第17話 妨害は付き物

 期限から1週間後、予定通りに俺たちはゼウラストに帰って来ていた。そして現在、ゼウラストを進む馬車の中でこの一週間のことを思い出していた。


「結構楽しかったな」


 あれから日が出ている間はダンジョンに潜り、日が沈むと町に戻り休息をとる、その後はダンジョンについてのレポートを書くというサイクルを繰り返した。


「そうでござるな」

「ええ、ステータスが伸び悩んでいたんですがあんな方法で伸びやすくなるとは……」


 二人にはステータスが伸びやすくする方法を実践してある。


「わかっていると思うが他言するなよ」


 二人は頷く。


(とはいっても俺が二人の体に触れてあることをしたくらいだから、何が起こってかは理解できないだろうな)


 ちなみに俺たちのステータスだが


 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:29

 状態:普通

 HP:597/597

 MP:1132/932+200


 STR:71

 VIT:64

 DEX:83

 AGI:96

 INT:112


《スキル》

【斧槍術:29】【水魔法:2】【風魔法:2】【雷魔法:11】【時空魔法:4】【身体強化:5】【謀略:17】【思考加速:7】【魔道具製作:8】【薬学:2】【医術:7】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――



 ――――――――――

 Name:風薙 凛

 Race:ヒューマン

 Lv:30

 状態:普通

 HP:561/561

 MP:671/671


 STR:46

 VIT:35

 DEX:53

 AGI:55

 INT:29


《スキル》

【抜刀術:49】【槍術:8】【風魔法:13】【身体強化Ⅳ:2】【悪路走破:14】【威圧:5】【縮地:1】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【暴嵐の風妃】

 ――――――――――


 ――――――――――

 Name:ラインハルト・ガルリオ

 Race:ヒューマン

 Lv:38

 状態:普通

 HP:412/412

 MP:251/251


 STR:37

 VIT:40

 DEX:26

 AGI:32

 INT:27


《スキル》

【聖剣術:9】【槍術:5】【光魔法:4】【闇魔法:1】【身体強化:14】【威圧:7】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 こんな感じに最初の攻略以来、あんまり変わっていない。もちろんこれには理由が存在していた。


「妥当といえば妥当だな」

「そうですね、3ステージ目までは変わってなかったのですが、苦戦した狼と武者がいなくなっていましたから」


 ラインハルトの言う通り二回目からは魔物が変わって、4ステージ目の二足歩行の黒い狼は二足歩行の茶色い犬っころに、5ステージ目の武者は石のゴーレムになっていた。


 しかもレベルもステータスも大幅に落ちていたので簡単に勝つことができた。ただ初回じゃないことから宝箱からはほとんど★か★×2しか出なくなり、またほとんどがポーション類でたまに★×3の素材が出るくらいになっていた。さらにあの白い空間も最初以外は訪れることもなかった。


 こんな状況ではいくら周回しても劇的なレベルアップはまず見込めない。そして見込み通りに最初の攻略以外は碌にレベルが上がることはなかった。







 ゼウラストを進む馬車は、いくつもの区画を通り過ぎて門を潜り屋敷に向かっていく。


「「「「「「「おかえりなさいませ、バアル様」」」」」」」


 そして屋敷の門を潜れば、正門近くに多くの侍女や使用人たちが出迎えをしてくれていた。


「今戻った、それで父上はどこにいる?」

「執務室におらっしゃると思います」


 軽く答えると同時に場所を教えてもらい、そのまま報告のために父上の下に向かうのだが。


「あ~~~~ん」


 執務室に入ると母上がケーキが刺さったフォークを父上に差し出す場面が目に入る。


「あ~~~~ん、ん~~~エリーゼに食べさせてもらうと、とてもおいしいよ!」


 父上の顔は、誰が見てもだらしないといるだろう。いっそ見苦しいとも言える。


「あら、じゃあこれも、あ~~ん」

「あ~~~~~~」


 再び甘甘なやり取りが始まる。


(いや、俺はなにを見せられているんだ……いや、両親の仲がいいのは喜ばしいのだけど……)


