⑸サイコロの行方

 レポート用紙の上をボールペンが走り続ける。淀みない音はまるで、干渉の許されない時の流れに似ている。

 航は兄の背中を見詰めながら、そんなことを思った。


 エレメント召喚の魔法陣。

 複雑な幾何学模様は、コンパスも定規も使わずにあっという間に完成した。湊は、魔法陣は数学だと言っていた。原理は分かるが、航には出来ない芸当だ。横から覗き込む父は頻りに感心しているが、何を考えているのかは分からない。


 浴槽はミネラルウオーターに満たされている。

 湊はレポート用紙を水面に浮かべると、ネックレスを垂らした。美しいトルコ石は仄かに発光していた。


 凪いでいた水面が幾多いくたもの波紋を広げ、洗濯機のような渦を成す。光り輝く風呂桶の中から艶やかな黒髪の美女が現れ、母が悲鳴を上げた。


 長い睫毛に彩られた瞼が押し上げられる。

 黒曜石のような瞳が、鏡のように自分たちを映していた。

 水のエレメント、ウンディーネ。


 相変わらず間抜けな登場だ。

 ウンディーネは父を見付けると、怪訝そうに柳眉りゅうびを寄せた。




「生きていたの?」




 父は肩を竦めた。

 浮気現場に遭遇したかのように問い詰める母の声を背中に、航は身を乗り出した。




「魔法界へ行きたいんだ」

「いいわよ。誰が行くの?」




 母に胸倉を掴まれながら、父が言った。




「俺が行くよ」




 航と湊も手を挙げた。

 真似をするなと掴み合いになりかけたところで母に仲裁され、二人は漸く落ち着いた。ただただ、父は穏やかだった。


 ウンディーネに続く形で、父と湊が浴槽の渦の中へ入って行く。改めて見ても可笑しな状況だ。航は後を追って足を踏み入れた。

 浴槽の中はミネラルウオーターで満たされている筈なのに、体も衣服も濡れない。反響する水音ばかりが現実感を齎し、視覚的情報との差異に目眩がする。

 航は振り返った。見送りに来ていた母が壁に凭れ掛かって眺めていた。




「……行ってきます」




 出立の挨拶なんていつ以来だろうか。

 気恥ずかしく思い、航は早々に背中を向けた。母はひらりと手を振った。




「行ってらっしゃい。今晩は手巻き寿司だって、伝えておいてね」




 今日中に帰って来いということだろう。

 無茶な要求だ。航は口角を釣り上げて、応えるように手を振った。







 19.神様はサイコロを振らない

 ⑸サイコロの行方








 水中には白い石造りの階段があった。まるで地の底まで続いているみたいだ。既に父と湊の姿は無かった。彼等は立ち止まったり、振り返ったりしない。

 階段を降って行くと、最後には光の渦があった。この転移は二度目であるが、未だに慣れない。

 思い切って足を踏み入れた途端、辺りは真っ白な光に包まれた。


 眩しさに目が眩み、掌で視界を覆ったその時、耳鳴りがした。いつもの集中状態とは違う。余りの静けさに耳鳴りがしたのだ。

 目が慣れて来て、辺りを見渡すと無機質な箱庭の世界が広がっていた。


 精霊界。

