第205話 氏族長≪女傑
「「「「「「「「「「ガハハハハハハハハッハッ」」」」」」」」」」
バロンと最初に対面したあの場所に訪れるのだが酒と焼けた肉の匂いが充満している。大人は片手に木の実で作った盃を持ち、悪酔いしている男は全裸でマッスルポーズをしたり、方や酔いつぶれた連中はまるで死体のようにそこらへんに積まれていた。
「ん?おう!バアルようやく来たか!!」
ルウが盃を掲げて声をかけてくるが、正直この集団の中に入りたくないと思ってしまった。
「はぁ~」
本当は加わりたくないが話を進めるためには参加しなければいけない。
「おう、こっちだこっち」
レオンが隣に呼ぶのでそちらに座る。
「どうぞ」
「ありがとう」
お酒を配って回っている女性から盃を貰いお酒を注いでもらう。
「それじゃあ、今回の功労者が来たからもう一度!」
「「「「「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」」」」
木が打ち合う心地よい音と、水が跳ねる音が盛大になる。
「それでレオン、国についての話なんだが」
「そういうのは後にしろ!!!」
そういって木の実を投げ渡される。
(レオン……お前もか)
昼間から酒を食らっている俺たちはさぞダメ人間に見えるだろう。
(誰でもいいから、この喧噪を止めてくれ)
願いが通じたのか階段から二つの軽い足音が聞こえてくる。
「お゛い、男ども昼間っから飲む酒はうまいか?」
ビクッ!!!!!
「そうだな~、まさかあたしらに酒のつまみを取ってこさせて自分たちは宴か~もぐぞ、てめぇら」
ビビクッ!!!!!!!
階段からテトとマシラの声が聞こえてくる。
その声に男どもは反応して、青ざめる。中には股に尻尾を仕舞いガタガタ震える物すらいる。
「さて、バロン」
「な、なんだテト」
威厳を保とうとしているが冷や汗を流しているのは誰が見ても明らかだ。
「お~い、テンゴ、何逃げようとしているんだ?」
「か、堪忍してくれ」
マシラはマシラでテンゴを捕まえて怖い笑顔を振りまいている。
「お前ら、あたしらが戻ってくるまでに頭冷やしておけよ」
「そうそう、まだバカ騒ぎしていたら、わ・か・って・い・る・ね?」
二人の威圧にここにいる全員が何度も頷く。
そして同時に二人に連れていかれた生贄に全員が憐みの視線を当てる。当の生贄は助けてと視線で語っているが二人に逆らってまで助けようとするものはついには現れなかった。
再びテトとマシラが戻ってくるまでという短い時間で何とかこの場を整える。散らかった残飯や骨をすぐさま片付け、酔いつぶれている連中を無理やり起こし、無理なら柱の陰にひっそり隠す。
表だけは誰が見ても綺麗と感じられるようになると階段を上ってくる足音が聞こえてくる。
音を聞いた連中はさっきの騒ぎぶりでは考えられないほどきれいに整列し、バロンの席までの道を作る。
「おう、きちんと片づけたようだな」
「「「「「「「「「「はい!テトの姉御!!!!」」」」」」」」」」
「………………」
これは国を作るまでもなかったんじゃないかと思うほど統率が取れていた。
「ほれ進みな」
「イエッサー」
テトの言葉でバロンは先頭を歩いていくんだが、腫れでひどくなった顔や体中に見ていて痛くなりそうな痣をしている。それを見れば全員が緊張した空気になった。
「あんたもだよ」
「は、はい」
最後尾にテンゴさんも進むのだが、そちらもバロンとさほど変わらないほど重傷を負っている。
バロンとテンゴが対面に座るとようやく話し合いの場が出来上がった。
ただ、ほんの少し二人に同情した。
「それでバアル、国を作るだったか?」
重苦しい空気の中レオンが切り出す。
「いや、確かにそう言ったのは俺だが、実際に全員を集めたのは俺ではない(この空気でそれを話せと?)」
まるで独裁者の前で反論する気分だった。
「問題ないよ、あたしらはその話を聞くためにみんなを呼んだんだが?」
