第46話 彼らのスケジュール

【ご報告。申し訳ないですが、当分の間は彼らが話の主体を担います。少しの間だけご容赦ください。】


〔~アーク視点~〕


 夏休みが始まる前に僕とソフィアとリズは教室で夏休みに何するかを話し合う。


「巡礼?」


 だがソフィアには既に予定があった。


「じつはシスターに見聞を広めてきたらどうだと言われまして……」


 ソフィアは教会の子供だ。それゆえにすでにシスター見習いとしても修業している。今回の見習いシスターが行う地方の巡礼はソフィアが担当するそうだ。


「そっか~夏休みはどこか遊びに行こうかなと思っていたんだけど」

「ゴメンね」

「いいよ~~でもどうする?みんなで森に行こうかとも考えていたんだけど?」


 リズが言う通り当初の考えでは五人で森にでも入って小遣い稼ぎをしようと思っていた。


「でもどうする?さすがにソフィアなしだと森は危ないよ~」


 リズが危ないといった理由、それは森に入れば少なくない確率で魔物に遭遇するからだ。戦闘すればよほどのことがない限り勝つの難しくない。だがそれは一戦のみという限定的な見かただ。当然ながらいつ魔物が襲ってくるかもしれないし、襲ってこないかもしれない。戦闘において前の戦いの傷を癒さずにいることはかなり危うい。そのために回復薬の人物がいてくれるのがベストなのだ。もし無理でも回復薬でも常備できたらいいのだが、それこそコストがかかりすぎる。


 ここで問題になるのが僕たちの小遣い稼ぎのやり方だ。僕たちの年齢ではギルドの依頼は雑用しか受けられない。けど僕たちでも素材の買取は許されているから年齢に引っかかってもそっちでお金を得ようとする小銭稼ぎは多くいる。


 無論、僕たちもその中の一員だ。ただその反面正規の依頼料などは手に入らないので収入の面は決して多くはない。なので全員に回復薬を持たせるなんてことはできなかった。


「すまん遅れた」

「ごめんなさい、遅れました」


 遅れて、オルドとカリナが合流した。


 そして先ほどまでの話をする。


「じゃあよ、みんなで旅行しないか?」

「「「「旅行?」」」」


 オルドはソフィアの巡礼に合わせて旅行しようと提案した。


「それはうれしいんですが……いいのですか?」

「僕は問題ないよ、夏は何の予定もないしみんなは?」

「私は優先する予定はない」

「私もないよ~~」

「僕もないな」


 夏は森に入って素材を取る気でいたが、旅行するならそっちを優先する。


「じゃあ決まりだな、ソフィアの巡礼に合わせて旅行しに行こうぜ!!」


 オルドの言葉でみんなの夏の予定が決まった。












 そして夏休みが来ると各々準備を整えてソフィアの巡礼に同行する。


「それでソフィア、行先は?」

「えっと………アズバン領の教会……」


「「「「え?!」」」」


 ソフィアに割り当てられた行先はまさかのニゼルの領地だった。







 気乗りはしないが決まったことなので各々両親に話をつけて旅に出る。約半月かけてアズバン領の都市『アズリウス』まで移動する。


「へぇ~~意外に発展しているね~~」


 交易の場として有名なアズバン領。その名前に見合うほどの大きな交易所やフリーマーケットが開かれている。


「あのすいません、教会はどちらにあるかわかりますか?」

「お嬢ちゃんはシスター見習いかい、偉いね、教会ならマーケット広場を向けた先にあるよ」

「ありがとうございます」


 教会の場所を聞き移動する。


 教会はさすがと言うほど立派だ。大貴族の屋敷と同じほどの土地の広さを誇り、建物自体はすべて純白な素材で作られている。誰がどう見ても立派と答えるだろう。


 そんな教会の豪華な扉の前では一人の女性神官が待っている。


「お待ちしていました、シスターソフィア」

「遅れて申し訳ありません、シスターエルダ」


 一通りの挨拶を済ますと今度は僕たちに向き合う。


「皆さんもソフィアの護衛お疲れさまでした。私はここのまとめ役エルダ・ホムアールと言います。ソフィアの護衛ありがとうございます」


 修道服で髪形などはよくわからないが、物腰柔らかな雰囲気に、整い穏やかな顔つき。まさにシスターと呼ぶにふさわしい女性だ。


「いえ、僕たちはタダの付き添いなので頭を下げられるようなものでは」

「そうなのですか?では今後ともソフィアと仲良くしてあげてくださいね」


 教会の中に入ると礼拝堂の椅子に座りエルダとソフィアの会話が終わるのを待つ。


「では巡礼について説明しますがよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 シスターはソフィアにとある紙を渡した。








