聞こえてくる。
「レオネ」
「ん?あ、バアル」
声を掛けると、レオネは露店の前から急いで目の前にやってくると、一つの瓶を目の前に出してくる。
「何も言わずにこれ飲んで」
レオネの呑気な表情と声を聞くと、自然と腕と額に力が集まっていく。そしてリン、ノエル、エナ、ティタ、さらには先ほど会話をしてた露店の店主も額に手を当ててため息を吐いている。
「それが何か問うのはあとにしよう」
「そうそう、何も聞かずに飲んでよ、そうすれば」
俺の言葉を聞いて、いい方向に勘違いしたレオネが調子に乗る。
ガシッ
レオネの額を鷲掴み、優しく問いかける。
「なら、レオネ、落ち着きがない、いたずらする子供にはどういった対応をする?」
「それは……もちろん躾を、はっ!!」
レオネは答えると同時に自分の身に何が起こるかを理解する。
「レオンの妹であり、客人ということで必要以上は踏み込まなかったが、さすがに我慢の限界だ」
「ね、ねぇ、少しづつ力強くなって、いたっ!?イダダダタタタ!?降参!降参するから!!!!」
いつも駄々をこねられて迷惑を被っているためか、レオネを折檻していると少しだけ気分が晴れる。
「ちょっと待ってあげて」
「あ゛」
「その子、貴方のためにそれを買おうと思ってたみたいよ」
「では聞くが、これはなんだ?」
「
「一応?」
まるでほかの要素も入れたような言葉に問い返す。
「えっと、少しだけ気分が高揚するお薬と……夜に元気になる成分が入っているわね」
「わかりやすく言い換えれば
ネンラールでの市場の規制は緩い。もちろん売る場所は選ばれるが、先ほどリンが興味を持ったような服や媚薬も不自然なく売られている。そして他国では販売できない禁忌品の一部もだ。さすがに行き過ぎた品物は規制されているが他国と比べると異常なほど緩いと言えた。
「えっと、確かにそうとも言えるけど……とりあえず説明するからレオネちゃんを放してあげてくれない」
コクコクコクコク
弁明できる余地がありそうなので、ひとまずは手を放し、言い訳を聞く。
「で、なんで護衛を引き離してまで、この場所に来た?」
「えっと、いい匂いがしたから??」
「あの、私が説明してもいいかしら」
「……少なくともレオネよりは説得力を持たせろ」
レオネの要領を得ない説明を聞いて、店主が代わりに説明してくれる。
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