第86話 思いがけない事態

 雪山の中を駆けていくと断崖絶壁の一部にたどり着いた。


「魔力はあそこにつながっているわ」


 クラリスの指さす場所には洞窟があった。


「空を飛べるならではか」


 だがそこに通じる道などなく、この断崖絶壁を上るか、空を飛ぶしか方法がない。


 そんな崖を見上げ、大体の距離を測る。


「……100メートルほどか」

「どうやって上がりますか?」

「聞く必要もない」


 俺は『飛雷身』で洞窟まで飛ぶ。なにせ見えているのだからロッククライミングをする意味がない。


「もう、本当に……」


 何かつぶやいてからリンも風を纏って上がってきた。


「お二人は大丈夫でしょうか」

「……大丈夫みたいだ」


 下を見てみると崖に矢を射て足場にして、駆けあがってくる二人が見える。


「まったく、変に魔法とかを使わないでよ」

「そうですよ、今回はユニークスキルだったから魔力があまり要らなくて助かりましたけど」

「それはすまない」


 俺は崖に刺さっている矢を見る。


「何で矢を足場にできるんだ?」


 少し力を入れたら折れるほどの矢なのに足場にできている。


「矢に魔力を籠めたからね、魔力が抜けない限り硬いままよ」


 そう言い、魔力を籠めた矢を渡してくる。


「……確かに硬い」


 折ろうとすると、感触はまるで鉄でできた矢のようだった。


「……おっと」


 だが次第に柔らかくなっていき最後は折れた。


「時間にして30秒か」

「加えた魔力によってはさらに短くなるけどね」


 疑問が解消されたところで先に進む。








「天然の洞窟じゃないなこれは」


 中を進んでいくと篝火や炬火を置くような場所が多々ある。


 それに道も通りやすいように一本道になっている。ただそのため。


(もし俺が相手ならそろそろ罠を仕掛けるが)


 入り口から程よく離れて暗くなっている、いまはウライトが火の玉で照らしているとはいえ隅々まで照らしている訳ではない。


(入り口からある程度進んで、何もないとわかれば警戒心も薄くなる)


 油断を誘うには絶好のタイミングになるが………


 ビシュ!


「ふぁあ~」


 ジャギン!


「ふむ、人の罠はこのような物ですか」


 ゴォオオ!


「見え見えですよ」


 クラリスは欠伸しながら飛んできた毒矢を手掴み、ウライトは横から出てきた鎌を火で溶かし、リンは『流水の籠手』で生み出した水で炎を防ぐ。


 ガゴン!


「おっと」


 落とし穴を作動させてしまったので前方に『飛雷身』で飛び回避する。


 こうして俺たちはいちいち解除なんてまどろっこしいことはせずに体を張って突き進んでいく。








「ここって……」


 程よく進むと広い空間に出た。


(…………天然の鍾乳洞だなこれは)


 長年かけて作り出されたであろう鍾乳石からピチョンと水が落ちる音が聞こえてくる。足元にも滴り落ちた水が小さな水たまりとなっており、踏み抜けば水の音が反響して聞こえる。


「この場所を知っているか?」

「いえ………こんな場所があるなんて」


 クラリスやウライトもこの場所は知らなかったようだ。


「どうだ、まだ追えるか?」

「……少しだけ微妙になるわね」

「そうですね、虫や蝙蝠がいますので今までよりは精度は落ちます」


 二人の眼には先ほどよりも魔力の道筋が歪んで見えているようでここからは慎重に進む。


「リン」

「わかっています」


 さらには敵の警戒のためここからはリンの足具も使っていくことになる。













カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ


「よくここまで繁殖したな」


 俺達は現在百足の群れに囲まれている。


 ――――――――――

 Name:

 Race:強襲百足アサルトセンチピード

 Lv:7~9

 状態:空腹

 HP:240/240

 MP:120/120


 STR:20

 VIT:35

 DEX:30

 AGI:15

 INT:5


《スキル》

【牙:7】【蛇行:7】【熱感知:11】【硬化:22】【壁走り:7】【穴掘り:19】

《種族スキル》

【退くこと知らず】

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 ステータスはそこまで高くないがとにかく数が多い。


 魔力で追跡している関係上、範囲攻撃はできない。


「ふっ」


 スパン!


