第117話 帰宅と来訪
【念話】の指導が終わると俺も三人と同じ訓練に移る。
「それじゃあバアルも三人と同じようなことをしてみようか」
「了解」
イピリアに念話を送る。
『ほいよ』
返事があると同時に俺の周りに雷の球が浮かび上がり周回する。
「うん、全員出来たね」
三人も俺も全員それぞれの属性の球が周りに浮かび上がっている。俺は雷の球、セレナは土の球、ノエルは黒い霧の球、カリンは火の球を周囲に浮かべている。
これで全員が課題をクリアし、俺たちはつぎの指示を待つのだが。
「それじゃあ訓練終わり」
「………はぁ?」
アルムはなんと訓練はこれで終わりだという。
(手抜きか?)
「もちろん手抜きじゃないよ」
心を読んだかのようにアルムは答えてくれる。
「精霊魔法はどこまで行っても自身の意思を相手に伝えて事象を起こす、これだけなんだ」
つまり精霊に意思を伝えられるようになった段階で教えられることはないということだ。
「あとはそれぞれで研鑽してもらうしかないね」
これにて精霊魔法の訓練は終了した。
訓練が終わったその後はアルムからテーブルゲームに誘われた。
もちろん理由は仕事をさぼりたいからに他ならないが、友好的に見せるために誘いに乗る。
「そう言えば神樹の実は手に入れているんだよね?」
「ああ、既に食べたけどな、もちろんアルムからもらったやつは取ってある」
俺が食べようとすれば当然イピリアが反対した。どういう効果があるかを考えれば当たり前の反応だった。
「てことは花弁は手に入れてないのか?」
花弁?
「これのことか?」
亜空庫からイピリアが取ってきた花弁を見せる。
―――――
神樹の花弁・金糸雀
★×5
一年に一度、神樹にささげられた魔力を栄養に生まれた花びら。ささげられた魔力により色が変わる。色合いと同じ属性に対して耐性を持ち、加工するとそれその物に耐性が生まれる。
―――――
モノクルで見たらこのようになっていた。
実よりは価値が低いがそれでも★×5の価値がある。
「それでこれがどうした?」
「いや、君はそれをどうするんだろうなと思ってね」
使い道と言われていても物自体を初めて見たので思い浮かぶわけがない。
「今のところ売る以外ないな」
薬品にもできなさそうだし、繊維にして加工という手段も知らない。
(あとは観賞用とかしか思い浮かばないな)
これ単体でも美しさを感じさせてくれるので、飾りつけるのには最適そうだった。
「もしよかったらこっちで加工しようか?」
「ん?いいのか?」
「もちろんさ、他のも一気にやっちゃうから一枚増えてもほどんど変わらないさ」
一枚も二枚も関係ないと言ってくれる。
「ちなみにノストニアは何にするんだ?」
「染料か酒だね」
話を聞くと染料は塗った物に対して少しだが耐性を付与するもので、酒は飲んだら一時的に色合いの属性の耐性が付くのだとか。
「それ、染料の方が良くないか?」
長く使える染料なら、短期間で終わる食用酒よりも価値があると思うんだが。
「あ~まぁ効果が同じならそうなんだけどね」
染料の方は耐性が激減するのだとか。
「酒の方は、火属性のお酒を飲んで酔っ払った一人が溶岩で泳いでいたって話があるくらい耐性が強くなる」
その話が本当なら、たしかにそれなら酒のほうが有用性ありそうだ。
「どれくらいかかる?」
「作るのに約二日ほど、そしてあとは熟成させるのに一年以上かな」
別に今すぐ飲む必要はない。楽しみは取っておくものだ。
「うまいのか?」
「神樹の花弁で造ったお酒だよ、極上の甘露さ」
味も千差万別でとてつもなくおいしいのだとアルムは言う。
話を聞けば迷う。
「どの耐性になるかわかるか?」
「この花弁だと強力な【雷耐性】と若干の【風耐性】だね」
となると答えは一つとなる。
「酒にしてもらっていいか」
雷の耐性なら俺自身が既にかなりの物を持っていて、風属性に関してはリンがいればほとんどの事に対処が可能となるだろう。
「了解だ、飲むときは僕も呼んでくれよ」
アルムと酌み交わす約束をし、酒ができるのが待ち遠しく思う。
それから数日、グロウス王国に行く日がやってきた。
「この度は招待していただきありがとうございます」
「楽しんでもらえたようで何より」
城の門前で僕たちは出立のあいさつに来ている。今は父上がアルムに対して最後の挨拶を切り出しているところだ。
(っアルム!)
だが、今俺は表面上は取り繕っているが、内心ではアルムのことを睨んでいる。理由はお酒にあった。
(確かに俺は子供だがな!!そこはこっそりと俺に渡せ!!)
