第46話 魔王とバトル!(5)

 ぎょぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇっぇ!

 遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 この声には聞き覚えがあるぞ。

 眼前のはるか先から、アリエーヌが高速で戻ってきた。

 まさに猛ダッシュ!

 しかも、その背後にはものすごい爆煙を巻き起こしているではないか。

 それも、一つではない、彼女が走るに従い爆煙がおきているのだ。

 遂に、彼女の蹴り技にでも爆発魔法が付与されたのだろうか。

 そう思うほどに、ひたすらに音が鳴り響いていた。

 だが、はっきりと見えだすアリエーヌの表情は、鬼のよう!

 乙女のおくゆかさなど片鱗も残っていない。

 死ぬ気で走る彼女の形相はバカ受けするぐらいに鬼気迫っていた。マジ受ける!

 まるで、何かから逃げるかのように目が血走しる。

 彼女の腕が直角に折り曲げられ、高速の反復運動。

 アリエーヌって、あんな動きできるんだ!

 ぎょぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇっぇ!

 ……

 ……

 ……

 と言うことは、あれは……魔王の攻撃……ですか……

 そう言われれば、先ほどから、魔王の胸のふくらみがフラッシュのように瞬いておりますね。

 そのたびに爆煙が立っている。

 魔王の胸が光った刹那、暗い空間に無数の光の線が飛び散った。

 切り裂くように曲がったとたん地面を穿つ!

 それも無数に!

 何重に!

 アリエーヌが少しでも足を止めようものなら、アリエーヌの体はその光の帯に貫かれていることだろう。

 ぎょぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇっぇ!

 こっちに来るなァァァァァァ!


 と言っても、アリエーヌの動きは止まらない。

 かと言って、矢のようにとびくる無数の光も止まらない。

 さらに、どちらもどんどんと近づく。

 なんかないか?

 俺は考えた。

 この状況を生き残る方法を考えた。


 グラマディのパイズリアーでの攻撃はどうだ……

 だが、いまだに剣が抜けてません……使えねぇ

 キャンディの防御魔法でシールドを張るのはどうだ……

 あべこべだから攻撃魔法か。

 アイツ司祭だから攻撃魔法覚えとらせんし……使えねぇ

 ならグラスは!

 今のグラスは魔法切れで、炎撃魔法が使えない。

 と言うことは、今のこいつは、何もできないただの岩。

 いや、考えろ、まだ使い道はあるはずだ!

 そうだ、盾だ! 肉の盾として使えるはずだ!

 どんな攻撃プレイでも耐え抜く技。

 激しく撃ち抜かれる光の鞭でも耐えぬく体

 ろうそくのような高熱でも耐え抜く心

 まさに三位一体の肉の盾。

 魔王のどんな責め苦にも耐え抜く事だろう。

 光の矢など、何でもないわい!


 俺は咄嗟にグラスのお尻の陰に隠れた。


 その瞬間、轟音とともに辺り一面が砂埃と高熱に包まれた。


 砂埃が晴れていく。

 そこには倒れる四人の女の子。

 至るところが穿たれた地面の上で倒れていた。

 皆、あの光線に撃ち抜かれたのだろうか。

 あの一撃が貫通すれば、いくらマジュインジャーの加護を受けていたとしても即死だろう。

 ピンクスライムのダメージ転嫁でもない限り、生存の可能性は低い。

 だが、俺の手元に抱えたピンクスライムはピンピンしていた。


 しかし、アリエーヌは倒れていた。

 よくよく見るとぴくぴくと動いている。

 おそらく、石にでも躓いたのだろう。

 前のめりでこける顔面が土にめり込んでいた。

 幸いにもこけたことでピタリと止まった体。

 光線と光線の間隔に見事に収まり、その直撃を避けていたのだ。


 グラマディも倒れていた。

 よくよく見るとガッツポーズをしている。

 おそらく尻もちをついた際、聖剣パイズリアーの柄で顎でも打ったのだろう。

 魔王の攻撃によって地面が崩れ、パイズリアーが抜けていた。

 幸いにも其い勢いで、ころげた際、パイズリアーが腹の上にのっかった。

 そのパイズリアーの太い刀身が鏡のように光線を跳ね返していたのだ。


 キャンディも倒れていた。

 よくよく見ると口がモゴモゴと動いている。

 おそらく、光線を見るや否や、体が反応してしまったのだろう。

 いまや、腹いっぱいにふくれた腹をこすっていた。

 幸いにも、光線の熱量はスルメを焼くには適していた。

 咄嗟に光線の打ち付ける先に並べたスルメ。しこたま喰らった体は満腹で動けなかったのだ。


 グラスも倒れていた。

 よくよく見ると鼻血を出している。

 おそらく、魔王の光線の一撃を食らったのであろうが、やはり玄武の加護、何ともなかったのだろう。

 俺がグラスの尻に隠れた瞬間、俺は恐怖のために強くしがみついてしまった。

 幸いにもそれはグラスの尻。小さき鉄壁の盾は俺の体を守ってくれた。

 とっさに尻を揉まれたグラスは、あまりの恥ずかしさに鼻血を出してぶっ倒れてしまったのだ。


 だが、俺は生きている。

 この絶望的な状況下で、俺だけが立っているのだ。

 もう、この四人には、任せておけない。

 と言うか……


 じゃま!


 大体こいつら、王国の姫様に貴族のご令嬢さま達だ。

 この四人に何かあれば、お目付け役の俺は王国に生きて帰ったとしてもただでは済まない。

 打ち首決定だ。

 現時点でも、すでにボロボロの四人。

 この状況でも、俺の責任問題を追及されるのは火を見るよりも明らか。

 何とかしなければ、何とか。

 このままでは、俺は騎士養成学校を退学されてしまう。

 マーカスの代わりに学校を卒業するという、母との約束を反故にしてしまうではないか。

 それはまずい。かなりまずい。

 やはり、ココは、四人にご退場を願おうかな。


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