第41話 聖獣とやら

「『怒リノ鉄槌』『飛雷身』」 


 今使える最強の単体攻撃の準備をし、奇襲をかける。


 獅子の真上に飛ぶと、そのままバベルを振り下ろす。


 ジュウウウウウ

 バチバチバチ


 『怒リノ鉄槌』が獅子の背中に当たると焼ける音と感電する音が聞こえる。


 ゴァアアア!!


 悲鳴と同時に身を翻し爪で切り裂こうとしてくる。


「『飛雷身』」


 即座に距離を取るが、肩の部分が少し切り裂かれた。


「っ痛いな」


 じわじわと痛みが広がる。


(反射がすさまじく速い)


 俺が反応できずに『飛雷身』で躱す前に攻撃されてしまう。


(だけど効果は十分だな)


 バベルが当たった部分は肉が焼けて、近くにある毛は焦げている。


 そして


(さっきので完全に怒らせたな)


 同時に完全にこちらをロックオンしている。


「『天雷』」


 牽制代わりに『天雷』を放つと、獅子は口から白い炎を吐いてくる。


 白い炎は『天雷』を飲み込み、迫ってくる。


 『飛雷身』で避けるが、そのまま周囲を巻き込んで薙ぎ払いながら追いかけてくる。


「おいおいおい」


 何度も移動してはその場所に向かって炎を吐きかけてくる。


(それでも追いつけていないなら意味ないぞ『飛雷身』)


 また背中に飛び殴りつけようとする。


 だが


「っ!?」


 背中に飛んだ瞬間に強烈な爆発で吹き飛ばされた。


「は?!何が?!」

 ニィ


 思わず出た言葉に反応して、ライオンが笑ったような気がした。


 幸いにも被害は腕と胴体に軽い衝撃を受けただけでまだまだ戦える。


 そして身動ぎすると黒い粉が周囲に振り撒かれる。


(アレは『飛雷身』対策か?)


 粉の正体はスキルにあった【焔硝鱗粉】だろう。


 そして爆発した後には独特の刺激臭が漂ってきており、火薬を彷彿させる。


(天然の爆発装甲だな)


 これでは『飛雷身』からの奇襲が塞がれてしまう。


 先ほどは粉の存在を隠すためにごく少量を使っていたためなのか、軽傷で済んだが、普通の爆発ではどうなるかは分からない。


「なら先に爆発させるだけだな『天雷』」


『天雷』を放てば爆発する、と思っていたのだが。


「爆発しない……か」


『天雷』は粉に触れるがただ散らせるだけで、森の奥に消えていった。


(爆発は任意にできるのか?)


 考えていると獅子は尻尾を振り回し粉を周囲に広がる。


「ちっ」


 急いで粉の範囲外に移動する。


(触れただけで爆発するようなものなら近づけないな)


 ギュイ!!


 獅子に視線を合わせていると死角から全く別の魔物が襲い掛かってくる。


「状況考えろ!!」


 振り返らずにイタチ型魔物の頭を掴み、粉の向こうにいる白獅子にぶん投げる。


 だが魔物を粉に放り込んだが爆発はしない。


(生物の接触では爆発はしないか)


 これがわかっただけでも成果だった。


(じゃあ何が原因で爆発した?)


 それが解ればやりようがあるんだが。


 ギュイ!!!


 今度は白獅子に向かって襲い掛かる魔物。


 ドン!!!


 魔物は噛み付こうとした瞬間、粉々に吹き飛ばされる。


 だが、その時になぜ爆発するのかが分かった。


(魔物が毛に触れた瞬間、微かにだが毛から白い炎が出た)


 つまりあの白い炎に反応して爆発するわけだが……


(俺はあの時、白獅子の体に触れてないなのに爆発した、つまりは)


「『聖ナル炎雷』」


 バベルの放つ炎雷が粉に触れると大爆発を起こす。


「つまりは白い炎、“聖炎”が爆発の条件か」


 聖炎は火と光の融合属性、これならバベルなら出せることができる。


「これで、その爆発で防ぐことができなくなったな」


 それにライオンは自分の爆発でほんの少しだけダメ―ジを負っている。といっても【火炎耐性】を持っているので微々たるものだろうが。


「……魔力も少なくなってきた、さっさと勝負を付けないと不利なのは俺か」


 HP、MPの量が根本的に違う。そのため長期的な戦闘になれば勝率は皆無と言っていい。


「『真龍化』、さぁ悪魔の件では消化不良だったからな思う存分にさせてもらうぞ」


 俺は地面を強く蹴り、懐に入り込む。


「ガァア!?」


 そのまま槌の部分でぶん殴ると巨体が浮き上がる。


「これで終わりじゃねえぞ!!!!」


 吹き飛んでいる最中に近寄り再び殴りかかり反対方向に吹き飛ばす。


 また移動しては、吹き飛ばし、移動しては吹き飛ばす。


 傍から見れば白獅子がピンポン玉のように撥ねているように見えるだろう。


(しかし一秒一秒でどんどん減っていく)