よりにもよってアルムは両親がいる前でお酒を渡しに来た。すると当然母上が見逃すわけがなく、没収と長時間の説教を喰らう羽目となった。
(いつかやり返してやるからな)
「バアル君」
父上とアルムが挨拶している間、内心でアルムに何とか仕返ししたいと考えていると、俺の下に先王様がやってくる。
「クラリスを面倒見てやってほしい」
「はい、もちろんです」
先王の顔は心配そうだがうれしそうな顔になっている。
「クラリス、何かあったらいつでも戻ってらっしゃい」
「はい、ママ」
クラリスはクラリスでノストニアの皇太后様と抱き合っている。
(なんか本当に嫁に出す雰囲気だな)
あくまで問題に巻き込まれないように婚約しているだけと知っているのか、と尋ねたくなるほどまでに皇太后様の雰囲気が様になっていた。
そして一通りのあいさつが終わったのか、俺たちは馬車に乗り込んでいく。
「ではまた来てくれ」
「お世話になりました」
こうして俺たちは国に戻っていく。
「はぁ~ようやく戻ってきた」
あれから半月ほどかけてゼブルス領まで戻ってきた。
「…………やっぱりたまっているよな」
自分の執務室に移動すると一メートルはありそうな書類の山が三つほど。
「やるしかないか」
「では紅茶を持ってきます」
リンが気を利かせて紅茶を取りに行った。
「さて始めるか」
学園が始まるまでにすべての書類を片付けて、今回の件の報告書を作り、北の交易町の問題点を挙げて始める。
ちなみに交易町にあったイドラ商会を覗くと何とか運営できていた。緊急で店員を派遣し、店の状況を把握させ立て直し作業を行わせるのだが、臨時の店長が意外な手腕を見せてくれた。
(案外にいい人材だったな)
あの臨時で店長にしていた彼女は、頭角を現し、すでに派遣した店員も必要なかったかというほどに手腕を発揮していたと聞く。
ちなみにだが、問題を作ったあの豚だが縛り首にしておいた。今頃、首が腐るまでさらし首になっていることだろう。
(ローグもどうやら待ち人に会えてたな)
交易町に帰ってくるときにはローグが到着しており、ルリィと護衛と一緒に町を回っていたのを見れた。
「あとはこれの使い道だな」
アルムからもらった四つの果実、これを誰に食べさせるかだ。
(まぁ一年は放置しても腐らないって聞いたし置いといていいか)
果実についてはこのまま亜空庫にしまっておく。
書類を処理していると、窓から優しい風が入り込むので、気晴らしに窓の傍で外を見る。
セレナは訓練場で精霊魔法の練習をしていて、カルスたちは一室でメイドや執事から様々なことを習っている。
母上は外でアルベールとシルヴァを見て笑っていおり、執務室では父は机でだらけている姿もくっきりと見える。
コンコンコン
「紅茶をお持ちしました」
リンがワゴンを引きながら室内に入ってくる。
「私もいるわよ」
開いた扉からクラリスも続いて部屋に入る。
「うわっこの書類の山を一人でやるの?」
クラリスは驚いているがいつものことなので問題ない。
「それでどうした?」
「なんかまだ慣れないからリンにくっついてきただけよ」
やはりクラリスは偏見の目で見られている。エルフと言うこともあるが、その美しさに充てられているのだろう。
「そこは慣れてくれとしか言えないな」
こればっかりは馴染むまで時間がかかる。
「それでどうだ?何か暮らしにくい点はあるか?」
一応婚約者と言うことで俺に近い部屋の一室をクラリス専用の部屋に手配していたのだが、なにせ様式がノストニアと違いすぎるため不便な部分もあるかもしれない。
「全くないわ、むしろ快適なぐらいよ」
だが予想とは裏腹に、生活の違いに苦労しているか尋ねると即座に快適だと返答してくれる。
「どうぞ」
リンが紅茶をいれるとテーブルにおいてくれる。
「クラリス様もどうぞ」
「ありがとう」
紅茶を飲むと俺は書類を片付け始める。
リンはソファーに座りながら武器の手入れを始め、クラリスはソファーに寝転がり図書室から持ってきた本を読み始める。
普通に仕事をしているのだけなのだが、なぜだか、この空間が気持ちよく思うのは気のせいではないだろう。
『……………頼む助けてくれ』
そんな中、外とからウルの思念が飛んでくる。
窓を開けてみると庭の真ん中で黒子ライオンと弟妹に引っ付かれているウルの姿がある。
もちろんそばにメイドがいるので心配はない。
「ウルよ、そなたに幸多からんことを」
キャイーーーーーン!!!!!
つぶやいた言葉とウルの悲鳴が重なったことに俺たちは思わず笑ってしまう。
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