 ウンディーネ達の棲まう天上世界である。

 白壁の豪邸と銀色の葉を付ける木々。湖は鏡のように空を反射して、血のような夕焼けに染まっていた。


 赤いとんがり屋根を連ねる屋敷の前には、ウンディーネに連れられた父と湊が待っていた。航は湖の中からざぶざぶと音を立てて上陸した。

 父は生きている。その事実が判明してから、航はまるで長い悪夢から目覚めたかのような心地だった。疑う余地も無いのに、信じられない。


 三人が屋敷の中へ入ると、吹き抜けの天井の広間には円卓が用意されていた。エレメントの所在を示す四つの燭台の内、二つは火が消えていた。


 此処にいるのはウンディーネ。それから。




「死んだんじゃなかったのか?」




 航は声の方向へ振り向いた。

 燃え上がる紅蓮の炎のような頭髪と、命の色をした瞳。トリックスターの異名を持つ北欧神話の神。

 ロキ。またの名をサラマンダー。


 父は苦笑していた。

 ロキは父の目の前まで歩み寄ると、品定めするように上から下までじろじろと眺めた。




「本当に生きているな。人間は丈夫だな」

「そうかな」




 彼等は約五年ぶりの再会のはずだが、余りにも淡白だった。感涙して抱き合えとは言わないが、もう少し会話は弾むものと思っていた。




「クソガキ共。ヒーローが生きていて良かったな」




 他意は無いだろうその言葉に、胸が熱くなる。

 そうだよな。生きているよな。これは俺の都合の良い夢や妄想ではなくて、現実だよな。

 何度でも自分に言い聞かせる。これが嘘だと言われても、今更受け入れられない。それこそ、航は父を追ってあの世まで付いて行ってしまうかも知れない。


 精霊会議の時と同様に、ウンディーネとロキは円卓に座った。父を挟んで航と湊も座る。


 ウンディーネが掌を翳すと、しゃぼん玉のような水の玉が浮かび上がった。中にはダイジェスト映像のように魔法界で起きた争いが投影されていた。


 航はそっと目配せをした。

 叱られると思ったのだ。自分の行いに後悔は無いし、覚悟も決めている。けれど、振り返って見ると、自分たちの行動は自暴自棄で、他人への影響を欠片も配慮していない。


 湊が情けなく目を伏せているので、航は庇うつもりで顔を上げた。映像は丁度、湊がレオの村の集団自決に巻き込まれたところだった。




「魔法界は、人間界の歴史をなぞっているね」




 父は叱りもせず、そんなことを言った。

 同じことを湊も言っていた。




「それは多分、湊と航が人間界から知識を持ち込んだからだね」

「俺たちの存在が、魔法界に影響を与えた?」

「魔法界というか、昴だよ。民主主義も資本主義も、あの頃の昴には無かった知識だ。起こるべくして起きた文明の発展なのかも知れないけど、全ての起点は昴だ」




 そういう見方もあるのかと、航は素直に納得した。

 これまで、航は昴の優柔不断さに苛々することが多かった。けれど、結果を見ると確かに、歴史の起点にいるのは昴だ。驚異的な速度で発展している魔法界を、昴が動かしている。


