第181話 魔蟲の対策方針

 まずこれを提案したことには三つ根拠がある。


 一つ目は目的をぼかすこと。もし『王』の個体が知恵を持っていて、危険なところに援護を送っているとしたら、一か所の集中攻撃は失敗に終わる可能性が高い。そのためどこに戦力を集めさせればいいのかわからなくさせるのが狙いだ。


 二つ目はそれぞれ適性のあるフィールドで戦ってもらうこと。岩場はノイラやエルプスなどが戦いにくい場所となっているし、泥ばかりの湿地帯ではレオンやルウといった機動性で敵を翻弄する奴らにとっては最悪のフィールドだろう。湖なんてはもってのほか、こちらは遠距離攻撃をほとんど持たないので湖の上に避難されたら手出しは全くできないと言っていい。ほかにも水上にいたとしたら泳いで戦うことになってしまう。聞いたところによると一応は泳げるらしいが、鰐や蜥蜴といった水場でも動ける獣人でないと戦力はがた落ちだ。なのでそう言ったことのないように各々が最も得意な場で最善に戦ってもらう方がいいため。


 三つ目は広範囲に人員を配置し、あわよくばほかの『母体』や『王』の個体に遭遇させやすくさせるためだ。現状はエナの部位隊に探索を任せているが、もしかしたら見逃している可能性もある。それに戦闘が始まれば、隠れている奴も出てくる可能性がある。




 これらのことを詳しく説明する、が。




「「「「「「?????????」」」」」」

「「なるほど」」


 エナとムールは納得したがそのほかは頭から煙を出しそうだった。


「じゃあ、割り振りはどうするつもりだ?」

「まず岩場にレオンとルウの部隊を配置する」

「理由は……湖、湿地帯だと機動性に難があるわけか」


 意外にもレオンが意図に気付いた。


「その通り、次に湿地帯だが、アシラとノイラ、エルぺスに対応してもらおうと思っている」

「なるほ、って!?残りの全戦力じゃないか!?」


 その通りだ、なぜなら


「キクカ湖での戦闘は俺が当たる」


 ここまで来たらさっさと問題を解決させ、解毒してもらう方がいいだろう


 もし彼らに協力しないとなると、当然命のリスクが生じてしまうためできるだけその選択肢は取りたくない。


(それに解毒の成功率は低いだろうがな)


 もし協力しないとなると、一番成功しそうなのが、ティタに対して人質を取り、解毒を迫ることだ。仮にその手を取れたとしてもティタに効果がある人物でなければならない。もちろんその相手としてはエナが有力だが、そのエナが意固地となり解毒させないよう指示するかもしれない。もちろんティタがエナの命令を無視してまで解毒する確率もあるが、この地にどんな危険があるかわからないうちはとりあえずは動かないほうがいい。逃げるにしてもどこにどんな危険があるかもわかったものではない。


 それに何より


飛翔石・・・の価値は、おそらく魔道具にも比肩を取らないな)


