第15話 三者三様に
ラインハルトの背に揺られながら一つ気づいた。
「そういえば、あのステージの宝箱には何があった?」
俺の問いにラインハルトは懐から何やら宝石のような石を取り出す。
「これなのですが我々はモノクルを持ってないので」
そう言われて、体に鞭を打ってモノクルを取り出し鑑定する。
―――――
付喪神の宿り石
★×7
【具ニ力ヲ】
付喪神が宿る石。器となる武具や道具に宿らせると、その道具に歴史や思い入れがあるほど強くなる。
―――――
このような結果になった。
「(ふむ、となると)リン」
「何でござるか」
「ほら」
石をリンに投げ渡す。
「っと、え?」
「その刀に使え」
思い入れや歴史が強化につながるならリンの刀は母から譲り受けた家宝だ、この場では一番効力を発揮してくれるはずだった。
「ですが、すでに刀は」
鞘から抜くと刃がボロボロと落ちていく。この状態では下手に力を入れた瞬間に根本から折れてしまいかねない。
「なので、これは取っておくのがいいでござる」
石が投げ返され、そうは言われる。だが、退路がない現在を考えれば、最善策はどこまで戦力を伸ばせるかという一点に尽きる。そしてそれが一番活用できるのはリンの刀しかありえなかった。
「現状を見ろ、いまだにダンジョンは続いている。なら少しでも戦力を整えなければいけない。だったらもったいないと感じている場合ではない」
もう一度、リンに投げ返す。
「……」
「ほら」
「かたじけない」
リンは刀を抜き石を押し当てると、石は煙になり刀に吸い込まれていく。吸い込んだ刀は柄の綻びていた糸が勝手に動き、綺麗な状態に戻り、刃は根元からエメラルドの紋様が描かれていき、ひび割れた部分は徐々に修正されていく。
―――――
宝刀“
★×8
【刀鋭】【風迅】【嵐撃】【自動修復】【所有者固定】
母親が娘の安全を願い授けた風薙家の宝刀。付喪神がついたことにより、先祖から大切にされた思いが力となり刀を強くした。
―――――
過程を観察しながらモノクルで確認すると宝刀にふさわしい物となっていた。
「これが……」
リンが手に持つと刀の紋様の部分が淡く光る。おそらくこれが所有者固定だろう。証拠に試しに俺とラインハルトが持ってみたが紋様は光らず、リンが持つ時のみ光りだした。
刀がどのように変わったか確認しているうちに刀の罅は無くなり戦闘にも使えるように復元された。
それと二人の状態も確認する。
――――――――――
Name:ラインハルト・ガルリオ
Race:ヒューマン
Lv:37
状態:普通
HP:271/392
MP:233/233
STR:33
VIT:36
DEX:21
AGI:29
INT:20
《スキル》
【聖剣術:8】【双剣術:19】【槍術:5】【光魔法:4】【闇魔法:1】【身体強化:14】【威圧:7】
《種族スキル》
《ユニークスキル》
――――――――――
ラインハルトについてはさほど変わってない。
(これでも騎士の中では有望株なんだがな)
俺のステータスと比べると微妙と思ってしまう。
――――――――――
Name:風薙 凛
Race:ヒューマン
Lv:28
状態:普通
HP:215/524
MP:311/614
STR:38
VIT:29
DEX:44
AGI:48
INT:24
《スキル》
【抜刀術:48】【槍術:8】【風魔法:13】【身体強化Ⅳ:2】【悪路走破:14】【威圧:5】【縮地:1】
《種族スキル》
《ユニークスキル》
【暴嵐の風妃】
――――――――――
こちらは相当ステータスが伸びていた。伸び率で言えばラインハルトよりもよほど効率的だった。
(二人に効率的なステータスの伸ばし方を教えてやるのも手だな)
そんな考えをしていると次のステージへとたどりつく。ラインハルトの背中から降りると、自身の体がそこまでだるくないことを確認する。
一応の準備が整うと俺たちは互いに頷きあい扉に手を掛ける。
扉を開けると中は和式の祭壇のような場所に繋がっていた。
そして中心には三面六臂の鎧武者がい鎮座していた。
――――――――――
Name:
Race:戦鬼武者
Lv:34
状態:臨戦態勢
HP:950/950
MP:540/540