「はぁ!」


 ゴン!


 リンの斬撃は百足を両断し、クラリスの拳は百足を粉砕する。


 俺もバベルで振り下ろすが……。


 ガゴン!


 鈍い音を立てて百足を砕く。


「チマチマとしてられないのに」


 部屋全体を埋め尽くすほどの百足がいるのに、さらには横穴から続々とおかわりが出てくる。


「まずいですね、このままだと百足たちの魔力で埋め尽くされます」

「……ウライト、今見えている道筋を覚えろ」

「どうするつもりですか?」


 言わずともわかるだろう。


 このままでは全滅だ、なら捜索を中断してでも助かる方がいい。


「『真龍化』『怒リノ鉄槌』」


 広範囲攻撃は使わず、単体の処理速度を上げる。


「っふ」


 軽く触れただけでそこから灰になっていく。


「ではこちらも『蝕風』!!」


 リンは薄黒い風を放つ。


 キシュウゥゥゥゥゥ!


 その風に触れた百足は風に纏われ体の外側から削られていく。


「おい、リン、魔力はあまり使うなよ」

「わかっています」


 風は連鎖していき多くの百足を削り取る。


「埒が明かない、このまま突っ切るぞ、どっちだ!」

「こっちよ」


 俺達は無理やりに百足の群れを突っ切る。


「『天雷』」


 追いかけてくる百足に特大の電撃を喰らわせる。


「ちょっと!?ここが崩れたらどうするのよ!?」

「何もしなかったら追いつかれるぞ、一応地面に影響が出にくい雷属性を使ったんだ文句を言うな」


 それから俺たちは各々で全力で移動して百足の群れを振り払う。


 そのままウライトの指し示す方角に移動すると、いくつもの横穴が見える。ウライトが指示した方角にある洞窟に入る


「ここまでくれば問題ないだろう………………?」


 後ろを振り返るが誰もいない。


「……まさかはぐれた、のか?」











「ちょっと落ち着きなさい!!」

「ですが、バアル様が!」

「今あなたが戻っても意味ないでしょう!」


 私は今来た道を戻ろうとするリンを必死に止める。


 なにせバアルは私たちよりも速く移動してしまったため入る場所を間違えていると伝える前に違う道を進んでしまった。


 さらにはムカデの大群が洞窟の入り口を塞ぐようにしているため、そちらに移動することも難しい。


「お二方、落ち着いてください。ここで騒いでも意味がないですよ」

「っっ」

「考えてください、バアル殿が我々とはぐれたと知ってもと来た道を戻るでしょうか?」

「……戻らないですね」


 リスクを考えて戻る選択肢は取らないとリンさんは言う。


「そうでしょう、でしたらバアル様も前に進んでいるはずです」

「そうよ、この洞窟は入り組んでいるみたいだし、前に進めば見つかるかもしれないわよ」

「っ………わかりました」


 何とかリンさんは冷静になってくれた。


「では急いで進みますよ」

「あっちょっと」


 先走るリンさんを追って私たちも洞窟を進む。
















 リィン、リィン


「じゃあいつも通り頼むな」


 コクン


 先ほどまではユニークスキルで帯電していたことにより光源を確保していたが、それでは魔力消費が激しい。なのでコストパフォーマンスが高いコール・オブ・ジャックで灯りを作り出してもらう。7つの明かりを出し終わるといつも通りジャック・オー・ランタンは消えていく。


「さてあいつらと合流するにはどうしたらいいか……」


 悩みながら足を進める。


(戻るのはあの百足どものせいでリスクがある。そしてどこではぐれたかも俺は分かっていない………となると前に進むしかないか)