『真龍化』の魔力消費量は約10MP/S、毎秒で10MP消費してしまう。


 俺でも約2分が限界だ。


(でもそれだけで十分だな)


 白獅子は爪や尻尾で応戦しようとしてくるが槌の部分ではじき焼き焦がす。


「グゥゥ!!!!!」


 再び粉をまき散らそうとするが、『聖ナル炎雷』で爆発させる。


「それはもう意味はない!!!」


 再びピンポン玉状態になる。








 約一分後


「ふぅ~これでもう問題ないだろう」


 瀕死の状態になった白獅子。


「ふぅ、もう抵抗すらできないか」


 未だに戦意がある目をしているがほとんど体を動かすことはできないだろう。


「ここまで手こずらせてくれたのはあのコボルト以来だよ」


 動けない獅子の脳天めがけてバベルを振り下ろすのだが


「ダメ!!!」


 俺と白獅子の間にクラリスが入ってくる。


「!?っ危ないな」


 何とか寸でのところで止める。


「はぁ、はぁ、だめよ聖獣様はやらせないわ」


(……………………聖獣?これが?)


 問答無用で襲い掛かってきたからただの魔獣だと判断したのだが。


「俺が悪いみたいに言うな」

「一方的に痛めつけていたじゃない」

「そいつが襲い掛かってきた、殺されても文句を言われる筋合いはないはずだが?」

『最初に仕掛けてきたのはそっちだろう?』


 クラリスとの会話に割り込み頭に響いてくる声がある。スキルに【念話】があってことから、おそらくはこいつだろう。


(しかし、俺から仕掛けた?)


 獅子の言う意味が解らない。記憶が正しければ真っ先にこの獅子が攻撃を仕掛けてきたはずだ。


「……どういうこと?」

「知らん、急に襲い掛かったのはお前だろう」

『何を言う、先に魔力を飛ばしてきただろうが!!』


(魔力を飛ばす?)


「もしかしてこれの事か?」


 モノクルを取り出してまた鑑定を行う。


『それだ!!我に魔力を飛ばしてきただろう!!!』

「え?それって……」

「そう、ただの鑑定だ」


 つまりは鑑定したことが攻撃判定に入るらしい。これでははお互いに敵対行動をとっていたことになる。


 とりあえずクラリスのとりなしで双方とも矛を収めた。


『我は神樹の守護を担う六つの聖樹の守護獣アグラベルグである』

「へぇ」


 正直なところ聖獣と聞いて手も足も出ないほど強いと想像していたので、少々がっかりだった。


「それで、なんで守護獣様がこんなところにいる?」

『うむ、実は我が子が一人いなくなってしまってな、匂いを辿るとこのダンジョンにたどり着いたんだ』

「そうなのですか?」


 どうやらこの獅子の子供がこのダンジョンに入り込んだらしい。


『それで探していると何やら知っている気配を感じてな』

「あの仔がですか………」


 どうやらクラリスは面識があるようだ。


「知り合いか?」

「ええ」

『ああ、数年前に王と共に顔合わせをしたからな』

「王?」

『なんだ、知らんかったのか』

「聖獣様」

『こいつはエルフの国の姫だぞ』


 (やっぱそうなのか)


 あの集団で代表者でこいつに視線が集まっていたことからある程度予想はしていた。さらには名前にノストニアが入っていたことからも連想はできていた。


「悪かったな、聖獣をそんなズタボロにして」

「ちょ!?」

『ふん、デリカシーの欠片もない人間だな』


 なんだ鑑定のことを言っているのか?


「ただ鑑定しただけだろう?」

『それは違うぞ、魔力を感じ取れる種族からしたら全身を舐められる感覚がするのだ』

「そうなのか?」

『ああ、ヒューマンにはわからない感覚だろうがな』

「クラリスもそんな感覚がするのか?」

「さすがに聖獣様よりは感覚が鋭くないわ、体を真綿で緩く締め付けられているような感覚ね」


 エルフは聖獣よりは感覚が鋭くはないらしい。とはいっても人族ヒューマンには自身の魔力以外はよほどのことがない限り感知できないのでどういった物かは理解できない。


「エルフでも鑑定されるのは嫌か?」

「ええ、同意を取るならまだしも急にやられると嫌な気分ね」


 これからエルフへの鑑定は一言断っておこう。でなければ些細なことで衝突してしまうもしれない。


「聖獣様、上に行ける出口を知っておられますか?」

『上への道なら反対側の森の中にあるぞ』


 案外簡単に出口の情報が見つかった。。


「情報を感謝する。聖獣」

『アグラベルグだ、今度からはそう言え』

「いいのか?」

『ああ、我に勝ったものに聖獣と呼ばれるのに我が我慢できない』

(上の者に敬称で呼ばれるような感覚か)


