第47話 君の正体
僕たちはホーカスさんが向かった森に向かう。
「見慣れない植物ばかりですね」
カリナの言う通り王都周辺の森では見かけない樹や草だらけだ。
「木の実も見たことないものだらけ」
「少し採っていこうよ~」
「だな、うまそうだし」
木の実やキノコを採取しながら森を進む。そこには緊張感の欠片もなかった。
「しっ、何かいる」
草陰から覗くと王都周辺でもよく見かけた魔物、ゴブリンがいた。
「……どうやらここにはあれだけっぽい」
「ゴブリンがいるということは少なくともあと数体はいるはずね」
ゴブリンは繁殖力がすさまじく、よほどのことがない限り群れで行動する。
「行くよ」
いつも通り武器を抜き、攻撃する。
ギ?!
急に出てきた僕らに驚いているがもう遅い。
「はぁ!」
剣で切ると簡単にゴブリンは動かなくなった。
「あっけねえな、まぁゴブリンだからしゃあねえけど」
つまらなそうにつぶやくオルド。すぐそばには顔が陥没したゴブリンの死体が転がっている。
「ほらさっさとホーカスさんを見つけよう」
カリナに続いて薬草の場所まで目指す。
ホーカスさんが取りに来たのはスアファ草と言うもので、一般的な傷薬として使う。よく岩場の近くや崖に生息している。
「言ってた場所ってここだよね?」
僕たちは森を進むと崖にたどり着いた。マークスさんから聞いた話だとこの崖がスアファ草の群生地だという。
「う~ん、ここには来たみたいだね~」
「そうですね、ところどころ摘み取られた跡がありますから」
スアファ草が生えている場所にはいくつか途中までしかない草がある。これは摘み取った跡だ。
「でもここにはいねぇみたいだな」
この場所は見通しがいいのだがホーカスらしき人物の影はない。
「リズ、どちらに行ったか分かりますか?」
「わかんな~い、この岩場だと痕跡は摘み取られた草ぐらいかな~」
「なら別れて捜索するのが一番じゃないか?」
「そうね」
カリナの言う通り別れて探すことになった。
「しかし、昼間のあいつ綺麗だったな~」
「お前な」
班は男と女で別れることになった。そして男が集まればこういう話になるのは必然だった。
「じゃあ、お前あの子にお茶に誘われたらどうする」
「もちろん行くに決まっている」
あんな綺麗な子に誘われたら誰だってついて行くだろう。
「しっかし、あんなところに旅人が来るのか」
「そこまで不思議なことは無いだろう?詩人だってネタを探しに辺境の土地まで行くっていうし」
「……そっか、だからグミエラって実のことも知っていたのか」
オルドは何やら納得してない表情だ。
「それにしても不思議な森だね」
ノストニアに最も近いからか、とても清らかな空気だ。
「本当にな、これなら子供でも遊び感覚で足を踏み入れそうだ」
僕たちは森が危険と言うことを知っているが年端もいかない子供なら遊び場として入りそうだ。
「でさ、お前三人の中で誰がタイプだ?」
「オルド……」
最も話題にしたくないことを出してきた。
「どうだろ、みんな綺麗でかわいいからね」
「そうはいってもタイプぐらいあるだろ~~」
「うっとうしい!!」
三人が綺麗でかわいいのは本心だ。
そして三人ともタイプが違うのも分かる。
優しくて清楚なソフィア、正義感があり真面目なカリナ、いたずら好きで人懐っこいリズ、三人とも男子から飛びぬけて人気がある。そんな三人と行動している僕たちは嫉妬の対象だった。
そんな他愛ない話をしながら森を進むと、広がりがある場所にたどり着く。
「ここまで進んで会わないのか……はずれを引いたか?」
「戻ってソフィア達と合流する?」
「そうだな」
一度崖の場所まで戻るとすでにソフィアたちがすでにそこにいた。
「どうでしたか?」
「こっちにはいなかったよ」
「ふむ、ではすでに村に戻っているのでは?」
「かもね~」
ということで来た道を戻り、村に戻ろうとするのだが
「あら、あなたたち」
道中の道で屋台で出会った少女と出くわした。
「あなたも森に?」
「ええ、手持ちじゃ何も売ってくれなさそうだから」
森で物々交換をできる何かを取ってくるわけか。
「あなたたちはなんで森に入っての?収穫物も持ってないようだし」
「実は―――」
森で牧師ホーカスさんを探していることを教える。
「ふ~ん、手伝ってあげてもいいわよ?」
「え?」
「私人探しとかは割と得意な方なの」
僕たちは顔を見合わせる。
「協力してくれるのはうれしいけど……」
「なぜですか?」
「そう難しく考えないで、さっきの恩返しとでも考えておけばいいわ」
「じゃあお願いしてもいいですか?」
皆の顔を見て反対の様子がないので協力してもらうことになった。
「ここがそうなんだけど」
僕たちは再び崖の場所まで来た。
「どう、なにかわかる?」
「ちょっと待って」
少女は崖の方をじっと見つめる。
「その人はこっちに行ったようね」
「え?」
少女は僕が探した方向を指さす。
「ねぇ~なんでそっちなの?」
「そんなの………ああ、そっか」
なにやら少女は考え込む。
「誰にも言わないと約束できる?」
全員が同意する。
「私は人の魔力を見る魔法を使えるのよ」
「魔力を見る?」
そんな魔法を聞いたことない。
「まぁちょっとした秘伝みたいなものだから内緒にしてね」
ということでこの件については触れない。
それから少女の後をついて行くと、僕たちが通った道の中間あたりで方向転換し、全く別方向に進み始めた。
「本当にこっちなのかよ」
僕たちは若干疑っていたが、次第に人が通ったと思われる痕跡がいくつも見つかった。
「ここからならあなたたちでも探せると思うわよ」
「すごいな~よかったらおしえてくれちゃったり」
「リズ」
「わかっているよ、カリナ、冗談だから、冗談」
しばらくすると近くに人がいる気配があった。
茂みの奥を見てみるとボサボサ頭の人が山菜を採っていた。
「あの~ホーカスさんですか?」
「ん、そうだけど………?君たちは誰だい?」
「僕はアークと言います、実は教会に行ったのですが留守でしたので僕たちが探しに来ました」
「おお、それは悪いことをしたね」
そう言って立ち上がりズボンを払う。
「僕はホーカス、この村で牧師をしているよ」
握手を交わしながらお互いに事情を説明する。
「そうかい、巡礼でこの村に来たのか~こんな辺鄙な村に」
ホーカスさんは何やら感心している。だが巡礼の通達とか来ていないのかな?
