第52話 裏付けされた実力

 事の発端はとある裏組織の魔物売買が原因だという。


 その組織は裏カジノの闘技場用魔物を調達していたのだが下っ端が暴走して闘技場用に合わない魔物であるワイバーンを用意してしまった。


 闘技場ではどちらが勝つかの賭けをするのだが、強すぎる魔物では賭けにならない。


「場所は取るし、維持費は莫大だ、持っているだけで損する魔物でな」


 さらには暴れた場合に対処する人員も必要となりかなりの負債を抱え込んでしまう。なのでイベントで一儲けして清算を付けたいのだという。


「で、そんなアホな奴らでもかなりの規模でな、潰れると少し厄介なんじゃよ、それにかなり大きな催しになるだろうしな」

「ふ~ん、だがお前たちのメリットは何だ?」

「ふふ、それは言えんよ、でどうする?受けるか?」

「……」


 ジェナさんは返答に困っている。


 それもそうだろうそんな危険な魔物と戦うのだ、下手すれば命を落とす可能性がある。


「あのさ、それ、俺達でもいいか?」


 突如としてオルドが声を出す。


「オルド!?何を」

「アーク、俺達ならやれるって」

「けど……」

「自信があるのかね?」

「ああ、俺達五人が集まれば怖いものは無いぜ!!」

「だが負けが解っている戦いなど賭けが成立せんよ」

「負けると決まったわけじゃないはずだ!!」

「オ、オル」

「じゃあワイバーンを倒せると?」

「わかんねえけど、トロールなら倒したことがある!!」


 この言葉を聞くと老人は嫌らしい笑みを浮かべる。


「なるほど、では五人いればトロールは倒せるんだな?」

「ああ!!」


 オルドを止める暇がなく話は進んでいく。


「ジェナ、条件は変更じゃ、この五人が闘技場に出ること」

「………いいんだな?」


 ここまで来たら腹をくくるしかない。


 僕は頷く。


「……もうどうにでもなれ」

「よし、では裏オークションへの紹介状は作っておこう」


 こうして僕たちは裏オークションに参加できるようになった。













「なぁお前たちは本当にワイバーンに勝てると思っているのか?」


 建物を出ると怖い顔をしてこちらを見るジェナさん。


「行けるって、俺たちはトロールも倒したことがあるんだぞ」


 オルドはそう言って胸を張るのだが。


「バカが!!」


 オルドの頭に拳骨が落とされる。


「ってーーーーーーーー!!!!」

「トロールが10匹いてもワイバーンに勝てるわけないだろう!!」

「で、でも」

「それにな、トロール一匹程度なら私一人でも余裕で討伐できる。だがな、ワイバーンは一人ではかなり厳しい、それに比べてお前らはどうだ?トロールに傷一つなく勝つことができるのか?」


 これには僕たちは何も言えなくなる。


「……決まったものはしょうがない」


 そういうと何も言わずに歩き出す、僕たちはその後ろをついて行く。


「……なぁ、俺ってやっちまったか?」

「正直ね……調べもせずに頷くべきじゃなかったかな」

「……スマン」


 たしかにトロールを討伐をしたことはある。だがあれは一歩間違えれば誰かが死んでいた戦いだった。ジェナさんの言葉が本当ならワイバーン一体でトロール十体を倒せるという、そんな存在に僕たちが勝てるとは到底思えない。


