第19話 仕掛けられた罠
〔~???~〕
私は急ぎ王都に戻り報告を上げる。
「――――とのことです」
私の報告にこの場にいる全員が苦虫をつぶしたような顔をしている。なにせ報告を聞き、どのような意図で私が帰されたかを理解できてしまっている。
「わかった」
その声と共に私は下がり、部屋の隅に移る。
「それでどうしましょうか
「ふむ、厄介なことになったの」
「ゼブルス家のガキが、こざかしい真似をしおって!」
「陛下、ここは教会に協力してもらい、ゼブルス家の嫡男を異教徒として排斥するのはどうでしょうか?」
現在はとある部屋にて事成り行きを聞いた者たちが憤慨している。そしてその中にはグロウス王国の現国王も姿も存在していた。
「……どう思う?
「残念ながら難しいですね、今年に清めを行いゼブルス家の嫡子は神の祝福を得ました。そんな少年を異教徒として排斥することは」
「できないと申すか」
(嘘だ、やろうと思えばできるはず)
だが枢機卿が自ら清めを行った少年を排斥してしまえば嫌な噂が立ってしまい立場が危うくなる。なのでやらないができないとなっている。
「では食料の輸出に規制しましょう、そうすればいずれは
一人の貴族がそう提案するが、ほかの貴族から失笑が漏れる。
「残念ですがそれも難しいかと、ゼブルス領は国でも有数の農業地です。逆に向こうが食料を絞り込めば王都での物価が上がってしまいます」
「それに魔道具はあと二日ですべて止まってしまう」
ここにいる全員がイドラ商会の魔道具の恩恵を受けている。
一人は農地には適してなく、食料が足りてないのだが大規模な冷蔵庫をいくつも買い込み、領地の食糧を保存していたり。
一人は雪が厳しい地域で、多くの領民が暖房機の恩恵に受けている。
一人は領地で飲み水が少なく、イドラ商会の浄水器をつかって飲み水を確保している。
このように少なからずイドラ商会、いやゼブルス家の魔道具を恩恵を多くの貴族が受けている、また教会も医療のために空気清浄機や食料を保存する冷蔵庫を多く使っている。
「「「「「………」」」」」
全員が難しい顔をする。
イドラ商会の猛進を止めたいのだが、その恩恵は受けたい。
そのために営業停止勧告をし、これ以上魔道具を売れなくして、困っているところに手を差し伸べそれなりに便宜を図ってもらうつもりだった。
「やはりその根幹の道具を奪えないものか」
誰かがつぶやく。そしてこの言葉に心の中で同意する貴族は多い。なにせ、このすべての魔道具を使えなくする魔道具が彼らの考えを完全に裏返しにしたからだ。
会議が停止していると扉を叩く音が聞こえる。
「失礼します、ゼブルス家から手紙が届いています」
「…読み上げよ」
手紙を持ってきた者に読み上げさせる。
いろいろお伺いの言葉や時候の言葉などを省くとこのような手紙となる。
『うちの魔道具が止まって困っているだろう?再開させてやってもいいぞ、だがわかっているよな?』
無論これがそのまま書いてあったわけではない、何重にも装飾されて相手を不快にさせないようになっている。
だがこの手紙を見た貴族たちは内容を正確に理解し、激怒している。
「陛下、このような手紙を出したゼブルス家を見逃すのですか!!!!」
「しかり!!調子に乗っているゼブルス家を叩き潰しましょう!!!」
このように議論は熱くなり戦争にまで発達しそうな勢いだった。
「…どう考える、アスラ」
陛下は会議で一言もしゃべってないグラキエス家に助言を求めた。
「残念ながらこれについては賛同できない」
「どういうことだ!?グラキエス卿?!」
「簡単に言えば、俺は今回はゼブルス家の方に回るということだ」
「…説明しろアスラ」
グラキエス卿は陛下に無礼な物言いをするが誰も責め立てない。
それだけ陛下からの信頼が厚く、子供のころからの親友だ。それゆえにほかの臣下よりも言葉を聞いてもらいやすい。
「今回は陛下に非がある、と考えているだけだ」
「グラキエス卿!?」
他の貴族はアスラ様を責め立てるがそんなものお構いなしに陛下に提言する。
「まず疑問なんだが、なんでイドラ商会に営業停止を突き付けた?」
「それはこれ以上富の一極集中を行わせないためだ!!」
一人の貴族が声を上げるが陛下の表情からそれが本意でないことは明らかだった。
「…本当にそれだけか?」
「魔道具作成を国営にするつもりだったのだ」
魔道具の有用性、利益、将来性などを踏まえるとどうしても国営にしたかったとのこと。
「はぁ~、なんとなくわかった。営業停止に追い込んで食えなくなった職人を囲い込もうと考えたんだな?」
「いかにも」
その言葉に呆れた様子を見せる。
「まずはそこから違う、あの商会で魔道具を作っているのは一人だ」
「おお!!グラキエス家は把握されているのですか!!」
「どなたですか!?」
声を上げた人たちは陛下が声を掛ければすぐさま職人を引き抜けると思っている。
だが
「なんだ知らんのか、今話題に出ているバアル・セラ・ゼブルス本人だ」
は?????????????