「ん、ん!」

「「?!」」

「父上、ダンジョンの調査から戻りました」

「う、うむ、ご苦労!」


 こちらに気付き、何とか体裁を保とうとするがもう遅い。


「とりあえず詳細をまとめましたのでご覧になってください」


 俺は報告をまとめた書類を机の上に置いておく。


「では」

「待て待て、それでバアルはどのようになった」


 この部屋を出ようとするのだが父上に引き留められた。当然ながら父上や母上も俺のことが気になっているらしい。


「……このようになりました」


 俺はモノクルを取り出して自分のステータスを見せる。


「お前……それは鑑定のモノクルか」

「そうです、どうやら俺が初制覇者だったようでクリア報酬でこのモノクルが出ました」

「よくやった!」


 父上は俺に抱き着いてくる。


 公爵家といっても貴重なものは貴重なのだ。


「あなた、モノクルもすごいけどこのステータスも見て」

「どれど……は?」


 母上はこの数値を見ても何ともないが父上は時間が停止したようになってしまった。


「よく頑張ったわね」


 母上はそう言って頭を撫でてくれるが、だが父上は動かない。


「いや!いや、ちょっと待ってくれ、なんでこんなステータスになっている!?」

「あなた、バアルなのよ?これくらい普通だわ」

「エリーゼ、さすがにこれは無視できない問題だと思うのだが」


 父上もさすがにこの異常性には無視できない。


 10歳の子供が英雄と同等のステータスを得たのだ、馬鹿でない限りこの問題を放置しない。


「大丈夫よ、どうやってバアルがこのステータスにしたのかはわからないけど、簡単にはしゃべらないでしょ」


(……さすが母上は抜け目ない)


 母上は俺のステータスは異常だと気付き、なにからの方法で上げたのだろうと予想ができている。そして俺がステータスの上げ方を喋ることなどないとも理解している。


 その理由は二つ。


 一つは俺が優位を得るためだ。ステータスの効率的な上げ方を喋るとする、その恩恵を受けるのが味方だけなら問題ないが、いずれ情報は敵側にも漏れてしまう。わざわざ敵側を育てる必要はない。


 二つ目はゼブルス家の利益のためだ。効率的なステータスの上げ方が一族の限られたものにしか伝わらないならゼブルス家の重要性は今よりも強くなるからだ。


「ね、だから問題ないわよ」

「……うむ、エリーゼがそういうのであれば」


 俺が思案していると母上が父上を説得し終わっていた。


「ねぇバアル、これだけは答えて。このステータスにするには何か特別な方法はあるの?」

「はい、あります」


 有るか無いかはしゃべっても問題はないだろう。あることを知ってもそれを探ることができるかと言われれば確率はあるというほど。それを探り当てる方法としては俺から情報を搾り取るくらいだが、母上たちがペラペラとしゃべってわざわざ俺を危険な目にあわせるなど、まずしない。


「じゃあほかにバアルがステータスを効率的に上げられる方法を知っている人物はいる?」

「……リンとラインハルトは知っています」


 既に効率的に伸ばせることは二人は知っている。


「ですが、内容までは教えていません」

「それでいいわ、これはあなただけの武器になる、大事にしなさい」


 母上の言う通りだ。


 もしゼブルス家が国に見捨てられたらこれを餌に他国に亡命の手引きをしてもらうことすらできるだろう。


「バアル、あとできちんと二人に口止めをしなさい。ああ、口止め料はきちんと出すのよ」

「わかりました」


 母上の許しが出たので、ある程度の条件なども飲めるようになった。


「それじゃあ、バアル、ダンジョンの事だが」


 ようやく立ち直った父上とダンジョンのことについて話し合いが始まり、一年だけ運用してみてそれでも大して変わらないようであればコアを破壊すると結論が出ることとなった。


















 それから半年、何事もなく普通の日常が過ぎていく。


「寒いな」


 季節は様変わりし、吐く息も白くなるほどすっかり空気も冷え、本格的な冬となった。


 幸いこの地域には雪がそこまで降らないので道を歩くのに苦労は無い。


「……こたつが恋しいでござる」


 ゼウラストの往来を歩いていると護衛のリンが寒さに震えていた。


「低いテーブルに布を掛けたあれか?」

「そうでござる、さらに言えば中に豆炭がはいってとてもあったかいんでござる」


 ヒノクニは聞いている限りでは限りなく日本文化に近いことが判明している。そのためリンの単語にはなじみのあるものが多かった。


「それで今回は何しにイドラ商会に?」

「何でも少しトラブルが起きたようでな」


 なぜ寒い中、ゼウラストの町中を移動しているかと言うと、今朝方にイドラ商会の使いが来て急いで来てほしいと連絡があったためだ。


「何があったんでござろう?」

「それを知るために今向かっている」










「ばあるさま、バアル様!ようこそ、ようこそお越しくださいました」


 出てきた総支配人は今にも泣きそうな顔で近寄ってくる。


「それでどうした?」

「実は……」


 総支配人はすぐさま豪華な手紙、書状と言ってもいいものを見せてくる。


「……なるほど」


 簡潔に言うと国からの営業停止勧告だ。これが届けられたのなら総支配人には文字通り俺に泣きつくしかないだろう。


(いや、父上に泣きつくというパターンもあるのか)


 思わず父上と支配人だ抱き着く場面を想像して笑ってしまう。


「ど、どうしましょうか、バアル様」


 ここに父上がいたら支配人と同じくあたふたすることになるだろうと、どうでもいいことに思考が逸れる。


「バアル様」


 リンの言葉でわき道に逸れた思考が戻ってくる。


「とりあえず書類通り営業を止めろ、俺が状況を確認してくる」


 総支配人に全店に期限までに一時的な営業停止させるように通達させる。さすがに国からの勧告となると無視するわけにはいかず、すぐさま対応する。だが同時に諦めるわけでもなかった。


