第30話
「……ここどこですか」
辺りを見渡しても、木、木、木……。研修先の施設はほとんど山の中にあって、そこまではバスと徒歩で向かった。無事に長く小難しい研修が終わり、施設を出たけれど次のバスは1時間半後。待つのは面倒だと言う橘くんにブーブー言いながら歩いて山を下りていた。施設までは一本道だったはず……なのに。いつの間にか道なき道を歩いていた。なんでだ。
「……俺、方向音痴だったわ」
「馬鹿なの!?先に言ってよ!!ついてきちゃったじゃん!」
まさか橘くんが方向音痴だったなんて思ってもみないでしょ。
完璧人間・橘くんの意外な欠点を発見!
……なんていつもなら高笑いしていたんだろうけど。
「忘れてた」
「やっぱり馬鹿じゃん!!」
今はただ頭を抱えるしかなかった。それにしたって、なんで迷うの!?普通に道路を道沿いに歩いていただけだよ。何も考えずに彼の隣で歩いていた私も悪いんだけど。
「……俺、友達に先頭だけは歩くなって言われてた」
「ガチじゃん!!それ本当にダメなやつ!!」
いつも強気な橘くんが、少し気まずそうに──しゅんとしている。不覚にも可愛いと思ってしまった。
ガードレールもない道の端。……うん、ほぼ崖やん。怖いもの見たさで下を覗き込んでみたら鳥肌が立った。昨日は雨だったからか足元はぬかるんでいるから気を付けないと。
「川瀬、落ちるなよ!」
突然の声にビクッと肩が震えたから「びっくりさせないでよ!」と言いかけた、その瞬間。
「……うわッ!?」
足がズルッと滑って、身体が傾く。え、嘘。今!今、気をつけなきゃって思ったところ!!
「あッぶな……!!」
後ろから伸びてきた逞しい腕がお腹を支えてくれる。引き寄せられた強い力にホッと息をついた瞬間。
「あ"」
「え"」
不運にも──橘くんまでもが足を滑らせて、空中へと投げ出された身体。
「うぎゃああああ」
浮遊感に包まれながら、冷や汗が流れる間もなく一気に落下していった。
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