第45話


「……たしかに。川瀬はよくちょっかいかけられるタイプだもんな」

頷いた青山がちらりとななちゃんを見る。

……待てや、会社でもいじられとるっちゅーんか?男はいくつになっても、好きな女をいじめたくなるもんやん。その理論でいくと……アカン。会社にも行かせたくなくなってきたわ。


「……君みたいな王子がいてくれたら、川瀬も安心だね」

へらっと笑った青山はどこかアホそうな雰囲気やのに、仕事もできるっちゅうモテ要素満載な男。こんなんが近くにおって惚れんななちゃんって、やっぱおかしいわ。イケメンは好きなくせに、周りにおるイケメンに手を出そうと思わんとこ。やっぱ好きやなあ。



じゃあ、と手を挙げて去っていった青山……サン。後ろ姿までイケメンとか、前世で何したんやろ。

「……ほんと、いい男だよねえ、青山さん」

ななちゃんがその青山さんの背中を見てほぅ、とため息をつく。……マジか。


だけどすぐに俺に向き直って

「さ、帰ろ!コンビに寄ってアイスでも買おうか」

あっけらかんと言いのけたから、思わず笑ってしもた。

え〜何〜?と不思議がるけど、アカン。ほんまに。

「好きやなあ……」

心の声が漏れたら、彼女はぽけぇっとした顔しとる。

そういうとこや。イケメンは好きやけど、イケメンを恋愛対象に見とらん。ずっと好奇の目で見られてきた俺たちも、ななちゃんの前では“普通”でおれる。外見がええと他の部分も期待されて、ちょっと平凡やとがっかりされる。それが、ななちゃんには通用せん。カッコ悪いとこも、平凡なとこも、ななちゃんは何とも思わん。一見悲しい響きのようやけど、特別でないとあかんかった俺たちにとって……それはスゲー貴重なことやねんで。


「やめてよ、もう!」

いーっと可愛く威嚇したななちゃん。アラサーでも何でも、可愛いもんは可愛い。


俺の告白が見事に流されて、24回目。

みんな俺が「恵まれてる」って言うけど、何がやねん。いっこも恵まれとらんわ。

どんだけイケメンでどんだけスタイル良くて、どんだけ賢くてどんだけ性格良くても。

どれだけ願っても、いちばん欲しいもんは手に入らんのやで?なにが恵まれとるん?


それやったら、この顔面もスタイルも頭も全部全部欲しいやつにやるから。そんなもん、ななちゃんが手に入るなら一つもいらん。その代わり、ななちゃんだけでええから、俺にくれよ。


そんな風に不貞腐れても、ななちゃんは手に入らんのはわかっとる。だから俺は、その“恵まれとる”らしい武器を最大限に利用していかなアカンわけで。


あーホンマ、うっとおしい。鬱陶しいくらい、好きや。

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