 ソフィアが所属しているのは神光教会。


 成り立ちは教祖であるアマルクが神に祝福された聖人として生まれ落ちたところから始まる。


 彼は神からの教えを受け、それを弟子に広めていくのが神光教の始まりとされている。


 そんな彼はある時、世界を見てみたいと言い、何人もの友といくつもの国を巡り、そこで困っている人を助けて回っていた。これが巡礼の元になった部分だ。


 だがアマルクは国を回る際に人が争うのを見て見て嘆いた、人はなぜ人を傷つけるのか、と。そして彼は多くの人たちに教えを説き、争いがない世界にしようと尽力する生を送った。


 そして彼は寿命が尽き、老死するのだが彼の意思は教えられた子供たちによって広がり今の規模の宗教となった。


 そしてグロウス王国は神光教を国教としているため国内で神光教会は至る街で見かける。







「それで巡礼はどこに行くの?」


 今僕たちは教会の一室にいる。本来なら宿を取るのだが、巡礼者とその護衛と言うことで一室を貸してくれた。


「巡礼は一番北の村に行き、そこの牧師様に書状をもらってくるそうです」


 僕の問いにソフィアが答えてくれる。


 要約するとお使いみたいなものだった。


 翌日、僕たちは乗合馬車に乗り最も北の村に向かう。














「ここがねぇ~~」


 オルドが何ともな感想の様な声を上げる。


 何度も馬車を乗り継ぎ何日かかけて最北の村まで来たのだが、村はいかにも開拓村という感じだ。


「おお、マークスさん、今日はどんなのを商売しに来たんだ?」

「そうだな、塩と少量の砂糖、あとは防寒着を売りに来たぞ」


 僕たちの乗ってきたのは商人の馬車で、商売のついでで乗せてもらっていた。


「さて条件通り働いてもらうよ」


 馬車に乗せてもらう代わりに一日だけ手伝う約束になっている。


 僕たちは馬車から荷物を降ろし、家の中に運び込む。その間にマークスさんは布を敷き露店の準備をしていた。


 荷物を総て降ろし終わるとマークスさんは露店の許可を村長に取りに行く。












「いや~~ありがとね」


 全ての準備を終えるとマークスさんは宿に寄ってくれた。


「いえ、こちらも馬車に乗せてもらいましたから」

「でもなんでこんな辺鄙な村に来たんだ?」

「実は友人の巡礼に着いてきたのです」

「ほぇ~教会のアレかい?」

「はい」


 マークスさんはこの村出身の商人でこの辺りの土地には詳しい。


「教会の誰に会うんだ?」

「さぁ牧師とは聞いていますが」

「ああ、牧師ならホーカスだな、気を付けろよ~あいつは説教癖があるからな」


 そんなこんなで宿に到着する。


「俺は五日ほど、この村にいるから何か用があったら声を掛けてくれ」


 マークスさんは一度借りた倉庫に荷物を置き、村の資材を買いに行った。


「アーク、部屋の確保終わったぞ」

「ありがとうオルド」


 全員分の部屋を確保し終えると次に目的地である教会に向かう。


 さすがにアズリウスや王都と比べると小屋みたいな規模だが周囲の家よりはほんの少しだけましな造りとなっていた。


 コンコン……コンコン


 教会の扉をノックしても反応がない。


「……いないようですね」


 反応がないので中を覗いてみると誰もいなかった。


「マークスさんも来ていたことだし、そっちに行ってんじゃないか?」

「そうかもね、この村では料理とかの屋台はあるみたいだけど商店は少なかったから」


 おそらくだけどマークスさんの店に行っているのだろう。


「どうするんだ?」

「いないのならば仕方ありません、どこかで時間を潰すとしましょう」

「じゃあ~屋台でも回らない?」

「いいわね、いろいろ見たことがない食べ物もあるし楽しそう」


 女性陣の意見で食べ歩きをすることが決まった。


 その後村の中心部で数件出ている屋台に行くのだが


