第200話 忌避されている強さ
〔~ティタ視点~〕
「……助かる」
ヨク氏族の戦士が比較的に安全な場所に降ろしてくれる。さすがに戦闘の中心にいるレオンの元は空からでも危険があるため、離れた場所から移動する必要があった。
「な~に問題ないさ、だけどあんた一人で問題ないのかい?」
「……心配は不要だ、俺はエナの命令でレオンを助けるために来た。その過程で死んでも悔いはない」
何人かの部隊横切りながらレオンの方に近づいていく。
「おい、ティタそっちは」
「バカ!やめとけ!!」
そのうちの数人が何かを忠告しようとするが、すぐさま俺を知っている奴が止めに入る。
そしてその忠告なのだが意味がない。
ブブブブブブブブブブッブブブブブブブブ
「……鬱陶しい」
俺は蜂の魔蟲に囲まれることになる。
しかし危機感などは全く感じない。
なぜなら
ボト、ボトボト、ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
近づいてくる魔蟲がどんどん地上に落ちてくる。
「……雑魚が」
まだ見た事がない蜂の死骸を一匹ずつ拾い上げる。そして頭部だけを【獣化】させ、口を開ける。
バリ、バリ、ゴクン
「……まずいな」
顔を蛇の姿に変えて死骸を飲みやすいサイズに千切り、丸飲みにする。
「……さて、レオンはあっちか」
死骸となった魔蟲の中を突っ切りレオンのもとに向かう。
道中、何度も絶えず蜂の魔蟲に襲われるがそのすべてが攻撃する前に地に落ちていく。
理由は体の周囲に散布している毒にあった。毒は揮発性で、ただ近づくだけでその影響を受けてしまう。一応は仲間には効果が無いようにしているが、それでも大量に吸ってしまえば何かしらの影響は出るてしまう。
「……あれか」
少し先で太い火柱が立っていた。ここまでの事をできる戦士はまず限られる。
(相変わらず派手だな)
レオンの戦闘はとにかく目立つ。一応はあれでも手加減しているらしいが、それであの目立ち様ならまず隠れる事には向いていない。
(ここからは走らないとまずいか)
先ほどまでは30㎝ほどの蜂だけだったのだが、体躯が大きい魔蟲が出始めた。小さいサイズの魔蟲は致死量が少量となるので、ただ近づくだけで殺すことはできるが、大きい魔蟲となると、そう簡単はいかない。
また今はレオンと合流することを一番にしているため、道中の雑魚は無視して走り出す。
「ティタ!?なんでここに?」
火柱が経つ場所に近づくとレオンの部隊の一人がこちらに気付く。
「……レオンはどこだ?」
「え、あ、あっちに」
「……助かる」
場所が分かったらあとは向かうだけとなる。
「……【獣化】」
下半身を蛇にしてレオンの元に向かう。
「「「ガァアアアアア!!!」」」
「フシュシュシュ!!」
一番先頭ではレオンと数人が大きな百足とやりあっていた。四方から様々な戦士が襲い掛かり少しづつ傷を蓄積させていっている。
ドン!!
「がっ!?」
一人が魔蟲の体当たりを避けきれず、こちらに吹き飛んできたので、それを尻尾で受け止める。また毒の危険があるためすぐさま毒の散布を止める。
「ってて、くそっ」
「……おい」
「ん?ティタ?なんでここにいるんだ?」
「……エナがこっちを手伝えと」
そう言うと獰猛な顔になる。
「お前の手を借りると思うか?」
「……アレを殺しきれるのか?」
何も相手にしているのは一匹ではない、森の奥の方から同じような大百足が何匹も出てきていた。さらには今レオンが相手にしているのはこれまでに戦った種類ではなくより鋭利により頑丈に甲羅を変化させている個体だった。プライドだけで協力を断れば、どうなるかは想像できる。
「っち、わかった。でもレオンに許可を取れ」
「……わかっているさ」
素早く木々をすり抜けてレオンの部隊が相対している百足の背後に移動する。
(手早く済まそう)
頭部も『獣化』させ、ばれないように百足の甲羅に乗ると牙を突き立てる。
ガリッ、ジュワ、ザク!!
