第267話 外交団代表
レオンには正式に要求するための役をやってもらう。そしてそれにノストニアとグロウス王国に同調してもらうつもりだ。
(グロウス王国はクメニギスが交渉に乗っても乗らなくても損はしない。ノストニアも乗ればいいが、できないならどっちにしろ諸悪の根源を潰すだけで対して変わりがない)
グロウス王国からしたら交渉に乗れば、そのままアルバングルを植民地化を進める。もし断ればそのままノストニア、アルバングルと徒党を組みクメニギスに攻め入る。
「それで、私も手伝えと?」
そしてエレイーラだがこの交渉が成立するように動いてもらうつもりだ。
「ああ」
「下手すれば売国と後ろ指さされる可能性があるのだが?」
「そんな物はお前の動き様だ。それにもし、交渉が行われなければ損害は軽微には絶対にならない」
以前エレイーラに損害は少なくと頼まれたが、この交渉がなされなければとても軽微になどできようがない。
「だとおもったよ。だが、利点もあるわけか」
エレイーラにはいくつかメリットが存在した。
一つが獣王国アルバングルに対して、最も近い立ち位置になること。当然終戦のために協力したとあればクメニギスの王族とはいえ、獣人はある程度の関係を持つしかない。
二つ目が共通して勢力を削ること。この交渉が終われば獣人の奴隷は根本からいなくなる。そうなれば獣人の奴隷にやらせていた部分がきっちりとそぎ落とされる。特に鉱山をもつ貴族はこの先大変な思いをすることになるだろう。
三つ目が、エレイーラの評価だ。先ほどエレイーラが後ろ指を指されると言ったがこれはエレイーラの行動次第だ。もしここで領土を広げて、獣人を戦益奴隷にしたとしても、グロウス王国やノストニアの介入があり、獣人が反乱を起こす可能性があったと言えば逆に先見の明があったとも取られるだろう。なにせ潜在的な敵を抱えるよりも彼らと友好的になり利を求めればいいと主張すればいいだけだ。
「なるほど、だが要求を飲んだうえで戦争を続ければどうする?」
「さぁ、どうするのだろうね?」
残念ながらそのことに関してはエレイーラに手札を晒す気はない。
「だが、これだけは言っておく。こちら側に付けば大きな見返りを用意できる」
「どんな、と言っても教えてはくれないのだろう?」
「ああ、どうする?俺たちを売り渡すか?」
とはいう物のエレイーラはこの案を断らないと確信があった。
「それはないな。今から私が軍とコンタクトを取り、身柄を渡そうとしても」
エレイーラの視線が外を向く。
「グロウス王国の名高い近衛騎士団、そしてノストニアの兵士がいる。両方とも詳細はわからないが、おそらく数千程度の数で完全包囲しても逃げおおせるだけの力量はあるだろう」
「やるだけ無駄だと?」
エレイーラはエルフの外を見ながら頷く。
「そしてバアル、君のことだ、どうせ私がいなくても交渉を成立させる策は用意しているだろう?」
策とは言えないが、エレイーラの言う通り、クメニギス国王に直訴する方法はあった。
「おそらく、私たちがクメルスに向かっているのと同様にグロウス王国から外交団が来ているのだろう?」
エレイーラの問いには笑みで返す。
「なぜそう思う?」
「簡単なこと、レオン特使だけでは印象が薄いからだ」
そういうとエレイーラの笑みの質が変わり、無理やり表情にしている様子だった。
「仮にも君は国の制度を無理やり変えようとしている。それも戦争という暴力を使ってだ。だがレオンがいくら勇んだところで先日まではいいようにやられていた獣人相手に危機など感じない。ならば戦争を起こせるという証明が必要となる。そして現在最も効果的なものはグロウス王国とノストニアからの使者を伴い正式に要求を言い渡すこと、違うか?」
「その通り」
レオンがわざわざ直談判したところでたかが知れている、なので効率的に言葉に真実味を持たせるためにこの二か国の使者と合同で言葉を伝えればいい。
それに数日前にグラス殿にこちらがクメルスに向かっていることを教えている。また同時にアルムにも連絡し、それぞれの国から使者を出してもっていた。
(今は両国使者はキビクア領にたどり着いているころか?)
