第43話 ようやくの帰還

「!?逃げるぞ!!」


 地震の国といわれる日本でも体験したことのない規模の地震だ、明らかに何かが起こっている。


『おい!何をやった!!』


 揺れ動いている中すさまじい速度でやってくるアグラベルグ。


 手短に何があったかを話す。


『壊したのか!?言いたいことはあるがさっさと逃げることにするぞ』


 なにやらコアの破壊手順を間違えているという口ぶりだ。


『ありがとう、エルフの姫よ』

「聖獣様の子が無事でよかったです」

「ナォウー」

『積もる話もあるだろうが話はダンジョンを出てからにするぞ、乗れ』


 アグラベルグは乗りやすい高さまで身をかがめる。


「いいのか?」

『ああ、急がないと皆生き埋めになるぞ』


 俺はその言葉を聞いてためらいなく背に飛び乗る。


 だが聖獣を崇めているクラリスは乗るのを躊躇していた。


『どうした、早く乗れ』

「で、ですが、聖獣様の背に乗るなど…」

『ええい、時間がない』

「わわっ」


 アグラベルグはクラリスを咥えると空に放り、背に着地させた。


『では行くぞしっかり捕まっていろよ』


 俺達が背に乗るとダンジョンの出口に向かって疾走するアグラベルグ。


「おお、楽しいな」


 急斜面を駆け下りていくのはまさにジェットコースターのようだった。


『この非常事態に呑気な』

「さっきから気になっていたが、非常事態とは何のことだ?」

『コアを破壊したことだ』

「?だがアグラはコアを壊す目的だったはずだ」

『我は場所の問題を言っているのだ』

「場所?」


 それからの話だと、エリアタイプのダンジョンはコアを破壊した段階でダンジョンの自壊が始まる。そして完全崩壊する時間までは約一分ほどしかない。だから普通はコアを出口まで持って行き、その場で破壊をするのが正解だという。


『その際にダンジョンの魔物がコアを取り返しに来るのだが、それ含めても普通はそっちを選ぶ』


 なるほど。俺はその手順を飛ばして壊してしまったためこのような事態になったということだ。


 そんな話をしていると南の森の中に突入した。


「出口までの場所は分かっているのか?」

『もちろんだ、すでにマーキングを済ませている』


(………マーキング)


 犬が電柱に尿を掛けるようなものだよな?それをアグラベルグがしている………。


 その姿を想像して思わず笑いが漏れる。


『お前、今失礼な想像をしなかったか?』

「い、いや、し、してない、っくくく」


 このようなやり取りをしながら道なき道を進む。


『むっ?!』

「どうしたのですか?」

『何かが後ろを付けてきている』

「後ろ?」


 俺とクラリスが振り向くが何もいない。


「気のせいじゃないのか?」

『確かにある』

「だがどこにも姿が見えないぞ」

『……上のほうに気配がある、何かないか?』


 アグラの言葉を聞いて上を見上げてみるが、木々の隙間から青色から地面の色に変わっていっている空しか見えない。


「なにもな……ん?」


 空から雲が下りてきている気がする。


「アグラ、気配はさらに近づいてきているか?」

『ああ』


 後方と上にはあの雲以外に異常は見つからない、ということはだ。


 頭の中で一つの可能性が生まれる。


「アグラ、俺はアレの足止めをする」

『待て、お主は出口がわからないんじゃないのか?』

「出口に付いたら上空に向けてなにか目印になる物を上げてくれ」

『……分かった』


 俺は『飛雷身』で少し高めの樹の上に移動する。


「今朝方ぶりだな」


 下りてくる雲に向かってしゃべりかける。


「しかし、読み違えたな、まさか二体いるとは思わなかった」


 朝方に空に向かっていった霧、アレはデコイではなかった。


 雲は俺の高さまでくると雲の端から姿を現す。


 ゲッゲッゲッ!!!