牙を突き立てると、牙の先から酸を出し硬い部分を溶かす、その後は猛毒を注入する。この方法ならば相手が硬い甲羅に覆われていても酸に耐性が無ければ無力化できる。
シュ………シュ…………………
毒を注入し、数十秒もすると百足は力なく地に伏せる。
「……大丈夫か、レオン」
「ティタか?」
百足が動かなくなったことを確認すると、ちょうど一体倒し終えたレオンに近づく。そんなレオンは最前線にいたからか、体中に薄い切り傷を負っていた。
「ふぅ~、それでお前ならどこまで倒せる?」
なぜ俺がここにいるのかをレオンは聞こうともせず、こちらに迫ろうとしている集団に視線を送る。その数は先ほどレオンが手古摺っていた個体が30ほどいた。
「……お前は?」
「はぁ~正直10が限度だろう、だが」
「……ああ、俺なら余裕で殺せる。そのためには」
「あいよ、少しの間はほかの奴らも下げてやるさ」
レオンは俺の能力を理解はしている。そのため、少ない会話でお互いの意図が理解できていたが、それを知らない部下たちは疑問を持つばかりで困惑していた。
「じゃあ存分に暴れろ」
「……ああ、では行く」
俺は全身を巨大な蛇に変化させると先ほどとは比べ物にならない速度で動く。
(……いくらいようと無駄なのにな)
狙いを定めると口を開けて毒液を放つ。それもすべてにたったひと固まりをだ。毒液を浴びると魔蟲はすぐさまのたうち回り、最後には力なく息を引き取っていく。
ブブブブブブブブブブブブブブブブ
(今度は蜂か)
道中に訪れた雑魚とは違い、今回はメートルを超えていたため、先ほどの少量ではなくしっかりとした量の毒を使用する。
再び口を開けて待ち構えるが今回は液ではない。
フシューーーーー!!
牙の先から紫色の煙がまき散らされる。地を這う百足とは違い、面での攻撃が有用なため揮発性の高い毒が効果的だった。
ブブブブブ……ブブブブ……ブブ……………
攻撃しようとしてきた蜂の魔蟲すべてが地に落ちる。
「お~お~さすがだな」
「……近づくとレオンでも死ぬぞ」
「わかっている、それよりも本命が来たぞ」
シャシャシャシャシャシャシャシャ
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブ
何かが這いずる音と煩わしい羽音が大量に聞こえてくる。
「『母体』だと思うか?」
「……違うだろう、どう見ても同じ個体だ」
だが明らかにそこら辺の魔蟲より強そうな形態をしていた。こちらを脅威だと判断したため、強い駒をぶつけに来たと言うところだろう。
「どっちをやりたい?」
「……では百足を譲ってやろう、蜂はお前たちでは手古摺るだろうしな」
するとレオンは頭に来たのかこちらに詰め寄ってくる。
「ほぅ、それは俺では蜂に勝てんと?」
「……違うのか?」
返す言葉にレオンの額に青筋が浮かび上がる。
「っち、いいだろう。だが泣き言言っても助けねぇからな」
「……お前に助けてもらったことなんてあったか?」
「よっしゃ、じゃあ勝負!!」
ガァアアアアアアアアア
レオンは完全に炎を纏った獅子になり百足に突っ込んでいく。
「……はぁ~」
ため息をつきながら蜂に向かって毒息を吐きかける。
(いやな天気だな)
見えうる限りの空は暗く、まるで不幸を運んでいるようだった。
「すごい」
「ああ」
レオンの部隊は強敵相手に立ち向かうレオンとティタを目の当たりにしていた。
ガァアアアア!
ザシュ!
