第49話
病院から帰ってきて、泥んこのななちゃんは風呂へと向かう。その短い時間でも離れがたくてついていこうとすれば、顔を真っ赤にして怒られた。……かわええな。
風呂上がり、ソファに脱力したように座り込んだななちゃんの隣に座って囁くように名前を呼んだ。
「──ななちゃん」
ななちゃんが俺を見て、首を傾げる。すっぴんやから幼く見えて、頬も赤くて可愛すぎる。
「もっかいだけ、抱きしめてもええ……?」
珍しいものを見るように目を見開いたななちゃん。縋る俺の顔に弱いから断われんのを知っとる。
「……いいけど」
その言葉を聞いた瞬間、なんかがブワッて込み上げてきて、ゆっくりと彼女の体を捕まえた。
「……怖かった……」
ななちゃんの首筋に顔を埋め、頬を擦り付ける。その首筋に、唇を寄せた。
「ななちゃんがおらん世界を想像したら、真っ暗な中で1人取り残されたような……そんな気分やった。……怖くてたまらん。頼むから、置いていかんといて……」
「……うん」
ちゃんと、頷いてくれるんやな。俺の酷く重い愛情も、受け入れてくれるん?……ああ、それやったら、幸せでしかないのに。
「……確かめたいねん。ななちゃんが消えんように捕まえときたい」
「……うん」
なあ、だから……そんな簡単に、頷かんといてや。
どうせ本気にしてないくせに。さらっと交わしてまうくせに。
俺だけが、本気なんやからアホらしいやん。
「よかった……ホンマに、ななちゃんが生きとって、よかった……っ」
嬉しいんと悲しいんとで、なんや感情がごちゃごちゃになってもーて、いつの間にか涙がじんわりと滲んどった。
「好きや、好き。ホンマにどうしようもないねん。好きすぎて」
「ごめん」って言われても、伝えたかった。「付き合わないよ」って言われても、ええねん。
ただ、ホンマに。どうしようもないから。言葉にして吐き出さな、しんどいんやって。
「……晴?」
「ん……?」
……さすがに、重すぎて引かれた?
身体を少し離して、ななちゃんのキラキラした瞳が俺を捕らえた。そしたらもう、ななちゃんの虜な俺は、身動きできんのやで?知らんやろ?
ぼーっと見つめ返したら、ななちゃんが動いて──柔らかく、温かい感触。
“それ”を理解したら、俺はもう理性なんてきかん。ななちゃんの行動の理由とか、どうでもええ。ななちゃんからキスされたっちゅー事実だけで、もう理性を切るのには十分や。
離れていく温もりを捕まえて、少々乱暴に唇を落とした。何度も何度も角度を変えて、目の前の唇を食むように、無我夢中で。息ができんのも、苦しいのも、どうでもよくなくなるくらいに。
「アカン……っ、止まらへん……っ」
めちゃくちゃな俺のキスにも抵抗一つせえへんななちゃん。それをええことに、その身体をかき抱いてゆっくりと押し倒した。
「は、る……」
「なな、ちゃん……っ」
見下ろした彼女は戸惑っとったけど、怖がっとらんし嫌がってもない。……幸せすぎて、死にそうや。
「俺の……っ、俺だけのモンになってや……っ」
少しだけ視界が滲んでぼやける。
「お願いやから……」
俺の本気のお願いは、いつもなんだかんだ聞いてくれる。その優しさに付け込もうと思えば簡単やけど、それはしたくなかった。
……けど、もう限界や。その答えに希望なんか抱いとらんけど。
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