 その昴に影響を与えた存在、それが自分たちだ。エレメントさえも想定出来ない歴史の特異点。

 航と湊が思考にふけっていると、父はロキを見て言った。




「エレメントにとっては、人の栄枯盛衰もまたたき程の刹那か」

「まあな。俺は面白ければ何でも良い」

「そうだね。どんな時も遊び心を忘れちゃいけないよな」




 この会話は噛み合っているのか。

 目に見えない駆け引きが行われているようで、ハラハラする。


 映像の中には航の姿もあった。

 キャンサーの街での人身売買オークションだ。今思い出してもはらわたが煮え繰り返る。父は笑っていた。

 まるで映画でも見ているみたいだ。過去の自分たちの姿を見て、一喜一憂する横顔を見る度に安心する。


 自分たちが苦しみ、足掻き、過ちを犯していても、其処には意味があったのだと認めてくれているような安心感だった。


 貴族の非道なゲームに巻き込まれた湊は、ゲリラ戦のような罠を巡らせた。その結果として人が死んだ。

 正直な感想としては、ーー殺されても仕方が無いような奴等が、当然のように死んだというだけだ。

 あの状況で罠を巡らせた湊の冷静さには最早感心してしまうが、当事者は未だに罪悪感に囚われている。


 父は笑いもせず、怒りもせず、語り聞かせるように言った。




「人は死んだら生き返らない。お前が思う程、人は賢くもなければ、丈夫でもないよ」




 あの時の湊の罠は、人を死なせる為のものではなかった。執拗な追手を躱す為の最低限の罠ーー湊にして見れば子供騙しの罠で、彼等は死んだのだ。

 殺すつもりは無かっただろう。でも、その可能性も分かっていた。




「やったらやり返される。因果は巡る。いつか償わなければならない時が来るよ。未必の故意も、正当防衛も同じことだ」

「うん……」




 父は俯く湊の肩を抱いた。




「それは駄目なんだよ。いけないことなんだ。ーーお前が大切だから」




 湊はずっと、叱って欲しかったのだろう。

 父に、ずっと。


 映像はタウラスの革命軍襲撃、航がアルデバランと対峙したところだった。一か八かの賭けで最大出力の攻撃を放った航が倒れ込み、瀕死のアルデバランが現れた。

 互いに満身創痍だった。どちらが死んでもおかしくなかった。結果、航は勝った。そして、負けたアルデバランは死んだ。




「可哀想な子だったね」




 航は父に抱き寄せられ、眼窩から込み上げる熱を感じた。

 そうだ。アルデバランは可哀想な子だった。

 親も無く、兄弟も無く、言葉も知らず、ただ消費されるだけの命だった。利用されていたことも分からなかっただろう。




「アルデバラン。良い名前だね」




 父はそんなことを言って、鼻を啜った。


 航と湊の転移後、魔法界は混沌とした戦乱に陥っていた。それは、キャンサーの街で昴が演説した内容が現実になったということだった。

 王政の維持も革命も予想の範疇はんちゅうである。そして、その為に犠牲になるのは力の無い人民だ。昴の懸念が現実として牙を剥き、襲い掛かって来る。


 エレメントたちは、退屈そうだった。

 人は歴史を繰り返す。永い時を生きるエレメントにとっては予定調和的な筋書きだったのだろう。其処に一石を投じた彼等の行為は、全くの無駄だったということだ。


 王家も革命軍も、レグルスもシリウスも、人の栄枯盛衰なんてエレメントには瑣末なことなのだ。命はみんな、等しく死ぬ。


 けれど、その筋書きにイレギュラーがあるとしたら?

 死んだ人間が生き返るなんて奇跡が起こるとしたら?


 その時、沈黙を守っていた三つ目の燭台に火が灯った。

 航が反応した時には既に、御伽噺に出て来る妖精のような可憐な少女が座っていた。


 風のエレメントーーシルフは、何かを堪えるように透き通る羽根と長い睫毛を伏せていた。

 父は少女を見遣ると側に歩み寄り、跪いた。




「何処か痛いの?」




 シルフが首を振ると、金色に輝く鱗粉が幻のように舞った。隣にしゃがみ込んだ湊が、彼女に代わってその名を告げる。

 並んでいると、シルフはただの少女に見えた。




「このままじゃ、魔法界は滅んでしまうわ」




 見て。

 シルフはウンディーネの水鏡を指差した。

 粉塵に包まれた戦場が映っていた。鈍色の空に無数の影が浮かび、真っ赤な火の玉が投下される。地上は凄まじい爆炎に襲われ、住居も街路もことごとく吹き飛ばして行った。

 絨毯爆撃によって、炙り出された住民が悲鳴を上げて逃げ出す。その頭上に稲妻が迸り、全てを消し炭にして行った。鼻を突くような異臭が此処まで漂って来るようだった。


 黒焦げになった人の腕が奇妙に歪み、墓標のように佇んでいる。親を亡くした子供が空を見上げて泣き喚く。王の軍勢も革命軍も、彼等を助けはしない。

 目の前の敵を殺す為に、己が生き残る為に、他者を気遣う余裕も無く戦い続けている。


 航は拳を握っていた。空から降り注ぐ火の玉が、悪魔のように網膜に焼き付いている。自分たちの最大のトラウマである焼夷弾が、形を変えて現実になる。戦災孤児は炎の中に呑み込まれ、消えて行った。断末魔さえ聞こえなかった。


