第136話 それぞれの成長

 次にセレナ対カルスとなる。


「負けても恨むなよ」

「はっ、年下に負けるほど弱くわないわよ」


 お互いに挑発しあう。双方とも戦闘は嫌いではないのでこうなるのも予想の内だった。


「魔法は無し、セレナの魔剣とカルスのユニークスキルは使用可能、あとは剣術のみ、これでいいな?」


 二人とも条件に異論はないようだ。


「始め」

「『輝晶剣』」

「『闇糸』」


 セレナとカルスは予想通りの動きをする。


 セレナの周りには三つの剣が浮かんでおり、カルスの指から十本の紫色の糸が出ている。


「飛べ」


 セレナのひとことで周囲に飛んでいる剣がカルスに向かっていく。


 カルスもそれに冷静に対処していた。


 腕を振るい、糸を剣に絡みつかせる。


コウ


 糸に絡まれたことにより、空中で止まった状態になる。


「セレナ姉さん、今日は勝たせてもらう!!」


 剣を止めるとカルスがセレナに向かっていく。


「まぁそうなるわな」


 セレナはいまだに『輝晶剣』という遠距離での攻撃を残している。


 対してカルスは最も範囲がある『闇糸』でも中距離での攻撃しかできない。となると早急に距離を詰めたいはず。


「セレナは引くのかしら?」

「一番無難ではあるな」


 クラリスの予想だと、セレナは距離を取り、安全を確保してから再び『輝晶剣』で攻撃すると読むのだが。


「はぁ!」

「「「「え?」」」」


 何を思ったのかセレナはカルスと同様に距離を詰め始めた。


「ラインハルト、剣術ではカルスのほうが上手だよな?」

「そのはずですが」


 ラインハルトも戸惑っている。なにせ接近戦ではセレナはカルスには勝てない。接近戦でも魔法を使えれば話は別だが、今のところセレナにそれができる技量はない。となるとセレナは自ら負けに行っている様にしか、俺達は見えなかった。


「俺の勝ちだ!」

「それはどうかしら」


 するとセレナは一つの短剣を取り出す。


「……あれは」


 モノクルを取り出し、鑑定してみる。


 ―――――

 崩闇の短剣コラプスダガー

 ★×6


【崩壊ノ闇】


 剣を持つものよ用心せよ、この剣に魅入られれば次の崩壊はその身に降り注がれる。

 ―――――


「『崩壊ノ闇』!」


 セレナの言葉で短剣から以前見た闇が出現し、カルスに向かって伸びていく。


「っ!?『飛雷身』」


 すぐさまカルスの近くに飛ぶと、襟首をつかみ、カルスを攻撃範囲外まで投げ出す。


「え?」

「バカが」


 すぐさまもう一度飛ぶと、セレナの腕をつかみ短剣を奪い取る。


「終了だ!セレナの反則負け」

「なんで!?」

「当たりまえだ、なんて危険なものを使ってやがる!!」


 これで切られていたら、カルスは真っ二つになっていただろう。









「さて理由を聞こうか」


 もはや慣れたという風にセレナは眼前で正座している。


「何か問題がありましたか?」

「……本気で言っているのか?」

「はい」

「これを使えばカルスが死ぬと考えなかったのか?」

「勝負ですよね?ならその最中で死ぬのは仕方ないことでは?」


 セレナを観察していると本心から言っているのがわかる。


「カルスが死んで、悲しいとか思わないのか?」

「そりゃ悲しいですよ、弟みたいに思っていますから」


 ここにいる全員が恐怖を覚えるだろう。言動が矛盾しており、セレナが完全に狂っているとしか思えない。


「お前は両親でも模擬戦で殺そうとするのか?」

「何言っているんですか、するわけないじゃないですか」

「……お前はカルスを殺そうとしたんだぞ」

「あれ?勝負ですよね?ならば仕方ないのでは?」


 セレナの言っていることが支離滅裂だ。


(まて、そういえば鑑定結果になんて書いてあった?)


