第313話 クラリスとレオネ
父上との話し合いを終えると自室に戻るのだが
「おかえり、結構早かったわね」
「まぁな」
いつものように自室に戻ると、ソファに寝そべりながら本を読んでいる婚約者クラリスの姿があった。
「本を読んでいるのなら迎えに来てくれてもよかったと思うが?」
「ここに居れば結局は会えるからいいでしょ?それに私を飛空艇に近づけていいの?」
前半はものぐさな言い草だが、俺達の間を考えればその行動も間違いではなかった。そして後半だが確かにその通りだった。
クラリスは婚約しているとはいえ、現時点の国の所属はノストニアとなっている。そのため婚約者とはいえど、俺は工房内や建設中の飛空艇に近づけることを良しとはしていなかった。
(婚約者という立ち位置は何とも扱いにくいな)
婚約している時点で身内に近しい扱いをしなければいけない反面、同時にノストニアに情報が渡らない様に警戒する必要があった。
「それで向こうの状況はどうだった?」
「変わらずだ。ディライから報告を受け取ったが主だった不満はないらしい」
「ならいいわ、さすがに不満があるようだった私からも
クラリスも婚約者という立ち位置をしっかりと理解している。もしディライから対処できる不満が出たら、クラリスは立場を最大限利用しての要求してくるだろう。
「それと生誕祭だけど、どうする?私はいつも通り出席するつもりだけど?」
「それなんだが―――」
生誕祭にクラリスだけ先んじて移動してもらうこと、そしてそれに後々から追いつくことを説明する。
「もし何かあったら俺の名前を最大限活用してくれて構わない。それに加えて、こちらでも護衛を用意するがどうだ?」
「別に不満はないわよ。だけど正確に合流できるの?」
「ああ、問題ない」
クラリスを運ぶ馬車に発信機を付けて、それをたどり移動するつもりのため、グロウス王国とノストニアまでの
「なら、
クラリスはやや強調した口調で返答する。
「……何が言いたい?」
「さっきも言ったけど
「???」
その後もやや不機嫌なクラリスを観察しながら、時間が過ぎていく。自室で出来るだけ書類を片付けていると、晩餐の時間となる。
なんてことはない家族との晩餐を済ませるとその足でレオネの容態を確認しに行く。
コンコンコン
「誰ですか?」
「俺だ」
中からノエルの声が聞こえてくる。それに返答すると、扉が開かれる。
「レオネの状態は?」
「確実に回復してきています。おそらくは5日は気怠いままらしいですが、それだけらしいです」
すでに医学に精通している神官と医師に確認してもらったところ、双方とも同じような答えが返ってきたらしい。
「なるほど、エナはいるか?」
「ええ、ソファでくつろいでいます」
ノエルの答えを聞き部屋に入ると、どこぞの婚約者の様にソファで寝そべりながら手を挙げて答える女性がいた。
「ティタはどうした?」
「オレの下にいる」
エナの言葉に疑問を感じるが、傍に行くことでその意味が理解できた。
「枕に肘掛け、あとクッション替わりか?」
「……それだけじゃない」
ティタが答えると同時に尻尾が動き、テーブルの上にあるコップをエナへと手渡す。
「……お前がそれで文句がないなら、それでいい」
ティタの異常なまでの従順さを目にして、何とも言えないが本人がいいと言っているなら口に出すつもりはなかった。
「それで何の用だ?レオネへの夜這いなら席を外すが?」
「なわけがあるか。俺は明後日には王都へと向かう、それまでにお前たちの扱いをどうするかを考えようと思ってな」
「オレたちは置いていけ」
エナは答えがわかっているように即答する。
「一応聞くが理由は?」
「鼻と言っても、その言い訳は通じないだろうな。まぁ理由を挙げるなら、レオネがこの状態で通訳が必要な事、俺の能力による疑惑が生まれること、もしレオネを置いていった場合留める役が必要だ」
「留めることはできるのか?」
「ああ、オレとティタで止めればさすがのレオネも抑えることが出来る。ついでに出かけている間にできるだけ言葉を教えておいてやるよ」
「ならばいい」
「よく……な、い……」
寝ているレオネが寝言の様に否定の言葉をつぶやき少々笑ってしまう。
「なら、エナの部屋にもう一つ寝具を用意しておこう」
「ああ、そうしてくれ」
「い、や………だ………」
本当に寝ているのかと思うほどのレオネの寝言は誰も聞き入れることはなかった。
「ねぇねぇ~もう回復したからさ~連れて行ってよーー!」
二日後、自室で出立の準備が終わるのを待っているのだが、医師の言葉を裏切る様に今朝にはレオネが完全に回復していた。そしてそうなれば当然のように連れて行ってと激しい抗議が始まる。
「ねぇねぇねぇ」
「できない。それとなぜここにいる?エナは?」
事前の話だとエナがレオネを抑えるということだったはずなのだが。今この部屋にいるのは俺とリン、レオネ、ノエル、そしてクラリスがいた。
「……出発まで息抜きをしてやってくれとのことです」
リンに確認を取るとこのような答えが返ってくる。そして
「バアル?」
まるで凍えるような声で問いかけてくるのはいつものように俺の部屋にいるクラリスだった。
「一応聞くがなんだ?」
「
クラリスの視線はレオネに向けられる。
「ん?何?」
「彼女はなんでここにいるの?」
クラリスの視線は俺とレオネを何往復かした後、攻めるような視線になって俺を突き刺してくる。
(普通であれば、この場合の感情はアレだが……クラリスがなぜ?)