レオンが爪を振るえば、爪の熱で甲羅ごと真っ二つにし、レオンの前では甲羅に意味が無いことはわかる。
「ティタなんかが、なんでこんなに…」
部隊の一人の言葉で全員の視線がそちらを向くと、ティタが蜂に向かって霧を吐き出していた。
蜂が霧に触れるとすぐさま動きが鈍くなり、死に至る。もちろん、それを見た後続は霧が晴れるのを待つのだが、ティタがそんなことを許すことをない。
シャア!!
毒霧から飛び出すと最も大きい個体に飛び掛かる。
「しかし、でかくねぇか」
「お前知らないのか?ティタの獣はあれでも小さい方だぞ?」
「は!?今でもあの大百足ほどあるんだぞ!?」
何人かはティタの本気の姿を見たことがあると言い、さらにはもっとでかくなると言う。
「正直なところ、体の大きさだけでいえばエルプスさんですら巻き付けるまでに大きくなれる。そしてティタのその体にはもう一つ秘密があってだな」
「お~い、あっちに『母体』が現れたぞ!!!!」
部隊の後方から報せがやってくる。また、その声にすぐさま反応したレオン様とティタが戻ってくる。
「どこにだ!」
「こ、こちらと反対側の部分にそれもかなりの数を率いて出す」
「ティタ!!」
「……わかっている」
ティタがレオンと言葉を交わすと魔蟲の中をすり抜けていく。
「ティタ!!」
「……わかっている」
すぐさま魔蟲の間をすり抜けて最短で『母体』を目指す。
今すぐにはレオンは動けない。なにせ蛇の体の俺はある程度の隙間さえられば通り抜けられるがレオンはそれができない。
シャシャ
魔蟲が肉壁を作るのだが、一体にかみつき先程と同じ要領で毒を注入、数秒後にはどんどん力が入らなくなり隙間が簡単に出来上がる。
「……あれか」
ある程度進むと大きな魔蟲の集団が見える。
その中に卵を背中に嵌め込むようにしている百足個体がいる。それも周囲よりも突出して大きい、『王』ほどではないがそれでも一つの里をぐるりと一周できるほどの大きさは誇るだろう。
(……やっぱり多いな)
予想はしていたが、壁が厚すぎる。周囲には『母体』を守るように様々な百足が傍にいた。
(普通ならあきらめる場面だが、問題ない)
まずは一度【獣化】の段階を下げて人型に戻り、体表にとある液体を分泌する。
(やはり、この力は使いやすい)
ティタの『獣化』の元は
なので締め付けると同時に触れるだけ効力のある毒を分泌すれば、それだけで致命傷になりかねないのがこの種族だ。
そしてそこにティタのとある力が備われば―――
「毒生成『隠行液』」
分泌された『隠行液』は【吸音】【色彩変化】【温度偽証】【消臭】の効果があり、察知されにくくなる。
それを【獣化】で再現した分泌腺から体を包むように塗りたくる。
こうするだけで音もほぼ発しなく、自身の色も周囲の風景に溶け込んで見えにくくなり、温度による探知も周囲の空気と同化しているためわかりにくく、匂いなんてもってのほかとなる。
だが当然弱点も存在した。
(一撃で何とかしないとな)
隠れることはできてもそれは完璧にこなせるわけではない、当然触れれば気づかれるし、枝でも踏めば音が鳴ってしまう。
(………この位置か)
一撃入れることができ、即座に離脱できる場所を探る。
なにせ『母体』への攻撃を配下の奴らが見逃すわけがない、見つかったら囲まれて袋叩きになるのは確実。となると一撃で確実に『母体』に効果を与えなければいけない。
(となると……あの毒が一番か)
体内で毒を生成し、より純度を高めていく。
そして準備が整うと
「ふぅ~~ふ!!!」
全力で魔蟲の間を走り抜けて『母体』の元にたどり着く。
??????