『剣を持つものよ用心せよ、この剣に魅入られれば次の崩壊はその身に降り注がれる。』


 一つの考えが頭に浮かんでくる。


「リン、セレナに浄化を掛けろ」

「!わかりました」


 リンのユニコーンリングが輝くとその光がセレナに向かっていく。


「あれ、私……うぷっ」


 光が収まりセレナは何かに気付くと、その場で嘔吐する。











 とりあえずセレナが落ち着くまで待つ。


「現状は理解できるか?」

「はい、お手数をおかけしました」


 どうやらセレナは呪われた魔剣だと知らずに使っていたようだ。


「鑑定してくれとなぜ言わなかった?」

「なんででしょう?」


 自身でもなんで言わないか不思議がっている。


「とりあえず、さっきまでの自分がおかしかったのは理解できるな?」

「はい、本当にごめんね、カルス君」

「いや、いいよ、セレナ姉もなんか大変なことになっていたみたいだし」


 それからの話を聞いてみると、剣を拾った段階からの自分に違和感があるらしい。


「たぶんだけど、この短剣に興味を惹かれた状態で触るとさっきの私みたいになると思います」


 セレナは自分の状況を分析して最も高そうな可能性を示唆する。


「あながち間違いじゃないかもな」


 なにせ説明が『この剣に魅入られれば次の崩壊はその身に降り注がれる』だ、その可能性は十分にある。


「セレナはこれをどうする?」

「どうしましょう?呪われているのなら売ることもできないだろうし………」

「もしよかったら、俺が買い取ってやろうか?」

「「「「「「「え!?」」」」」」」


 すると全員がうろたえる。


「バアル様、大丈夫ですか?」

「まさかとは思うけどさっき、セレナから剣を取り上げた時に?」

「ありえます、どうかお気を確かに」

「私もかかっていたからわかるわ、本当にいつのまにか自分が自分じゃなくなるの気を付けて!」


 リンたちは大慌てで詰め寄ってくる。ほかのみんなも勘違いをしている。


「はぁ~疑うならセレナの時みたいに」


 といった瞬間、何度も何度もユニコーンリングの光が飛んでくる。


 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ

 ピカッ


「……うっとうしい!」


 何も言わずに何十回も飛んでくるので、目がチカチカとする。


「本当に大丈夫なのですね?」

「ああ、もとから俺はこれをすごいとは思ってない」


 なにせ振るっている間に『飛雷身』で近づき、攻撃すればいいだけだからな。


 そう説明すると全員が安堵の表情を浮かべてくれた。


「それでバアル様」

「ああ、そうだったな、金貨20枚でどうだ?」

「はい、お納めください」


 金欠のセレナからしたら金貨20枚でもかなりの大金だろう。


 亜空庫から金貨の袋を取り出して20枚を渡し、短剣を受け取るとそのまま亜空庫に放り込む。


「さて、模擬戦を続けるぞ」


 そう言うと皆あきれ顔になった。









 とりあえずセレナの呪いの事件は解決したのでそのまま、模擬戦を始める。


「次はノエル対カリン」

「はい」

「は~い」

「二人は一切縛りはなし、自由にやれ、危険になったら止める以上、始め!」


 始まりの合図を始めると、共にユニークスキルを発動する。


「こっちも予想通りだな」

「ですね」


 カリンは定石通り足の強化を行うとすぐさま突撃する、それに対してノエルは『闇糸』を広範囲に展開して守りの構えを見せる。


「止めます!」

「捕まえてごらん」


 すぐさま十本の糸がカリンに向かって迫るが。


 トッ


 カリンがさらに前かがみになると、さきほどよりもさらに加速して糸を潜り抜けていく。


「すごいな」

「カリンは身体強化系には天性の才能が有りますからね」

「そうね、正直リンよりも的確に魔力を配分で来ているわね」


 カリンの身体強化に関してはラインハルトとクラリスが文句なしと言う。


「今も目に魔力を送り、視力を強化しているわね」


 それによって、ノエルの闇糸を正確に見ることができているという。


「じゃあ、カリンの勝ちか?」

「それはどうでしょう」


 三人を鍛えているラインハルトがそうとは限らないと言う。


「カリンは確かに強化に関しては騎士団の中でも上位に位置します、が」


 視線の先で、糸を抜けた先で、カリンの片腕に闇糸が絡みつく。


「あっ!?」

「終了です」


