第97話 ウォーミングアップ
「…………バアル様、加減してあげてくださいね」
審判役を買って出てくれたラインハルトが何度も念を押してくる。
「わかっているよ、最初は俺からは攻撃を仕掛けない」
準備が終わると早速4人と模擬戦することになった。
最初はセレナ戦。
「では、はじめ!!」
「【輝晶剣】!!」
戦いが始まるとセレナはすぐさま自分の周囲に3つの輝晶剣を生み出す。
「へぇ~三つ出せるようになったか」
以前は二つしか出せなかった。セレナの話では最大で七本出せるようになるらしいが、それはまだまだ先の話だろう。
「はい、でも手加減はしません!!」
そう言うと一つが俺に向かって飛んできて、残り二つがセレナの周囲で回り防御に徹している。
キィン、キィン、キィン
弾いても弾いても再び空を飛び、切りかかってくる。
(普通ならば厄介に感じるところだな)
いつまでも纏わりついてくる剣はなかなかに鬱陶しい。
剣を振り切れない、もしくは壊せないならかなり厄介だ。
(俺も『飛雷身』がないなら、かなり厄介だっただろうな)
だが今回は模擬戦、俺はユニークスキルを使わないで決着をつける必要がある。
「『パワークラッシュ』」
バキッ
「!?」
地面に叩きつけるよう衝撃を喰らわせるとさすがに砕ける。
そして砕けた剣はその場で消失していく。
(さすがに壊れると消えるのか)
破片がまた飛んでくるなんてことが無くてよかった、さすがにそれだと打てる手が無くなる。
「ふっ」
即座にバベルを構えながら接近戦に持ち込む。
「!?、行け!!」
残り二つもこちらに飛んでくるがすぐさま同じように砕き壊す。
「ほらどうする!」
「『
セレナは落ち着いて俺が通る場所に魔法を発動させる。
この魔法は見たことがある。サルカザが使っていた土魔法だ。
俺が足を踏み込んだ場所を中心にトラバサミみたく土が盛り上がる。だがサルカザとの違いは岩には棘がない、さすがに模擬戦と言うことで自重したのだろう。
(となると)
軽く走り、棒高跳びのようにバベルを下に付きたてて空中に逃げる。
「これなら!『
空中にいることに加えて今は無手であることが好機と思ったのか、10個の土の塊を作り出し、俺に向かって射出する。
「『紋様収納』」
すぐさまバベルを紋様に戻し、取り出す。こうすることで瞬時に手元に持ってこれるのは履修済みだ。
「うそ!?」
飛んでくる土塊をバベルで砕き落とす。
(飛雷身が使えればかなり楽なんだが…………ダメだな、俺もかなりユニークスキルに依存しているな)
使えないのが歯がゆい。だがそれだといざ使えない時に困ってしまう。
(ユニークスキルを使えなくさせることはできないとされているが完全に証明はできないからな)
完全な証明ができれば俺もユニークスキルに依存しても何の問題もないのだが。それを証明することなど不可能に近い。
とりあえず地面に降り立つと、またセレナに向かって走り始める。
「『ロックファ』」
「『
セレナが再び魔法を発動させる前にこちらも魔法を飛ばす。
「っ」
雷の初級魔法『ショック』は威力は弱いが、発動がとてつもなく速い。
それゆえに邪魔をする際には最適な魔法だ。
「『
『
二つの魔法が同時に発動する。
「魔法の同時発動か」
セレナのユニークスキルなら簡単にできるだろう。
俺のショックは土壁に防がれ、再び俺の周りが盛り上がる。
(埒が明かない)
【身体強化Ⅱ】を使い、強引に魔法が完成する前に駆け抜ける。
土が盛り上がるが助走をつけたジャンプで乗り越えることができた。
「ええええ!!!」
驚いてはいるが既に新しい魔法を構築している。
「『
セレナと俺の間に火の壁を生み出し、進路を妨害する。
(右、左……いやここは)
〔~セレナ視点~〕
私は何とかバアル様を遠ざけようとする。
(ラインハルトさんに教えてもらっているけど近接戦はまともに戦えるとは思えない)
なので勝利するには出来るだけ、距離を取り、遠目から完封するしかない。
今は
(右、左………どちらにしても準備しておかなくちゃ)
私は『三重思考』を発動して考えられる数を三つにする。
一つは体の制御、一つは右に向けての魔法の準備、最後は左に向けての魔法の準備。
(片方から来たら反対側の思考を戻して距離をまた取らないと)
さらに予備で魔法を準備できるようにもしている。
「……【輝晶剣】」
再び剣に魔力を流して複製剣を防御用に作り出し構える。
(さてどう来る)
『―――』
なにかの声が向こう側で人の声が聞こえる。だた火の音に邪魔されてなんて言ったのかはわからなかった。
(だけど……来る)
一層集中する。
ダッダッダッダッ
微かに聞こえる足音から方向を読み取ろうとする。
(え、これって)
足音が聞こえてくる方向はなんと
ドパン
なにかが火の壁を通り抜けてくる。
「やば」
すぐさま二つの思考を輝晶剣と体の操作に切り替える。
ギィン
「っ~~~」
手が痺れるが何とかハルバードの一撃をいなすことができた。
すぐさま輝晶剣を操作して纏わりつかせる。
(このうちに距離を)
バキッ、バキン!!!
