第7話

 クリスティーネの書生だったルイは、助祭の資格を得て故郷に帰っていた。最下級とはいえ、念願叶って聖職者となったというのに、ルイの気持ちは晴れない。 ルイが聖職を志したのは、従姉でもあるクリスティーネへの憧れからだった。ルイの知っているクリスティーネは、どこまでも清廉で、高潔な学者であり、聖女だった。クリスティーネが審問院を指導し、教会改革に乗り出したときには、ルイも期待に胸を高鳴らせていた。


 クリスティーネの粛清は苛烈を極めたが、粛清の対象となっているのが、第二主教派や第四主教派に属さない、教会内の新興勢力と呼ばれる者たちばかりであるということに、ルイは気づきつつあった。クリスティーネが腐敗司祭を排除した後には、必ず第二主教か第四主教の息のかかったものが後釜に座った。

 教会の権威は回復された。少なくとも、第二主教と第四主教の勢力が国王政府を上回る力を持つに至ったことを、教会の権威が回復した言えるのであれば、確かに教会の権威は回復された。

 審問院総裁・クリスティーネ枢機卿は、定期的に「腐敗司祭」を晒し者にして、悪趣味な刑罰を加えている。その度に人々は審問官に喝采を送るけれども、ルイはその輪の中に加わる気になれなかった。


 国王・ラウル七世は審問中に「病死」していた。すでにかつてのラヴェンローナ公・マクシミリアンが、新たに国王・マクシミリアン二世として即位し、国王政府と聖公会は新たな体制を築き上げている。ラウル国王の娘・キャロライン内親王は、帝都グランディアハンを追われ、アースヤプル市のテオドキア塔に幽閉されているが、その存在はほとんど忘れられている。

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神の代理人 垣内玲 @r_kakiuchi_0921

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