「そうそう、というか簡潔に話してくれじゃないとうちらはよく理解できないぞ」
テトはバロンの横で、マシラはテンダのアグラの上にいながらそう告げる。
「はぁ、了解。まず国を作らないかと問いかけたのは魔蟲や
「ちょっと待て、国を作ったら何が違う?」
当然ながら疑問の声が上げる。
「そうだな………お前らは獲物が大きければ警戒するだろう?」
「ああ」
「だが逆に小さければ容易と思うだろう」
「ああ、それがどうした?」
「人族から見たら今のお前たちは小さい獲物なんだよ」
そういうと誰もがばつの悪い顔をした。
「ほぅ」
「俺たちが弱いと?」
「お前たちは自分たちが弱いと?」
そう言い返すと否とあらわすように闘気が当てられる。
「仮に弱くないとしてもお前らが最大でも氏族でしかない以上、おれ達
「そして」と続けると最も伝えたい部分を言う。
「だからお前たちはナメられるんだよ」
この言葉を言い切ると、もはや殴られたと錯覚するほどの圧がこの身を襲う。
「吐いた言葉は飲み込めんぞ」
バロンの言葉に同意とほとんどの者が【獣化】し牙をむく。
「は、現状を正しく教えて何が悪い。いかに弱い狼であろうとウサギを見つけたら狩ろうとするだろう?」
現状はどう言いつくろってもこのような例えになる。これがノストニアの様に団結し確固たる対応を取っていたのなら話は変わるがそのような事はしていない。
「っふ、ふふふ」
「はっはははは」
緊張が走る中二つの女性の笑い声が上がる。
「だからこう言いたいわけか」
「あたしらに実力に見合った姿と成れと」
二人は事の本質を理解してくれたようだ。
「ああ、国としての体裁をとり、おれ達に挑む気を起こさせるな」
これはノストニアがいい例だ。あの国は強さを誇示することにより周囲の国に恐れを抱かせている。
「それとも、お前らはそれすらもできないのか?」
「「「「「「「「「ああ゛?」」」」」」」」」」
愚直な性格のおかげで簡単に挑発に乗ってくれる。
『お主、猛獣使いにでもなったのか?』
(………言うな)
こいつらの扱いがわかった自分が少し嫌になる。
「お前ら、ここまで言わせて黙っているつもりか!俺達で国を作って
「「「「「「「おお!!!!」」」」」」」」
レオンが纏めたことで団結を促せた。ただそれでいいのかお前らとも言いたくなった。
「お疲れ」
「……おう」
いつの間にか後ろにいるレオネに労われてどんどん話を詰めていく。
それから夜まで話し合った結果、国としての形が見えてきた。
まず氏族などはこのまま維持をする。これは今ある形を崩してまでの改革を必要とはしていないからだ。
次に統治者なのだが、レオン達の言葉で“獣王”と呼ぶこととなり、初代獣王はバロンが就任する。これは全氏族が一言で賛同した(主に後ろにいるテトの存在が大きい。というかみんな 逆らいたくないようす)。
ここで獣王の役割は大きく三つに定める。
一つ目は以前話していた“獣戦士”の選定。有事の際に王が自由に動かせる直属戦力のことを指す。
二つ目は縄張りの管理。国を興してからは以前とは違い、新たに氏族を作る際や縄張り争いをする際には王もしくは獣戦士の仲介が必要になる。もちろん事の顛末の報告義務を課している。
三つめは外部勢力との交渉を行うこと。まぁこの部分に関してはほとんど形式だけで中身はスッカスカ、つまりは何もない。だが戦争が必要と判断すれば氏族に召集を掛けて戦に赴くことも含まれていた。
そして役割とは関係ないのだが獣王にはその座をかけて戦いを挑まれると受ける義務を課している。これにより傲慢な存在が居座るのを防ぐことができるようにした。もちろんこれは縄張り争いと同じくお互いが万全な状態でしか行えないように定める。
そのほかの細々とした内容に関しては不備があれば修正していくことを約束させて、ようやく国としての考案が出てきた。
「では皆の物、盃は持ったな?」
「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」
