第44話
「ななちゃんっ!偶然やなあ!」
全速力で駆け寄って、頬が緩む。呆れたように笑うななちゃんも、かわええ。
彼女の隣に目を向ければ、思っとったより……ありえへんくらい、イケメンな男。
「……誰ですかぁ?」
ガンつけるように威嚇すれば、「川瀬の上司の青山です」とご丁寧に名刺までくれよった。スマートな男……腹立つわ!!
ちらっと見た名刺の名前に聞き覚えがある。
青山?アオヤマ……。
「あ"ー!!ななちゃんを誑かしとる男か!」
橘が最初に言うとった男!!
「ちょっと晴!?なんてこと言ってんの!」
橘は同期やから失礼なことを言ってもスルーやったけど、今回は上司相手だからかめちゃめちゃ焦っとるななちゃん。あー、それもかわええ。
「ははっ!川瀬の弟?」
俺の態度にも嫌な顔一つせんと、むしろ楽しんどる。……ええ男って、こんな感じか?
「はい、それ禁句ー!!彼氏候補やから!!」
「あわわわ…営業部の王子になんて失礼な…っ」
「すいません!!」と平謝りしとるななちゃんと、爆笑して面白がっとる青山。王子やと?
コイツが王子やっちゅーんか?そんなん許さんで。
5年前、ななちゃんの言葉を思い出す。今でも鮮明に覚えとるわ。
「──あー、私にも王子様が迎えにきてくれないかなあ」
何気なく呟いたつもりやろーけど、しっかり聞こえとったで。初恋の人の理想のタイプ。“王子様みたいな人”っちゅーめちゃめちゃ抽象的な、“理想のタイプ”とも言えるかどうか分からん理想像。アホらしいけど、俺は今でもそれを目指しとるんやから……やっぱ重いな。
「……ななちゃん、帰るで」
それだけ言って、細い手首を掴む。すると、青山が
「王子の迎えが来たなら俺はもう用済みだな」
なんて言う。王子の迎え?てことは、俺がななちゃんの王子やって?
「……ええ人やな。青山サン」
「単純ッ!!」
この人は、俺がななちゃんにあからさまな好意を向けても驚きもせんし、引いた目で見ることもない。「随分若いな」とか「まだ学生?」とか、不審がりもせえへん。なんかやっぱり……ええ男や、うん。
「まあ、ななちゃんは譲りませんけど」
呟いた俺の声が聞こえとったんかどうか……その笑顔ひとつで交わされた。
「君もその外見で苦労してきたでしょ?なのにそんな真っ直ぐな目ができるんだから、俺は羨ましいけどな」
君“も”っちゅーことは、この人も。まあこの見た目で女はほっとかんやろ。
目の前の男の瞳をじっと見つめたら、人の良さそうな笑顔の奥──薄暗い何かが潜んでいそうで。ちょっと、怖くなった。
「……俺は生きてきてななちゃんしか好きになったことがないスから。ぼけぼけの鈍感地味女相手に向かっていくには、直球ストレートしかなくて。真っ直ぐしか知らんのですわ」
激ニブのななちゃんはまた訳わからん〜って顔しとる。けどななちゃんの悪口を言ったことは分かったらしく、痛くもない拳で俺の二の腕をパフパフとパンチしとった。
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