風の揺らぎや踏みつけた枝の音で違和感を感じている個体がいるが、見つけられない。
『母体』に最も近しい個体を超えると『母体』の甲殻の上に飛び乗る。
(さすがに足だと時間がかかりすぎる、できれば頭、無理なら中心部を)
毒を使うにしてもより効果がある場所に埋め込まなければいけない。毒の周りが遅すぎて下手すれば無害化されてしまう恐れがあるからだ。
キシュ!!シュシュシュ!!!!
頭に向かって進んでいると甲殻の一部が動き出す。
(……甲殻の一部に化けて居たか)
音、匂い、温度、色を変えられたとしてもさすがに振動はなくすことはできない、おそらくそれで感知されたのだろう。
(もう少しで頭部なのにな、仕方ないか)
現在は頭部からは離れているが半分よりも上の部分に来ている、よほど弱い毒じゃない限りは問題ないと判断する。
「『魔滅毒』」
牙を甲殻に突き入れるといつも通り酸で溶かし穴をあけ、体内に毒を注入する。
ビキッビキビキビキビキビキビキ
毒を注入した瞬間、亀裂が広がっていく。
ギャシャアアアアアアアアアアアアアア!!!
その痛みを受けて『母体』は暴れ狂う。
(当然だな)
ユニークスキルにより生成した『魔滅毒』は体内に侵入すると、魔力と反応して超高温となり爆発を起こす。ただ最も脅威なのは毒に触れた細胞自体が毒そのものになることだ。爆発した細胞自体からもこの『魔滅毒』が分泌され、連鎖して爆発を引き起こしていく。それゆえに抗体を持ちえない限りは一撃必殺の毒と言っていい。
グラグラグラグラ。
(離れないとまずいか)
急いで『母体』から離れる。
(俺の方は終了した、が)
地面に降り立つと再び『隠行液』を分泌し、元来た道を戻る。
「……本当にいやな天気だ」
空は見渡す限りの雷雲で覆われており、この先の不吉さを暗示しているように見える。
「おい!!ティタ!!」
前方からレオンが向かってきているのが見える。
「……レオンか、遅かったな」
「うるせぇ、それで『母体』は!」
「……見ての通りだ」
ズゥウン!
離れた位置でも見える『母体』がちょうど倒れていく。巨体ゆえに倒れた余波で突風が巻き起こったほどだ。
「まぁ、お前が言ったからそうなるよな」
「……ああ、それより、まさかお前だけが来たわけではないな?」
「いや、俺だけだぜ、お前ばかりにいいかっこさせられるか!!」
思わずため息を吐き出す。
(
長い溜息を吐いていると周囲に魔蟲の気配を感じる。
「まぁいい、ここでひと暴れしてから戻るぞ」
「……勝手に入ってきたのはお前じゃないか」
いくら俺たちでも長くこの場所にいるのは危険だ、ある程度露払いをしたら交代するのが最善だ。
ピシャーーーー!!!!!!!!!
戦い始めようとすると雷雲は稲光を発する。
ゾワ
「「!?」」
嫌な気配が背を撫でる。俺もレオンも全力で【獣化】する。
「なんなんだ今の!!」
「……『王』よりも強いな」
『王』が現れた時の圧とはケタがいくつか違った。魔蟲の何かしらの策とも思ったが反応がおかしい。
ギシャーーーー!!
魔蟲達も何かを感じたのか、一斉に逃げていく。
「……あれはなんだ?」
気配がする空を見上げると、雲の切れ目に光り輝く蛇の体が見え隠れしている。
「あれ、バアルの力だと思うか?」
「……さぁ、だがあそこにいるのは、限られるぞ」
「だよな~……まぁ俺たちはできることをするか」
魔蟲が逃げ去っていったことにより、無事にこの場を離れることができた。『母体』を討伐し終えれば、俺の役割は終わる。
俺はヨク氏族の迎えを待ち、レオンはそのままみんなも元に走っていった。
だが俺はすぐには動かず、さっき見えた空を見る。
(エナ、お前はバアルから何を感じている…………)
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