と思ったが、輝晶剣がハルバードの一撃ですべて砕かれた。
「きゃっ!?」
振られたハルバードを何とか防ぐのだが、すぐさま次の一撃で剣が吹き飛ばされる。
「そこまで!!!」
ラインハルトさんの言葉で負けたことを理解した。
〔~バアル視点~〕
「ふぅ~~」
濡れた髪をかき上げる。
「しかし思い切ったことをしましたね」
ラインハルトが言っているのは火の壁に突っ込んだことだ。
「特大の『
「本当よ、普通火の壁を突き抜けるとは思わないわよ…」
「お前のユニークスキルだと左右どちらに通ってもまた距離を取られると思ってな」
今回の枷だと俺がセレナを追い詰めるのは長くかかりそうだったのであのような方法を取ることにした。
「しかし、接近戦にも怯まない様になっていた………頑張ったな」
「!!!!」
セレナはうれしそうな顔になる。
「じゃあ次は……三人でいい感じになるか?」
俺は緊張している三人を見る。
「そうですね、バアル様は武器を木製にして魔法とスキルを禁止でしたら……………ちょうどいいかと」
ということで
カルス&ノエル&カリンVS俺(ユニークスキル×魔法×スキル×武器訓練用木製槍使用)
となる。
ブン、ブン
「うん、いい感じだな」
訓練用の槍を何度か振るい感覚を確かめる。
「そっちは準備いいか?」
「はい」
カルスが元気よく返事をする。
だが残り二人は少し気まずい顔をしている。
(まぁ雇い主を好んで殴る奴なんていないからな)
二人の気持ちは少しだけ理解できる。
「遠慮することはない、存分に力を見せてみろ」
そう言うと少しだけ堅さが無くなる。
「では、はじめ!!」
ラインハルトの合図で始まる。
「はぁ!」
「たぁ!」
まず最初にカルスとカリンが襲い掛かる、だが腕前はそこまででもないので二人の剣を躱すのは容易い。
ちなみに装備はカルスが剣と短剣、ノエルが二本の短剣、カリンがラインハルトと同じ双剣となっている。
まずフォーメーションとしては前をカルスが受け持ち、後ろをカリン、そしてノエルが遊撃で様々な方面から攻撃を仕掛けてくる。
カツン×2
「やぁ!」
カルスとカリンの攻撃を同時に受け止め、槍が動かせないタイミングでノエルが仕掛けてくる。
「ほっ」
瞬時にカルスの剣の柄を蹴り、剣を飛ばし、槍を回転させてカリンの剣を受け流し、次にノエルの短剣を受け止める。
「うん、悪くない」
リンのように幼いころから鍛えたでもなく、セレナのような知識があるわけでもない、この三人はある意味で普通だ。
「っノエル、カリン」
「わかった」
「了解」
遂に三人はユニークスキルを発動させる。
カルスとノエルは指先から紫色の糸が、カリンは足が赤色に光る。
(カリンのユニークスキルは初めて見たな)
ラインハルトの説明だとカルス達よりは能力に幅はないが充分使い勝手がいいスキルだと聞いている。
「っと」
考え事をしていると糸が迫ってくる。
(拘束でもされたらさすがに厄介だな)
手加減された状態だと拘束されて、囲まれるとさすがに負ける……かもしれない。
「ふっ」
槍で迎撃するが、時折針のように固くなるので始末が悪い。
(……これがバベルとかだったら折れる心配もないんだけどな)
今は木製の槍を使っており、負ける条件が戦闘不能状態になったらとある。これには武器の消失も含まれているので壊すことができない。
(俺があいつらの武器を壊してもあいつらはまだユニークスキルが使えるしな…)