 空中に浮くという、前世では考えられない事態を引き起こす鉱石。もしその理論が解明できたのなら、おそらく魔道具の製法すらも上回る価値を発揮するだろう。


「バアル?」


 ほんの少し別の事を考えているとレオンの声がするので思考を元に戻す。


「俺ならそれなりに遠距離攻撃ができるからな」


 俺なら魔法という遠距離攻撃も可能だ。けど普通の獣人なら空に逃げられただけでも攻撃手段を失うのに湖の上だともはや手の出しようもない。


「湖が最も得意とする獣人がいるのか?」

「……いる、マシラのところに」


 ティタの声でマシラに視線を向ける。


「そうだな、俺のところに鰐の数名が、あとはルウのところにカワウソがいるな?」

「ああ、だが10人にも満たないぞ?」


 水辺での戦闘が得意な者もある程度はいるそうだ。


「まぁいい、じゃあそいつらは俺と一緒にキクカ湖に向かってもらう」

「そんな少数でいいのか?」

「まぁ問題ないだろう」


 視線を巡らせると大して異論がないようで話が纏まりそ


「おい、なんでお前が仕切っているんだよ」


 うだったのだが、ルウが話を遮る。


「だとよ、どうするレオン」


 当然ながらすんなりと意見が通るはずもない。理詰めで説明してもいいが、ここは長的な役割を持つレオンに判断をゆだねる。


「そうだな、ここは我々の流儀で話し合いをしようか」

獣人お前たちの流儀だと?」


 何か嫌な予感がする。









「では親善試合を始める!!」

「「「「「「「「「「おおおお!!!!!!!」」」」」」」」」」


 里の広場で何十人ものけが人が俺とルウを囲む。


「レオン?」

「まぁ、これから俺達は一緒に魔蟲に対抗するんだ。一回ここでわだかまりをなくしておいた方が楽だぞ」

「戦ってわかるものか?」

「安心しろよ、俺達は力を見せられればとりあえずは納得するんだよ」


 そう言うとルウは【獣化】し、狼の顔つきになる。


「じゃ始めようぜ、エナが連れて来たんだ、退屈はしないだろう!!」

「それで始めろ!!」


 レオンが合図を上げるとルウが地の上スレスレを走る。それに対してこちらはバベルを取り出し、振り下ろす。


「そらよ!!」


 ルウがバベルを横切るように移動すると、眼前に毛深い膝が見える。ルウは容赦なく顔面に飛び膝蹴りを繰り出していた。


「危な!?」


 すぐさまバベルから片腕を離し、顔に当たる前に受け止める。


「はぁ!はは!!さらに行くぜ!!」


 ルウは膝を受け止まられたまま頭の上で手を組み振り下ろす。


「ッチ」


 すぐさま膝を押し返し、距離を取るとすぐ目の前を振り下ろした拳が過ぎ去る。


「よく反応した!!」


 ルウはそのまま中で身を翻し、地上に降り立つ。


「速いな」

「そりゃな、力は大型猫種には勝てないがスタミナと速度だけなら俺達に分があるから、な!!」


 そう言う低い姿勢で回り込んでくる。


(【身体強化】のみじゃ、さすがに使うか)


 今後の事を考えるとさっさと勝って従わせた方がいい。


 ユニークスキルを発動させて、さらに強化する。


「ふっ!!」


 ルウは貫手で首を狙ってくるので、バベルの柄で防ぐ。


 そして体の前で回すように腕を絡め取るとバベルを掴んだまま顔面に肘打ちを行うのだが。


「ガァア!」

「っ!?」


 当たりそうになるとルウは口を開ける、さすがに噛みつかれるのはまずいのですぐさまルウの胴に蹴りを入れて距離を取る。


「!?はは!よく避けた!」


 ルウは嬉しそうにする。


『なんじゃ?動きが鈍いの?』

(仕方ないだろう、手札はできるだけ隠して起きたいんだから)

『その気持ちは分かるが、今の状況だと、お主、負けるぞ?』


「しぇや!!」


 ルウの重い拳にガードした腕が吹き飛ばされそうになる。


「とどめ!!」

「させっかよ『放電スパーク』」


 拳が目の前に迫ってくるタイミングで『放電スパーク』を行う。


 目の前で攻撃している最中に周囲に電撃が振りまかれればさすがに避けられない。


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」


 ルウは電撃を食らうも失神せずに痙攣している。


「ま、まだ」

「いや、こうなった時点で終わりだ」


 レオンがルウに近づき終わりを告げる。


「にしてもそれがお前の力か」

「まぁ、な」

「おう、まだ戦えるかい、人族の子」


 観戦していた、ほかの獣人がやってくる。


「……レオン?」

「さっきも言ったがいい機会だ。ほかのやつらが納得するまで付き合うことだな」


 その後、約30人の獣人と模擬戦を行うことになった。







「痛っ」

「じっとしていろ、とりあえずは打撲に効果のある薬草を張ってやるから」


 エナに打撲に効果のある草を体に張り付けてもらう。


 模擬戦が終わると時間は夕暮れというべき時間になっている。


(…………なぜか、本当になぜか宴会になったな)