 さっき倒した鳥とそっくりな足と全く似た鳴き声を出す頭が現れた。


 しかも体格は先ほどの三倍以上ある。


「その声と似て下品な顔だな」


 猛禽類とカモ類を合わせた気味悪い頭だ。


「さてどこまで通用するかな『天雷』」


 牽制程度に『天雷』を放つが雲で防がれる。


(やっぱし雲だと分散してしまうな)


 範囲はとんでもなく広がるが威力がその分減衰してしまう。


 少しの『天雷』では微々たるダメージ、いやダメージにすらなっていないだろう。


「本来、水属性は俺が天敵のはずなのにな……」


 嘆いても仕方がない、時間も猶予が全くないのだから。


「『怒リノ鉄槌』『飛雷身』」


 霧の中に入られた飛べなくなるが霧の外にいて、相手が頭を出しているなら全く問題ない。


「ふん!!」


 鳥の頭を横からぶん殴る。


 ゲヒッ?!


 鳥は雲の中に吹っ飛ばされていく。そして反対側から飛び出て森に堕ちていく。


(さすがに一撃では死なないか『飛雷身』)


 片目はつぶすことができた。だが


「……本格的にまずいな」


 上から少しずつ砂が落ちてきている。


(合図はまだか?)


 木の上で合図を待っていると森の一部から白い炎が巻き上がる。


「待っていた!!」


 即座に『飛雷身』を使い、すぐ近くまで移動する。


「あとは逃げる!?」


 出口が見えたと思ったら頭上から岩塊が落ちてきて出口を塞いだ。


「はぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

(ふざけるな!!!!!!!!!!)


 さらには霧も発生して視界も悪くなる。


 ケッケッケッケ!!


 この声がまるであざ笑っているかのように聞こえる。


「なぁ……いま物凄く機嫌が悪い」


 ゲゲ?


 バチッ、バチッ


「存分に八つ当たりさせてもらうぞ」











〔~クラリス視点~〕


「今後ろで何かが崩れた音が聞こえましたが!!」

『……おそらく天井が崩れたのだろう』

「私少し見てきます」


 通路を戻ると霧が発生していた。


「どうして、いえ、今はもっと先に」


 霧の通路を進むと岩が通路を塞いでいる。


「……これではバアルも」


 帰ってこれないその事実が突き付けられると何とも言えない気分になる。ほんの少しの間だったが悪人には思えなかった。そのことに一抹の寂しさに似た何かを感じる。


 バアルが戻ってこないと分かればすぐさまアグラ様の元へ向かう。


『どうだった?』

「岩で道が塞がっていました、アレでは……」

『惜しいものを亡くしたな』


 悲しい気分になる。


『さてダンジョンはつぶしたし我は帰るとするが、お主は?』

「私も戻ります、部隊のみんなも心配しているでしょうから」


 そう言って突き当りにある魔法陣に乗る。


 どうやらそのまま地上に通じているわけではなくこの魔法陣を通って地上に出るようなのだ。


「てっきり、地上に出るものだと思っていました」

『……そうかお主はまだ経験したことがないのか』

「え?」


 聖獣様は何も言わずに魔法陣の上に乗り消えていった。


 私も続いて魔法陣の上に乗り地上に戻る。










 だが、いなくなった通路に一つの影が現れる。


「…………死んだかと思った」


 戦闘中に起こった偶然で彼は助かることができた。
















〔~バアル視点~〕


『少し八つ当たりさせてもらうぞ』


 そういうと俺はバベルを掲げ、そして


「『神罰』」


 まばゆい光が霧を貫き降り注ぐ。


 光は霧を容易に飲み込む。光が晴れるとほとんどの霧が消え去り、わずかの霧を纏っているミストガルーダの姿が見えた。


 俺と視線が重なると慌てて霧を発生させようとする。


「させねぇよ!!」


『飛雷身』で飛び、そのまま『パワークラッシュ』をお見舞いする。


 横に何バウンドかして飛んでいくとすぐさま立ち上がる。


 そのスキを見逃さずに追撃を仕掛ける。


 だが距離が離れているので『飛雷身』で飛ぼうとするが。


(っタイミング間違えた?!)