程よく手加減するのもなかなか骨が折れる。
(あれ、カリンは…)
考える前に腕が動き右側頭部を守る。
ドン
そしてそこに衝撃が与えられる。
「そんな!?」
いつのまにか移動したカリンがスカートを翻しながら飛び蹴りしてきた。
「気づかなかった」
少し目を離したすきにここまで迫れるとは思わなかった。
「……速度上昇か」
カリンのユニークスキルはこれ一点に限られる。もっと言うと足の限定的かつ飛躍的強化だ。
この世界の速度はAGIに依存しているのではない、前世の通り足の筋力や走りのフォームといった理にかなった理屈になっている。
ただ、それは見えているだけで動けるわけではない。
動くには
(ゲームみたく極振りのステータスだと一発で詰むからな)
ほどよくステータスを割り振るのがこの世界では強いとされている。
思考を戻しカリンを観察する。
(ラインハルトよりも攻撃の幅が広いな)
双剣に加えて、不規則な足技を組み入れてくる。
さらには跳躍力も強化されているので俺の真上を飛び越えるなんてこともできている。
(さらに厄介なのが…)
カリンの攻撃の合間に襲ってくる縦横無尽の糸だ。
二人はカリンに合わせて糸の攻撃を仕掛けてくる。
(コンビネーションは合格、あとは個々の力だな)
と言うことでこっちからも打って出る。
「ふっ」
「!?」
糸を薙ぎ払うのを意識しつつ、突きではなく体を中心に槍を回転させながら流れるように連撃を与える。
カカン、カン、カン、カン、カン!
右に打ち付け、すぐさま反対側に槍を回し、そのまま勢いを付けて左から殴打する。
また合間を与えず回転させて、次に槍の長さを調節し、もうひと回転し勢いを付けてまた右に強打する。
「ぎゅ!?」
何とか剣で防いだようだが、流れる連撃で乗せられた衝撃を受けて少し転がってしまい、カリンは気絶する。
(一人は終わり、次は…)
カリンを見て動きを止める二人。
(戦闘中にそれはダメだ)
すぐに二人ははっとするが既に俺はノエルに迫っている。
カン、カン
「きゃ!?」
「そこまで!!」
短剣を弾き飛ばし、槍を突き付けることでラインハルトはノエルを戦闘不能とみなす。
「最後にカルスだな」
「……ふぅ~~」
カルスは覚悟を決めた目をする。
「じゃあ行くぞ」
「ん!?」
カン!!!
突きは短剣で防がれ、剣が振るわれる。
カン!
すぐに槍を引き戻し受け止めと同時に、身を捩りそのまま槍を回転させて胴体に打ち付ける。
だが
「『武装糸』、っが!?」
「おっ」
打ち付けた胴部分には紫色の糸が集まり鎧のようになっている。
「はぁ!!!!」
懐に入られた状態なので槍で剣を防ぐことはできない。
なので仕方なく槍を手放しすぐさま距離を取る
「お~」
「っ~~~まだ!ま、だ…」
カルスは追撃に入ろうとするのだが、腹部を押さえて倒れこむ。
「……もう起きれないか」
最後の最後でしてやられた、カルスが倒れなければ戦闘続行不能ということで俺が負けていた。
「(予想より強くなっているようで何より)さて『慈悲ノ聖光』」
バベルを取り出しここにいる全員を癒す。
この場にいる全員の傷が癒え、気絶している者も目を覚ます。
「さて、お待たせ」
「いえ、体が温まったようで何よりです」
最後に本命であるリンの相手をする。
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