 革命戦争は魔法界に生きる全ての命を巻き込み、熾烈を極めている。いつの時代も犠牲になるのは力の弱い人々だ。




「人々は迷ってる。王家か、革命軍か。それとも、昴か」




 混沌とは、そういうことだ。

 善悪も正誤も混沌と掻き混ぜられ、人々は縋るものを探している。


 人々の嘆きが、叫びが、祈りが聞こえる。

 誰か助けて。誰か助けて。誰か助けて。




「助けたい」




 湊が言った。

 航は父を見遣った。父は冷たい眼差しをしていた。濃褐色の瞳に青白い炎が見える。


 今にも駆け出しそうな二人を留めるように、ロキは鋭く言った。




「ヒーローの出番は無いぜ」

「どういうこと?」

「俺たちは魔法界のバランサーだぞ。既に二人も特異点を許容してるんだ。満員なんだよ」




 なるほど。

 何を納得したのかよく分からないが、父は食い下がりはしなかった。その時、ずしんと低い音が響いて、最後の燭台に火が点いた。緑柱玉のような美しい炎は風も無いのに静かに揺れていた。


 刺すような閃光と共に、小柄な老人が現れる。

 逞しい体付きは岩のようだ。地のエレメント、ノームは厳しい顔付きで其処に座っていた。


 全てのエレメントが揃っている。

 気紛れな彼等が一堂に会するということは、それだけ事態は急を要しているのだろう。


 白い顎髭あごひげを撫で付けながら、ノームは探るように目を光らせた。




「死んだと聞いているが?」

「死んだよ。湊も航も嘘は吐いてないよ」

「まあ、いい」




 ノームは前のめりになってロキを睨んだ。




「サラマンダーよ、これが人間だ」




 ノームは水鏡を指し示した。




「実に醜いだろう。淘汰されるだけの有象無象だ。己の意思も無く流されるばかりで、互いを傷付けることしか知らぬ。人間共に力を与えたところで何の意味も無いのだ」




 ロキはつまらなそうに頬杖を突いていた。

 浮雲のように掴み所が無く、常に余裕の態度を崩さない。そういうところも勘に障るのだろう。


 憤慨するノームを前に、ロキは糾弾するような口調で問い掛けた。




「それなら、何故、湊に力を貸した?」




 タウラスの街で起きた革命軍との衝突。

 湊の窮地を救ったのは、ノームだった。


 ノームは決まり悪そうに目を逸らした。ロキは逃がさないとばかりに身を乗り出し、否定を許さない強い口調で言った。




「俺たちは永い時を生き、人間の営みをただ眺めて来た。時代は巡り、歴史は繰り返す。ーー本当に、それだけか?」




 ロキは父を見遣り、再びノームへ向き直る。凪いだ湖畔のように静かな声だった。




「支配も統治も管理もせず、こいつは時代を変え、世界を守った。俺たちにも出来ないことを、こいつは成し遂げた。俺は、まだまだ捨てたもんじゃないと思ったし、託してみたくなった。この姿が一つの答えだと思うのは、俺だけか?」