「それで厚かましいんだけどさ、山菜取りに協力してくれない?」
断る理由もないので、ここら周辺に生えている山菜を手分けして採取する。
「いや~手伝ってもらって悪いね~」
籠一杯に詰め込まれた山菜を見てホーカスさんはニコニコしている。
「―――そうか今マークスの奴が来ているのか」
「はい、マークスさんからホーカスさんは森にいると聞いて」
「そっか、っと急がないと売り切れになるかもしれないな」
僕たちは村に向かいながらいろいろな話をしている。
「なぁおっさん、ここは最北の村なんだろ?ならエルフを見たことはあるのか?」
「う~~ん、残念ながら見たことないな、ただ噂話でなら聞いたことがあるよ、人間ではかんがえられないくらいの美をもっているとか」
道中話題はエルフになっていた。
「他にも弓が得意と聞いてるし、魔法もけた違いだとか」
「噂話よね?」
今まで無言だった少女がホーカスさんに話しかける。
「そうだよ、え~と」
俺たちは顔を見合わせる。
「そういえば僕たちも名前を聞いてなかった」
「ああ、ごめんなさい、私はルーアよ」
ローブの少女はルーアと名乗った。
「そうだね噂話でしか聞いたことがないな、本当にそんな人たちがいるのかさえも僕にはわからないよ」
そういうホーカスさんをルーアはじっと見つめている。
「な、なにかな?」
「いえ、何でもないわ」
こんな感じで帰路についているのだが。
「牧師様!!!」
道中に二人の子供が森から出てきた。
「どうしたんだい?」
「アルが、アルが見当たんないの!!」
そう言って二人とも泣き始める。
「落ち着いて、どうしてそうなったかちゃんと話してくれないかな?」
ホーカスさんが二人を泣き止ますと話を聞く。
「昼に皆でかくれんぼしたんだけど」
「アルだけまだ見つかんないの!!」
そう言って二人は再び泣き出す。空は赤く染まりもう少しで日が落ちてくる。そうなると森は一層危険になる。
「急いで見つけないとね、ゴメン、アーク君たちはこの子たちを村まで届けてくれないかな」
「僕たちも手伝いますよ、ソフィア子供たちをお願いできる?」
「わかりました」
「俺は一緒に探すぜ」
「僕もいくよ~」
「ここまで来たら私も手を貸すわよ」
と言うことで僕とホーカスさん、オルド、リズ、ルーアの5人で探すことになった。
まずは二人に聞いた遊び場近くを探索する。
子供たちの遊び場はほどほどに視界が開けており隠れられる場所はあまりないだろう。
「アルーーーいないのかーーーーい」
ホーカスさんが大声で呼ぶが反応は無い。
「これは……奥に行ってしまったのかな」
「そうだと思います」
僕とホーカスさんの意見が重なった。
「だけど、どの方向に行ったのか……」
「私ならわかるわよ」
「!!そうだ、ルーアは魔力を見る魔法が使える」
人探しには一番最適な手段をルーアは持っている。
「え………魔力を見る…………」
だがホーカスさんは何やら思案顔を作る。
「見えたわ、こっちよ」
ルーアを先頭に森を進んでいく。
「……」
ホーカスさんは何やら考え込んでいる。
森を走ると、しばらくすると広い草原までたどり着いた。
「こっちね」
ルーアさんの指示通りに進んでいくと草原の中で居眠りをしている子供が一人いた。
「はは、アルはここで昼寝をしていたのか」
どうりで現れないはずだ、とホーカスさんは納得する。
「アル、アル、起きて」
「ん、ん~……あれ、ホーカスさん?……あ!かくれんぼ!!!」
居眠りしてしまったことを思い出したのだろう。
「ほら、皆が待っているよ帰ろうか」
「うん!!」
何とか子供たちを見つけて村に帰ってこれた。
日が落ちると僕たちは教会で夕食をいただいている。
ホーカスさんが是非と進めてきたので無下にはできずにみんなでお邪魔した。
「そうか、君たちはグロウス学園の生徒なんだ、しかも特待生でか~」
グロウス学園の生徒であることを教えるとホーカスさんが感心している。
「そこまですごいの?」
学園のことを知らないルーアはよくわかってないみたいだ。
「平民が特待生になるのはそうそうないことだからね、そうだね……………幼い子供が剣一本で狼の群れを倒したぐらいの偉業だね」
「それはすごいわね」
なんか釈然としない例だと思ったのは、おそらく僕だけではないだろう。
「さて、ルーア君、君は一体何者なんだい?」
食事が進むとホーカスさんが険しい顔つきをする。
「何者って?」
「君ができると言っていた魔力を見る力、それに似た種族を僕は知っているよ」
「……」
二人の間に緊張が走る。
「僕はこの村が好きだ、皆が好きだ、だからこの村を危険にさらすようなことはしたくない………だからなんでこの村に来たのか教えてくれないかな、
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