第250話 計画された報復

「ふぅ~~~~馬鹿だな」


 エルフの取引について話し合いを終えるとロキを安全な場所に置き、端末を外す。


 そして思わず出てきた言葉があのバカ伯爵への罵倒だった。


(まぁ馬鹿だからこそ、信じてくれたともいえるか)


 そして馬鹿だからこそ、これが罠だと見抜けない。


「それぞれの現在地は―――」


 未だに睡魔が襲ってこないうちにそれぞれの現在地を把握し、不備がないかを確認する。

















 そして翌日、ロキにて必要なものを回収し、事を起こす準備を整え終わると廃村にいるエルフに段取りの説明などを行うのだが。


「もし、これがあなたの趣味なら、変態の称号を与えるぞ」


 フィクエアは変態を見るような視線でこちらを睨む。


「仕方ない。お前を高級な商品として扱うなら、これぐらいの梱包・・は行うさ」

「くっ、これなら道中で見た襤褸の方がまだましだ」


 現在、フィクエアには伯爵のもとに行ってもらう役目を担ってもらった。さすがに彼女も部下にこの役をやれと言いたくないのだろう。


「一応は俺の方から今日は何も起こさないように助言するつもりだ」

「はぁ~わかっている」


 さすがにノストニアの関係をこじらせるわけにはいかない。彼女も伯爵の前では奴隷のように扱うつもりだが、それは餌として垂らすだけで食いつかせる気は毛頭ない。


「それに今日の夜さえ、超えてしまえば、どうとでもなる。そうだろう?」

「ああ」


 今日だけ凌げればあとはどうとでもなる。それこそ救助に来たエルフがディゲシュラムを攻撃してもだ。


「しかし、この衣服だけはどうにかならないのか?」


 現在フィクエアには煽情的な格好をさせている。幸いフィクエアのスタイルは完璧だったため、それを活用できるように大胆に肌を露出し、ほんの一部局部を隠している状態だ。もちろんそのままでは移動するのには適していないので、その上から上等なローブをかぶせており、十分綺麗な格好をさせている。


「仕方ない、お前は奴隷で俺はそれをその売人。顧客のニーズに合わせて衣装は変えさせるものだ」

「だがな―――」


 それからもぶつぶつと文句を言うフィクエアを横目に代わりの副隊長に話しかける。


「いいか、もしあのサルのたかが外れた場合は合図してやる、そしたら」

「わかっています。即座に行動に移し、奴隷となった仲間を救出しますよ」


 副隊長になった男性は容姿は好青年なのだが、すでに人族でいう壮年並みの年齢。そのためこちらの意図を汲んでくれる。


「もう一度確認だがフィクエア」

「わかっている、お前からもらった魔道具はすでに嵌めている」


 フィクエアは口を大きく開ける。その口の中をのぞくと奥歯のすぐ近くに発信機が置かれてあった。


「よし、不測の事態が起こりそうだったら」

「安心しろ、演技には自信がある」

「ならいいがな。よしもう一度だけ手順を確認しておくぞ」


 それからエルフの全員の頭に徹底的に手順を叩き込ませる。そして異常事態になった場合の対処法、ほかにも様々な事柄を確認する。












 そして時間が過ぎれば、日も落ちていき、夜が訪れる。











 夜、雲があるが、十分に月が輝く頃。二つの影が城の門に近づいていく。


「おい、止まれ」


 二人の行く手を塞ぐように槍が構えられると、ようやく二人は止まる。


「夜分遅くにすみません。伯爵に商品をお届けに来たロキというものです。お遠し願えませんか」

「ロキ、これは失礼いたしました」


 話が通っているようで門番は構えを解く。


「一応、身体検査を行いますがよろしいですか?」


 門番の仕事なので当然と言えば当然なのだが。


「申し訳ありません。私個人なら問題ないのですが、連れは女性なので、女性の方にお願いできませんか?かまわないということであればいいのですが、一応伯爵には報告させてもらうことになりますが」

「………わかりました少々時間をいただきたい」


 そういうと、城の方に歩いていく。事情を知っているなら伯爵以外の男がフィクエアに触る場合、最悪は門番の首がはねられることにでもなりかねないのだろう。


 数分もたたないうちに門番と連れられてきたメイドが目の前に来る。


「では彼女はこちらのメイドにお願いしますので」

「ええ、よろしくお願いします」


 両腕を上げて、武装がないことを確認させる。今日のためにホルスターなどわかりやすい武装は解除してきていたため問題なく通過できるはずだ。


「え!?」

「………なにか?」


 驚く女性の声と明らかに沈んだフィクエアの声がする。


 そちらに視線を向けると、ローブの中を確認したメイドが赤い顔をして急いで前開きになったローブを閉じているところだった。おそらくあまりの格好に羞恥してしまったのだろう。


「何かあったのか!?」


 門番もその声に反応したのか、メイドに詰め寄るのだが。


「ななな、なんでも、な、ないですよ!!」

「い、いや、それにしては顔が赤いが?」

「大丈夫です!危険物の持ち込みはありません!」


 赤い顔をして動揺しかしてないメイドの言葉に門番は不審がるが、強く言われて、押し黙るしかなかった。


「ゴホン、ではどうぞ、お入りください」


 先ほどのことはなかったことにしたのか門番は中に通してくれる。













 その後、城の前まで来ると執事に城に来た目的を告げると、応接間に案内された。


「それでは伯爵様に取り次ぎますのでしばしお待ちを」


 そういい、扉が閉じられる。


(センサーに反応は………なしか)