 急に霧を生み出したせいで霧に向かって飛ぶことになってしまった。


 『飛雷身』は体を雷に変えて飛んでいく、そして霧は雷を分散させる。


 故に『飛雷身』で霧に飛ぶと、どのような事態になるかわからなかった。最悪は体がバラバラになる可能性もある。


(……こうなるのか)


 だが予想とは裏腹に霧の中で雷になりながら意識を保てるという不思議な状態になっていた。面白いことに俺は体を雷にしたまま雲の中を高速移動している。さらには高速移動に加えて霧の中が手に取るようにわかる、まるで模型を触りどのような形か理解できるように。


 まるで霧自身になったような感覚だ。


(とりあえず、死ななくてよかった………それじゃあ、殺すか)


 鳥の隣に移動すると、そのまま切りかかる。


 ゲッゲ?!


 面白い声を上げながら翼や足の爪で迎撃してくるが、すぐさま『飛雷身』で霧と同化して避ける。それどころか反対側に移動してバベルを振り下ろす。


「はは!!これはいい!!!」


 霧の中ではほとんどの攻撃を避けることが出来そうだ。


 それからも鳥のすぐ近くを高速移動しながら体を切り刻んでいく。


 ゲ………ゲ……………


 7度目の攻撃でようやく鳥は事切れた。


(さてこれからどうすっかな)


 もうダンジョン内で岩塊が降り注いでいる状態なのが分かっていた。


(???この霧は出口の向こうにもつながっているのか?)


 霧と同化している状態だと霧がどこまで広がっていてどこの隙間に入り込んでいるかすらも理解できる。だからこそ気づけた。


 どうやら塞がれた出口の向こう側まで霧は広がっている。


 そして


(この状態なら移動できるか?)


 霧の中ならどこにでも移動できている、ならば。


(ここで死ぬよりも試してみるしかないか)


 霧を伝って出口の先に移動しようとしたら、あっさりと移動できてしまった。


「…………死んだかと思った。今となっては、あの鳥に感謝だな」


 ゴゴゴゴ


「ここも時間の問題か」


 急いで出口へと向かう。


「行き止まりで……これか」


 突き当りの部屋には2年前に見たことがある魔法陣があった。


 ゴゴゴゴゴゴ


「考えている暇はないか」


 魔法陣の上に立つと浮遊感を感じて光に包まれる。











 光が収まるとそこは白一色の見たことのある部屋だった。


「やっぱりここにつながるのか」


 前回と同様に道を進み中心部に行くと。


 ―――――

 Congratulations!