 もちろん毒ガスや酸素があるかなどの心配はあるが俺に取れる手段は進むしかない。


 それになにより


「出口も分からないから、どっちに進んでも同じだな………」


 クラリスたちが魔力を辿って帰れる、と言っていたので帰り道も記憶していない。


「はぁ~~冬に入ってから不運が続いているな」


 いままでを思い出す。


(急に王宮に呼び出され、断ったら商人がおいしい話を持ってくる、それでノストニアに言ったらクラリスに殴られそうになり、なんやかんやあって誘拐組織を潰すことになるわ、終いには洞窟で迷うことになった。もう本当になんだかな)


「……まさかこれ以上不幸にはならないよな」


 まさかと心の中で思いながら先に進む。


 歩いている道は道中と大して変わらないが、やや下り坂になっていた。そのため、少しだけ歩きづらい。


(何ともないよ、な?)


 嫌な予感という物が働いたのか、そんな考え事をしていると。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 突然、背後から嫌な音が聞こえる。


「あ~振り向きたくない」


 仕方なく振り向くとかなり後ろの天井から大量の土砂が降って来ていた。そして今いる道が下り坂だということを理解していればどのような事態になるのかは明白だった。


「っ『真龍化』」


 即座にステータスを上げて道を駆け抜ける。


「なんなんだよ!!!!!!」


 ここが明るい場所なら『飛雷身』で飛べるのだが真っ暗で見えない状態により使うことができない。


 宙に浮いていた灯りは『真龍化』したスピードについてくることはできずに土砂の中に消えていく。


 そして今ある光源は自身の雷しかない。なのでそれですべてを照らせるかと言われると否、帯電はしているが光量がとても不安定になり、それゆえに時折視界がひどくなる。


 なので


「っはぁ!?」


 不安定な足場となれば踏み外すのは必然。


 そのまま勢いのまま転がっていき、何かを突き破ってどこかに放り出される。


「なに、が、ブッ!?」


 ドポン!!


 数秒の間に自由落下していくと着水した。


「ブハッ!?」


 急いで水面に出ると顔を拭い状況を確認する。


 落ちた場所は円柱の空間で、さながら水を入れてあるコップの中にでもいる気分だ。壁には青白い鉱石が光っており光源には困らず、周囲を見渡せる。そして特徴的なのは中心部分にぽつんと存在している浮島らしきもの。


 ザァーザァー


「……俺はあそこから落ちて来たのか」


 周囲を観察していると俺が落ちてきた場所であろう穴からは大量の土砂が落ちてきている。


 とりあえず水の中を移動して唯一自ら上がれる浮島に移動する。


「ふぅ~服がビショビショだな」


 亜空庫から代えの着替えを取り出しこの場で着替える。


「にしてもなんでこんな場所があるんだ」


 この空間は明らかに人工の場所だった。


 今いる浮島は石畳が敷き詰められておりその先には鳥居と小さな神社が建てられてあった。


「変な場所だし、何を祭っているかも不明だな」


 やしろに入るが、石像が破壊されていてなんの神社かよくわからない。


 いくつか見まわすと、壊れている石像の一つに不自然な部分があった。


「なんだこの窪み」


 岩の一部が削られて祭壇のようになっている。


「……台座だけか」


 明らかに何かを置くような場所があるがその部分が空だ。


 残念ながら原形を知らないので何が入っていたかわからない。


「面白い場所だが、そろそろ外の道を探さないとな」


 コツン


 動き出そうとすると足に何かがぶつかった。


「……なんだこれ?」


 転がっていたのはひび割れたビー玉らしき物体。


 ―――――

 壊れた精霊石

 ★×1


 精霊が住み着いていた精霊石。だが壊れてしまい精霊が住み着けなくなったもの。

 ―――――


 不思議に思って鑑定した結果、これは精霊石だと判明した。


(そういえば、俺も一つ持っていたな)


 亜空庫から『空の精霊石』を取り出す。


「……使い道もないし、これで勘弁してくれ」


 俺は持っていた精霊石を嵌めこみ、壊れた方は亜空庫に仕舞う。


「さて出口を探すか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る