「ん?なんか揉めているね」


 なにやら屋台の店主とローブを被った少女が言い争っている。


「だから、お金じゃなければいけないんだよ!!」

「今は手持ちがこれしかない、これで何とかしてくれない?」


 少女は木の実を取り出すが店主は首を横に振る。


「残念だが必要なのは金だ」


 どうやら少女が物々交換を申し出ているんだが、店主が拒否しているようだ。


 小さな村では物々交換などは珍しくない。逆に十分に貨幣が存在していないことから物々交換のみで村を維持しているところもあると聞く。


「あの、もしよかったら立て替えましょうか?」


 ソフィアが親切心からそういう。だが店主は渋い顔をする。


「こちらとしてはそれでもいいがな、こいつの物を見てみろ」

「……見たことない実ですね」


 少女が持っていた木の実は今まで見たことがない実だった。


「グミエラという実でな、とても渋くて食べられたものじゃない、それに弱い毒もあるんだ」


 店主の説明を聞く限り、たしかに物々交換できそうなものではない。


「大丈夫よ、既に渋抜きも毒抜きもしてあるわ」

「お前さんはそういうがな、この実に渋抜きや毒抜きの方法があるなんて聞いたことがないぞ」

「それは……故郷には伝わっているのよ」

「へぇ~じゃあ、その渋抜きと毒抜きの方法を教えてもらえるか?」

「残念だけどこの辺りにある物じゃできないわ」

「何を使うかだけでも言ってくれれば、信用するが」

「……無理」


 なるほどこれなら話がこじれるわけだ。


「でも信じて、これは渋みもないし毒もないわ」

「だから!!」


 これでは堂々巡りだ。


「おじさん、そのスープいくらですか?」

「ん?銅貨3枚だが」

「なら……はい」

「そっちがいいなら俺は構わないが」


 ということで僕が代わりに支払う。


「……ありがとう」

「別にいいよ」

「でも、私の気が済まないわ、だからこれ」


 僕は木の実を渡される。


「それ結構おいしいから食べてみるといいわ」


 そう言って少女はどこか行ってしまった。


「なんだったんだあれ?」

「さぁ?」


 僕とオルドは顔を見合わせる。


「ねぇ、綺麗な子だったからデレデレするのは分かるんだけどさ~目的忘れてない?」


 リズに言われて女性陣の方を見るとジトッとした視線になっている。


「な、なぁ店主、牧師のホーカスさんの居場所知らない?」

「あ、ああマークスが来てるって噂になっているから多分その店にいると思うぞ」

「あ、ありがとうございます」


(((話を反らした)))


 その後、女性陣からの視線を受けながらなるべく早く歩き移動する。








 久しぶりの商いで賑わっているマークスさんの露店に訪れる。


「ん?アークじゃないかどうしたんだ?」

「実は」


 教会にホーカスさんがいないこと、屋台の店主にここにきているんじゃないかと聞いたことを伝える。


「そうか、でもここには来ていなかったぞ」

「そうですか、どこに行っているか心当たりはありますか?」

「ちょっと待ってろ」


 マークスさんは客として来ている女性陣となにやら話をする。


「わかったぞ、どうやら、薬草を取りに行ったみたいだ……ただな」


 どうやらホーカスさんが薬草採りに出たのはだいぶ前でもう帰って来てもおかしくはないらしい。


「まぁ、待っていればいずれ戻って来るさ」


 というがマークスさんの顔は分かりやすく心配している顔だった。


「僕たちは暇なので迎えに行きますよ」

「いいのかい」

「はい、みんなもいいかな?」

「もちろんだぜ」

「ええ、何かあったら心配ですし」

「だね~」

「それに私たちなら戦うこともできますからね」

「じゃあ、お願いするよ」

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