 おめでとうございます。貴方はダンジョンの破壊者となりました。


 功績に基づき報酬を用意しました。


 ダンジョン破壊報酬。


 全方位探索報酬。


 期限内破壊報酬。


 定位置コア破壊報酬。


 ダンジョンボス指定条件撃破報酬。


 計5つの報酬を受け取れます。

 ―――――


 ―――――

 受け取る報酬を選んでください。


【武具箱】

【装備箱】

【装飾品箱】

【消耗品箱】

【素材箱】

【ランダム箱】


 残り【5回】


 ―――――


 と表示される。


「さて、どれにするか」


 考えた末にランダム以外一つずつ選ぼうとしたが、不意にクラリスのことを思い出す。


「…………………しかたない」


 武具を選ぼうとした指を変更して消耗品を選ぶ。


 本来なら知ったことではないと突き放すところだが、アレは耳を頼りにした結果的に狙われた結果だ。ならば俺の責任でもある。


 まずは一つ目。


 ―――――

 魔力回復薬マナポーション

 ★×3


【350MP回復】


 最高品質な魔力回復薬マナポーション。最高の設備と最高の素材から作られた一品。

 ―――――


 外れだ。


 二つ目。


 ―――――

 敏聴薬

 ★×5


【超聴覚】


 五感の一つである聴覚を強化する薬。これを飲んだ者は町の反対側の音ですら聞くことができるといわれている。

 ―――――


 目的に沿ってないという意味で外れ。


 三つ目。


 ―――――

 マナエリクサー

 ★×4


【魔力全回復】


 膨大な魔力を凝縮し作られた薬。雫一滴で魔力を1000回復させるほどの薬、だが栓を開けてしまえば徐々に魔力が抜けていきただの水と成る。

 ―――――


 使ったばかりなので補充できたのは素直にうれしい。だが狙っていた物ではない。


 4つ目。


 ―――――

 霊薬エリクサー

 ★×7


【完全回復】【欠損部位完全再生】


 膨大な年月を掛けて生成された霊薬。雫一滴でありとあらゆる傷を治し、すべて飲み干すと死人すらも生き返るとされている。

 ―――――


 ほとんどあり得ないだろうと思いながら選択していたのだが、どうやら見事に大当たりを引くことが出来た。これを使えばクラリスの耳を直すことができる。


「とりあえずこれで問題はないだろう」


 クラリスは地位のある人物のようだから、耳が無いといろいろ不便だろう。


「じゃあ残り一回は何にするか」


 残り一回で何を引こうか悩む。


「まぁランダムでいいだろう」


 別段ほしい部類もないのでランダム箱を選択する。


 ―――――

 鳴子のイヤーカフス

 ★×3


【敵意感知】


 周囲10メートルに敵意がある存在が近づくと音で教えてくれるイヤーカフス。斥候の冒険者には必然とされる一品。

 ―――――


「レア度は低いけどそれなりに使えそうだな」


 武骨なデザインだが嫌いじゃない。


 さっそく付けてみる。少しサイズが合わないと思ったが、すぐ縮まり耳のサイズに合った大きさになりちょうどよくハマるようになった。


 全ての報酬を受け取ると部屋の中心に浮き出た魔法陣に乗る。


 そしてまた光に包まれ浮遊感を感じる。









 浮遊感が終わると、どこかの森の中に現れる。


 リィン、リィン


 そして早速イヤーカフスが反応した。


 背後から魔物が襲い掛かってくるのでバベルを振り下ろし両断する。


「……これはいい物が手に入ったな」


 方向や距離は分からないが何かが近づいているのがわかるだけでもかなり使える。


「さて今の位置は」


 既に日が昇っていて、ここからでも聖樹が良く見える。


「すでにアグラは戻っているよな?」


 守護獣と言われているぐらいだ、聖樹の近くにいるはず。


 そう思い『飛雷身』で移動し、樹の根元まで移動する。


「さて、アグラベルグはどこにいるか」

『ここにいるぞ』


 後ろにある樹の窪みの一部からアグラベルグが出てくる。


『お前は死んだと思っていたが?』

「俺も生きていることが不思議だ」


 おかげで俺の中の謎が一つ解けた。


「それで一つ頼みがあるんだが」


 本題に入るとしよう。


「これをクラリスに届けてほしい」


 霊薬エリクサーを出す。


『ふむ、自分で届ければいいんではないか?まだ西の森にいるだろうし』

「……それがな」


 俺とクラリスは敵対していることを伝える。


『なるほど、それではノコノコと近寄れぬな』

「ということで頼んでいいか」

『ふむ、いいだろう』

「ではよろしく」

『待て、お主はどうするつもりだ?』

「俺か?俺は自分の家に帰るよ」

『そうか……ではまたな』

「ああ、またな『飛雷身』」


 俺は雲に向かって『飛雷身』で飛ぶ。






 あの戦いでわかったのだが雲や霧のような場所では魔力を消費せずに移動することができた。なので雲を通ることによって移動にかかる魔力の消耗を劇的に抑えることができる。


 そしてこれがグロウス王国、もっと言えば自室からこのような場所へ来たカギになる。




(とりあえず南に行けばグロウス王国にはたどり着けるだろう)


 大きく広がっている雲の中を通り家に帰る。








〔~アグラベルグ視点~〕


(行ったか……)


 さて我も約束を果たすようにしよう。


『ネア、一度戻って来てくれないか?』

『わかったー!』


 あのエルフに懐いてしまった最愛の子供を呼ぶ。


(これは……なるほど)


 渡された魔法薬をみて納得する。


『来たよ~~』


 しばらくしたら子であるネアがやってきた。


『ネア、少し頼みごとをしたいのだがいいか?』

『うん!』

『これをエルフの姫、クラリス殿に届けてくれ』

『わかった~~』


 上手く運べるように背中に固定させてやる。


『これなーに?』

『これはクラリス殿が喜ぶものだ』

『クラリスが喜ぶの!じゃあ急いで運ぶね!!』


 嬉しそうにする子供を眺める。


(これは従魔契約をするやもしれないな)