このまま通常の速度で移動すればこちらがクメルスに付く頃に向こうもクメルスに到着する予定だ。
「確かに私がいればクメルスまでは安全に行ける。だが今ここで私と敵対しても、君たちは何とかクメルスまで赴き外交団と接触させしてしまえばそれだけでいい」
「そうだな」
「肯定してもらうことがこんなに腹立たしいことはめったにないぞ。つまり私は協力すれば君たちの仲間に入れてもらえて、おいしいパイにありつけるが、協力しなければその輪の中には入れてもらえないということなのだろう?」
肯定するように頷く。
「仮にここで暴れてどうにかなると思っているのなら」
「ならないだろうね、こちらの戦力は私、グードだけ、たいしてそちらはバアル、リン、レオン、それに周囲には選りすぐりの近衛騎士に加えてエルフの戦士だ。どちらが負けるかなど見るも明らかだろう」
「俺かレオンのどちらかを人質にとれば逃げることはできるかもしれないぞ?」
「無理だろう。君かレオンだけを相手にするなら、グードと私で事足りただろうが、両方がいる時点片方に集中などできないからな」
俺もレオンも戦闘になればお互いを援護するだろう。エレイーラの言葉が本当だとしたら、片方はともかく両方いる時点でまずかなわないことになる。それに加えて今はリンもいるためなおさらだ。
「それに元から協力するつもりだ。もし戦争になったら経済の基盤もボロボロになる。儲かるのは戦功を挙げることを企んでいる奴と武器を製造している連中だけだろうな」
エレイーラの基盤である南部は交易が盛んな地域だ。もし戦争が起こってしまえば物資の高騰などが起こるため、エレイーラからしたら避けたい事態なのだろう。
「だからとは言わない安心してほしい。私は元から蛮国、いや、今はアルバングルだったな、そこに侵略すること現時点では否定的なことに加えて、経済を滅ぼす可能性がある戦争など許容できない」
こちらを裏切らないしっかりとした動機がエレイーラにはあった。
「こちらはその交渉が通るように尽力することを約束する。その代わりに」
「ああ、その尽力が叶った暁には見返りは期待してくれていい」
それぞれの思惑がある中、馬車はクメルスへと進み続ける。
それから馬車は順調に旅を進めていた。まずはフロシスに訪れると、物資と補給のみを行うと即刻クメルスを目指す。その後も、様々な町村でも最低限の物資の補給を行い、即刻旅立つという行為を続けていた。本来なら町でゆっくりする余裕はあるのだが、獣人の特使がいる手前、できるだけ姿を隠すための措置だった。
そしてそんな日々を5回ほど繰り返した時、ようやく目的地であるクメルスの姿が見えていた。
「何とも懐かしく感じるな」
馬車の窓から遠くにクメニギスの首都であるクメルスが見えてきた。
「バアル様があそこにいたのはほんの一時ですので」
「それもそうだな」
同じ馬車の中にいるリンの言葉通りだった。
クメニギスに来たのは春頃、マナレイ学院に入って二か月もしないうちにエナに攫われて獣王国アルバングルにいた。そしてそこで夏の終わりごろになるまで様々な行動をしていた。そして秋になると、ルンベルト地方の戦争に加担し退ける。その後クメニギスに入り、様々な行動をして。
(今は冬の始まりか………一年のほとんどを使ったな)
本来はグロウス王国で俺に危険な部分があるため、避難のために留学しに来たはずだ。
(だが、実際は留学しに来た方が大変な目にあった…………グロウス王国にいたほうが面倒ごとが少なかったとは思いたくないな)
面倒ごとから逃げて、さらに大きな面倒ごとに捕まったのなら、これほどバカな話はない。
ブルルル
物思いにふけっていると、通信機が反応する。今この馬車の中には俺とリン、ノエルしかいないため、そのまま応答する。
「誰だ?」
『バアル様、ですか?こちら影の騎士団の一人です』
通話の相手は知らない相手だ。だが俺の知らない相手で通信機に出たということは影の騎士団関係であるため、通信機の先の相手を信用する。
「要件はなんだ?」
『クメルスに近づいてくる近衛騎士団の姿を確認したのでいくつか連絡と同時に確認を』
「何かあったのか?」
『主だったことは特に、まず連絡に関してですが、現在クメルス内部にグロウス王国外交団が滞在しております』
どうやらこちらの方が少し遅かったようで、外交団はすでにクメルス内部に入っているという。
(クメルス眼前にして門をくぐらないというのも変な話だからな)
『現在はグロウス王国大使館にて待機しております。そして確認なのですが、外交団が一度クメルスを離れてそちらに合流した方がよろしいですか?』
これには少々答えるのが遅くなる。
「(エレイーラの権限があれば無事に入れるだろうが)すまないが、一度出てきてもらいたい」
『わかりました。外交団代表を連れてすぐに向かいます。少しだけ足を遅らせてもらうようお願いします』
そういうと通信が着られる。
「リン」
「承知しました」
リンはすぐさま動き、近衛の指揮を執っているルドルに速度を落とすよう連絡しに行った。
(外交関係だとあの家が関わってくるよな……)
やや気が重くなるのと同じように馬車の速度が落ち始める。
しばらくすると、クメルスの門から一つ馬車がこちらにやってくる。馬車にはアズバン家の紋様が刻まれており、味方だということがはっきりとわかっていた。
(できれば
馬車が近づいてくると近衛も外交団の馬車だと理解したため喜んで集団の中に向かい入れる。
そして一度集団は足を止め、馬車も停止させる。そして俺は外交官と対面するために馬車を降りると向こうも一人の人物が馬車を降りてくる。
(どうやら当たりを引いたようだな)
降りてきた人物は癖のある紫色の髪をし、病的と言えるほど白い肌を持った男性だ。これらの特徴はかの家の身体的特徴に酷似している。
「久しぶりだね、バアル君。今回外交団代表を務めるレナード・セラ・
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