第97話


 カップルコンテストの優勝はもちろんあの2人。あの晴が堂々と全部持って行ったんだから、当たり前でしょ。

 しばらくトイレに立てこもって気持ちを落ち着けたあと、控え室に入ろうとしたら2人の会話が聞こえてきて、ドアノブに触れかけた手を止めた。


「──あの時、俺が止めんかったら……『大好き』って言うてた?」

 決して責める口調じゃない。どこか不安げで、少し揺さぶったら泣いてしまいそうな。いつも自信に満ち溢れた晴とはかけ離れたその声。


 でも

「言うよ、言わなきゃダメな状況だったし」

 ななさんはそんな弱い晴には慣れっこなのか、気にすることなくあっさりと告げた。そーゆう“可愛くないとこ”が、ななさんらしいや。

「ん〜〜!分かんねんけどお〜!!」

 今度は駄々っ子みたいに地団駄を踏む。でも少し間があって、次に発したのは意外な言葉。


「ま、えーか」

 ……いーのかよ。


「何度でも俺が止めるからな」

 笑っちゃいそうなほど、バカで単純で、真っ直ぐすぎる男。

 ななさんの呆れたような笑いが微かに聞こえた。



「なんか、晴がいいなーと思った」

「……え?」

 突然ななさんが口を開いたら、晴も俺も話が見えなくて。でもその人は、静かに言ったんだ。

「隣にいるのも、手を繋ぐのも、大好きって言ってもらうのも。やっぱり晴がいいよ」

「……!」

 晴の、息を飲む音が聞こえる。

 あーもー……。追い討ちかけないでよ。


「なんでビックリするの?そりゃ好きな人の隣が一番安心するでしょ」

 結局俺が聞けなかったその言葉。これから先も、きっと聞くことは叶わない。

 言わせなくても、誘導しなくても。こんな風にサラッと言ってもらえる晴は、やっぱり羨ましい。


「……ななちゃん、だいすきやで!」

 気のせいか、晴の声は少しだけ震えていて。


 君に溺れる理由が、よくわかる。

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