「普通に考えて戦争中にこんな目立つ宴会するやつがあるか」


 広場には木を組んで豪勢にキャンプファイヤーをやっている。


「よう、楽しんでいるか~~」


 ルウが骨付き肉にかぶりつきながらやってくる。


「いや、普通に考えろ。なんでキャンプファイヤーをやっている?」


 時と場合を考えろと抗議したい。


「いいんだよ、今回の魔蟲は昼間は活動しないんだよ。だからこうやって夜は英気を養うのが戦士のたしなみだ」

「そんなことは聞いたことがないがな」


 今度はエルプスが話に加わる。


「まぁまぁ、これはお主の歓迎の宴でもあるからな、ルウもお主のためにわざわざ極上の獲物を探しに行ったぐらいだぞ」

「ちょっ、おい!」


 エルプスに肉を取ってきたことをばらされると、気恥ずかしいのかルウはエルプスに抗議する。


「無事、お前さんは俺たちの仲間として迎えられたということだ」

「……そうか」

「それにほらよ」


 ルウの眼の先にはなんだかそわそわした奴らがいた。


「あいつらもお前と話がしたいんだよ、おい、お前たちもこっちに来て話に混ざれよ」

「いいんすか!!」


 ルウが一人を呼び寄せると、次々に人が集まってくる。


「お前すげぇな!ルウの兄貴に勝てるなんて!!」

「だな、そのあともレオンの兄貴の側近をのしたしな!!」

「もしバアルが獣人なら獣はどれだよ?雷って確かネコ系が多いよな?」

「いや、確か蛇もあったぞ」

「珍しいが猿もあるぞ、尻尾の小さい猿なら外見も納得できるだろう?」

「「「お~~」」」


 なぜだか俺が獣人だったらどの獣になるかで盛り上がっている。


(こいつらはみんなこうなのか?)


 やたらとフレンドりーというか、一度遊びに行ったらすぐ仲良くするタイプだ。


「おう、みんな楽しんでいるか?」

「「「「「レオンの兄貴!?」」」」」


 レオンが近づいてくると、ほかのやつらが緊張し始める。


「すまんなバアル、ルウ、エルプス、こっちに来てくれ、すまんがこいつら借りるぞ」

「「「「「どうぞどうぞ~~」」」」」


 俺達はレオンに連れられて、主要メンバーがそろっている場所に集まる。


「それで?何の要件だ?」

「話ってのはお前の作戦についてだ、ルウが文句を言って有耶無耶にしたからな」

(そういやそうだな)


 ルウが話を遮って、レオンが悪乗りして模擬戦に移り変わったため、詳細はまだ話していない。


「で、俺と、ルウが蠍の『母体』を標的に、アシラとノイラ、エルプスが湿地帯の魔蟲、最後にキクカ湖にバアルと鰐やカワウソといった水辺で動ける獣人で問題ないのか?」

「ああ……なんだよ?」


 大丈夫だと言い切るのにエナ以外の獣人は不審げだ。


「そうは言うが本当に問題ないのか?」

「不安か?」

「正直不安だ、確かに力は見せてもらったが、それでもルウと同等という判断しかできない。仮にルウがおまえの立ち位置であるならば、儂らは絶対に止める」

「つまるところはもっと具体的に対策を教えてくれってことだ」


 ノイラもエルプス同様にもっと話を聞きたそうにしている。


「なら具体的に見せよう」


 不安が強いようで一つの実例を見せることにする。


 立ち上がり、投擲するように構える。


「『雷霆槍ケラノウス』」


 アーツを発動させ雷の槍を空高く投げ飛ばす。


「「「「おぉ~~」」」」


 雷霆槍は空高くまで上がるとその場で花火のように放電を始めた。

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