第13話
「いってきます」
そんな挨拶をして家を出るようになったのは、晴が来てから。
「いってらっしゃい、気ぃつけてな」
そうやって送り出されるのもまた、彼が来てからだ。そんな生活も悪くはないと、この瞬間だけは思ってしまう。
小綺麗に身だしなみを整えて、ヒールのある靴を履いて玄関を出た。
出会いを求めるくせに、合コンにはそこまで気合を入れるわけじゃない。社交的ではない私にとっては面倒な場。それでも、もう王子様を待つ余裕はないから。自分から探しに行かなきゃいけないのも分かってる。だからこうやって、自分で足を運ぶの。
「はじめまして、川瀬菜々です」
目の前に並ぶフツメンたち。橘くんやら晴やらイケメンが周りにいるせいで私で“イケメン”のハードルがどんどん上がっていく。現に目の前の男の人たちも普通にイケメンなんだと思う。誘ってくれた後輩のリエちゃんが「今日は当たりですね」ってこっそり耳打ちしてくれたから。
「菜々さんは休みの日何してるんですか?」
何だか気分が乗らないのは私の引っ込み思案な性格のせいか。聞かれたことに淡々と答えるけどそこから会話を広げるわけでもなく。
それでも、向かいに座った男の人は愛想をつかすこともなくずっと話を振ってくれる。いい人だな……としみじみ思うくらいに。
彼の優しさが滲み出た笑顔を見ていると、こんな人と結婚出来たらきっと落ち着くんだろうなあって思う。
終盤に近付いたころ、みんなで連絡先を交換して二次会に向かうかどうかの相談が始まる。リエちゃんをはじめ、ほかの女子たちは行く気満々だった。そりゃそうか。“当たり”なんだもんね。
会計を済ませ、店の外へ出る。ドアをくぐるときに段差に躓いてしまったら、向かいの席にいた子が私の腰を支えてくれた。
「ありがとう」
その子を見上げてそう言えば、照れたように「いいえ」とはにかむ姿に心癒される。
「……ななちゃん、迎えにきたで」
聞き慣れたイントネーションは、突然現れた。
「え!?」
声のする方を見遣れば、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた晴が腕を組んで立っている。
腰から手を離した男の子が「弟さんですか?」なんて言うもんだから、晴の怒りスイッチを押してしまったらしい。
「あんた……!ななちゃんに何触ってくれてん……すか」
掴みかかりそうになっている晴に「ちょっと!」と声を荒げれば、一応上げた手を下ろして申し訳程度の敬語を付け足す。
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