 一度動きを止めてしまえば、ほかのすべての糸がカリンの四肢を拘束する。


「そこまで」


 カリンの首にも闇糸が巻きつけられたので終了の合図を出す。


「カリンは強化の達人と評しました、ですがノエルもカリンに負けないほどの才能が有ります」

「それは?」

「空間把握能力と予測能力です」


 ラインハルトの言葉だと、ノエルはその能力がずば抜けているようで。


 相手の動きを観察し、どのように動くかを予測、糸を操り、逃げ場を減らして追い詰めていくのがノエルの最も得意とする戦法なのだとか。


「下手をすれば私もやられる可能性すらありますからね」


 ラインハルトが負ける時点でかなりの実力者だと判明する。


「なるほどな、それだと、障害物が多い場所がノエルは得意じゃないか?」

「ええ、室内や鬱蒼とした森でノエルとはやり合いたくないです」


 限定的ではあるがラインハルトをも恐れる強さをノエルは手に入れていた。








「では次にリンとクラリスだが、双方やりすぎないように以上、始め」

「………もう少し何か言ってあげるべきでは?」

「あいつらに言うだけ無駄だよ」


 ラインハルトはそう言うが、あいつらほどになるといくら制限を付けても。


 ドゴン!


「ほらな」


 俺が合図をすると同時に、ほかの戦いでは聞いたことがない衝突音が聞こえる。


「そういえば」

 ギィイン!


「なんですか?」

 ドン!


「カルス達では誰が一番強い?」

 ドガン!


「そうですね」

 ガン!


 派手な戦闘音を尻目にラインハルトに三人のうち、だれが一番強いのか尋ねる。


「状況によりますが、カリン、ノエル、カルスの順番で強いと思います」

「理由は?」

「まず、カリンは強化の天才です。普通の戦闘では強化は汎用性が高いので一番強いという評価に」

「だがノエルはカリンに勝ったぞ?」

「それはあくまで何度も模擬戦しているのでカリンの癖を知っているにすぎません。最初はカリンに惨敗していましたから」

「なるほどな」

「次点でのノエルですがこちらもさっき言った通り、空間把握能力と予測能力があまりにも高い、経験したことがあるタイプの敵であれば間違いなく封殺できるでしょう」

「ちなみにカルスの評価は?」

「………正直微妙です」


 ラインハルトの説明だと、カルスのユニークスキルはノエルと同じ、と言うことはかなりの精密さが求められるユニークスキルなのだが。


「……カルス自身が精密操作とそこまで相性良くないです」

「脳筋気味だと?」

「一言でいえばそうです」


 ユニークスキルと性分がミスマッチしているせいで、そこまで実力は高くないという判断だ。


「あ、でも、セレナ殿に何かを聞いてからは少しだけ戦い方がマシになっていましたね」

「セレナがか………」


 セレナはリンとクラリスの戦闘を食い入るように見ている。


「まぁ好転しているなら何より」


 ……しかし、家の女性陣は強すぎる気がする。


 リンはもちろん、クラリスもバリバリの武闘派だし、セレナも好戦的ではないが実力は普通にある、ノエルとカリンもラインハルトの評価通り。


「カルスが一番弱いんじゃ苦労するだろうね」

「……そうですね」


 カルスへの同情はラインハルトも持っていたようだ。


 なにせ仲のいい三人のなかで唯一の男子なのに、一番弱いという結果なのだ。


「それよりも止めなくていいのですか?」


 再び訓練場を見ると、とんでもない荒れようだった。


 リンの斬撃が地面をえぐりながらクラリスに迫り、クラリスはクラリスで袖を振るうと同じような斬撃が起こり相殺する。


 そして接近戦になると、クラリスの拳をリンは受け止めるのだが、衝撃を逃がしているので一撃止めるごとに足元にひびが入る。


「あいつら、この修繕費はだれが払うと思っているんだよ」


 ということで終了宣言をする。


「「え~~」」


 クラリスと、なぜだか外野のセレナが不満の声を上げる。


「周りを見ろ、だれがここの修繕費を出すと思っているんだ?」


 以前リンとの模擬戦で壊した訓練場だがいつも通り公費で支払おうとしたのだが、壊しすぎるという母上の一声で自腹を切る羽目になっていた。


 おかげで訓練場が壊れたら毎回俺が払っている。


「金貨2、3枚だが払うか?」

「「………」」

「よろしい、では今回の模擬戦は終了だ」


 こうして今日の模擬戦は終了した。

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