 誰かいるのか確認するが、天井裏にも、床下にもそれらしい影はなかった。


「さて、具合はどうだ?」


 こちらの言葉にエルフは横に首を振ることで答える。事前に決めていたが、これは魔法の痕跡が見られないことを意味する。


 そして同時に足音が聞こえてくるため、会話はここで止める。


「手はず通りにな」

「ああ」


 その一言が発せられると数秒後に扉が開かれた。


「待っていたぞ、ロキ」


 伯爵は両手を広げて歓迎の意を示してくれる。そしてその後ろにお付きの年若い執事らしき人物が追従する。


「過分なお言葉ありがとうございます」

「よいよい、俺とお前の仲ではないか」


 いつそこまで親しくなったと問い詰めたくなるがぐっとこらえる。


「まずはご要望の品です」


 頭部部分のローブを外し、エルフの美貌を見せる。


「ほうほうほう」

「そしてスタイルなどについてなのだが、伯爵に気に入っていただけるようにと思い、衣装を選んできました」


 その言葉と共にローブの前部分の紐を引っ張る。


「ほっほーー!!いいではないか」


 伯爵はフィクエアの姿を見て興奮し、フィクエアは伯爵の声があまりにも気色悪いのか嫌な顔をして伯爵から目を逸らす。またついてきた若い執事はフィクエアを見て前かがみになるという奇妙な空間が出来上がっていた。


「どれどれ」


 ムニュ


「っこの!?」


 伯爵は我慢できなかったのか、フィクエアの胸を無造作に揉む。そしてそれが予想外だったのか、フィクエアはびっくりして伯爵をビンタしようとする。


「やめなさい」

「なっむぐ!?」


 ビンタとは言え、ステータスが一桁違う存在がそれを行えば最悪はけがをさせるてしまう可能性がある。そのため伯爵に届く前にその腕をつかみ止め、同時にもう一つの手で湿った布をフィクエアの口元に覆い被せる。


 こちらの意図が分かったのか、すぐさまフィクエアは瞼を閉ざして、脱力し、体を預けてくる。


「申し訳ありません、伯爵様、魔力を封じていると思い油断していました」

「いいぞ、実にいいぞ」


 それらしい風に謝罪するのだが、だがどうやら伯爵はフィクエアのこの反応がお気に召したらしい。


「しかし、ロキ、お主は躾はしていないのか?」

「申し訳ありません。エルフは魔力さえなければ貧弱なため、壊さないように最低限の躾しかできませんでした。こいつもバカではないと思い、手錠は掛けなかったのですが、裏目に出てしまいました」

「そうか、それなら仕方ないな」


 伯爵は何とも適当な言い訳を信じ込んでいた。


「それと、この女は大丈夫なのか?」

「少々強力なしびれ薬を使いました。体に害はありませんが、明日の昼まではまともに動けないでしょう」

「そうか、なら明日にするか」

「申し訳ありません。先ほどの不手際に加えて今宵のお楽しみができなくしてしまったことを踏まえて値段を大幅に割引させていただきます」

「ほう、いくらになる?」

「事前の話では600枚でしたが、今回の不手際から100枚値引きさせていただきます」

「ほう、ならばちょうどいいラート、ウィンツにこのことを伝えて大金貨50枚受け取ってこい」

「ですが、このような誰かもわからない人物と二人っきりになるのは」

「かまわん」


 伯爵の意見で執事はしぶしぶと部屋を出ていき、金貨を取りに行く。


「しかし、見れば見るほど現実離れした美貌だな」


 伯爵は崩れ落ちたフィクエアの顔を見てまじまじと感想を吐く。


「伯爵、申し訳ありませんが」

「わかっている。金銭のやり取りをする前に受け取ろうとは思ってない」


 その言葉で問題ないと判断し、フィクエアを担ぎ、床ではなくソファに座らせる。


「ちなみに、今後もエルフを仕入れるのか?」

「そのつもりではいるのですが、ノストニアの連中が大きく動いているようなので、当分は控えようと思っております」

「そうか、では今後も手に入ったらオークションではなく私に声を掛けてくれ」


 オークションで競り落とすよりも直接買った方が安くなることぐらいはさすがに理解できているようだ。


「確約はできませんが、できるだけ意向に沿はさせていただきます」

「はは、うまい返しだな」


 伯爵が笑い声をあげていると扉がノックされる音がする。


「入れ」

「失礼します。ウィンツ様からご指示通り、大金貨50枚を受け取ってまいりました」

「それではほれ」


 伯爵は大金貨が入った袋を渡してくる。


「確認いたしますので少々お待ちください」

「なんだ信じられぬか?」

「申し訳ありません。こちらも手違いがあったら困りますゆえ」


 テーブルに大金貨を並べてしっかりと50枚あることを確認する。


「今回はお買い上げありがとうございます」

「ああ。こっちもいい買い物をした」


 伯爵と握手を交わし、フィクエアがメイドに連れていかれるのをも届けると、こちらも城を出る。


 そして町の外に出て、奴隷たちを収容している地区にある細い路地に入る。


「ロキ、手はずは?」

「問題ない。あとは深夜になるのを待つのみだ」


 路地裏にはすでにエルフが勢ぞろいしていた。さらには全員が完全武装をしており、臨戦態勢に入っていた。


「俺はあとは見届けるだけだ、時間になったら派手にやれ」

「いわれるまでもない。同胞を売り買いしている連中ならためらう必要御ないしな」


 こちらを見ながら言われる。暗にお前もすでに対象だぞと言われている気分だった。


「それより忘れるなよ」

「ああ、隊長と共に例のやつらも助けてやるさ」


 いい笑顔で返答してきたので、あとは彼らに任せて、都市を一望できる場所で観戦させてもらうことにした。

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