クラリスとの関係は打算のみ、つまりは感情を挟む必要がないはずだった。俺がクラリスを婚約者から外すことを考えているのなら、それは的外れな考えであり、クラリスもそれはわかっているはずだ。
「なんでここにいると言われてもな……勝手に付いてきたとしか言えない」
「なら言い方を変えるわ。なんでその子がそこまで懐いているのかしら?」
「……それは俺が聞きたいよ」
俺が今の全力の気持ちを乗せてつぶやくとクラリスは何度か瞬きして首を傾げ始めた。
「言っとくが、今から言うことは俺の本音だぞ」
「聞くだけ聞きましょう」
「まずはだな―――」
それから最初にレオネに会った時のことから今までのことを説明する。
最初はこちらの話を険しく聞いていたのだが、次第によくわからないと表情で表すようになっていく。
「じゃあ、本当にどうして付いてきたのかわからないと?」
「ああ、わからない」
「まぁ、なら、いいのかしら?」
クラリスは最後には額に手を当てて、沈黙を始める。
「くんくん、くんくん」
「ねぇ、何やっているの?」
いつの間にかレオネは俺の周りからクラリスの周りに移動している。
「バアルの
「……それはどういう意味かしら?」
残念ながらクラリスもノストニアの出身。つまりは【念話】を使えるため、レオネの言葉を理解できる。
「ん?だってバアルの匂いが薄いよ?リンの方が一番かな?この中で一番匂いが強いし、バアルからもリンの匂いがする」
「……へえ~~」
レオネの言葉の意味が理解できると俺とリンに険しい視線を送るクラリスとやや困惑するリンの姿が見えた。
「一応弁明しておくが、俺とリンの間に護衛関係以上の物はないからな」
「ほ、本当です!」
リンの慌てふためき様が何とも疑わしく感じるが、それを証明できるものがこの場にあった。
「リンに装備させているユニコーンリングが処女しか扱えないものだ、リンが使える時点で潔白だろう?」
「……一応は納得してあげるわ」
「ん~~?何かまずいこと言った?」
爆弾発言を連発しているレオネは呑気に声を上げる。
「いや、何も問題はない」
「ええ、そうね、私たちは
「……何か含みがある言葉だな」
「いや、そんなことはないわよ」
「なんか言いたいことがあるな『コンコンコン』」
クラリスの態度にやや腹が立ち、問い詰めようとすると扉がノックされる。
「バアル様、出発の準備が終わりました」
外から侍女の声がする。
「わかった今行く、それとエナを呼んできてくれ」
「それなのですが」
キィイ
「もういる」
扉がそとから開けられるとエナが中に入ってくる。
「に!?」
「ティタ」
「……了解」
エナの姿を見て逃げようとするレオネをエナの後ろから入ってきたティタが全身を【獣化】させて拘束する。
「エナ姉ぇ何するの!?」
レオネは抗議を上げるがエナはそれに取り合うことなくこちらに近づいてくる。
「あいつの面倒は任せろ、事前に教えられた場所以外には出歩かないようにさせる」
「頼んだぞ」
「おう……ティタ、レオネをオレの部屋に運べ」
「……わかった」
「ちょっ!?こんな拘束しなくてもいいじゃん」
「だめだ、拘束を解いたが最後、お前は付いていこうとするだろう?」
「ぐぅぅ~~」
レオネの言い訳はどうやらエナには通じないらしく。問答無用でレオネは連れていかれた。
「あの……ご当主様がお待ちになっております」
「ああ、今行く……エスコートしようか?」
「結構よ」
上着を取り、クラリスの横に移動すると手を差し出すが、クラリスはそれを拒否して一人で部屋から出ていく。
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