「では国を祝って!!!!!」
「「「「「「「「「カンパーーーイ!!!」」」」」」」」」」
国についての草案がある程度揃うとその夜には氏族の長が集まり祝杯が上がる。
「はいは~い、私も私も!!」
レオネもお酒を貰って寄りかかってくる。
「バアルは飲まないの?」
「いや、おれはな」
今も自前の書類を取り出し、草案のまとめを行っている。
なにせ国といっても本当に中身スッカスカの張りぼてでしかないのが現状だ。うまく機能させるにはもっと構成をしっかりさせないとまず稼働しない。
本来ならやる必要もないのだが、こいつら任せてしまったら、おそらくはかなり突飛な物が出来上がってしまう可能性があるため俺がやるしかない。下手したら酒に酔った状態で法案でも作りかねない。
それに加えて、俺自身が作るにあたって、内容の把握に加えて少々こちらに都合のいい内容にすることもできるため、断るつもりもなかった。
(王の選定はあいつらが勝手にやるとして、問題は獣戦士の選別基準だ……現状は地理と暗黙の了解の理解度、戦士の基準や戦い方の問題を出してその正解率で決めるとしよう。ほかにも縄張りの主張だが二人以上の獣戦士の同伴にて誰も所有していない土地であることの確認と生活水準が規定以上であること、この二つが満たされていれば認めるとしよう。確認が取れたら獣戦士に報告の義務をつけて、レオンの元に管理情報を集めさせる。縄張り争いに関しても獣戦士が監督した状態で行わせることの義務付け、それも要報告。あとは管理場所としてバロンの土地に専用の建物を建ててもらおう、ほかにも書式をあらかじめ用意しておいて見やすく、ほかにも手に負えない魔獣被害や災害などには獣戦士が率先して仕事をしてもらう。そして肝心な税だが………どうするかな、貨幣制度が整ってない以上物納になってしまうが、ここの物納といえばほとんどが生モノだ、どう考えても腐る………だめだ、今はここは後回しにするしかない。外部勢力との交渉なんだが………グレア婆さんみたいなのが絶対に必要になるな、それも数人じゃない何十、何百人という規模でだ、これも当分は外部との接触を断って教育に専念してもらうしかないか。ほかにも――――)
考えれば考えるほど、やることは山ほど出てくる。
「うへ~」
隣にいるレオネがびっしりと書き込んでいる書類を見て嫌そうな顔をする。
「レオネ、グレア婆さんみたいにフェウス言語を話せる連中はいるか?」
「い~や、私の知っている限りグレア婆さんだけだね」
ここにも課題点があった。
(それも追加して後は――)
ガシッ、サッ
不意に持っていた書類を取り上げられて代わりに木の実の殻の盃を渡される。
「おい、バアル、祝いの席だぞ、辛気臭い顔をするな」
「あのな、バロン、これは必要な事「おい!?」?どうした?」
バロンにコンコンといかにこういったことが必要か説明しようとすると急に喧噪が止む。
「何があった?」
バロンは宴の中心部に戻っていく。さすがに尋常ではない空気が漂うのでバロンの後に付いていく。
「おい!これはどうしたんだ?」
「大丈夫なのか?!待っていろすぐに薬師を呼んでくるから」
「何にやられた!?」
騒ぎの中心には傷だらけの男がいた。
「これはひどいな」
一目見ただけでも、もう少し深ければ致命傷といえるほどに深い傷だった。
「おい!バアル」
「はいはい」
バロンを押しのけて前に出るとバベルを取り出す。
「『慈悲ノ聖光』」
「ぐっ、ああぁぁぁぁ」
光を浴びた怪我人は苦痛そうな表情から一転、穏やかな表情に変わる。その証拠に大きな切り傷は完全に治癒し、流れ出る血も完全に止まった。
「っは!?レオンは居るか!?」
「どうしたんだ?」
「レオン!!」
お礼を言う暇もなく男はレオンに駆け寄る。
「大変なんだ!軍が壊滅した!!!」
この一言で雰囲気が一変する。
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