全員の言葉が重なった。
それもそうだ、どこに10歳の子供、それも教育真っただ中の貴族の嫡男が魔道具を作っているというのか。
「え?!は?!あの子供がすべての魔道具を作っていると?!」
「そうだ、以前イドラ商会でも確認を取った」
さらに全員が驚く。なにせ今市場に出回っている数から考えて、寝る暇も惜しんで作ったとしても到底数が足りる訳がない。となれば大多数の生産者がいると考えるのが普通だ。
「たく、いいかお前らは子供が自分で作った物を取り上げようとしている情けない大人だぞ。それに話をすればとても理性的な子だったぞ?」
「グラス、お主も会話したことがあったな」
「はい」
「どんな子供だった?」
陛下の問いにグラスは考え込み、顎に手を当てて髭を一通りいじる。
「……そうですね、とても子供と思えない子供だと判断します。イグニア殿下との決闘の際にも殿下を気遣い引き分けに持ち込んだぐらいですし」
その言葉を聞いて陛下は呻るように考える。
「財務卿、イドラ商会の営業停止を取り消せ」
「よろしいので?」
取り消してしまえば王家が負けを認めたも同然だ。
「ああ、今回は欲に目がくらんだ我らの敗北だ」
「陛下!そんな簡単に負けを認めるなど!」
「戦時ならともかく、このような状況下で負けを認められぬ王は王ではない。おそらくだいぶ前からこうなると予想して、この策を打ってあったのだろう」
出なければこのような対策をしているわけがない。魔道具の緊急停止を用意しているのがその証拠でもあった。
力強い陛下の言葉に貴族たちは黙り込む。
「アスラ、ゼブルス家の嫡男との橋渡しを頼む。最悪な事態になる前に」
するとグラキエス卿は臣下の礼を取る。
「御意、陛下の仰せのままに」
こうして今回の騒動は終わった。
〔~バアル視点~〕
「―――ということだ。営業停止は撤回させた」
「だから魔道具を使えるようにしろと?」
魔道具を停止させる日にグラキエス家当主が俺に会いに来ていた。
「なるほど、お話は分かりました、ですがまた魔道具を使えるようにするには1ヵ月ほど時間が必要ですね」
「……本音は?」
「二度とこのような馬鹿な真似をできないように、少しお灸を据えようかと」
もう一度魔道具がない生活に戻し不便さを教え込んでやるとする。
「そうだな、愚か者には据えてやれ。魔道具はこの国を豊かにしたのに自ら首を絞めようとしているんだからな」
「……今回はお手数をお掛けしました」
俺は姿勢を正し頭を下げる。
なにせアスラさんが協力してくれたのは、あの密約によるところが多い。
「いや、問題ない。それにお前が魔道具で他国に交渉すればどのみちこの問題は解決しただろう?」
最悪はそれも考えていた。
おそらく陛下はそれも見越して取り下げてくれたのだろう。自国の利益が他国に渡ってしまわないように。
「まぁそれをすると後がめんどくさいですが」
「……まぁいいさ、これからもいい隣人でいてほしい」
「こちらもよろしくお願いします。それとですが――――」
あと一つ交渉をしてアスラ殿は帰っていった。
1か月後、魔道具の影響でかなりの不満が俺に圧力をかけた貴族に行った。
「しかし不思議ですね、なんでバアル殿が責められないのですか?」
リンは紅茶を入れながら不思議がっている。様々な人が『魔道具が使えなくなった』ってイドラ商会を責め立ててもいいはずだと。
「それは簡単だ、複数の大人が子供に責任を押し付けたとなると、どういう評価が立つと思う?」
イドラ商会は命令に従っただけということが分かったら、文句の行先は営業停止を突き付けた教会や貴族たちに行きつく。
メンツが大切な貴族からしたらそんなことできない。だったらまだ軽傷で済む間に事態を抑え込めばいい。具体的には自身の影響下にある貴族を抑え込み、イドラ商会に不満をぶつけないようにすること。そうすればこちらの口から今回の真相は出てこないで、様々な憶測が飛び交うだけで済む。
「俺は国からの営業停止に忠実に従った。また魔道具の再開もどうやっても1か月は停止せざるを得ない(ということにしている)」
「たしかに…」
「それにグラキエス卿を通じて、連中にそう流してもらったからな」
まず標的になることはまずないだろう。
「……そういえば某は魔道具を停止させる道具というものを見たことがないのですが」
ふと気になったことをリンは尋ねてくる。