STR:68
VIT:72
DEX:65
AGI:49
INT:17
《スキル》
【武術:38】【感覚共有:15】【剛腕:12】【硬化:23】【戦鬼化:20】【自動回復:25】
《種族スキル》
【常在戦場】【傷は武士の誇り】【三鬼化】
《ユニークスキル》
――――――――――
(さっきのウォーウルフよりもつよいが…)
ステータスの値を見る限り俺の方が有利に感じてしまう。だが現時点ではまだ体にけだるさが残っているため万全とは言えない。
「オヌシラガ、チョウセンシャカ」
俺らがある程度進むと武者は立ち上がり話始める。
「しゃべれるのか」
「イカニモ、ワレハコノサイオクヲマモルシュゴシャナリ」
「最奥、つまりここがダンジョン最後のステージであっているか?」
「ソノトオリダ」
エリアの数が少ない、ということはまだまだ出来立てのダンジョンということになる。
「マスターニガイスルモノヲハイジョスル、イザ!ジンジョウニショウブ!」
そういうとそれぞれの腕が獲物を構えだす。
「ソレトチョウドヨイ、オノオノドレトヤリアイタイカキメロ」
この三面武者はぼやけると一つは短い刀と刀を、一つに槍を、一つに大きな日本刀を持っている武者へと分かれる。
「誰がどこを相手にする?」
俺がこう言うと自然と組み合わせが決まった。
「某はこの大刀を」
「では私はこの双剣を」
二人が得意とする相手を決めると、残っている槍の奴しかいないため消去法で相手が決まる。
「ドレヲアイテニスルカキマッタカ」
「ああ、じゃあ始めよう」
俺たちはいっせいに襲い掛かる。
「「「ショウシ!」」」
〔~バアル視点~〕
俺は繰り出される突きを紙一重でかわす。
「残念だけどこのスピードなら全然問題ない」
武者は50近いAGIを持つが俺は85にもなるため、余裕で回避できる。体のだるさは残っていると言っても回避すること自体は何も問題はなかった。
「……ダガギリョウハソコマデデハナイナ」
(そこを見破られるか)
DEXが高ければ技量も上がると思われがちだがそうではない。DEXは武器の技量に関係なく、あくまでこれは自分をどれだけイメージ通りに動かせるかの値だ。それゆえにきちんとした型や動き方を教わり、自分の感覚とすり合わせていく必要がある。
「それでもお前に勝つことはできるぞ」
「ナラヤッテミセロ」
そういうと同時に槍が繰り出される。
「じゃあお望みどおりに」
俺は槍のギリギリの範囲で避けると、引くタイミングと同時に全速力で懐に入り込む。
「ナ?!」
「終わりだ」
俺はユニークスキルで瞬間的に強化して、掌底をぶち込み、仮面を壊す。
すると槍を持っていた二本の腕が崩れ去る。
(さてほかの二人は)
〔~リン視点~〕
「「「ショウシ!」」」
その言葉と共に大刀が私に向けて叩きつけられる。
「ム?!」
私は一番得意な技、『風柳』を使い受け流す。
「……ナニヲシタ」
「何もしてない、ただ受け流しただけでござるよ」
風柳、私が最初に覚えた翠風流の技。
この技は柳のように衝撃を受け流すとされている。無論すべての衝撃を受け流すことは容易ではない、あくまでも衝撃を和らげるための技法だ。
だが私は自己流に改良し、ほとんどの衝撃を受けないようにできるようにしていた。それでも少しの衝撃は食らってしまうが、その場合は特殊な足さばきをしてその衝撃を地面に逃がしている。これによりほぼすべての衝撃を無効化している。
それからも何度も刀が振り下ろされるがすべてを風柳で受け流す。
(ステータスが上がっているからか、そこまで強くは感じなくなったな)
これだったら一つ前の狼の方が手ごわいと思ってしまう。
「しまいにしましょう」
「ナメ」
私は刀に魔力を流し【刀鋭】【風迅】を使用する。
エリアを移動する間に二つのスキルを試した結果、前者は魔力を費やした分、刃の鋭さを増す効果を持ち、後者は高速移動と同時に切り終わるスキルだと判明した。
双方を発動することによって、武者は目の前に私が現れたと思った瞬間に仮面は二つに割れ、斬撃上にもあった大刀もきれいに折られたと認識することになる。
「……ミゴト」
〔~ラインハルト視点~〕
「「「ショウシ」」」
(これは正直厳しいですよバアル様!)