 そのままジェナさんの後ろを歩いて行くと見慣れた建物に着いた。


「ここって……」

「ああ、冒険ギルドだよな?」


 ジェナさんは受付で何かを話し込むとこちらに戻ってくる。


「お前らの武器は何だ?」

「えっと……僕は剣と盾で」

「俺は籠手で格闘だ」


 僕たちが使う武器を聞くと受付に行き訓練用の武器を持ってきた。


「来い」


 俺たちが連れてこられたのは訓練場だ。


「一度お前たちの実力を測る、自由に攻撃してこい」


 そう言って何も装備せずに離れていく。


「ジェナさんの装備は?」

「いらん」

「でも万が一でも怪我をっ!?」

「アーク!!」


 突然ジェナさんが消えるとすさまじい衝撃がお腹を走り、僕は訓練場の端まで吹き飛ばされた。


「これでも実力の差がわからないか?」

「アークに、何するんだ!!」


 オルドは殴りかかるがすべてを紙一重で躱され、最後には体捌きだけで投げ飛ばされる。


「てめぇらにはこんなもんで十分なのさ、理解したのなら全力できな」


 今までの一連で僕とオルドの頭から心配という文字が消えさる。


「行くよ、オルド」

「ああ!!」









 それから僕たちは自身の持てる力を使いジェナさんに挑んだがすべてが軽くいなされた。


「「はぁはぁはぁ」」

「まぁ確かに同年代からすれば馬鹿みたいに強いだろう、だが私の知る限りじゃまだまだ半人前だな」


 息を上げて倒れている僕たちに比べてジェナさんは汗一つかいてない。


「しかし、お前たち本当にトロールを倒したのか?これくらいの実力なら倒せるはずがないんだが」


 ジェナさんが僕たちの実力を訝しんでいてる。


「………今はユニークスキルを使っていませんから」

「なんだお前はユニークスキル持ちか、それでトロールに勝てたんだな?」

「はい」


 正直ユニークスキルが無ければあの時に死んでいただろう。だが逆を言えばそれが無ければ負けてた。


「なるほど、それでか。だが言わせてもらう、現在のお前たちは実力不足過ぎる」

「……三人がいればもう少し」


 情けないが思わず口に出てしまった。


「三人?ああ、あの子たちも戦えるのか」


 僕は頷く。


「トロールの時は他の三人もいたのか?」

「……はい」

「なるほどな、とりあえず二人の力量は理解した教会に戻るぞ」








 僕たちは疲れた体に鞭打って教会に戻るが。


(ダメだ……疲れすぎて……意識……が……―――)


 あまりにも体が疲れすぎていて部屋に戻るとすぐさまベッドに入り眠ってしまった。










 目を覚ますと夜になっていた。


「オルドは……まだ寝ているのか」


 隣のベッドではだらしなくオルドが寝ている。


 部屋の外に出ると廊下には明かりもなく足音もしない、かなり遅い時間まで眠っていたらしい。


(お腹……減った)


 さすがに昼から何も食べていないので空腹だ。


 何かお腹に入れられないかと食堂に向かう。


「ん?明かりが」


 食堂への道すがら、以前にエルダさんがジェナさんを紹介した部屋から光が漏れていた。


(こんな夜遅くに誰だろう?)


 扉の隙間から中を覗くとエルダさん、ジェナさん、ベルヒムさんがいた。


「―――あの五人に闘技場で戦わせるなんて!!」


 中からエルダさんの怒声が聞こえる。


「仕方ないだろう、あいつらが勝手に頷きやがったんだぜ」

「それを止めるのがあなたの役割でもあるのよ!!」


 エルダさんとジェナさんが言い合っている。


「とりあえず落ち着け」


 ベルヒムさんが仲裁に入る。


「俺も調べてみたがオークションまで日にちがない、オークションに参加させてくれそうなところはあそこ以外ないのも事実だ」

「ですが、その交換条件にあの子たちを使うなんて!!」

「ではどうする?エルフ達にオークション会場自体を襲撃してもらうか?」

「!?そんなことをしたら!!」

「ああ、あそこにはプライドだけはくそたけぇ貴族もいる、ケガさせられた報復にノストニアにちょっかいかけるかもな」

「それじゃあだめだわ、教会もノストニアとの国交樹立させたいのだから」

「なら、自然にオークションに参加しなければならない」

「でも…」

「そこは安心しろ、私ができるだけあいつらを鍛えてやるから、最悪は乱入して有耶無耶にでもしてやるさ」

「……わかったわ」

「納得してくれたようで何よりだ、それでエルフ達から連絡が来た」


 ベルヒムさんは一つの紙を取り出した。


「なんて来たんだ?」


 するとベルヒムさんは手紙を読み上げる。


『オークションに参加するのは願ってもない、だがこれはヒューマンが起こした罪だ。

 ヒューマン族が速やかに我らの宝を受け渡すなら、我らもこれ以上騒ぎを起こすことはない。だがその約束が守られないのなら我らは拳を振り上げることになるだろう』


 僕はいまいちよくわからない内容だ。


「どうゆうことだ?」

「つまりはオークションに参加させてくれることは感謝する、だがこの件はヒューマンが起こした事であり、オークションで買い戻すか、横から掻っ攫うなどし、保護をして受け渡せばこの問題は水に流してやる、だがそれができないなら強硬手段に出るぞって意味だ」

「なるほどな、じゃあどうする?」

「一番穏便なのは普通に買い戻すことなのだが……」

「お金の問題がネックですね」

「ああ、裏オークションでも珍しいエルフだ、男児だということを差し置いてもかなりの値が付くだろうな」

「じゃあ、攫った組織を襲って取り戻すか?」

「……それができればどれほどいいか」


 ベルヒムさんの言葉は暗かった。


「ならどうするの?」


 ベルヒムさんが渋い顔をする。


「ここは事情を話して協力してくれそうな金持ちを探すしかないだろう」

「こんな大ごとに好き好んで首を突っ込む商人がいるのか?」


 三人は唸っている。



「……そういえばデッドから連絡はあった?」


 答えに煮詰まっていると、エルダは話題を変えてベルヒムに問いかける。


「いや、一報は入れたが、まだ来ない、おそらく以前の件が相当厄介なんだろう」

「それが何か気になるけど」

「こいつが言うわけないもんなぁ」


 二人はベルヒムさんに詰め寄ってもしゃべらないのは知っている。


「私たちが救出できなかったらどうなるんだろうな」

「やめろ、想像させるんじゃない」

「少なくとも半壊になると思っていた方がよさそうね」


 それから会話は進まず、じきにお開きとなった。


 僕は話を聞いたからか空腹を忘れてベッドに戻った。

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