護衛でほとんど俺から離れないリンはそのようなものは見たことがない故の疑問だろう。
「簡単だ、ここにあるからな」
俺は机の上にある前世で見慣れたものを開く。
「……板?」
俺が取り出したのは前世でよく見た薄型ノートパソコン。
「これを少しいじるだけでどこまでの範囲で魔道具を停止させるかを決めることができる」
機能はそれだけではないがあえて語る必要もない。
「なるほど……そういえば以前捕らえたあの者たちはどうするおつもりで?」
「あの二人か」
今回で一番扱いに困る代物だ。
「身分が不明だったことで今は牢屋にいれているが、時期に迎えが来ると思うがな」
暗部が囚われている危険性を知っていないはずがない、おそらくは近いうちに動きがあるはずだ。
〔~???~〕
「うぅ~~~~、なんで私が……」
私は組織から命令で再び、この屋敷に潜入している。
命令は簡潔『ほか二人がどんな状況か確認し救出できるなら救出すべし、もし無理ならば口封じをしろ』というものだ。なのですぐさま牢屋の場所を調べ上げて潜入する。
「うぎゃ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」
中に入ると何かしらの悲鳴が聞こえる。
(ゴクッ……見つかったら何をされるか…)
任務に失敗したら今度こそ何をされるかわからない。
(闇魔法『影被り』)
女性の体は影が張り付いたように…それこそどっかの子供大人探偵の犯人みたいな恰好になる。
(それと火魔法『
女性は壁に手を付くとトカゲのように張っていく。
見つからないように天井を移動していると
「うげ~~、あんな拷問俺には耐えられないぞ」
「本当にな、あんなおもちゃみたいな扱いはごめんだ」
二人組の騎士が真下を通っていく。
(………そこまでひどい拷問を受けているのね)
彼女は仲間の彼らを救うべくできるだけ急いで行動した。
(見つけた!!!)
いくつもの場所を探るとようやく二人を見つけることができた。
さいわい見張りがいないようなので地面におり駆け寄る。
「……だれだ?」
「隊長、私です」
「……なぜ?ここに?」
「組織からの命令で救出しに来ました」
もしだめなら口止めするということは伏せる。
「今カギを開けますね………あれ?」
ピッキングする道具を出すのだが鍵穴が見つからない。
「どうした探し物か?」
「「「!?」」」
突如後ろから話しかけられる。
振り向くと二人を捕らえたあのマスクがいた。
「っ」
急いで武器を出して構える。
だがマスクの男は動かない。
「安心しろ、今回は捕まえに来たわけじゃないんだ」
「……ではなんの目的で?」
「こいつらを逃がすのに手を貸そうと思ってな」
三人は意味が解らなかった。なにせ行動が矛盾している。
その視線に気づいたのかマスクの男は口を開く。
「いやな、雇われたはいいがあまりに待遇が悪くてな、改善を要求したら首になったわけだ。で、その腹いせに俺が捕まえたそいつらを逃がそうと思ってな。その証拠にホレ」
男は何やら棒切れを投げ渡してくる。
「それはその錠を外すカギだ、使い方は簡単その棒を鍵に当てればいいだけだ」
女性は警戒しながら後ろ手で鍵を開ける。
「……で、お前のやりたいことはこれだけでいいのか?」
「言っただろ腹いせだって、それなりの情報をそっちに流してやる」
マスクの男はある程度の情報を流してくる、あの少女がどこにいるか、どのような経路で巡回しているかなどなど。
「それとだこれも返してやるよ」
布で包まれたそれは、捕まった二人の装備だった。
「さすがにここから出ていくのに今の恰好だったらすぐに捕まるぞ」
二人はいぶかしげながらも装備を手に取る。
「じゃあな、縁があったらまた会うかもな」
「待って」
「なんだ?」
「あなた解雇されたのよね?」
「そうだ」
「なら私に雇われない?」
この言葉に仲間二人は反応する。なにせ自分たちを捕まえた存在だ、いい気分はしない。
「残念ながら背後に誰がいるかわからん奴の下に付く気はないよ」
そういって去っていった。
「……装備に異常はないな」
「そのようですね」
二人は何か細工してあるかどうかを確認して、異常がないとわかると装備を着込む。
「……では脱出するぞ」
「「はい」」
それから三人は貰った情報を駆使し無事脱出する。
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