 厭味ったらしく聞こえるのだろう。


「了解だ、アグラベルグ」


 出口が分かったので早速ダンジョンを出ようとするのだが。


『おい、待て』

「どうした?」

『情報を渡したんだ少し手伝ってくれてもいいんじゃないか?』

「……何をしてほしいと?」


 少しぐらいは手伝ってもいいとは思う。もちろん内容にもよるが。


『先ほども話したがここには子供の匂いを追ってきた』

「つまりは探してほしいと?」


 それぐらいなら引き受けてもいいと考える。


『違う、そうではない』

「?」


 話の流れで言えばその子供を助けてほしいという類だと思ったが、違うみたいだ。


『確かに息子を追ってここに来たのだが、ダンジョンを見つけた時点でそれは後回しだ』

「後回し、か」

『ああ、我は聖獣としてこのダンジョンを壊さなばならない』

「その間に子供が死んだとしても」

『仕方ない、それも自然の定めだ』


 その言葉にやや不快感を感じたが、ここで論争をしても仕方がない。


「わかった、だが俺たちは何をすればいい?」

『まずはダンジョンボスを探してほしい』


 ダンジョンボスの近くにはダンジョンコアがあり、それを壊せばこのダンジョンは崩壊する。


「だが、ダンジョンを壊していいのか?」

「なんで?」


 詳しく聞いてみたところ、どうやらエルフにダンジョンは資源という考えはないようだ。


「ダンジョンをうまく運用すれば結構な素材やお金が集まるだろう?」

「数だけが取り柄のヒューマンはそれで問題ないでしょうけど、エルフからしたら害獣の巣よ。できるだけ早く壊しに行くわよ」


 クラリスの言う通り人族の数なら無事に運用できる。けどエルフの人口では運用することは難しい。こういった点からエルフでは金の生る木とは考えてないらしい。


「それだったら、遠慮なく壊せる」


 だけどここで問題があった。


『二つの森と草原を調べたが、ボスは見当たらなかった』


 つまりはアグラベルグが見逃した場所にいるということなのだが……。


(俺も『飛雷身』で探し回ったがそれらしい影を見ていないな……)


 今朝、軽く全域を見回ってみたのだが普通の魔物だらけでボスがいるとは思えなかった。


「中央の山も調べたか?」

『ああ、中央の山も見回ってみたのだがな』


 それらしき気配はないとのこと。


「じゃあ考えられるのは隠密に長けた魔物、もしくは……」

「空、もしくは地中にいるかもしれない?」


 クラリスの言葉に同意する。考えられるのは、俺たちが見逃しているか、それとも俺たちが捜索しえない場所に居るかの二択だ。


 地上はアグラベルグがほとんど探索し終えた、それなのに見つからないとなると。


『ふむ、可能性はありそうだな』

「だとするといつまでも飛んでいるはずがない、どこかのタイミングで地上に降りてきているはずだ」


 だが普通に降りてきているならアグラが見逃しているとは考えにくい。


 俺たちは空を見上げる。


「……ねぇダンジョン内って雲はあるの?」


 クラリスの言葉で雲を見る。


「確かに……」


 空には雲が一つだけ浮かんでいる。それ以外に雲は存在してない。










 それから俺らは雲を観察する。すると夜に山のとある場所に降り、朝日が昇る前に空に飛び立っているのが分かった。


「ということで今夜、あの雲が降り立つ場所に行ってみるが、どうだ?」

「賛成」

『我も文句はない』


 これから動くので食い物を腹に詰める。


「それにしても」


 俺が二人(一つは一匹だが)に視線を送ると、視線を避ける。


「なぜ食料を持ってきていない……」


 ダンジョンで倒した魔物は一部を残して消えてしまい、食料としては使えない。


「私は巻き込まれただけだから……」

『我は10日ほどは何も食わなくても問題ない』


 当然こいつらが食料を持ってきているはずもなく、すべての食料を俺が出すことになっている。


「ならアグラベルグは食わなくてもいいな」

『待て、食わなくても問題はないが空腹は感じるのだ』


 食事を続けると既に亜空庫にある食料の4割を消費してしまった。


(さっさとボスを倒さないと俺たちが飢え死にするな)


 より一層ダンジョンボスを殺す決意をする。

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