私はもらった魔剣と自前の剣を構え、防戦に徹する。
「チカラハマダマダダガギリョウハスバラシイナ」
「それはそれは、これでも騎士の中では有望株で通っているんで。自分の得意な双剣で負けたら立つ瀬がないからっね!」
私は本来、双剣で通っていたのだがすこし前に一本剣を折ってしまって仕方なく剣一本で戦っていた。今は魔剣を手にして本来の双剣で戦えはしているが未だに手に馴染んでいないため本領は発揮できなかった。
(だけど、このままじゃまずいな)
バアル様たちが勝負をつけて援護に来てくれるまで粘るつもりだったが予想以上にステータスの差がひどい。
『なんだよ~次はこんな軟弱な奴が俺の使い手かよ』
知らない声が聞こえるが、今はそんなことにかまっている暇はない。
『つれないな~これぐらい片手でいなして見せろや!』
すると勝手に魔剣が魔力を吸い上げる。
「なっ!?」
『ほらよ!【闇魔装】!』
狼の時とは違い勝手に魔装が発動する。
それと同時に何かが頭に入り込んで来る感覚がある。
「ちょ……やめ……」
『俺の復讐を終えるまで死んでもらったら困るんだよ~』
すると自然と体が動く。
「ム、サキホドヨリモツヨクナッテイル」
「ギャハハ、これくらいの腕で誇っているんじゃねえよ雑魚が!」
遂には勝手に口が回り始めた。
(なにが)
「そんなこと考えるよりも目の前の敵をよく見ろ!」
私は勝手に動く体に困惑する。
だがその動きには経験、知識、予想すべてが完璧に行われていた。
『いいか~ステータスで負けるんなら技能で勝て!技能も同じなら頭で勝て!頭も同じなら心で勝ちやがれ!こんなことも分からないならさっさと武人をやめちまえ!』
なぜだかこの言葉が頭に残る。
片手ずつ生きてるかのように動かし、時には逆手に変え、変則的にその時その時に合わせてスタイルを変える。
(こんな剣が…)
「知らないってか?てめぇの知識ですべてを決めるな、お前が思っている以上に剣の道は広く深いぜ!」
まるで未来が見えているように武者を追い詰めていく。
「しっかしここまで俺と適応するとはな」
(適応だと?)
「ああ、適応してないと俺が体を動かそうとするときに拒絶反応が起きて動けなくなるんだ」
(私の体では動きが止まるなどは一度も起こってないが?)
「だから、なぜだかかなり深いところまで適応できているんだよ」
なんか寄生されているようで嫌な感じがする。
「適応できてないと様々な害が起きるが、高ければなんも問題ない」
(おい!安心できないぞ!)
「だから大丈夫だって俺の復讐に付き合ってくれるなら俺も邪魔しないからさ……それよりも終わるぞ」
私は再び武者に意識を向ける。
「ナニヲサッキカラブツブツト」
「すまんな、独り言だ。それよりも飽きたから終わらせるぞ!」
両方の腕と足に魔力がこもっているのがわかる。
「じゃあな!『レイジングクロス』」
何かしらの行動をしたと思った次の間には武者に背中を向けていた。
「ナンノツモリダ」
「もう終わったからな」
するといくつもの剣撃が同時に仮面の部分で炸裂する。
(なにが……)
「俺が使える技の一つ『レイジングクロス』、まぁ簡単に言うと遅延する衝撃を敵に与え、衝撃を弱点の部分で集中させて炸裂させる技だな、双剣など一撃が弱い武器には最適だ」
その言葉の次には体の感覚が戻ってくる。
「おっと、もう時間切れか。じゃあこれからもよろしくな相棒……おい待て!」
支配されている感覚が完全に消える。
(なんなんだあいつは…)
私はいまだに残る体の感覚に動揺していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます