第74話
「おはよー、三島さん。昨日あれから変わりないか?」
翌日、登校すればすぐに晴が声をかけてきた。
「うん、平気だったよ」
そう答えれば、ホッとしたような表情になる。
「記憶は?」
「んー、ぼちぼち」
戻るも何も、この“ミシマ リエ”の人生において記憶なんてこれっぽっちも持ち合わせていないから。
「……っちゅーことは、戻ってないんか」
「まあ特に支障はないでしょ」
「楽観的すぎるで……」
はあ、と呆れたようにため息をつく晴は、いつも見ていたものと同じで、くすっと笑ってしまった。彼は不思議そうに私を見る。「なんでもない」と言えば、納得はしていないけど「ふうん」と相槌をうった。
「家庭教師の先生とは?いい感じなの?」
あれだけご機嫌だったけれど、私がその話を振ると、沈んだ表情になる。
「……んなワケあるか。こちとら中坊やで?大学生なんかが相手にするわけないやろ」
半ば吐き捨てるように発した言葉に、なぜか少し傷ついたような気になる。
「……じゃあ諦めるの?」
恐る恐る聞けば、その問いにはすぐ、首を横に振った。
「その選択肢もないな。……俺、高校卒業したら東京行くわ」
「……は」
え、この子、こんなに早い段階で上京するの決めてたの?
「せんせぇ、卒業したら東京に戻んねん。やから、大学は東京の選んで、向こう行く。その頃には恋愛対象ん中にも滑り込めるやろ」
いつだって真っすぐに向かってきてくれた晴。まさか、本当に。彼の思いを、彼の言葉を……疑っていたわけではない。それでも、当時の彼から言葉にして聞くのはやっぱ特別で。
「……滑り込めなかったら?」
「この顔を最大限活用したる」
「……出た、ナルシスト」
「うるさいわ!!」
ちっとも変ってない。その強い瞳も、真っすぐな思いも、自分の顔のことになると途端にドヤ顔になるところも。
「無謀だとは、思わないの?」
「……思っても、諦め切れるモンやないからな」
5年経っても、本当に変わらない。
「……頑張ってね」
“三島さん”はこう言うしかないじゃん?“せんせぇ”は今、恥ずかしくて死にそうだよ。
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