『じゃあ行ってくる~~』


 早速荷物を持ちクラリスの元に駆けだした。


『あ………碌な話もなく行きおった』


 少し悲しい気もするが子離れする時期が来たのだと思うことにする。


(さて、あの者の力、人の世では生きにくいだろうな)


 下手したら我たちと同じ立場になるやもしれないと、哀れみを少しだけ感じる。











〔~リン視点~〕


 バアルが姿を消してから半月経った今でも行き先どころか消息もつかめない。


「……どこに行ったのですか……バアル様」


 姿を見せない主を心配する。


 主のご両親は。


「まぁバアルなら問題ないだろう、ヒョコと帰って来るさ」

「ああ、大丈夫よ、あの子は迷子になっても自力で帰って来るはずだから」


 こんな感じでちっとも心配していない、むしろ関心はアルベール様とシルヴァ様に集まっている。なにせ教育が始まったのだが、バアル様には負けるが、劣らず優秀さを見せている。しかも子供らしく愛想もよい、となれば執事や侍女の関心を買いやすい。


 同僚であるセレナも。


『大丈夫よ、バアル様は天才だからどんなことになっても帰って来るはずよ』


 あとの三人だけはおろおろとしているがそれはこれからのことを考えて不安になっているだけだろう。


 本当に心配しているのは私だけだと思う。


(信頼しきれてないってことなのですか?)


 周りの反応は信頼の裏返しであることも少しは理解できる。だがそれでも納得できない部分があった。


「………本当にどこいったのですか」


 そうつぶやいた瞬間、屋敷の門の前に雷が落ちてくる。


 それを見て一つの可能性が頭に浮かぶ。現に足に付けている魔道具が雷の落ちた場所に誰かがいることを示しており、急いで雷が落ちた場所に向かう。


「バアル様!!」

「ただいま」


 そこにいたのは待ちわびた私の主だ。


「お帰りなさいませ!!」






〔~バアル視点~〕


「……心配してくれたのがリンだけとはひどくないですか」


 俺は父上の執務室でたまっている仕事を片付けている。


「仕方ないだろう、というかバアルだからこそ心配していなかったとも言うぞ。それに今は二人の教育で大盛り上がりだ」


 父上の言う通り二人は幼いころの俺を思い出させるほどの優秀さを彷彿とさせているらしい。これは将来に期待が持てると屋敷中が期待している。


(さらにはアルベールやシルヴァは俺が持っていなかった愛嬌もあるからな)


 全員が構いたくなるのもわかる。


「それにしてもノストニアまで行っていたとはな」

「行きたくて行ったわけではないですよ」

「はは、酔っていたのなら仕方ないのだろう、エリーゼの説教も受けたようだしな」


 本当にあれは怖かった………


「これからは酒は飲むなよ」

「ええ……いえ、リンの【浄化】を使えばあるいは」

「はぁ~(懲りてないな)」


 母上の説教で夏休み中は父上の仕事を手伝うことになっていた。










 こうして夏休みが半分ほど過ぎて、再び王都に戻る時期になった。


「さてじゃあ行ってきます」

「ああ、頑張ってくるんだよ」


 玄関に用意された馬車に俺とリン、セレナ、カルス、ノエル、カリンがいる。


「あとのことはお願いします」

「親子なんだからもっと砕けてもいいんだけどね」


 父上にはイドラ商会に卸す、魔道具の管理をお願いした。もちろん工房内には入らず倉庫内での魔道具の積み下ろしをお願いしている。


「「兄様!!」」

「アルベールとシルヴァ、勉強はいいのか?」

「「だいじょうぶ!!」」


 二人は元気に両手を上げてアピールする。


「バアルちゃん忘れ物はない?」

「ええ、問題ないですよ」

「ならいいわ、けど、ほら、アルベール、シルヴァ、お兄さんに行ってらっしゃいを」


「「いってらっしゃい!!兄様」」


「ああ、行ってくるよ」

「バアル様」


 二人の頭を撫でていると、ちょうどよくリンが準備が完了したことを伝えてくる。


「わかった、母上そろそろ」

「ええ、それじゃあ行ってらっしゃい」


 こうして俺たちは学園に戻ることになった。

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