「リン、戻るぞ急用ができた」


 俺はリンを連れてすぐさま屋敷に戻る。


「父上、俺は王都に向かいます」


 すぐさま執務室に入ると居眠りしている父上を叩き起こす。


「父上!!」

「わは?!きゅ、急にどうした?!」

「俺のイドラ商会が国から営業停止にされそうなので急いで原因を突き詰めに行きます」


 用件だけ簡潔に話し、すぐさま王都に行く準備をする。


「バアル様、王都に行ったあとはどうするのだ?」

「事情を知っていそうな人に話を聞きに行く」







 馬車を全速力で飛ばし、三日で王都に到着する。


「どちらへ向かいますか?」

「とりあえず、屋敷に向かってくれ」


 王都にあるゼブルス邸に行き手紙をしたためる。


 溶けたろうそくを手紙に垂らし、上からゼブルス家の家紋を刻む。


「これをエルド殿下に届けてくれ」

「かしこまりました」


 話を聞くなら中核に近しい人物に聞くのが手っ取り早い。そして今一番都合がいいのが第一王子エルド殿下だった。






 それから二日後、俺達は目的の人物に合うために王城に赴く。









「やぁ、待っていたよバアル」


 王城の侍女に案内された部屋にはすでにエルド殿下がいた。


「で、例の物は?」


 エルド殿下は俺が持ってきたものが待ちきれない様子だ。


「ええ、準備は・・・してきていますよ、ですがその前にイドラ商会の営業停止について知っていることをお教え願いたい」


 現物を出すその前に本題を聞く。原因を知らなければ対策の取りようがなかった。


「ああ、あれか。簡単に言うと意見書を出したのに要望通り作ってもらえない貴族と教会、それと魔術師ギルドが圧力をかけてイドラ商会を営業停止にしたんだよ」


(ほぅ……)


「王家もそんなことをしたくなかったんだが、あまりにも教会と貴族達の圧力がひどくてね」


 とは言っているが王家がこんなもので動くはずがないもっとほかの理由があるはずだ。


「るほど……では約束の魔道具『守護の腕輪』です」


 だがそんなことを言えるはずもなく話を合わせ、依頼されていた腕輪を殿下に渡す。


「それの使い方ですが、ただ腕に嵌めるだけ、これだけです」


 後は勝手に魔力が吸引されて自動で発動してくれる


「それだけ?」

「ええ、それとオンにしたい場合は、赤い宝石が見えるように、オフにしたいときは青い宝石が見えるようにしてください」


 もちろんオンオフ機能も付けているので安心だ。


「詳しい説明が必要ですか?」

「一応頼む」




 今回作ったこの魔道具には認識空間というものが存在する。


 まず発動基準だが身体から30cm、20cmの場所に二つの魔力膜が存在しており、膜から膜へと物体が走ると電子回路が角度、運動エネルギーを感知し、どの場所にどの程度の『魔障壁』を置けばいいかを判断し、最後に指定した場所に『魔障壁』を発動するようになっている。


 ただ、これだけでは日常生活では不便になる、なにせ握手もできなくなってしまうからだ。そこで制限として体に傷つきそうにない運動エネルギーの場合は『魔障壁』が発動しないようにしている事を説明する。






「一応実演をしたいのですが……さすがにここで行うのは」

「それならできる場所に案内しよう」


 実践のためにエルド殿下とその護衛と共に訓練場に来る。


「では実演してみましょう」


 護衛の一人に魔道具を嵌めて、ほかの護衛が矢を放つ。


 真っ直ぐ護衛へと向けられた矢はすぐ近くに魔障壁が張られ、あっけなく防がれる。その様子に張本人は心底ほっとしていた。


「ほかにも剣も防ぐこともできますよ」


 だが俺の言葉で護衛は再び的になる。


(……青ざめている)


 俺は防いでくれるのを知っているが護衛は知らないため恐ろしいのだろう。


 キィン


 試行の結果、剣が振り下ろされると魔障壁が張られて無事に防ぐことが出来た。


「このように剣でも矢でも防ぐことができます」

「……すごいな」


 殿下はこの腕輪をいたく気に入った様子だ。


「それでこの魔道具の料金についてなのですが」

「ああ、言い値で払う」

「ありがとうございます。では端数は切り捨てて金貨20枚となります」


 金額を聞くとエルド殿下は固まる。


「少々高くないか?」

「残念ながらこれは特注品です、市販品よりも値がかなり張ることになるので」


 市販品はどれだけ高くても金貨1枚もしない。だがこれは特注品、それ相応の値段にはなってしまう。


「……それもそうか」


 簡単に説明するとあっさりと納得して頂けたので金銭を支払ってもらう。


「では私はこれで……あと言い忘れていましたが」

「なんだ?」

「危険な土地に行くなら1週間以内に行くことをお勧めします」

「なぜ?」













「その魔道具が使えるのはあと1週間のみとなりますので」

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