 水鏡の中に、昴が見えた。

 焼け落ちた瓦礫の山に手を突っ込んで、何かを探している。自衛の術を持ち合わせない昴の両手は真っ赤に焼けていたが、痛みすら知覚していないかのような真剣な表情だった。

 炭化した柱の下から、一人の少女が現れた。その目は固く閉ざされ、四肢は力無くぶら下がっている。

 くしゃりと顔を歪めた昴が、空を仰いで何かを訴えている。今も上空からは焼夷弾にも似た炎の魔法が降り注ぎ、街を蹂躙していた。

 駆け寄ったウルが呼吸の無い少女をそっと撫で、痛ましげに目を伏せた。


 二人共、煤まみれの酷い格好だった。

 王の軍勢も革命軍も人々を守らない。たった二人で危険も顧みず、生存者を探し、奔走しているのだ。

 これは過去の投影なのだろう。自分たちが人間界へ戻った後、彼等はこの残酷な世界で足掻き続けていたのだ。


 航は、その場にいられないことが歯痒かった。

 助けを求める声が聞こえる。自分を必要としている人がいる。




「その意志を継ごうとする者がいる。俺はこいつ等を信じてみたいと思った。それは、そんなに愚かなことか?」




 ノームは黙っていた。

 室内は雪の夜のような静寂に包まれ、ロキの声だけが響き渡っている。




「全ての可能性を試してからでも、決断は遅くないはずだ」




 違うか、ヒーロー。

 父の目には青白い炎が揺れていた。


 それまで黙っていた父は、姿勢を正して前へ進み出た。




「此処は地獄だよ。他者を虐げ、嘲笑い、踏み躙る。人の想像し得る最悪の地獄だ」




 水鏡の中、街路から鋭い棘が無数に突き出すのが見えた。逃げ惑う人々が次々に串刺しになり、血液が迸り、生き絶えて行く。

 航と湊は思わず目を背けた。だが、父は凛と背筋を伸ばしていた。エレメントたちが、父の言葉を待っている。




「人はいとも簡単に地獄を作り上げる。だが、同じように、此処から這い上がる力も持っている」

「魔法も使えない下等種族に何が出来る」

「世界を変えるのに必要なのは、魔法ではないよ」




 父の声は一人一人に語り聞かせるかのように丁寧で誠実だった。




「本当の勇気だけが、世界を変えることが出来る。一人じゃ駄目だ。此処にいる一人一人が、己の心に問い掛けて、己で覚悟を決めて、己で歩き出すんだ。一歩ずつでも、前へ!」




 ノームは皮肉っぽく笑った。




「綺麗事だな」

「そうさ。だが、世界はそうして回って来た」




 あっさりと認め、父は笑った。

 ノームは背凭れに体を預け、黙っていた。納得したのかも知れないし、呆れてしまったのかも知れない。


 さて、と言い置いて、父はウンディーネへ目を向けた。




「俺は人間界へ帰るよ」

「親父?!」

「此処にいても、俺には何も出来ない」




 魔法界へ行くことが出来ない以上、確かに出来ることは何も無かった。それでも、航も湊も父を引き止める言葉を探した。

 もう何処へも行って欲しくない。ずっと傍にいて欲しい。父は蕩けるように微笑んで、二人の頭を撫でた。




「手巻き寿司、用意して待ってるから」




 父はへらりと笑った。

 ウンディーネは戸惑ったように目を向けて来たが、航も湊も、追い縋ろうとはしなかった。

 それが信頼なのだと分かったからだ。


 異世界転移魔法の光に包まれながら、父は最後に振り返った。




「行ってらっしゃい」




 それは、ただいまを聞く為の口約束だ。

 航も湊も呆れてしまって、肩を落としたまま手を振った。


 ヒーローの退場後、残されたエレメントは呆気に取られていたり、声を押し殺して笑ったりしていた。


 湊が仕切り直すように軽く咳払いをする。




「昴のところへ行こう」

「では、王都ね」




 ウンディーネは転移魔法陣を広げた。

 昴は無事だろうか。怪我でもしていないだろうか。

 年上でチートな魔法を持ちながら、優柔不断で頼りないリーダーだ。だが、人の気持ちに寄り添える優しい心を持っている。


 転移魔法の光を浴びながら、航は振り返った。

 シルフ、ノーム、サラマンダー。彼等はじっと見守っている。投げたサイコロの結果が知りたいのだ。


 これから命の保証も無い戦場へ向かうというのに、恐怖は無かった。父の残した希望が其処此処で輝いているように思った。




「見てろよ」




 宣戦布告するように拳を向けると、エレメント達は苦笑して拳を突き出した。奇妙な光景だ。何故だか可笑しくて、航と湊は息を吐き出すようにして笑っていた。


 視界は黄金色の光に包まれていた。絶望の闇が薄らいで、其処此処から福音が聞こえた。

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